「―――というわけでチーム組みました。鉄砲玉のクラウス、脅迫と精神攻撃のカリム、外道のティーダ、手段を択ばない俺、そして崇拝すべき女神のオリヴィエ様」
「少し待とうかイスト君、今の君の表情が信じられないぐらい漂白されたような笑顔だよ! うぉ、まぶしっ! ちょっと私まで浄化されそうだからあっち、あっち向いて! もしくは思い出すんだ! 私たちがひたすらエロを語った時間を……!」
「おう、ローキック入れるぞ」
「ういーっす」
ジェイルと並んで肩を組み、サムズアップをティーダへと向けながら言う。無言でシャドーボクシングを始めるティーダの姿を見てそろそろやめるか、等と口に出さずジェイルと意思疎通を取り、離れる。とりあえずはグランツ研究所スタッフエリア、珈琲を握り、一つのテーブルを囲みながら座っている。
「真面目な話するとクラウスがフォワード、俺が遊撃、オリヴィエがガードと砲台でティーダが狙撃手。カリムが司令塔って感じにチームが出来てる。カリムとティーダの役割は互いに重複させることが出来るから一方が倒れたらもう一方って感じに、チーム人数の制限があったり分けなきゃいけない時はどちらかを、ってもできる」
「うーん、実に大人らしい嫌な戦略の立て方だ。戦略性がゲームに絡んでくると本気になるのは子供じゃなくて大人だからね。ガッチガチの戦術や戦略をこうやって立ててくるんだよねぇ……と、オリヴィエ君が砲台、と言っているけどそれはどういう事かな」
無言で指差すのはスタッフエリアに貼ってあるガラス窓だが、これはマジックミラーとなっていて向こう側、つまりブレイブデュエルスペースを見る事が出来る。しかも位置的には中央の巨大スクリーンを一番見やすい位置にあり、室内には直結してあるスピーカーがある―――ある意味、特等席となっている。現在そこで映し出されているのはオリヴィエの姿だ。その前方には刀を持った日本人の少女―――ミカヤがおり、即席でタッグを組んで遊んでいるのが解る。対戦相手は初見だが、役割分担が出来ている所を見るとそこそこできるタッグなのだろう。
前衛として活躍するミカヤが一気に切り込む。その動きにオリヴィエは反応せず、後方で魔法を発動させるように魔法陣を広げる。それに反応し、対戦相手がその妨害行動に入ろうとする。対戦相手の前衛、その武器は―――ナイフだ。ミカヤの振るう日本刀の振り終わった隙を狙い、一気にその懐へと踏み込み、ナイフを払う様に切り払ってくる。
「上手いね」
その動きに反応する様にミカヤは日本刀でナイフを”避ける”。それは実戦主義の剣術であればまあ、ある事だ。刀というのは西洋剣と違って酷く損耗しやすい。時代劇などでは何度もぶつけあっているが、刀の耐久力はそんなに高くはない。故にミカヤの回避するという動きはリアルであれば正しい。仮想現実、デバイスである刀では損耗の危険性を考える必要がないため、スポーツ系の剣道やチャンバラの様に”受け”を行う事が正しい。
故に上手い、とナイフプレイヤーの動きは評価できる。それを逆手にとってミカヤの横を抜けたからだ。そもそも近接戦において一番動きやすいのはナイフだ。格闘とは違ってナイフは変えの効く武器になっている。戦闘中にわざと放棄して隙を生み出したり、戦術的には格闘よりも一歩先を進める。このプレイヤーはそれをよく理解し、利用している―――ガチ勢だ。サバイバル研究会かなんかだろうか。もしくは料理研究会。
「まあ、決まってた流れだったんだろうけど」
「うん?」
『行きます』
ジェイルが首をかしげたのと同時にミカヤの横をナイフ使いが抜け、そしてオリヴィエへと向かう。だがオリヴィエは広げていた魔法陣を両手で掴むと、それを無理やり抑え込む様に両手で圧縮し、そして広大な範囲を薙ぎ払うはずの魔法を圧縮、短縮、そして即時発動させる事を完了させた。外のモニターからであればオリヴィエの横に発動させているスキルが全て表示されている。
「≪魔導圧縮≫≪マジックフォージ≫≪必中≫≪聖王の鎧≫か。うわぁ、攻撃魔法以外は全て魔法を支援する為のスキルだけ積んできてるのか、凄いなぁ……」
氷結系の魔法だったのか、オリヴィエから放たれた魔法は接近してきていたナイフ使いを局地的な吹雪で襲い、その全身を氷で封じ込める。成功した瞬間に極大の砲撃がビルを吹き飛ばしながらミカヤとオリヴィエへと襲い掛かる。普通ならそのまま呑み込まれるところだろうが、素早くオリヴィエは魔法陣を生み出すとそれを一瞬で圧縮し、砲撃に正面から叩きつけ、その勢いを削ぐ。ただ短縮の結果として威力は落ちている。それは砲撃に匹敵するものではない。
故に、
