「―――さて、試合開始! ステージはミッドチルダステージ! もうみんな知って通りの近未来型のステージだ! 高速道路に高層ビル、多くの建造物があるこのステージは廃墟都市程隠れやすくはないが、それでも遮蔽物は多い! 廃墟都市と並んで狙撃型に有利なステージだ。逆に近接、間接距離タイプのプレイヤーは飛行能力から最低でも壁蹴りを練習してないと非常にやりづらいステージだ。ん? イストお兄さんのオススメ? 予め戦場となる所を用意しておいて、そこにトラップ設置したら建物ごと相手を巻き込む戦法だ! ビルで相手を押し潰す光景は圧巻の一言に尽きるぞ!」
「イスト、俺は貴様が実況や解説する場を始めてみるが、意外と真面目にやっているのだな。嘆かわしいぞ。貴様は俺と同じくニートかゴクツブシの道を進むと思っていたのに」
「ヘイ、シャマル! このキチガイに麻酔をお願い! アフリカゾウ眠らせる様なやつじゃないと眠らないぞこいつは!」
「その言い方まるで実証済みの様に聞こえて怖いのでやめてください」
笑い声でシャマルの言葉を流しつつ、視線をスクリーンへと向ける。そこには八神堂チームと、そして此方側の動きが見える。レーダー型マップと、そして戦場カメラの二種類の映像から、現在どこで何をしているのか、というのが見れる。それを見ながらもシグナムと解説の言葉を交えていく。
「八神堂サイド……はやてのカードは見た事がないと思うな? この機械的な装備は次回追加予定の”Force”系のキャラクターカードだ。現在でも十分近未来的だが、その更に先の未来、デバイスをもっとメカメカしく、というのがコンセプトらしい。私見だが、”武器”ではなく”兵器”という風にデザインが変化している様に思える。はやてのはフォートレスH装備だな」
スクリーンに映っているはやての背後には六枚の機械の翼が存在し、左手には杖を、右手には銃と剣が合体したような兵器を、そしてその横には夜天の書が浮かんでいる。確かにシグナムが言う通り、武器、というにはフォルムが物騒すぎる為、兵器というジャンルの方が似合っているのには同意する。
そこからスクリーンはザフィーラ、オリヴィエ、そしてティーダと姿を見せる。
「他の三人は姿は普通だけど……オリヴィエが≪ブロック≫を、ティーダが≪回避≫を付与されているな。そしてザフィーラが≪フルブロック≫状態か。流石八神堂のメイン肉壁、最初から防御する気しかない」
「それは褒めているのかないのかどっちなんだ? しかし態々防御系を一種類で統一しなかったのは相手の手札に対する直接的な攻撃だろう。夜天の書で魔法を入れ替えられるとはいえ、それには一瞬の時間がかかる。オリヴィエからティーダへ、ティーダからオリヴィエへとターゲットを変化させるたびに≪必中≫や≪直撃≫を入れ替える必要があるからな」
「逆にどちらかがなければ詰む。まあ、ザフィーラが壁やってるのは良く知っている事だから最低限ティーダが対策を用意してこなかった、なんてことはないと思うんだが―――」
と、そこで西と東から高層ビルの上を飛ぶように進んでいた二陣営が中央に差し掛かる。遠距離からの砲撃を一度も行わずに接近して来る両陣営に対して自分を含めだれもが息をのみ、そして―――オリヴィエとティーダが二人ともザフィーラの横を抜けてはやてへと接近する。
「おおっと、これは!」
飛行状態からティーダはタスラムをブレード展開したナイフモードへ、オリヴィエは虹色の魔力を纏った拳を真っ直ぐはやてへと向かって叩きこもうとする。その瞬間にザフィーラ―――ではなくはやてが動く。
『―――フォートレス展開……!』
◆
―――知略を用いた戦いにおいてキーとなるのは”どれだけ予想を崩せるか”という点に尽きる。自分の得意な環境に巻き込みつつなるべく相手のペースを崩す。その為には相手の予想を常に崩さなくてはならない。相手の予想と現実が違う時、そこには常に”隙”が発生する。故に司令塔、軍師、トリックスター、そういう者の役割とはつまりそれなのだ。常に相手の予想を上回る、外れる事で相手の戦略を崩して隙を生む事。
……初手、行くで!
