イノセントDays   作:てんぞー

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エキシビジョンC

「ドヤ顔で帰って来るのはいけど、結局お前がやってるのって美女を殴り飛ばしたって事だよな。お帰りキチガイ」

 

「ティーダ貴様ァ!!」

 

 シミュレーターから出てきた解説席に戻った直後、ティーダが笑顔でサムズアップを向けながらそんな事を言ってくる。青筋を浮かべながら指の骨を鳴らし近づくと、まあまあ、とティーダが言ってくる。何事かと思って立ったままティーダを待つとまあまあ、と言いながら近づき、肩を叩き、まあまあ、と言いながらそのままシミュレーターの方へと消えて行く。

 

「しまった逃がした……!」

 

「アレは流れが自然すぎて見逃してしまうな」

 

 神妙な表情で頷くクラウスを椅子から蹴りおろし、再び解説席の椅子を確保する。この世でおそらくもっとも実況やら解説が似合わないクラウスの代わりに自分が営業トークや解説を行うのはセールス的に何よりも正しい。つまりクラウスを席から蹴り落とす行為は法律的に認められている。そして何よりもアインハルトが認めるであろうから親族の了承まで存在する。ここまで来たらもはやクラウスを蹴る事を戸惑ってはならない事になる。

 

「クラウス、法律的にお前を蹴る事が正しいようだ」

 

「なんだと? 日本の法律は不思議だな……解った、了承したぞイスト。貴様の全力の蹴りを俺に叩き込むがよい。いいか、一切手加減するなよ? それが蹴り以下の暴行だったら本気でカウンターを叩き込むからな……! 来い!!」

 

「いや、不思議なのは貴様らの脳味噌だ」

 

 否定できない。というかしない。普通マインドよりはキチガイでも蛮族でもヒャッハーでも何でもいいが、ちょっと外れている方が人生、面白く見れると思う。少なくとも多くと同じ様な頭では多くと同じようにしか考えられない。それは非常に詰まらない事だ。何せ、考えられることは大体誰もが考えられる事だ。ゲームにしろ、小説にしろ、デザインにしろ、評価されるのは何時だって外れている連中だ。常識の一歩外側に出ないと面白いものを創造することはできないのだ。つまり、エンターテインメントを提供する側は自然とキチガイでないとならない。

 

「とりあえず馬鹿な事を考えるのを止めて解説に移ってくれ。MCが二人そろってシミュレーターに入ったから少し忙しいぞ」

 

 はいはい、と言いながら解説席に体を落ち着け、そして軽く観客を見る―――何やらジト目や嫉妬の視線が多い気がする。それには思い当たる事が多いので、とりあえず挑発する様な笑みを浮かべてへっ、と言っておいてやる。殺意の波動を感じるがリアルでなら絶対に負けない自信があるのでこういうことが出来る。

 

「さて、俺が先程の試合で超オトコマエである事が証明された事と覇王カッコワライがきゃんきゃん吠えていそうな事は一旦忘れて、次の試合に移ろう。今度は二対二のタッグバトルだ。八神堂からは店主の八神はやてとその愛犬ザフィーラ、グランツ研究所遠征チームからはティーダ・ランスターとオリヴィエ・ゼーゲブレヒトのコンビだ。さて、そろそろ観客席側でやってるトトカルチョも白熱してる頃かな? 俺も一口噛ませてほしい」

 

「貴様は黙って働け―――と。ここで知っているかもしれないし知らないかもしれないが、各プレイヤーの説明に入ろうか。まずは八神堂メンバーだが、ここに来ている皆であれば良くもう知っているかもしれないが、はやてのスタイルは後方からの殲滅魔法による攻撃だ。防御を高め、そして主砲である魔法を放つスタイル……要塞の様な戦い方をする。そしてザフィーラは完全な護衛型のスタイルだ。ソロではなくタッグやチームで真価を発揮するスタイルで、攻撃をほぼ完全に捨てて防衛、護衛を行う事に特化している……まあ、ここにいるのが大半八神堂の常連なら良く知っている事だろう」

 

「さて、こっちの面子、まずティーダは俺達の頭脳担当だ。武器は可変型銃のデバイスのタスラムだが……まあ、そういう射撃とは別に頭を使う所がアイツの強みだよ。真っ当に頭が良い―――俺とクラウスがそこらへんの脳を殴る方に全フリだから俺たちの司令塔的ポジションなんだよなぁ……。まあ、ぶっちゃけた話腕っぷしそのものはそこまで強くないんだよな」