『≪多重展開≫』
単純な回答として連射して。一度に一つ圧縮させるのではなく、同時に複数生み出し、制御し、そして圧縮させたそれを叩きつける。そうやって八発目が当たる頃には砲撃の威力は大いに削がれている。もう一度圧縮するオリヴィエの代わりにミカヤが刀を振るい、砲撃を一刀両断する。その先に見えるランチャー型のデバイスを持つプレイヤーをオリヴィエが≪必中≫効果で目視した瞬間に放ち、凍らされる。
凍った二つの姿をミカヤが両断して行き、試合が終わる。
「はあ、成程、言いたいことは解った。強いね、彼女は」
「ちなみに一番得意なのは魔法じゃなくて防御型の格闘戦」
ジェイルがその言葉に無言の視線を向けてくる。その視線に頷きを返すと珍しく、ジェイルが驚いたような表情を浮かべてくる。ジェイルが驚く姿なんて久しぶりだなぁ、なんて思っていると、そうだった、と呟くのが聞こえる。
「良く考えたらこの程度だったら君にもできたしそんな大したことじゃなかったね」
「そっすな」
オリヴィエが秘める潜在能力が自分やクラウスをぶち抜いていることに関してはこの際黙っておく。おそらくクラウスも気づいてはいるのだろうが、何も言わないしリアクションを見せない辺り本当に”馬鹿のまま”でいてくれるらしい。流石ヴィヴィオの姉というか、ゼーゲブレヒト姉妹はちょっと新人類というジャンルに片足どころか両足突っ込んでいるような気がする。まあ、それに関してはいい。特に問題らしい問題もないのだから。
「とりあえず今日来てるのは四人だっけ?」
「僕とイストとオリヴィエとクラウスですね。カリムは元々そこまで積極的じゃないというか……まあ、オリヴィエを見る為に、近くにいる為にチームに入ったって感じだし。どちらかというと若干クラウスを警戒している感じだけど問題ないんじゃないんですかね。直ぐに馬鹿だって理解するでしょうし」
違うモニターの方へと視線を向けると、範囲攻撃をステップで回避しつつ相手の放つ球体型の魔法を掴んで投げ返し、そして同時に接近するというちょっと信じられない光景を繰り広げているクラウスの姿がある。流石にクラウスのLC値が相手より低くなっているのは五対一とかいうふざけた状況のせいなのだろう―――とか思っている瞬間にワンパンで一人、次の一撃で二人目を欠片も残さずミンチにした。これで流血表現ありのゲームだったら間違いなく吐いている人間続出の光景だったろう。流石友人勢の筆頭キチガイ。
「とりあえず、どうすればいいんかね、スカっち」
「とりあえず交代で遠征することが決定しているんだ。明日になるけど君達のチーム”イノセント・クラウンズ”が八神堂へ、”ダークマテリアルズ”がT&Hへ遠征予定だよ。ウチは他の二店舗とは違って一番多くの公式チームを保有しているからね、盛り上げる為にはうってつけ、って事さ。まあ、”ギアーズ”のフローリアン姉妹には死んでもらおうかな!!」
キリエとアミティエの冥福を祈っておく。ここ、暁町と藤岡町、そして海鳴でのブレイブデュエルの人気はそれなりに高くなってきており、そのせいか通常スタッフも雇ったとはいえ、ショッププレイヤーの忙しさに変化はない。つまりフローリアン姉妹は死ぬ。
「ま、とりあえずは明日だから、明日。既にこっちから八神堂には挨拶を入れているからそこら辺は安心して行くといいよ。まあ、その後は大会の準備とかだろうね。それじゃ」
「うん、了解。もうちょい休んでからホールに戻るわ」
「じゃあ私は今日は娘の運動会見に行くから!! 先に上がるよじゃあね!!」
スキップで窓からジェイルが研究所を出て行く。相変わらず頭脳的な天才の発想は理解できないが、それでもジェイル・スカリエッティが非常に愉快な人である事は理解しているのでそれは問題ないとする。ともあれ、飲みかけのジュースをずずず、と音を立てながら飲んでいると、ティーダの視線がモニターへと向いているのに気付く。そのモニターには連勝中のオリヴィエ、そしてミカヤコンビの姿が映し出されている。
「オリヴィエちゃん強いね」
「そうだなぁ、強いなぁ」
「んで?」
「何がんで、だよ」
解ってるだろ、とティーダが振り返りながら言ってくる。
「オリヴィエちゃん、厄ネタとしてはどんな感じなんだよ。僕としちゃあアレ、大体ヴィヴィオちゃんと似たような感じかなぁ、としか思えないんだけど。ただ、まあ、会った時のヴィヴィオちゃんみたいなスレた感じは一切ないし特に気にしてもなかったけど。んで、どこらへんどうよ。個人的には能力以外をひっくり返した君に見えるんだけど」
