イノセントDays   作:てんぞー

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エキシビジョンA-2

「―――さて、クラウスの何が化け物かって事を身内視点で説明させてもらうとすると、それは一つ、ズバ抜けた肉体、才能、そして直感から来る事だ。感覚的部分で話をするならおそらくアイツに勝つことのできる人類はいないと思う」

 

「はあ、そうなんですか? 私はあまり良く知らないんですが」

 

 MCと実況をしているはやてとティーダ、そしてその裏で解説をやっているのは自分、そしてアインスだ。オリヴィエはザフィーラ、そしてシャマルと大人しくまだ動かないクラウスとシグナムの様子を見ている。だから初見の客や、八神堂の面子の為にも、解りやすくクラウスの存在を説明する事にする。

 

「これは前に使った説明なんだが、人間のステータスの限界を十だと表現すると、クラウスの体ってステが二十、才能が十、直感って所が十五、って感じだ。アイツは実家で伝わっている流派、日本語だと覇王流って流派の使い手なんだか、それをやるためだけに生まれてきたって言われるほどの神童だったかんな。一応そっち関係に詳しい人だったらクラウス・イングヴァルトの名前は知ってるかもしれないなぁ」

 

「あの、私の気のせいじゃなければ人間の限界を軽く超えているような気がするんですけど……」

 

 然り、とアインスの困惑混じりの言葉を肯定する。クラウスは間違いなく人類の不思議の領域に挑戦している怪物だと自分は思っている。それでこそクラウスとも言うが。

 

「まあ、色々あって今の脳筋覇王になっちゃったけど、こうやって真面目にやる時は思考の全てを戦闘用に切り替えるんだよな。こうなると遊びがない。音も気配も全部消して奇襲したとしても”なんとなく”で避けた上にカウンターで一撃必殺して来る。そういう類の理不尽な生物だと認識しておけば基本的に良い。あと良い子の皆は俺やティーダの様に真似してローキックとかすんなよ! ブレイブデュエル内ならまだしも、リアルで喧嘩するとイストお兄さんでも即死するからな! 絶対の約束だぞ! 鉄パイプとか噛み千切るからなこいつ!」

 

「噂には聞いていたけど、予想以上にダイナミックというかなんというか……」

 

 ダイナミックで済ますの方が感性の方が凄いと個人的には思う。

 

「ただ、まあ、殴り合いに関しては間違いなく天才ジャンルなんだけどな。しかもそれに酔わず、常に鍛錬を続ける努力家でもある。一度受けた敗北は徹底的に調べて、そしてそれに対する対策を自分の流派内で完結させようとする。流派内で出来なきゃ開発するか鍛えてかどうにかする。認めたくはないけどすげぇ馬鹿だよ、アレ」

 

「話を聞いている限りはシグナムに勝機がなんだけど、シグナムに勝機はあるの……?」

 

 首を傾げながらそう質問して来るアインスに対してそうだな、と言葉を置いてから笑みを浮かべる。

 

「―――実の所、遠征の話が決まった時にシグナムに頼まれてクラウスに関して色々とゲロったんだよな」

 

「えっ」

 

 いやぁ、なんというべきか。遠征でグランツ研究所の面子が八神堂へ行くと決まった時、まだクラウスがメンバーに決まっていないのに来る事を何故かシグナムは確信していたような気がする。感覚系の怪物と何か通じ合うものがあるのかもしれない。だからその時にシグナムに頼まれてクラウスの情報は知る限り喋った。戦い方から思考の動かし方、どれだけ理不尽であるか、

 

「そして勿論、クラウス完全抹殺マニュアルを譲渡した。ちなみに俺とティーダとアインハルトの三人で書いた傑作でな、如何に効率的にクラウスを精神的に殺すかを書いたマニュアルなんだこれ」

 

「精神的にじゃ意味ないんじゃ」

 

 はっはっはっは、と笑ったところで、クラウスとシグナムが遠巻きに相対するのが見える―――おそらく数秒の内に衝突するだろう。だから観客等が解りやすいようにクラウスに対する攻略法を伝える。教えたところでも割とどうにもならない弱点を。

 

「クラウスの超簡単な倒し方。それは」

 

「それは……?」

 

 アインス本人が気になっているのか視線を此方へと向けて首をかしげている。こう、体のいろんなところとその小動物ちっくな動きのギャップで非常に可愛らしく感じるが、さて、仕事はすべきだろう。

 

「―――未知必殺」

 

 

                           ◆

 

 

 ―――達人の戦いは決め手を叩き込めないから長引く、とは阿呆の言葉だ。

 

 そういう連中はただ単に度胸がないだけだ。死線を踏み越える度胸が。信仰/狂気が足りない。真に己が強者であると信じているのであれば言い訳など不要。天才等という言葉で他人を飾って諦め、効率等という下らぬ言葉で逃げ道を作るのは心底くだらない。その様な事では武の王道を通る事はかなわない。失敗したら負けて当たり前、死んで当たり前。だからどんなに削れても良いから成功すれば。

