「タッグ戦が終了した所で一旦休憩に入りまーす! 戦績は八神堂二に対して遠征チームが一! 次からは四対四のチーム戦になります! 飲食物はラウンジの―――」
観客席から客が減って行き、それぞれが小休止の為に動きを始める。それは観客だけではなく、スタッフ側も変わらない。昼休憩に入った事で漸くまともに食事を取れる時間となる。ステージの裏側からスタッフエリアへと入り、その先にある休憩室に遠征チームでテーブルを一つ囲んでいた。テーブルの上には八神堂、はやてとアインスの手によって用意された昼食が出ていた。取り分けの出来るサラダ、メインのスパゲティ、それに小さめのピザとツマミがいくつか。手作りのイタリアンランチがテーブルの上に広がっていた―――それを遠慮なく食べるのは勿論自分とクラウスになる。
「いやぁ、お疲れ様オリヴィエちゃん。いいところまで行ったね。あと一手、足りてればどうにかなったんだけどねぇ。まぁ、馬鹿二人と同じノリで指示しちゃった僕のせいでもあるんだけどねぇ。ちょっと高望みしすぎちゃったかなあ」
「本当に申し訳ありません。負ける気は欠片もなかったのですが、一瞬だけ見た事もない魔法に驚いて躊躇してしまいまして……」
「いや、オリヴィエはそのシスコン馬鹿に頭を下げる必要はねーのよ。そのシスコン、本気でそう言っている訳じゃなくてオリヴィエのいじける姿を見て楽しんでるだけだから」
「性根が腐ってるなこのシスコンはあ!」
「おう、兄のくせして妹の扱いが雑なんだよテメェ。お前も兄であるなら兄の義務を果たせよおい。一緒に風呂入って、歯を磨いてあげて、服を用意してあげて、バランスの良い食事を用意して、ボディガードをして、授業の内容をメモして―――」
「要求が多すぎるんだよ!! というかシスコン超えて怖いよお前!」
兄として常識的な範疇での愛だ、とかティーダが笑顔で言ってくる。その顔面を迷う事無く殴りたいが、今の所はオリヴィエがいるので我慢しておく。ただでさえティーダの行き過ぎたシスコン精神がオリヴィエを追い込んでいるというのに、これ以上オリヴィエを追い込む必要はない様に感じる。まあ、これが何時ものノリなのだが。
「真面目な話、先程の勝負は勝てなくて個人的な話、物凄く申し訳ないのですけど……」
「ん? あぁ、アレはいいんだよ。今は一戦負けているけど二の一で次勝てば二の二、戦績が同じになるからね。それに今の所どの勝負も善戦しているからお客さんもショッププレイヤーの間に大きな質の違いはないと思っているはずだし。次を落としたら面子に関わるかもしれないけど、これで勝てればいいんだよ」
「なるほど……ならば今度こそ先程の汚名を返上する為に全力をもって戦います!」
ティーダがそうやって闘志を燃やすオリヴィエの姿を確認してニヤリ、と笑みを浮かべている。良くもまあそんな事が言えるものだと思う。元々今のタッグ戦は落とすつもりでティーダは戦っていたのだ。物凄い嫌がらせを込めていたとはいえ、最終的に負ける様に仕組んだのはティーダだ。たぶん、耳当たりの良い言葉を使ったのだろう。信じてるとか、上手く行くはずとか、ここはコンビネーションの見せどころとか、チームとして信じているとか。そうやって考えを誘導したのだろうと思っている。まあ、よくやる手段だとも思う。
ティーダは頭脳派ではあるが、そのスタイルは一般的な司令塔とは若干異なる。ティーダの特技は大きく分類して狙撃、状況を掻き回す事、そして嫌がらせだ。三馬鹿の中でのティーダは舵取り役であり、そしてブレインとしていつも提案やプランを提示していた。曰く、ティーダ自身は自分を”賢い”とは評価するが決して”天才”だとは言わない。その理由はティーダは相手が立てたプランや思考を正確に読み取れない事にある。ティーダが言うには心理学等をかじっていればある程度の人の考えの流れは読める。だがそこから相手が何を考えるかを当てるかなんてほぼ不可能に違いない。それが出来るのは天才ではなく変態だ、と。
だがそれとは別に、相手の嫌がる事なら物凄く良く解る。相手の気持ちになってやってみればそれは簡単に理解できる。
だから司令塔、そしてトリックスター。手段を選ばず、相手の一番に嫌な事を率先してやる。一番得意なのは狙撃等とか言っているが、現状それは妹の盗撮にしか振るわれていない。
―――ちなみに得意な戦法は捨て駒戦法、しかも自分を使うタイプだから馬鹿なんだよ。
結局三馬鹿はベクトルが違っているだけで、三人そろって大馬鹿である事に違いない。そんな事を思いつつスパゲティを食べる。自家製のバジリコソースだと聞いていたが、信じられないぐらいに美味しい。真面目にレストランでも開くべきなんではないかと思うが、
