イノセントDays   作:てんぞー

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チーム作成

 ブレイブデュエルのロケテストが開始してから一週間が経過する。

 

 一週間も経過すると最新の技術という事もあって有名になり、固定のユーザーも増えてくる。ベルカの八神堂、ミッドのT&H、そしてインダストリーのグランツ研究所。こういう認識がショップ側だけではなく、プレイヤー側にも出てくる。本来の客足よりも多くのプレイヤーがブレイブデュエルを利用するのは嬉しい誤算ではあるが、その理由は子供ではなく”大人”のプレイヤーが入ってきている事だったからだ。子供向けに作ったはずのゲームが大人に対してもヒットしてしまっている事態にジェイルもグランツも、苦笑いを隠せなかった。故にブレイブデュエルを通した利益は予想よりも少々多く、認知度もネットの効果で広まっている。

 

 ネットを通じた宣伝は必ずしも良い訳ではないが、そこは現代科学の最先端を行く博士、炎上した場合や悪質な迷惑行為の場合の対処法は既にオートで実行する様に準備されている。

 

 そんなわけもあって、ブレイブデュエル、そしてそれに関する自分の業務も割と好調な滑り出しを得ている。少なくともこのままグランツ研究所に就職して、ブレイブデュエル関係スタッフとして働いてればいいや、と思えるぐらいには。何気に長く働いているし、このまま就職しようとしたところでグランツもジェイルも断らないだろうと確信している。

 

「ま、賑わってるわなぁ」

 

 初日のがらんとした様子は今はもうなく、ブレイブデュエルのスペースは人であふれ、大型シミュレーターの使用は並ぶ必要がある様にさえなってきている。スタッフとして働いている自分もマテリアルズやフローリアン姉妹も連日忙しくなってきている。少々自分達だけでは難しいので、客の対応などをするショッププレイヤーとは別のスタッフがほしくなってくる感じだ。

 

 ……あとで打診しておくか。

 

 そんな事を思いつつスタッフエリアからブレイブデュエルのスペースを覗く。現在は自分の休み時間であるため、遠慮なくジュースを片手に休むことが出来る。外に出るとブレイブデュエルの指南役としての役割があり、それなりに人気だったりする為、休む暇が欠片もない。だから休める間に休むことは重要だったりする。そんな事を考えながらスタッフエリアのベンチに座っていると、扉が開いてくる。誰かが休憩にでもやってきたのかと思えば、

 

 白衣姿のグランツだった。

 

「あ、博士」

 

「あ、いや、態々立つ必要ないから。お疲れ様。調子はどうだい?」

 

 立ち上がって挨拶をしようとしたところ、グランツが片手でその必要はないと言ってくる。素直に上司のいう事は聞くべきなので持ち上げた体を下ろし、座ったままグランツへ報告を始める。

 

「上々っすね。予想よりも客の数が増えて今出ているメンバーだけじゃ若干辛くなってるのでもうちょっと人を増やすことをオススメするっす。マテリアルズの面々を投入してもいいんですけど、あの子達は学生で本分は学ぶ事と遊ぶ事ですから」

 

「あまり仕事を手伝わせたくはない、か。そうだね。子供の為に作ったのに、働かせては本末転倒だよね……キリエ達にももっと遊ぶ時間をあげたいし、本格的にスタッフを雇う必要がありそうだね、これは」

 

「たぶんあの子たちは絶対に平気だっていいそうっすけどね」

 

「うん、自慢の子供たちだよ……えーと、他に何かあったかい?」

 

 そうですねぇ、と言葉を置いてから再び報告を始める。

 

「とりあえず全体的な年齢層は中学、高校がメインっすが、それと同じぐらいの割合で大学生が混じって来てっすね。ちなみに社会人に関しては小学生と同じレベルっすね」

 

「うん、前から思ってたけどあんまし敬語慣れてない様だし別に気にしなくてもいいよ」

 

「あ、うんじゃ遠慮なく……えーと、とりあえずターゲットしていた層よりも年齢層が若干高めになってるのはどうやらお小遣い関係―――というよりは保護者の方が問題らしい。それとなく小学生とかの低学年の方から聞き出してみたけど、暴力的すぎないかどうかってのを保護者の連中が心配しているような感じが大半で。その為か、子供たちが興味津々でも手を出す事の出来ない子供がいるとか……まあ、PvP系列は子供よりも競争心の高い大人の方が人気の傾向があるし、そういう事もあってターゲットした年齢層よりもちょい高めになっている感じで。ちなみに調査の大半はティーダがやった」

 

「有能だなぁ、彼……君もジャンルでは違うけど、色々と有能だからホント助かったよ。今更な事だけどいい拾い物をしたと思う。……頼みついでにもう一つ、いいかな?」

 

「うっす」

 

 ……まあ、グランツ博士が無意味に話しかけるとは思っていない。いや、そういう時も確かにあるが、それでも態々休みの時間を狙ってきたのだから、十中八九、話があるのだろうと予想していた。だからそれを聞くように、視線をグランツへと向けると、グランツは人差し指を持ち上げる。