 

 そういうものだ。

 

「覇王流正当後継者クラウス・イングヴァルト参る―――」

 

 確かジャパニーズはこんな感じで名乗ってから踏み込む文化があったはずだ。それは良い、これから殴りに行くぞ、と宣言する馬鹿さ加減が好みだ。真剣勝負は場についた瞬間始まっているというのに、相手に対して攻撃をすると伝える―――実に馬鹿っぽくて好みだ。

 

「八神堂所属、八神シグナム―――受けて立つ」

 

 そう言ってシグナムが弓を構える。その流れる動きに技術を感じる。骨格と肉の付き方からして実戦派の剣術家かと思っていたが、弓術にも覚えのある相手―――経験はある。

 

 己とシグナムの間の距離を測る。大凡二キロメートル。距離で言えば大きく、おそらくシグナムの矢の威力が落ちずギリギリ届く範囲。強化された今のこの体と重心移動を利用して跳躍すればおそらく一歩―――二歩……いや、三歩でシグナムへと到達することが出来る。三歩目でシグナムに対して拳を叩き込むことが出来る。必殺以外の一撃に興味はない。一撃で拳を胸に叩き込んで貫通し、即死判定で倒す。

 

「うむ、それ以外ないな」

 

 手段、ではなく選択肢が。

 

 故に前に向かって一直線に跳躍する。動作ゼロからの最大加速には慣れている。体の中身が少し引っ張られるような感覚、リアルに似た感覚はあえて頼んでそこらの設定を近づけてもらっているから。おかげで他のプレイヤーよりも動くのが大変かもしれないが、この不便さが良いと思う。それが楽しいのだと。

 

「シッ!」

 

 そして一矢放たれる。

 

 炎を纏った矢が跳躍し、加速の乗った体へと向かって一直線に飛んでくる。それは大きく跳躍が中間点を超え、下へと落ち始める瞬間を、動きを変えにくい瞬間を狙って放たれた矢だ―――それは此方が飛行をしない、という前提で放たれている一撃だ。そしてその考えは正しい。飛行能力も意図的に縛っている。そんな”ズル”をしていても楽しくはない。

 

 スキルも、飛行も、武器も縛っている。

 

 なら直撃ルートでやって来る攻撃に対して己がとるべき行動は、

 

「三歩飛んで、女騎士をぶっ飛ばせ」

 

 直撃させた。シグナムが驚愕の表情を浮かべながらも次の矢を構え始めていた。その表情から察するに避ける事はなくても最低限の迎撃ぐらいはするとでも思ったのだろうが、誰がそんな事をするものか。LCからして即死判定でも喰らわなければ一撃や二撃で落ちない事自体は既に良く把握している。

 

「避ける事も防ぐ事も俺には必要ないという事だ……! 避ける、防ぐ、迎撃なぞ男の王道から離れすぎてる! 男ならば耐えろ! 耐えられなかったらそのまま死ねぇ! ふ、フフ、フハハハハ―――!」

 

「貴殿は一体どこのボスキャラだ……!」

 

「個人的にはラスボスを所望する! 身内には”性能ラスボス頭中ボス”って言われているからなあ!」

 

 攻撃を受け、バリアジャケットが焦げ、LCが減る。だがそんな事を気にせず一歩目を完了し、そして跳躍する。一歩目で半分の距離を跳躍し終わったことで残りの距離は半分のみとなる。体力的にまだ相手の攻撃を受けても十分な量はある。肉体的に、精神的には余裕が有り余っているが、設定されたLCはそうもいかない。

 

 故に全力で跳躍する。前方へ、シグナムへと向かって妥協も緩みも慢心もない全力の一歩。

 

 スキルも飛行もしない事を慢心と呼ぶ阿呆がいるかもしれないが、そうではない。

 

 使わないこの状態こそが一番己が全力でいられるのだ。

 

「は、はははは、ハハハハ―――ハハハハ!! そうら、一歩目は終わったぞ―――!」

 

「シュツルムファルケン―――抜けろ、炎の一矢」

 

 二度目の跳躍、体が浮かんでいる瞬間に矢が貫通し、抜けて行く。それは左肩に突き刺さり、そして穴を開けて後ろへと抜けて行く―――左腕が動かなくなる。それと同時に自分の力が、ATが大きく減少するのを感じ取る。今の一撃にはAT減少効果があったのかもしれない。丁度良いハンデだろう。動かなくなった左腕は邪魔なので、回復させることなどさせず右手を手刀へと切り替えて肩から切り落とす。それに、ATの減少とか正直意味はない。己がやるのは技術による一撃必殺だ―――ATに関係なく技術だけで相手の防御を貫通する方法ぐらいは極めている。故に問題はない。逆に腕という重りが減り、体が軽くなって加速できる。

 