 

「アレの仕事は我らの舵取り役だからな! それ以外はオマケにすぎん!!」

 

 後ろから言ってくるクラウスの言葉に頷く。

 

「さて、それでおそらく観客の誰もが一番知りたがっているのは今回の我がチーム紅一点のオリヴィエ・ゼーゲブレヒトの存在であろう」

 

「貴様らのチームの中では一人だけ動きからして武術や護身術の覚えがない様な気がするのだが……間違いだろうか?」

 

 いや、それは間違ってはいない、とシグナムに答える。

 

「オリヴィエは大学の知り合いをスカウトしたもんだからな。ティーダやクラウスみたいに昔っからの付き合いがあるわけじゃないから彼女個人に関しては俺もそう深く知っているわけじゃないんだ。あ、美女と深い関係になるのは何時でも募集中だけどな―――ま、当たり障りのない話をするならオリヴィエは基本的に何でもできるオールラウンダーだ。俺とはまた別スタイルのな。俺が攻撃的なら彼女はもっと防御的なスタイルになってる」

 

「貧乳は防御力高いらしいしな。個人的に貧乳に人権はないと思っている」

 

 解説席から飛び降りてクラウスのマウントを取り、顔面を殴り始める。それをガン無視でシグナムがマイクを通して顔を届け始める。

 

「さて、ステージでの乱闘が開始した所でシミュレーターに入る前の相談が両チームとも終了した様だ。今回もまた次回アップデートで追加予定のカード等が数個出現して来る。それを一足早く確認ができるのは今回だけだ。ステージから目を離すなよ?」

 

 

                           ◆

 

 

「さて、馬鹿達が馬鹿やって注目を集めている間にさっさと作戦を決めちゃおうか」

 

「アレ、放っておいてもいいんですか……」

 

 オリヴィエが割とドン引きの表情を浮かべているが、大体何時もあんなノリなのだ。クラウスにしたってもイストが本気で殴らない限り傷がつくことはない。まあ、なんというべきか、軽い暴力というか殴り合いはアレだ、

 

「僕らなりの友情表現だよ。ま、それよりも今は試合の方だよ。オリヴィエちゃん、準備は出来ているよね?」

 

「あ、はい」

 

 オリヴィエも自分も既にリライズを完了し、バリアジャケット姿へと姿を変更している。オリヴィエは何時も通りのドレスの様なバリアジャケットに、自分も白い動きやすいバリアジャケットへと姿を変えている。どちらもASの効果はシンプルに自身の強化―――オリヴィエの場合は≪ブロック≫の付与、そして己は≪回避≫の付与となっている。≪必中≫や≪直撃≫が付与されればあっさりと貫通できるのが防御系のASやパッシブ効果だが、それを確かめる為には一度攻撃を叩き込む必要がある。それで間違いなく相手の一手は潰すことが出来る。

 

 ―――まあ、プロレスするにしたって露骨すぎるのは嫌だからね。

 

 最低限善戦した、という形にならないと評判云々の前にかっこ悪すぎて嫌だ、という事だ。だから勿論、構成は勝つつもりでセットしてきている。はやても簡単に勝たせてもらえるとは一切思っていないだろう―――間違いなくこのタッグ戦は本気で来るだろうし、次のチーム戦も本気で来るだろう。まあ、最低限はやてかザフィーラは落としたい。それで負ければ十分に活躍した扱いになるだろう―――というか前の二戦で馬鹿が活躍しすぎているせいでハードルが大幅に上がっている。それが一番辛い。

 

「で、ティーダさん、私は何をすればいいんですか?」

 

 オリヴィエが此方へと視線を向けて問いかけてくる。だからさて、と言葉を置く。

 

「ぶっちゃけた話僕はあの馬鹿二人程ぶち抜けている訳じゃないんだよねー」

 

 あの二人が頭おかしいだけで、自分はそこまで特別ではない。早い話、凡人だ。努力する凡人だ。そして凡人である事に誇りを持っている。あんな社会不適合者二人には自分の様にちょっとズレたけど常識の解っている馬鹿が必要だ。だから、まあ、今のポジションは嫌いではない。それが友情ってやつだとも思っている。だから、このポジションにしがみつく為に出来る事は何でもやってきた。

 

「んじゃ、悪巧みを始めようか」

 

 

                           ◆

 

 

「なぁんて事を今頃言っているんやろうな」

 

「主?」

 

 