 

「―――イスト君、チームを作る気はないかな?」

 

 

                           ◆

 

 

「―――チームか?」

 

「そ、チームだ」

 

 場所と時間は次の日へと変わり、大学の学食。朝の講義が終わり、漸くゆっくりとする事の出来る時間が確保できてから話を正面に座っているティーダに対して切り出す。何時もであればここにオリヴィエを連れたカリムが合流するのだが、本日はカリムとオリヴィエの講義が長引いているのか、中々学食へとやってこない。既に昼食のドリアを受け取ってしまっている為、特に待つこともなく食べ始めている。

 

「グランツ博士がさ、チーム組まないかって」

 

「それってユーリ達とじゃなくてお前の個人的な知り合いで、って話でだよな? だけどグランツ研究所には既にマテリアルズとギアーズの二チームがあるじゃないか。どっちもバランスも息もあっているチームでこれ以上チームを追加する必要がないと思うんだけど」

 

 マテリアルズ―――正式名称”ダークマテリアルズ”はシュテル、レヴィ、そしてディアーチェら三人のチームだ。ユーリは若すぎる為に正式なメンバーではなく、補欠という形でダークマテリアルズに所属している。接近戦のレヴィ、遠距離戦のシュテル、そして司令塔と固定砲台を兼任するディアーチェの生み出すコンビネーションはもう既に戦い方のイロハを教えた自分でさえ勝てないようなレベルに至ってしまった。一対一ならまだまだ余裕で狩れるレベルだが、

 

 あの少女達の眠らせておくべきだった才能を目覚めさせてしまったらしく、特定分野での伸びが恐ろしい事になっている。

 

 ギアーズはキリエ、そしてアミティエの二人のコンビ型チームで、現状グランツ研究所で一番”華”のあるチームになっている。というも、キリエやアミティエはどちらかというと動きを”魅せる”のが上手いのだ。その為ダークマテリアルズ程ガチではなくても、宣伝やプロモーションの為に大活躍してくれている。

 

 故にガチのマテリアルズ、宣伝のギアーズ、と住み分けは上手くできていたのが今までのグランツ研究所のチーム事情だったが、これに追加する様な願いをグランツが言ってきたのだ。だからグランツから聞いて来たことを直接ティーダへと伝える。

 

「大きめのチームがほしいんだってさ。今の所一番大きいのはマテリアルズの三人チームだけど、ブレイブデュエルの規模的にチームの最大人数は四人、フィールドで四対四の大型戦闘が行えるような環境なのに今の状態じゃあショップ側から対戦チームを提供できないってよ」

 

「あぁ、成程……」

 

「ついでにチーム人数が増えりゃあ八神堂へ送ったり、T&Hへと送ったりで助っ人させたり遠征交流とかさせる事も出来て、利益が色々と出るんだってさ。そんな訳で最低四人、出来たら交代か病欠とかの事を考えて五人ぐらいを集めてチームを作りたいって所。まあ、とりあえず俺とお前で一と二な」

 

「間違いなく僕が含まれることは良いとして、それちょっと面倒だね」

 

「そうだなぁ、三人目までは簡単に見つけられるけど、四人目と五人目がなぁ……」

 

 もう既に自分とティーダの中ではクラウスの勧誘、そしてチーム入りが確定していた。そもそもニートという時点で拒否権など存在しないが、あの脳筋覇王の事なのだから戦える機会が無料で増えるとなれば二もなく飛びつくだろう。とりあえず事後承諾であの筋肉達磨は良い。だが問題は四人目と五人目となる。ここからこの勧誘の条件がちょっと面倒になって来る。

 

「チームを組むって事はさ」

 

「うん、一緒に練習したり、同じ時間を過ごせたりするメンツがいいよね。だからなるべく同じ年齢、近い年齢がいいんだよね。まぁ、順当に行けば大学から誰か勧誘できればいいんだけど……イスト、大学の誰かでブレイブデュエル誘える人いない?」

 

「いや、そりゃあオリヴィエしかいねぇけど」

 

「誘い辛いよねぇ」

 

 ―――まあ、ティーダが考えている理由と自分が考えている理由は確実に違うだろうけどなぁ。

 

「というかさ、ブレイブデュエルって男の子向けのゲームに思えて、実は女性利用者の方が多いんだよね。暴力的なのはどうか、って考え以上にブレイブデュエルだと技術を抜けば身体的にはほぼ互角で戦えるからね。だからなんだかんだで女の子が多いんだってさ。まあ、オリヴィエちゃん、なんだかブレイブデュエルやってるしね。誘えば意外と乗っかってきてくれるんじゃないかなぁ?」

 

 いや、まあ、と学食のラーメンを啜りながらティーダへと答える。

 

「たぶん誘ったら喜んで話に乗ってくれるだろうな」

 

