イノセントDays   作:てんぞー

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エキシビジョンB

「―――赤毛の馬鹿がシミュレーターに向かったという事で解説は変わってもらった。俺が貴様ら愚民共の恐怖と絶対の象徴であるクラウス・イングヴァルトだ。俺を見る時はまず土下座から始め、そして名前の後に様を付ける様にしろ」

 

「そこのキチガイに勝ったせいで持ちネタを披露できなかった八神シグナムだ。今回の解説に関しては私たち二人で行う予定だ。面子的に大きな不安が残るかもしれないが、そこら辺は安心してほしい。横のキチガイグラップラーと違って私は割とまともな部類だ―――ん? なんだその顔は。まるで人を疑うようなその視線は。あぁ、安心しろ。貴様らの顔は覚えた」

 

「こえーよ!」

 

 観客から返って来るツッコミに対してシグナムは笑顔を浮かべながら頷き、その要素を横からなんだこのキチガイ、と思いつつ眺めてから本題へと入る。そう、今の己は解説の覇王クラウス。ギャラが出るのであれば最低限ギャラの分だけ仕事をしなくてはならない。社会の常識である。良し、めんどくさい。

 

「クラウスー、仕事放棄したらアインハルトちゃんに連絡するからね」

 

 そんな声が舞台の後ろの方にいるティーダから聞こえてくる。

 

 ―――愚妹を使うとは卑怯者め……!

 

 そうとなると本当に面倒だが、しぶしぶながら社会の常識を自分も適応しなくてはならない。このクラウス・イングヴァルト、社会への奉仕は面倒以前に興味も欠片もなく、拳を振るって生きていけるのであれば親の残した財産とか遺産で食って良ければいいなぁ、とか思っている正真正銘の屑ではある。が、愚妹を裏切る事だけはどうしてもできない。ぐぬぬ、と声を出し、諦める。

 

「では俺は貴様ら側の面子を知らんわけだが、貴様ら側のアインス嬢は一体どういう者なのだ」

 

 そうだな、とシグナムが言葉を置く。

 

「家事が上手でなぁ、散らかしっぱなし部屋を良く掃除してもらっている。この間もなぁ……」

 

「シグナム! シグナム! 身内の恥をさらすのはやめーや!」

 

 シグナムに対して違う、そうじゃないと言いつつも興味津々の観客たちが見える。まあ、戦うのが美女なのだからそれも興味があるだろう。シグナムは性別を意識する前にもう既に剣士、というイメージが強すぎて女というのを感じなさすぎる。だから明確に女らしさの残るアインスが戦闘で動くとなると観客は沸くのだろう、興奮で。

 

「さて、真面目な話をするとブレイブデュエルにおけるアインスは少々特殊なタイプだ。二種類のバリアジャケットを持っていて、使用するキャラカードによってそれが決定される。勿論それとは別にスキルカードを使用する事によってバリアジャケットのタイプを二種類の内、好きなように切り替えることが出来る。遠距離近距離、どちらでも力を発揮できるオールラウンダーがアインスだが……実の所は超のつくパワーファイターだ」

 

「ほう、そうなのか?」

 

「うむ。アインスははやてと同じ”夜天の書”を所有している。グランツ研究所のディアーチェが持っている紫天の書を知っているか? アレと同じで夜天の書はストレージ型デバイス、中に大量の魔法を、つまりはスキルカードを保有することが出来る。つまり戦闘中に自由にスキルや魔法を入れ替えることが出来る。ディアーチェはこれによって同じ魔法を大量にセット、同時発動させることによって大規模の殲滅を行うが、アインスは単一の大魔法のタメを極限までカットし、連射するタイプだ―――まあ、つまりは近接もいけるマジックガンナータイプという事だ」

 

「ふむ、成程」

 

 その言葉に頷き、

 

「では、此方の番か。ならそうだな。こう表現しよう―――ウチの阿呆は物凄いキチガイだぞ」

 