フォートレスの翼が防御として展開される。正面に三つと三つが繋がって出来上がった二つの大きな盾、それがオリヴィエの蹴りと、そしてティーダの銃撃を防ぐ―――そう、蹴りと銃撃。見せていた最初のモーションとは大きく違う。大げさなフェイントがかかっている。だがここまではいい。そう、ここまでなら自分でもやる事だ。だから問題はここからだ。
―――どう来る。いや、どっちや……!?
知略による戦いはイスト対アインスや、シグナム対クラウスよりも地味で、そして長くかかるようで―――早く終わる。一種の詰め将棋を遊んでいるようなものだ。一つのミスで結果が決まる。だからあらかじめ予想している幾つかのパターンに相手をハメ、そして一気にカタをつけるのだ。
「―――!!」
銃撃したティーダの姿が消えて行く。幻影魔法を使って姿を消しているのだろう。だとすれば隠れて攻撃の機会をうかがう筈だ。いや、それしかできない。ティーダを放置することは厄介な事へと繋がるが、それはいい。今は、
「ザフィーラ!!」
言葉よりも行動で返答は帰って来る。オリヴィエがフォートレスを蹴った反動で後ろへと下がる瞬間、虚空から突き出てくる鉄の棘がオリヴィエの姿をめがけて襲い掛かって来る。それをオリヴィエが回避しながら高層ビルの上へと落ちると、その姿へ向かってザフィーラが追撃する。ザフィーラの拳が振るわれ、オリヴィエがそれを横へと叩くように打撃し、カウンターを叩き込む。だがザフィーラはカウンターの腕を取り、それを回し、
「ふんっ!」
見事な一本背負いをし、下のフロアへと叩き落しつつも放す。それを見てオリヴィエ、そしてザフィーラの戦力を計算する。オリヴィエにはイストやクラウスの様なキチガイ染みた実力が備わっていない様に見える。パッシブの≪聖王の鎧≫が鬼畜性能だが、ザフィーラにはそれを貫通して攻撃する方法がある。それに、
既に自分もザフィーラも≪必中≫≪直撃≫の二枚重ねを完了している。
「時間はやらへんで……!」
ザフィーラがオリヴィエを抑えているうちに見えなくなったティーダを撃破する。オリヴィエが予想外に弱かった為、この行動へ移行することが出来る。既に魔法は開始と共に詠唱を開始していた。ここに来て一発目の魔法がようやく完成する。最初から一番の敵はティーダと認識している。オリヴィエはまだ解りやすい分問題ではない。重要なのは司令塔ティーダ―――ティーダが落ちた場合司令の”更新”を防げる。理想は同時撃破だが、分散された状態での最優先事項はあの男だ。
「行くで―――アーテム・デス・アイゼス!!」
一瞬でミッドチルダが局地的な吹雪に覆われる。道路が凍り付き、ビルが雪に覆われ、そして雹を纏った吹雪がビルの間を駆け巡る。索敵と攻撃を同時に行える広範囲殲滅魔法。本来は全てを凍り付かせる魔法だが、多少カスタマイズすれば―――こういう事もできる。
「見つけたで」
吹雪にぶち当たる様に空間の乱れが発生する。虚空に浮かび上がる人型の形はティーダの姿だ。まだステルスか、何らかの魔法がかかってはいるだろうが、全身にぶち当たる吹雪のせいでそれはほとんど意味をなしていない。故に虚空へと浮かび上がるティーダの姿に対して自身のスタイルを捨てた攻撃方法を取る。
「ブリューナク多重展開……!」
ディアーチェがとる方法と同じ、直接ストレージからの使用による多重展開。ストックしたカードが消えるが、その代わりに速度と力を両立できるという利点がある。それをもって光槍を百ほど一気に浮かべ、そしてそれを全て、ティーダの姿めがけて放つ。閃光となって降り注ぐ槍の前にティーダのアクションを予測し、睨み、そして魔法の詠唱をさらに開始する。
……ダミーの場合があるしなぁ!