モニターの中でミカヤが刀をオリヴィエへと投げ渡し、そしてそれを受け取ったオリヴィエが刀で綺麗な線を描きながらデバイスごと対戦相手を両断し、返す刃でまた何らかの技を使っている。どこかで見た事がある、と思ったが直ぐに思い出す。ミカヤの使っている剣術、その奥義か何かだったはずだ。それを見様見真似でオリヴィエが完全再現をしているのだ。
まあ、だが、ジェイルの言った通り、それぐらいなら俺だって出来る。
「問題ないんじゃねぇのぉ?」
「すっげぇ面倒臭そうな表情を浮かべてるけど、それってつまりセーフって事?」
「そりゃあウチの馬鹿が反応しねぇって事はセーフって事なんだろ。というかオメーが過敏に反応しすぎなんだよ。いいか、俺達の様な超一般人がそうそう大きな事件や厄ネタへとぶつかる様なことはないんだよ。クラウスの時の様なイベントは人生で一度で十分だし、スレたクソガキを反省させるのも一度で十分。このイストさんは清楚系の美少女とお付き合いして、結婚して、平和な生活を送りたいの」
ティーダが睨んでくるが、心配のし過ぎである。人生そうそうあのようなイベントがあってたまるかというのだ。もう入院して不味いメシを食べて療養する糞の様な時間も必要ない。もしオリヴィエに問題があったとしても、その時は完全にカリムへと投げつける。それでいいのだ。
「それに個人的にはオリヴィエよりも八神堂のアインスちゃんがタイプでなぁ……清楚系で、家庭的で、そしてどこか天然さんで、しかも巨乳! おう、どこからどう見てもパーフェクトエンジェルだろアレは。セットでヨゴレセンサーに反応のある妹がついてくるのはお断りだぜ」
「なんか、最近イスト、オリヴィエちゃんに遠慮ないよなぁ……」
「別にいいじゃねぇか、遠慮なくても。だからオメーは疑いすぎ、心配しすぎだっての」
「君やクラウスが馬鹿をやる時にいつも頭を使ってるのは僕で、尻拭いをするのも僕。つまり僕には把握しておく義務があるのさ―――ちなみにだがティアナのスケジュールは分単位で管理している。昔は秒単位だったんだけどティアナにドン引きされてねぇ……いや、そう言うリアクションもかわいいんだけど」
「お前いつか絶対勘当させられるぞ」
「ごほ―――あ……いや、その先がないから駄目だな……どうしよう、困った……!」
どうしたもんか、と言っているティーダの姿をガン無視し、溜息を吐きながらもう一度モニターの中のオリヴィエへと視線を向ける。そこには急速に力をつけていく一人の女の姿がある。その成長の姿は見ていてヴィヴィオを思い出す。ヴィヴィオ、ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒト。日本へと来たばかりの頃に縁あって出会った少女だったが、今と比べると大分スレていた。性格部分は違うが、技術の飲み込みに関してはオリヴィエはヴィヴィオと同じ姿を見せている。つまりは水を吸い上げるスポンジの様な吸収力を見せているのだ。
ヴィヴィオに問題はもうないとして、どうなのだろうか。
「ッチ」
「痛っ、何をするんだよ」
ティーダの脛に軽い蹴りを入れてから立ち上がる。
「お前が変に疑ってくるせいで疑心暗鬼になってんだよ! くっそぉ、普段は気にしないような事なのに、一度疑いだすとキリがねぇ。マテリアルズの連中も十分化け物染みてる才能があるっつぅのに、新しいネタがあるとそっちばっか見ちまう」
「ははは、それが人間ってもんだよ」
「オメーが原因だろ」
男なら騙すより騙されろ―――敬愛する糞爺の言葉だ。
今頃そう言っていろいろ叩き込んだ爺は何をしているのだろうか。山へと消えて山猿へジョブチェンジしたことは知っているが、簡単に死んだとも思えない。何故ならあの山猿爺こそが自分の唯一、そして絶対の師なのだから。だから多分、どっかで野生になって暮らしているのだろう。そう思い、
今はそれでいいのだろうと結論付ける。
「さって、休憩時間ももう終わりだなぁ」
「そうだなぁ、そろそろクラウスをシミュレーターから引きずり下ろすかぁ、十連勝超えてるし」
「だなぁ。遠距離からメタ張ってなぶり殺しにすればいけるいける」
「突破されたら自爆で死なばもろともの方向で。ついでに中学の頃の黒歴史を披露してく方針で」
「興奮で震えてきやがった」
シミュレーターを長く占拠しすぎているお客様にはお仕置きしなくてはならない―――ショッププレイヤーはたとえ友であろうとガンメタ張ってからの外道をもって戦わなくてはならない、なんとも悲しい職なのであった。
鬱はないです。鬱は。鬱は(ゲス顔
ゼーゲブレヒト姉妹:やればできるに決まってる天狗系
天使とは言ったけど女神とか言ってない。