 なんと言ったって最初はティーダとイストの二人ではあったが、最終的にはタイマンで殴りあって、そして勝ったのだ。純粋な殴り合いで自分を倒したのはあの阿呆が初めてだ。だからあの阿呆の事を自分は良く知っている。

 

「あぁ、断言させてもらう。アイツは周りにお前才能あって嫌いとか、羨ましいとか、化け物とか平然と言ってくるが、俺からすればアレの方が理解不能だ。俺とは全く別のベクトルの生き物だと言っても良い。俺がセンスと肉体の化け物だと言えば、あの阿呆は―――根性と技術の化け物だ。うむ、まあ、そんな阿呆だからこそ俺の友人をやっていられるのだがな」

 

「つまり?」

 

「器用万能のあの阿呆は限定的にだが俺よりも強い阿呆だという事だ」

 

 

                           ◆

 

 

 ―――なんてことを言いやがるあの馬鹿。

 

 シミュレーターの中とはいえ、外からの音を拾う方法はある。外にいる者に音を繋いでもらえばいいのだ。そしてクラウスが解説についたから、と不安になって音声を繋いでもらったらなんか物凄い期待値が上がる様な発言をテロってくれている。本当になんてことをしてくれたのだろうか。相手がアインスだからちょっとだけやる気をなくしていたのに、少し気合を入れる必要が出てきたのではないか。

 

「プレッシャーとは無縁の生活を送りたい」

 

 そう言いながら視線を持ち上げる。

 

 そこに広がるのは草原、湖、青い空、そして森。

 

 ―――エルトリアステージ。

 

 現状もっともバランス良く自然の溢れているステージであり、雲海ステージを除けばもっとも大きなステージとなっている。雲海ステージは海と雲と空だけを再現していればいいためリソースが少ないが、エルトリアステージは自然あふれる環境の再現を広域に行っている―――それがジェネレーターやシミュレーターを殺さずにおこなえているのはやはり、ジェイル・スカリエッティとグランツ・フローリアンという二人の天才のおかげとしか言えない。目に見えるものを除けば砂漠、荒野、山、渓谷、なんてエリアも存在している。将来的に実装される大規模PvP向けのステージらしいが、今の所は小規模なチーム戦用でしかないか、もしくは―――超殲滅型プレイヤーが攻撃しやすい為に選ぶステージとなっている

 

 あの狸め、何気に負ける気はないな……!

 

 まあ、それはそれでいい。そう思いつつも靴で踏む草地を感じつつ、

 

「リライズ・アップ」

 

 バリアジャケットを纏う。恰好は何時も通りジャケットにジーンズ姿の非常にカジュアルな様子だが、現在使用しているのはR+のカードだ。それに合わせる様に少しだけ衣服にも変化が訪れ、首には白い無地のマフラーが巻き付けられている。エルトリアステージは春、もしくは夏に設定されているので普通であれば汗でもかくのだろうが、生憎と服装からの温度設定はオフにしてある為、快適な環境となっている。

 

「さて、と……アインスちゃんの性格を考えるに接近戦はありえないし……馬鹿共がブレイブデュエルの本来の遊び方ガン無視の死狂いモードで遊んじまったせいで、ちょっと派手にやらなきゃこれは駄目だな。いやぁ、就活戦士は何時の時代も点数稼ぎで辛いなぁ……!」

 

 勿論答えが返ってくるわけではないが、それでも口にすれば外で見ている連中に話は聞こえているはずなのでまったく問題はない。問題なのは何で戦うべきか、だ。両手に装着されているガントレットの様なデバイス、ベーオウルフを見るが、こいつの出番はまだまだ遠い。少なくともクラウス相手以外では引っ張り出すつもりは全くない。

 

 まあ―――別段ベーオウルフを使っているからと言って劇的に強くなるわけじゃない。

 