「―――が、駄目、全く駄目だね」
―――そしてティーダの体に突き刺さった。見事に、ちゃんと、しっかりとティーダの体にブリューナクが突き刺さっていた。その姿に驚愕と疑問を抱く。真っ先に頭に上がる議論は何故、という言葉だった。ティーダのLCが一気に減少し、瀕死の状態に入るのを見て、間違いなく本物のティーダであると確信するが、
「なんで避けなかったんや!?」
今のは間違いなく避けるか、もしくは迎撃できるかの攻撃だった。そしてそれを期待した自分が間違いなくあった。しかしティーダが勝負を放棄したとも思えない。その証拠はティーダだ。ティーダの表情には笑顔が浮かんでおり、それがティーダがただ無意味に攻撃を受けたわけではないと証明していた。だから、という風にティーダは笑みを浮かべながらデバイス、タスラムを抜いていた。それに反応する様に素早くフォートレスを前に回す。が、ティーダのデバイス、その銃口は―――自身の頭に向けられている。
「なんでってそりゃああれよ―――超いやがらせ」
頭を吹き飛ばしてティーダが自殺した。
「んなあ!?」
それと同時にもう一つ、吹き飛ぶ姿が見える。ビルの横から突き破る様に高速で外へと飛び出し、隣のビルの壁へと叩き込まれLCが全損するのは―――ザフィーラの姿であった。んな馬鹿な、という事を呑み込む。オリヴィエとザフィーラの間には先程見た時には大きな差があったし、ザフィーラはDFとLCが高い。そう簡単に突破できる相手ではない筈なのだ。なのにティーダが倒れるのと同じ時間にザフィーラが攻略されるのはおかしい。
そう思い視線をオリヴィエへと向ける。オリヴィエは体に≪聖王の鎧≫を纏わせ、吹雪からのダメージと影響を完全にカットしている。その姿はビルの横の穴から出ると、空を踏み、そして消えて行くザフィーラの姿へと一礼する。
「―――騙し、手を抜く様な真似をさせていただき誠に申し訳ありませんでした。ですが最終的な勝利の為に必要であったので。おかげで丁度良く”調整”等が出来ました。ご協力ありがとうございます」
「っ、サーチ!」
夜天の書から直接探索系の魔法を発動させ、オリヴィエの状態を調べる。そのLC値は二桁、一桁レベルまで落ちてきているが―――その代わりにATとDF、つまり攻防の能力が異常に強化されていた。それだけではなく、スキルの付与も多く完了していた。しかし、その内容を見て納得をする。
「≪復讐≫か!」
次回実装予定のスキルだ。落とされる仲間が多ければ多いほど強化されるというスキルに、
「その他にも≪逆境≫や≪死中に活≫など負けている間にこそ真価を発揮するスキルで固めさせて貰っています。ティーダさん曰く”最大の敵が実は捨て駒、ザマァ”というのがポイントらしいですけど、個人的にはもうちょっと穏便な方法があったのではないかと思ったりも」
しかし、とオリヴィエが言葉を置く。
「―――おかげでザフィーラさんの動きの九割を覚えましたので結果オーライですね。≪ジェットステップ≫」
極自然な動作で、流れるような動きで、素早くオリヴィエが入り込んでくる。一瞬敵が接近してきている、という事にさえ忘れてしまいそうな程自然な動作に、自動防衛モードのフォートレス装備が反応し、接近と同時に拳を叩き込んでくるオリヴィエの攻撃をガードする。しかしそれは最初の一撃とは違って多くのバフを得て遥かに強化されている。
攻撃に発生する衝撃がフォートレスごと此方の体を吹き飛ばし、ビルの間の中空へと体を叩き落してくる。直ぐに体制を整え直し、フォートレスを全て防御へ回し、魔法の詠唱と干渉を開始する。
「―――ぐっ、やけど体力の残りは少ないんや、飲まれんなやぁ!」
「一撃でも貰ったらアウトの様なので即行で終わらせます」
あかん、アレ殺す気の目だわ。
なんだか目の色がクラウスやイストに似ている感じがする。もしかしなくても参考にしてはいけない部類のグラップラー達をまねしていないだろうか? ザフィーラに関しても人間じゃなくて犬、でよく考えたら獣なので実に本能的にアウト。つまりまともな参考元がいない。
あかん……!