 そうしている間にシグナムが弓を剣へと戻している―――どうやら弓は鞘と剣を合体させた形態変化だったらしい。中々面白いギミックだと思う。

 

 しかし、

 

 速度は殺せない。シグナムが剣の形を変え終わり、それを上段に構える。その瞬間に体はシグナムの前に着地する即ち、

 

「二歩目―――」

 

 着地と同時に左足を前に出す。右拳を下げる。既に左足はシグナムの横を抜ける様に置いてある。即ち殴る際に体をシグナムの背後へと抜ける様な体勢となりつつある。何度も、何百と繰り返してきたルーティーン。たったの一日も練習を、鍛錬をしない日などなかった。故に体は自然に動き、シグナムの懐へと到着している時点で勝負はついている。シグナムの剣の振り下ろしが早い。二撃も喰らっている為、これを受けたらLCがなくなるだろう。拳を出すよりも早いのだろうか? 早いのだろう。

 

 ならそれよりも早く殴ればよい。

 

 呼吸を読み、覚え、意識と意識の間を感覚的につかんだ。

 

 故にありえない現象として、拳を叩き込む行動が後出しから先制攻撃へと割り込む様に変化した。一種の詐欺とも言える技能。それをもってなすのは心臓を貫通する拳の一撃、

 

「三歩目―――覇王断空拳」

 

 拳がシグナムの胸を貫通し、赤いポリゴンの破片が血の様に舞う。即死判定を出し、これで勝利が決定した。そう確信した瞬間に、シグナムが笑みを浮かべた。

 

「―――あぁ、そう来ると解っていた。やりきると信じていた、私よりも強いだろうからな……!」

 

「―――」

 

 シグナムの死亡判定がない。が、次の瞬間常時発動しているASの効果により、シグナムに付与されているスキル効果を見抜く。

 

 ≪不屈≫≪逆境≫≪修羅道≫≪死中に活≫≪必中≫

 

「―――は」

 

 体が動かない。シグナムが足を踏んで逃がさないのも一つだが、システムが回避行動を許可していない。シグナムに表示されているスキルの効果は実にシンプルであり、LCが低ければ低いほど追加でスキルが発動したり、能力が桁違いに上昇するといった内容だ―――つまり、普通に戦えば間違いなく即死させられると確信してのカウンターを用意したのだ。

 

「貴殿の友人は対策されたくないから≪不屈≫だけは一度も見せてはいなかったからな―――先に使わせてもらった」

 

 ―――あぁ、確かに知っていれば絶対に引っかからず、追撃の衝撃波でも殴るのと同時に出して≪不屈≫諸共倒していただろうな。

 

 また未知に敗れるのか、とは思うがこれはこれで悪くはない。全力を出した結果敗北するのだからこそ文句は一つもなく。受け入れる。

 

「一、撃、必殺……!」

 

 背後の廃墟ごと体を一刀両断され、一瞬でLCが枯渇する。体は自由になり、口から笑い声が漏れだす。

 

「見事! 良くぞ俺を撃ち破った!! だがこの程度俺に勝ったと思うな! 俺はまた同じ条件で勝負を挑み、貴様を倒して見せる故に―――首を洗って待っていろ……!」

 

 敗北したためにログアウトで追い出されて行く中、笑みを浮かべるシグナムの姿が見える。

 

「あぁ―――それは実に楽しみだ」

 

 

                           ◆

 

 

「おい、スタッフ! スタッフゥ! 誰だよシミュレーターに別ゲーインストした奴は! こう、ブレイブデュエルってもっと魔法使ったキラキラしてるゲームだろ! アレ完全に別モノじゃねぇーか! 会場の皆様もドン引き半分憧れ半分でちょっとリアクション取りづらいんだよ! ツッコミどころ多すぎて解説とかそんな状況じゃねぇよクソォ! あとスキル使え!」

 

「あ、あの、その、落ち着いて、ね? 見てるから皆。だから落ち着こうね?」

 

「いやぁ……世の中極まった部類があるものやなぁ……身内やけど」

 

「はい、というわけで第一戦終了となります! ブレイブデュエルは遊び方次第では今の様な魔王と姫騎士プレイをすることもできます! 今回は姫騎士が勇者兼任してましたけどね! というわけで第二戦はグランツ研究所からイスト・バサラと」

 

「八神堂から八神リインフォース・アインスや! 割と真っ当な部類やで皆!」

 

「あ、主、割とってどういうことですか割と!」

 

 MCで間をつなぎながらも、そうやって次戦の準備が進められていた。




Q.つまりどういうこと?
A.技術だけで後出しカリキュレイト覇王断空拳→食いしばり一撃必殺カウンター

 実戦派とシミュレーター利用派の違いによるまさかの脳筋敗北。

 なのセントだと食いしばりは≪不屈≫ってスキルなのよね。SRカードになると普通に不屈やリザレクションとか入って来るので恐ろしい。あ、あと中島家夏イベ、お疲れ様でした。

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