「あむあむ……成程、レシピ覚えました」
「オリヴィエちゃんのそれ、便利だなぁ。クッソ羨ましくなるわ」
……食べたらレシピ把握するのかぁ。
そんな事を呟いていると、視線が自分に集まっていることに気付いたオリヴィエが顔を赤くしながら手をぶんぶん、と横へ振る。
「あ、いえ、食べたらレシピ覚えたり色々解っちゃったり、このなんというか、昔から便利だなぁ、って程度に思ってたんですけどこれ。実は一つだけ致命的な弱点がありまして……まあ、話の流れから察しているかもしれませんが、なぜか料理をしようとするとレシピ通りに作れなくて……」
あはは、とオリヴィエが苦笑いを浮かべている。その姿に疑問を浮かべる。
「いや、オリヴィエちゃん覇王流でさえ初見でコピーしてるし料理してる所を見たら真似できるんじゃないの?」
「というか俺としては覇王流の奥義をあっさりとおぼえられたことに対してかなりショックを受けているんだが―――いや、まあ、俺も一回で全部覚えたけど」
「さりげなく自慢いれんじゃねぇよタコ」
テーブルの下、なるべく振動をテーブルへと伝えないようにしながら片足ずつ影での格闘技戦が始まる。テーブルの上でいかに表情を変えず、悟られないようにしながら互いを蹴りあう無駄に技術と根性が必要とされる全く無駄な戦いがクラウスとの間に勃発する。その間にも気づかないオリヴィエはえっとですね、と言葉を置く。
「実家の方も割と同じことを考えたようでして、私も気になったので料理の先生をお呼びして、そのやる事を全て覚えて実践しようとしたんですけど、なぜか実践の時となると体が動かなくなるといいますか……こう、覇王断空拳でしたよね? ああいうのは見たら覚えて、使おうとすると体が半自動的に動くような感じです。なので頭の中でやりたい事をイメージした途端にそれに体が答える、そういう感じで出来ているんですけど―――何故か料理にだけはそれが通じませんでして、一向に上手になりませんね……もう、本当才能に任せっぱなしというのが身に染みました……」
「ほほう、万能美少女グラップラー☆オリヴィエちゃんにも弱点があったか……」
「すいません、そのグラップラーきらりんぼしオリヴィエちゃんというのは勘弁してください」
ティーダが邪悪な笑顔を浮かべ始めるので、迷う事無く近くにあったコーラのペットボトルを開け、中身を少しコップの中に移し、その中に指の先に付ける。コーラが軽く指に付着した所で、垂れる前にそれをティーダの目の中へと弾いて入れる。次の瞬間、椅子から飛び降りてティーダが床を転がり始める。
「目がぁぁああ―――!! 目がぁぁぁあ!! 僕の目がぁ! 妹を見る為の目がぁぁあ! ティアナァ―――!」
「ティアナの名前が言えるなら平気だなコイツ」
「あぁ、間違いなくな」
「目がしゅわしゅわするうう!!」
両目を抑えながら転がるティーダの事はガン無視、クラウスとハイタッチを決めながら昼食を食べ続ける。どうだろうか、このランチセットは割とクオリティが高い。外で食べるとしたらそう……千三百円ぐらいはすると思う。そんな事でちょっと計算してみたり優越感に浸っていると、オリヴィエが割とオロオロしているのが見える。ただ、いい機会なので視線を向けないで言っておく。
「この先俺らとつるんでいるとこういう容赦のないネタの嵐や、特に意味もない暴力がクラウスを中心に襲い掛かって来るからな」
「まあ、俺とそこの阿呆には通じんから大半犠牲になるのはそこのオレンジ頭だけなのだがな。言っておくが俺はそこの阿呆とキモイのとは違って一切の遠慮はするつもりはないし、そもそもそういう配慮が出来る男ではない。そしてその阿呆共もこれからはそのつもりらしい。つまり今見ているような茶番劇も割と頻発するし、それに巻き込まれる可能性だって大いにある」
「だから、ま、俺達との付き合い方、もーちょい良く考えた方がいいぜ、オリヴィエ」
これだけ一緒に遊んでいれば解るだろうが、
「カリム含めて俺らにゃあたったの一人もまともな奴はいないぜ。俺らと一緒にいりゃあ飽きさせないのは間違いないけど、その代わりに人間として失っちゃいけないものが色々と失われて行く……そう―――常識とか?」
ティーダを見る。床を転がっていたティーダが漸く復帰してきた様子なので、そちらへと視線を向け、もう一度コーラスプラッシュを食らわせ、床で転がるティーダを見る。慣れると悲鳴も意外と楽しく聞こえてくるものなのだ。
「貴様、今邪悪な事を考えていなかったか」
俺達が邪悪じゃなかったらいったい何なのだ。どう考えたって正義の味方というよりはダークヒーローとか悪の大幹部、ラスボスというジャンルが俺たちにとってはあっている方向性だ―――事実ジェイルやグランツも自分のイベント用の作成カードに関してはそういう方向性で作るとか言っていたりする。そういう相談が出来たりする辺りがショッププレイヤーの特権かもしれない。