ここまで来て、ティーダの嫌がらせの意味を大体悟った。あの男、酷い外道だ。
一番精神的にクル方法を選んできている。
「確か、こうでしたね―――」
そう言ってオリヴィエが跳躍する。その足場に使っているのはアーテム・デス・アイゼスの干渉によって生み出された雹だ。体に当たるのは全て≪聖王の鎧≫で無効化しながら、それを足場として使い、イストの三次元跳躍を完全にコピー、使いこなして移動して来る。その動きは”線”や”点”の攻撃では決して捉える事の出来ない動き、即ち”面”の攻撃のみで捉えられる。
「っ、デアボリック・エミッション!」
詠唱をカットし、素早く広域殲滅魔法を放つ。規模は半分以下に落ちているが、それでも現状のオリヴィエのLCを考えるに、一撃だけでも叩き込めば勝利出来る。その確信がある。
が、
「殴った時にダメージを負わない様に≪聖王の鎧≫を収束させて、そして……確か、死点を穿つ、ってこうでしたっけね―――天月・霞」
素手でイストがやったように、全く同じような動きでオリヴィエの拳が動く。そうして発生するのは拳による居合。それによって小規模ではあったが、デアボリック・エミッションが破砕点を中心に砕け散り、力を失って消えて行く。アホな、という言葉を噛み殺しながらアーテム・デス・アイゼスへの干渉が完了する。全身を落下させ、オリヴィエの下へと逃げる様にしながらフォートレスを前面展開し、シュベルトクロイツを両手で握る。
「凍れ……!」
吹雪を操作し、それをオリヴィエの周りだけ強化して行く。冷気と風が更に凝縮されて行き、オリヴィエの周りの空間が凍り付き始める。≪聖王の鎧≫が邪魔してオリヴィエにダメージを通すことが出来ないのであれば早い話―――≪聖王の鎧≫ごとオリヴィエを止めてしまえばいいのだ。
「覇王断空拳……!」
「これは笑えんで……!」
クラウスの動きを真似た拳の奥義が加速から一気にフォートレスへと衝突する。オリヴィエの氷結作業は続いているが。その前にフォートレス装備が今の一撃で大きくゆがみ、悲鳴を上げる。だがそれをまるで気にしない様に素早く、オリヴィエが二撃目を放ち―――装備が砕ける。
「―――!」
フォートレスが砕け、オリヴィエの姿が見えた瞬間、シュベルトクロイツ―――ではなく、フォートレスの銃装備を抜き、それをオリヴィエめがけて放つ。だがそれをオリヴィエは避けず、鎧ではじく事もなく、
「旋衝破」
「なんでもありにも程があるやろ!?」
放たれた弾丸を掴み、そして叩きつける様に投げ返してきた。
それを受けて体の落下がさらに加速する。地上スレスレで横へ逃げようとした瞬間、オリヴィエの拳が体に届き、体が拳と共に大地へと叩きつけられる。凄まじい衝撃が全身に響くのと同時に、道路と氷の塊が巻き上げられるのを視認する。それを見て、
「―――せやけど、これでフィニッシュやっ!」
それを風で寄せ、氷で接合し、そしてオリヴィエの≪聖王の鎧≫越しに圧縮させるように叩きつける。
「ギャラルホルン……!」
「しま―――」
言葉を放った瞬間にオリヴィエの全身が氷、道路、雹、その他多くの破砕物に囲まれ、固められ、そして球体になる様に包み込まれ―――圧縮される。内側から必殺の一撃で砕けば良いが、日ごろから”修羅っている”シグナムやイスト、クラウスはともかく、初見で対応できるほどオリヴィエは経験を積んでいない。―――もしその部分までティーダの計算に入っていたとしたら、大した男だ、というよりどんだけ嫌がらせの為に全力を出しているのだろうか、と思う。
「チェックメイトや」
次の瞬間、圧縮された氷塊の中でオリヴィエは砕け散り、勝利が決定した。
荒い息を吐き、冷たい道路の上に横たわったまま曇った空を眺め、
「あー……あの兄さん苦手やわ、私……いや、ホント」
小さく笑いながら、空に浮かぶ勝者表示を見る。
負ける事前提に一番見栄えが良くて嫌がらせになる事を選んだ。楽しい(
やっぱ頭使うタイプが一番執筆してて難しい。書いてて一番気を使うのが両側をある程度対等にする事、かませをさせない事なのでやっぱり頭使う系は辛い。