 なんとなく拳が一番、だから一番強いと主張しているだけで、

 

 別段他の武器で同じことを感じればそっちへと移る。

 

 どうせ得物が変わってもやる事は変わらないのだ、だったら武器を変えても意味などない。

 

「かもーん」

 

 そう言って腕を振るうのと同時に目の前の地面に二つの武器が突き刺さる様に出現する。どちらも本来のそれよりも赤く侵食する様に染まっており、これが本物ではなくレプリカである事を証明している。自分のカードがSRになればコピーではなく本性能を持った方を出すことが出来る様になるかもしれないが―――武器自体に性能を求めても意味がないのはクラウスを見ていれば解る。

 

「デュランダル&雷帝の杖」

 

 おそらく現在確認されているであろう氷、そして雷系最強の魔法戦用デバイス。クロノのカード、そしてプレシアのカードをセットする事で使用可能にしている。こういう単一属性に対して親和性の高いデバイスは特定属性の威力ブーストや詠唱カット効果があるため、非常に使いやすい。それらを片手ずつに握り渡らせると、前方の空に浮かぶ黒い姿が見える―――リインフォース・アインスの姿だ。

 

 背中に翼は見えないが、バリアジャケットタイプは魔法戦用のそれになっている。となるとアインスはアバター能力である≪ユニゾン≫を使用してこない方針……と、楽観するのは簡単だろう。クラウスの馬鹿と違って此方は常に最低の最悪を想定して、尚且つそれに対処する様に動くべし。それが非才が才気の怪物に対応する為の最低限の条件だ。

 

 頭を持ち上げて空を見上げ、片手に本を握るアインス姿を見る。距離は―――それなりにある。大凡四キロ程度。シグナム対クラウスの時よりもかなり距離がある。しかし、純魔法戦を挑むのであればこれぐらいの距離が寧ろ戦いやすい。中級や初級の魔法であれば詠唱は発生しないが、収束砲撃や超長距離射撃魔法、大型砲撃魔法の様なクラスとなって来るとそれなりに詠唱が必要となる。これだけの距離があれば詠唱しつつも相手の攻撃を十分に回避できる。

 

「手加減必要かい?」

 

 システムのサポートのおかげで大声を出さなくても声は相手へ届く。だから、少し苦笑する様な声が直ぐに返って来るのを感じる。

 

「ありがたいけど、手加減されて勝っても惨めなだけだし……手加減、しないでしょ」

 

「まあね」

 

 最近クラウスとブレイブデュエル限定だが殴り合う回数が一気に増えている。そのせいかまだまだ強くなれると自分を発見し、楽しめている。おかげでちょっとだけ、手加減のリミッターが外れている。まあ、アインスが強いのは理解している。だから直ぐに終わる様な事はない筈だ。

 

「―――」

 

「―――」

 

 黙る。

 

 そして片目を向け、睨む。何時もは面倒がってガンメタを張ったりして戦うが、今回ばかりはそうもいかず、少々派手に楽しませてもらう事とする。故に握る二本のデバイスをもっと強く握りしめ、そして口を開く。それと同時にアインスの握る夜天の書が開き、その中に入っているページが落ちる様に抜け―――そしてアインスの周りで浮かぶ。

 

「行け、ブラッディダガー」

 

 ページが輝き、その中から赤黒い短剣が一斉に射出される。その数は一瞬で百を超え、美しい軌跡を描きながら此方へと向かって飛翔して来る。その姿は圧巻の一言だろう。何せ、ディアーチェが普段やっているようなことを苦も無く真似し、そして実行しているのだから―――少しだけ驚かされた。

 

「が、やりようはあるさ」

 

 雷帝の杖を前へと向け数瞬タメを作り、雷の矢を十数と浮かべる。夜天の書の様な大量展開デバイスが無いため、一度で生み出すのはこれが限度だ。故に迷う事無くそれを一気に迫る短剣の雨の中へと叩き込み、空で雷と血色の爆発を発生させる―――が、勿論操作しきれない。

