魔法少女の体を乗っ取った。故意ではない。 作:梔子ナナ(クチナシ)
魔法少女の体を乗っ取った。故意ではない。
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郊外のショッピングセンターで出現した怪物に飲み込まれ、気づけばキラキラした粒となっていた。目の前に少女がいた。変身を解いた魔法少女だ。湧きあがる衝動のままに少女に飛びついた。
周りの粒もそうしているのが見えた。俺は出遅れた方だったようにも思う。思い返してみればあの時の俺に自由意志は無かった。他のキラキラもそうだっただろうと思う。
少女から発せられた光が球の形をなし、キラキラの群れはそれに取り付いた。
長いような短いような攻防の末に彼女は防御を解いた。眩い光が破れた。
偶然。きっと偶然だったのだと思う。
俺が一番先に彼女に到達した。
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目を覚ました。知らない天井だ。俺は立っていた。視点が低い。辺りを見渡す。広い部屋。大きなベッド。デカい窓。それなりの大きさの机。クローゼットと思われる大きな扉。玄関ドアかと思う大きさの、入口のドア。部屋の中心に立ちすくんだまま息を吸い込むと少し独特な匂いがしたような気がした。
部屋は薄暗い。窓のカーテンは閉め切られている。デスクの上にはパソコン、大量のエナジードリンク缶。床にはいくつかの酒の缶、いずれも空。ベッドの上には一見用途の分からないものや衣類が散乱していた。
鍵を開けドアを開き、廊下に出る。廊下が広い。向かい側に洗面所が見えた。その隣の小ぢんまりとしたドアはトイレだろうか。部屋の外は少し空気が澄んでいた。
廊下の先、こちらを見ている人間と目が合う。知らない人間だ。皺の刻まれた顔の、女性。歳は40から50台くらいか。俺に花が綻ぶような笑顔を向けてくる。
「ああ、ご飯にするかい?」
〈矛盾点を解消しました〉
女性は忽然と消えた。目を疑った。
廊下を抜けて、ダイニングに辿り着く。大きな食卓には手作りの焼きそばが二人分、湯気を立てていた。
点けっぱなしのテレビから、ニュースキャスターの焦った声が聞こえる。
「速報です! 新型魔法災害の出現が観測されました! 対処に当たった魔法少女が失踪した模様!」
俺だ。俺がいたショッピングセンターにリポーターが出向いて何かを言っている。耳鳴りがする。急に体が重く感じられた。吐き気と悪寒が全身を貫く。
駆け出す。洗面所の隣は案の定トイレだった。トイレに着くまでの廊下は酷く長く感じられた。
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粗方気分がマシになった。部屋に戻りパソコンの電源を入れると『ようこそ』の画面が表示された。
俺は自分のヘックスアカウントにログインし、己の身に起こったことを投稿した。
『魔法少女の体を乗っ取った。故意ではない。』
フォロワーが凄まじい勢いで減って、少しだけ増えた。
〈矛盾点を解消しました〉
〈矛盾点を解消しました〉
〈矛盾点を解消しました〉
〈矛盾点を解消しました〉
〈矛盾点を解消しました〉
先ほどと同じ音声がどこからともなく繰り返し聞こえる。俺は身体の訴える疲労感のままに、大きなベッドに潜り込み眠った。すべてが億劫だった。少女の生活の痕跡をあまり直視したくなかった。それなりの寝仕度をしてからベッドに入るべきだったとは思ったが、もう遅い。瞼が重くなってくる。
ああ、でも寝る前に焼きそばは食べた方が良かったかもしれない。
読んでくださりありがとうございます。感謝を。