 まあ、なんというか、オリヴィエって他人と遊ぶ時というか、絡むときというか、なんというべきか……犬耳と尻尾が見えるぐらいに嬉しそうにしているというか、まるで今まで友達がいなかったかのように振舞っている。表現としては少々大げさかもしれないが、それでもオリヴィエの付き合いの良さや、天使っぷりには割と驚かされることが多い。だからチームにオリヴィエを誘えば間違いなくチームに参加してくれるだろうし、即戦力としても活躍してくれるに違いない。そこら辺はもう想像できている。だから……オリヴィエを誘う事は悪くないが、

 

 が、と言葉がやはりつく。

 

 ―――まあ、黙っとくか。勘違いかもしれないし。

 

 あまり憶測で考えたり動くのも良くない為、とりあえず思ったことは黙って封じておく。まあ、なんというべきか……女の子をあまり疑うのは良くない。つまりはそういう事だ。男は黙って騙されて、そっからどうにかすればいいのだ。

 

「しかし僕と、君と、そしてクラウスがまた三人で集まるのか……そこにまだ誰かが増えるんだろうけど、この面子で何かをするのって本当に久しぶりだね。高校の頃までは割とヒャッハーしてたけど。ほら、覚えてる? ショッピングカートにロケット搭載させてみんなで走らせたの―――いやぁ、交通事故に発展するとは思ってもいなかったよ」

 

「耐久実験とか言ってクラウス乗せた俺は褒められても良いよな」

 

「―――むしろ通報された方がいいんじゃないでしょうかね」

 

 声に横へ視線を向けるとトレーを握ったカリムと、そしてオリヴィエの姿があった。どうやら漸く講義から解放された様子だった。自分、そしてティーダの横に場所を取る様に座ると、大学で比較的良く見る光景が出来上がる。後輩を見るのは先輩の役目、というかなんというか、カリムは良くオリヴィエの面倒を見ているし、そう言う繋がりで大学内でもオリヴィエとは良く顔を合わせる様になっている。

 

「何時もの馬鹿話が聞こえてきたんですけれど、一体何の話をしてたのかしら」

 

「一言でまとめると青春。発案ティーダ、作成と実行俺、実験台クラウス。俺達の青春は何時までも燃える様に輝いていた……」

 

「物理的に燃えてもいたよね、一部で」

 

「は、話を聞けば聞く程イストさん達が何故無事なのか不思議になって来るんですけど……」

 

 ティーダと顔を合わせてどうしてだろう、と首を傾げ、そして常に被害担当がクラウスである事を思い出す。そうだなぁ、と呟いている間にティーダがノートを取り出し、そこにボールペンでサクサクっと絵を描く。そこには普通の人、と書かれている人の絵と、デフォルメのクラウスの絵が絵が描かれていた。

 

「もしリアルに体なんてステータスがあったとして、一般人のこのステが三ぐらい。で、鍛えて到達できる限界が十ぐらいだとするよでしょ? クラウスはね」

 

 クラウスの絵の周りに何やらオーラの様なエフェクトが追加され、どっかのスーパーな宇宙人的な感じに変化していた。

 

「体が二十超える」

 

「改めて言うけど人間じゃないよな。骨折れても牛乳飲んで固定するだけで治るし」

 

「ひ、一人だけ違う法則に生きているんですね」

 

「いや、それを世間では馬鹿というのよ」

 

 食べ始め、軽くクラウスのネタに対する万能性を感じつつも少し笑いを入れ、そしてどうしたもんか、と悩んでいると、ティーダが此方へと視線を送って来る。付き合いは長いから何が言いたいかは解っている。つまり俺から切り出せ、という事だろう。

 

 最後に数瞬だけ迷ってから、横に座っているオリヴィエへ視線を向ける。こういうのは早めに終わらせた方がいい。前置きなしでとっとと話に入って終わらせる。

 

「あー……オリヴィエ、今ブレイブデュエルでチームを作ろうと思ってんだけど、人数が足りなくてさ、オリヴィエはチームに興味ない? 基本的に店の協力者って事でオリヴィエにはある程度報酬を出すこともできるけど」

 

「あ、いえ、寧ろチームに誘ってもらえて幸いです。まだ知り合いや友人も少ない事ですし、誘っていただいてありがとうございます」

 

「ほら、問題なかっただろ。イストは変に緊張しすぎなんだよ」

 

「うっせぇ」

 

 けらけらと笑ってくるティーダに軽くガンを飛ばすと、横からオリヴィエがくすくす、と笑い声が増え、少し負けた様な気分になり、

 

「―――オリヴィエが遊ぶブレイブデュエル……ね、私も参加してみてもいいかしら」

 

「―――」

 

「―――」

 

「あ、カリムも一緒だったら更に安心できますね」

 

 ―――カリムが……参戦……だと……?

 

 喜ぶオリヴィエとは裏腹に、おそらくティーダと、そして自分の心は恐怖と戦慄で震えていた。

 

 まさかのラスボスの参戦であった。




 ラスボス系女子カリム。特技は自分の手を汚さずに相手を苦しめる事です

 出てくるキャラ出てくるキャラみんな酷い属性が増えて行く……まだ八神堂とかT&H向かってないのにこの面子の濃さは一体どうなってんだ。

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