 

 が、それでも衝突で雷は薄く広く、全体へ広がった。

 

「Freeze」

 

 デュランダルでトントン、と右手で握る雷帝の杖を叩く。次の瞬間発生するのは空中に広がった雷撃の完全氷結。薄く、そして広く伸びていた雷撃はほぼすべてのブラッディダガーに触れていた。故に雷撃を凍らせるのと同時にブラッディダガーもその九割が凍り付く。それでもまだ、十数、無事だったのが殺到して来る。右手の雷帝の杖で魔法のチャージを開始しつつ、デュランダルを左手で構える。

 

「よっ」

 

 同時に襲い掛かってきたブラッディダガーを全て殴って砕けさせる。その破片が舞い散る瞬間、空を覆う氷の網が衝撃と共に砕けながら中央を閃光が抜けてくる。黒色に染まった収束砲撃はアインスが最も得意とする大型魔法、その超高速運用だ。空気を、大地を、そして小型の魔法を震わせながら強大な力が一直線に向かってくる。

 

「スターライトブレイカ―――……!」

 

「BS≪サクリファイススペル≫、サンダーブレード!」

 

 デバイスをオーバーロードという形で消費する事で魔法詠唱やチャージをキャンセルし、準備が終わったという状況へと持って行く。そのまま右手の杖を投擲する。一瞬で雷鳴を纏った杖は巨大な雷の剣となった正面から収束砲撃に衝突し、爆発を発生させる。それで幾分か威力が下がるが、それでも十分ではない。故にもう一度、

 

「≪サクリファイススペル≫―――エターナルコフィン」

 

 魔法が即時発動する。雷帝の杖にやったように使い捨ての道具としてデュランダルを投げ捨てる。それがアインスの放ったスターライトブレイカーと衝突を果たし―――爆破と同時にその砲撃を完全に氷結、停止させる。次の瞬間に凍り付いたスターライトブレイカーが完全に砕け散り、夏に振る雪の様に降り注ぎ始める。キラキラと太陽に反射しつつ光、光のカーテンを自分とアインスの間に生む。それを見て軽く笑みを浮かべ、そして手を振る。

 

 出現するのは夜天の書だった―――ただしこちらは真っ赤に染まっている、色違いバージョンだった。色以外の全てが全く夜天の書と一緒、即ち≪武芸百般≫にて生成した夜天の書のコピー。先程の様に一度破壊されたデバイスはもう二度と戦闘中取り出すことが出来ないが、別のを予め取り出せるように用意しておけば全く問題ない。

 

「さて、次はこれで遊んでみるか」

 

 夜天コピーを軽く振るうと、そのページの間から重い音を立てながら二本の武器が落ちてくる。それが落ち、地面に突き刺さるのと同時に夜天の書を消し、そして二本の武器を取る。名前は違うが、その二つの武器は形状が同じであり、同型のデバイスとして認識されている。

 

「バルディッシュザンバーモード、バルニフィカススラッシャーモード」

 

 エネルギー剣を実体化させたデバイスを握り、それを肩に乗せる。負ける気は全くないが、それでもエキシビジョンマッチだ。

 

「―――派手に、楽しく、やろうか。俺は紳士的でレディーズファーストを良く解っているから先手を譲るよ」

 

 それに対して、アインスが笑みを浮かべた様な気がした。

 

「八神堂、八神リインフォース・アインス、行くよ……!」

 

「イノセントクラウンズ、イスト・バサラ。馬鹿の尻拭いついでに偶にゃあイストお兄さんのカッコいい所でも見せるさ―――惚れんなよ」




 クラウスはステが限界を超えているというより、一人だけステ上限が違う、という表現が正しいかも。周りは犬だけど一人だけ狼的な。

 意思ステがあったら一~十の間の二十ぐらいが三馬鹿(

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