さて、どんなリアクションを返してくるもんか、と思いオリヴィエへと視線を向けると、そこには手を口に当て、小さく笑っているオリヴィエの姿があった。その姿を見られていることに気が付くと、オリヴィエは失礼、と言葉を置く。
「いえ、あまりにもおかしな話ですから。元々に多様な忠告をカリムに受けていまして、同じような事を言っているのを聞くと少し面白くて、ですね。それに仲良くしたりする気がなければ最初から友達になろうとは思いませんでしたよ。貴方達は私の人生で最も愉快な友人達であるという事を保証しますし、おそらくこれからもずっとそうです。今更さよならを言うつもりなんてありませんよ。どんな人でなしですか、私は。遠慮なんていりませんよ、私も貴方達の輪に入って笑いあいたいです」
そう言って微笑みをオリヴィエは向けてくる。そこから視線を外し、クラウスと視線を合わせ、そして頷く。
「無理じゃね」
「綺麗すぎるしな……」
「綺麗すぎて無理だって言われるの初めてで地味に傷つくんですけど……」
「我らと一緒に馬鹿をやりたいならもっと馬鹿になるか、もしくはもっとヨゴレ系になる必要がある。あぁ、勿論成績の事ではない。人としてだ。ちなみにニートの俺が昼間の時間を潰すために公園のブランコを使おうと散歩して貴様の妹を見つけたのだが、貴様の妹はいい感じに馬鹿の階段をバク転しながら飛び降りている。俺が見た時はジャングルジムに廃材や工具を使って要塞化を進めていたぞ」
「すみません、ちょっと理解したくないです」
「ちなみに俺は対抗して公園の木を素手で削って自分の姿のトロフィーを作ってたら警察に連行された」
「そりゃそうだ」
頷いてクラウスの言葉に納得し、何時になったら逮捕されるんだ、と言ってやる。真面目に悩み始める姿を見ると余罪が出てきそうな気配が非常に濃厚で、あまり踏み入れたくない話題になってきた気がする。既にアメリカにいる頃に三人で放火とかやらかしている経歴があるのでガチで考え始めると色々と思い出したくない事が蘇って来る。
「と、とりあえずオリヴィエはアレだな、もうちょいハメを外せるようにならなきゃ駄目だな! 最低限そうできなきゃ俺達とこの先付き合ってくのは無理だな!」
強引にそう言い切ると、オリヴィエが視線を向けてくる、
「具体的にはどんな感じですか?」
そうだなぁ、と口にし、
「最低限物理的なツッコミを入れられるような領域に入らないと俺達にはついてこれないだろうな……」
自分的にも今、若干調子に乗っているなあ、という感じはある。まあ、オリヴィエ弄りはそれなりに楽しいのでそれも良いかもしれないとか思い始めてるのが駄目なのだろうが。ただそんな事を言うと、オリヴィエが唾を飲み込みながらツッコミ、等と呟きながらクラウスの方へと視線を向ける―――どう足掻いてもツッコミされるはクラウスというのはもはやオリヴィエでさえ解り切ってしまう。
「ふ―――」
小さくクラウスは笑うと、椅子から立ち上がって両腕を組み、そして目を見開く。
「全力でこい―――!!」
「全力、行きます!」
オリヴィエが宣言してから―――拳を構え、力を一瞬で練り上げ、バネと技法をもって力を足から腕へと通し、それを拳に乗せて全身の威力をクラウスの心臓へと向けて叩きつける。
「覇王断空拳!!」
「もしかしてこの子天然さんッ!?」
クラウスが笑顔を浮かべながら自分の奥義を叩きつけられ、宙を舞い、そして錐もみしながら飛んで行く。見事な覇王断空拳であった。おそらくクラウス対シグナム戦の、心臓に叩き込んだ一撃必殺のそれだろう。アレは見た感じ相当な威力が乗っていたし完成度が高い、それを喰らったクラウスの痛みはあまり考えたくはない―――心の中で小さくざまぁ、と笑っておく。
「やりました! これで、資格ゲットですね……!」
拳を握って何か達成感を感じているオリヴィエの姿に若干癒されていると、声が響く。
「―――なにやってるのかしらこれは」
視線を部屋の入口の方へと向けると、四つん這いにさせたティーダを椅子代わりにする、一人の女の姿がそこにはあった。呻きながらも、若干震え、無言で椅子の役割に徹しているティーダの上、そこに座っているのは、
―――ラスボス系女子、カリム・グラシアの姿だった。
か、カリムだ……!(呂布感
今の所特に何をやったかも、どんなことをしたのとか一切の情報を出していないのに読者に一番恐れられるキャラクター。おそらく一番風評被害を受けているキャラ(
どうしてこうなってしまったんだ……!