 ミッドチルダステージ、高層ビルの影に隠れる様に立っている。ザフィーラの人間形態、褐色の男の姿が直ぐ横に存在する。プロレス―――つまりある程度の”ヤラセ”をする方向で話は決まっているが”どう”とは決まっていない。だから相手がそこに限りなく突っ込んでくるのは理解している。自分ならそうするからだ。腐っても絶対に正面衝突をする、なんてことは性格からしても絶対にありえない。

 

 ティーダ・ランスターは”中る”から百発百中のスナイパーなのではなく、”中る状況”を作り出すから百発百中のスナイパーなのだ。そういう状況へと持ち込んで行くのが実に上手い、というのが自分の評価だ。一対一ではなくタッグやチーム、乱戦でこそ一番輝くトリックスタータイプなのだろうと思う。こういう司令塔タイプは開始と同時に一番最初に倒すのが定石だ―――ただ、今回は一つ問題がある。

 

「あのオリヴィエってねーちゃんも割とインテリ系やねんよな。たぶんティーダの兄さんが落ちたとしてもある程度の指針を残していれば最適解で動きそうやねんよな。んで火力が高いのは兄さんよりもねーちゃんの方やな。兄さんはそこまで火力が高くないから後回しにしてもええけど、その場合は引っ掻き回される覚悟が必要やな」

 

「逆に先に集中して倒そうとすると火力の高いオリヴィエ嬢を自由にさせてしまう、という事か」

 

「やな。ああいうのは戦場にいる時点で疑心暗鬼にさせるから仕事が完了してるものや。ほんと対処に困るものやで」

 

 やはり一対一の状況を生み出すのが一番戦術としては賢いのだろうと思う。ザフィーラがオリヴィエを抑え込み、そしてその間に自分でティーダを叩く―――ただその程度相手が想定していない訳がない。それに自分はアインスとは違ってそこまでホイホイとチャージカットが出来るタイプではない。アインスよりも強力で、そして広範囲で、厄介な魔法を叩き込む超パワータイププレイヤーだ。そしてそれを成す為の防御力を持っている。要塞の様なスタイルが自分のスタイルなのだ。小回りが利いて、目くらましや狙撃の出来るティーダとは相手が悪い。詠唱の邪魔をされる可能性が非常に高い。

 

 なら逆はどうだろうか? むしろそっちの方が相性が悪い。オールラウンダーであるオリヴィエが連続攻撃を叩き込んで来たら先に沈められる自信はないし、広範囲に及ぶ殲滅魔法を使用しないザフィーラではティーダを捉えることはできないだろう。目くらましと幻影魔法のコンボで、ティーダを近接戦闘で捉える事はシグナムレベルで熟練していなければかなり厳しい。

 

 ―――と、普通ならこんな所だろう。

 

 ただ相手が悪巧みをし、ただで負けるつもりはないのと同時に、

 

「別にこっちも僅差で勝利するつもりはあらへん。勝つなら大勝やで。いい加減ここらで八神堂真のチャンプが誰であるか見せなくちゃあかんからな。せやから」

 

 

                           ◆

 

 

「良いかいオリヴィエちゃん? 今回の作戦は実にシンプルだ。相手が最も嫌がる様な事をするんだ。それを自覚しているのは誰よりも相手だ。だからあえてそれに乗ってあげるんだ」

 

 

                           ◆

 

 

「めいいっぱいの嫌がらせくるで。掻き回せるだけ掻き混ぜてから本命が来るんや。やからそれを逆に利用する様に引き込むんや。ええか? あの兄さんの手口はグランツ研究所へ遊びに行った時に何度か確認させてもらったわ。やからまず最初にする事はこうや」

 

 

                           ◆

 

 

「ザフィーラガン無視して直接八神はやてを叩く」

 

 

                           ◆

 

 

「ザフィーラ無視で私を叩きにくるやろな、ザフィーラはそれを素通しするんや」

 

 

                           ◆

 

 

「おそらくここまではあっさり読まれるだろうし、ザフィーラも素通ししてくれるだろう。だけど本番は―――」

 

 

                           ◆

 

 

「―――ここからや」




 なのセント世界のはやては飛び級で大学を卒業しているキチガイ。なのセントは小学生が覚悟決めたり大学卒業したりでちょっと頭おかしすぎるというか全体的に魔境。公式のガバ設定とは一体なんなのだろう……。

ザフィーラ(♂・4) 海鳴にイカス雌犬がいると聞いて遠征しようとしたら迷子になった経験あり


 なんだかんだで頭脳系の勝負がSS作者として最も書き辛いと思ってる
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