正雪先生の隣に寄り添ってあげる人を置きたかった話 作:浪人Aです。なんか書いてる奴です
(─────っやはり早い!)
伊織へ狐月と名乗った男の刀が襲う。
紅玉の書が伊織へ
「自力も凄まじいが、あやつは何者かの魔術による支援を開けておる!今の奴を相手に勝ち目は薄いぞ、伊織!」
「……そこか!」
瞬間、孤月の狙いが明確に伊織から紅玉の書へと移された。
明確に言うのならば、紅玉を優先しながらもあわよくば伊織を共に貫かんとする一撃を彼は放った。
「私を無視するつもりか!」
「術者が死ねば消える幻など、相手するに値しないに決まっている」
「──!貴様!」
セイバーの剣戟をすんでのところで躱した男はもう一度伊織へ迫る。
一瞬の内に何度も振り抜かれる刀を、伊織は剣士としての本能と技術でなんとか防ぎ切る。
しかし、数秒の間を開けて伊織の服に大きく切り込みが入る。
切断すら悟られないほどの鋭い剣、その傷口を伊織は知っていた。
「……お前が殺し屋の黒狐、土御門の下手人か」
「お前と剣を交えた覚えはないが?」
「江戸市中にてお前が殺した土御門の死体を見た。そして浪人からお前の話を聞いた」
「……そうか。お前を殺す理由が増えたな」
孤月は眉ひとつ動かさずにそう言い放って刀を構えた。
放たれる途方もない殺気に、伊織も応えるように二振り目の刀を引き抜き、構え直す。
「──二刀を抜いたか。恨むなとは言わん、だが俺の願いの為、その命を貰うぞ。──来い」
泰然自若と形容できるほどに落ち着き払った構えで伊織を睨みつける孤月。
切りかかった伊織の刀を受け止めた孤月と鍔迫り合いの体制のまま伊織は問う。
「……貴殿、何が目的だ?」
「最初に言ったはずだが」
「黒狐は主人を選ばぬ幕府御用達の殺し屋と聞いた。それがなぜ、由井正雪の剣を名乗る?」
「彼女の思想に共感した、と言えば聞こえは良いだろうな。彼女の願いを遂げること、それが我が生の意味であると悟った、だからこそ彼女のために剣を振るう。それだけだ」
伊織の刀を弾き後退させた孤月の再びの肉薄、伊織の目で視認しきれないほどの速さの刀が伊織の首を切り落とさんと迫る。
「──二河白道!」
「──っ!」
伊織の秘剣を屈みながら刀で弾き、僅かに上方へと逸らして避けた孤月。
すると、孤月は唐突に動きを止め、しばらくすると刀を納める。
「やむを得ないな……、お前の首を落とすのは次の機会だ。元々、命ぜられた訳でもない」
そう言うと、孤月は現れた時と同じような唐突さでその場から姿を消した。
その気配の薄さと速度は伊織たちが追えるものではなかった。