イノセントDays   作:てんぞー

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完成の宴

「―――廃墟都市のデバッグも完了! これでステージのデバッグは完全に終了だ! 汎用モーション、トレーニングモード、デュエルモード、ミッションモードにストーリーモード! スキルカード関係も終了! 開発段階で出来る修正等は全部終わった! つまりは諸君―――これにてブレイブデュエルはバージョン1.0として完成したのだぁ―――!!」

 

「お疲れ様!」

 

「そしてかんぱぁ―――い!」

 

 かちん、とグラスをぶつける音が広い室内に響く。一斉に音が鳴り響くことで一瞬煩くも感じられたり、グラスの中身がこぼれたりもしたが、それをこの時気にする存在は一人としていなかった。誰もが歴史的瞬間を純粋に心の底から祝っていた―――それには勿論、自分も含まれている。少しだけこぼれてしまったワイングラスのふちについているワインを舐めとり、そしてワインに口を付ける。それから口を離して掲げ、

 

「いやぁめでたい!」

 

「めでたいねイストきゅん!」

 

「いえー」

 

 ジェイルと空いている手でハイタッチしてから肩を組む。既に乾杯をする前から共に飲んでいるので、テンションは高いと言うより半分ぐらい酔っているのは間違いない。そして酒をまだ飲んでいない組が白い目を向けているのは理解しているが、今のこのテンションなら特に気にする事じゃないというのは理解している。つまり酔っ払いとは最強。

 

「君達は割とテンション飛ばしてるね……」

 

 飲んではいるがまだ飲まれていないグランツが呆れの溜息を発しながらそんな事を言うが、チチチチ、と舌で音を鳴らしつつジェイルが人差し指を振る。

 

「いいかいグランツ。私たちが今日という日の為にどれだけ苦労してきたと思うんだ。毎朝毎晩ずっとソフトやハード、そしてこれから導入したいシステムを妻を無視してまで考えてたんだぞ! もはやブレイブデュエルこそ私達の本妻……! やべぇ、婚姻届用意しなきゃ! グランツ、私ブレイブデュエルと結婚するわ!」

 

「うん、誰か水持ってきて」

 

「もうすでに用意してます」

 

 バケツいっぱいに氷水が溜め込まれていた。ジェイルと組んでいた肩を解放し、バケツをジェイルの秘書的ポジションの長女、一架から受け取る。受け取る時に向けられたサムズアップに対してサムズアップを返しつつ、ジェイルを部屋の端っこへと連れてってからバケツをジェイルの頭からぶっかける。それを受けてジェイルがびしょ濡れになるが、

 

「目、覚めた?」

 

「覚めない! ちょっと着替えてくる」

 

 ジェイルがスキップ混じりに部屋から出て行く。本当にうれしそうなところを見る限り、おそらく今日はずっとあのテンションのまま突っ走るのだろうな、とどこか確信を抱く。今のやりとりで少しだけ酔いが覚めてしまったらしい、頭が動き出す。

 

「まあ、ジェイルの言いたい事は解らなくもないんだけどね。実際ブレイブデュエルの開発には文字通り魂を込めてやったしね。ほんと、協力してくれたみんなには感謝しても足りないところだよ」

 

「俺達はバイトでやってただけだしなあ?」

 

「ねえ? やっぱり一番の功労者は博士達ですよ」

 

 ティーダと口を揃えてそう言うと、グランツは恥ずかしそうな表情を浮かべて頭の後ろを掻く。その姿にグランツの妻と、そして二人の娘―――アミティエとキリエが向かうのを見て、グランツの相手は家族の方に任せておくべきだと判断し、視線をティーダの方へと向けようとし―――そこにいたのがティーダではなく、別の人物である事に気付く。

 

「おや、レヴィちゃんにシュテルちゃんじゃないか。ウチの相棒はどこ行ったんだ」

 

 ティーダがいた場所には二人の子供の姿があった。一人は茶髪、メガネをかけた少女。もう一人は珍しい水色のツインテールの少女だ。レヴィ・ラッセルとシュテル・スタークス。海外から日本に来ている留学生でありながら彼女たちもまた”天才”というジャンルに入る存在であり、現在はグランツ研究所を居としている。彼女たちのリーダー的存在にはもう一人、ディアーチェという少女が存在するが、彼女の姿もここにはない。

 

「あぁ、ティーダさんなら王と一緒に厨房の方へと向かいました。割と予想外のペースでツマミが消費されているとかで」

 

「主犯はお兄さんなんだけどね!」

 

「なんと」

 

 そう言えばテンションが高い内に食べまくっていた気がするが、そんなに食べてしまったものだろうか。振り返りながらテーブルの上を見ると確かにツマミが割と全滅気味の気がする。口に触れているとちょっとだけ、食べかすがあったのでそれを振り払い、そして少女達へと視線を向ける。

 

「犯人は厨房にいる」

 

「な、なんだって―――!」

 

「今、割とノリ任せですよね」

 

「まあな」

 

 楽しまないでどうするのだ、という感じが今はある。ブレイブデュエルをテスター、という形ではあるが手伝ってきた。ジェイル、そしてグランツがそれにどれだけの情熱を、そして苦労をかけてきたかを自分は良く知っている。まだロケテストを行ってはいないし、他にも細かい事は色々とある。だがそれを抜きにして、今は祝うべき時だと思っている。バージョンが1.0とはいえ、ブレイブデュエルは漸く完成を見せた。祝わずして何をするというのだ。

 

「ぬ、グラスが空っぽ」

 

「明日も講義に出席しなきゃいけないんですからほどほどにしておかないと明日、辛くなりますよ」

 

「ばっか! 俺は生まれも育ちもアメリカのド田舎だぞ! 酒なんか水の代わりに飲んでるような所から来てんだ、今更ボトル三本開けたぐらいで酔うかよ!」

 

「とか言いつつ前、お兄さんトイレにずっと籠ってたよね」

 

「……」

 

 レヴィに突き刺されるような言葉を言われ、空っぽになったグラスを眺める。そして思い出す、前回飲みすぎた時に晒してしまった醜態を。年上として失ってしまった尊厳を。白目で見つめてくる子供たちの視線を。ああいう経験はもうこりごりだ。少々飲むのを自重した方がいいのかもしれない―――数時間後には忘れているのだろうが。ともあれ、めでたい事はめでたいのだ。だったらアレコレ言わずに素直に楽しむのが一番、と言っても屁理屈ばかりの子供に通じる訳がない。シュテルやレヴィが天才であろうともまだ中身は子供である事実に変わりはないから、

 

「ここは大人らしく敗北を認めてあげよう……!」

 

「貴方のどこに大人という言葉が当てはまるのか小一時間ほど話し合ってみたいですが、そうすると私の圧倒的勝利に終わる事が約束されてイストさんがかわいそうなので何も追求せずにしておいてあげます」

 

「シュテるんは慈悲の心で溢れてるなぁ。てっきりシュテるんの事だからこれでお兄さんの心を徹底的に抉るのかと思った」

 

「いいえ、こういう時は大人しく引いてあげて貸しを作るものですよレヴィ。そうやって今度、何かを通したいときに盾に使って脅すのです」

 

「偶にお前らが本当に子供かどうかを疑いたくなるわ。もっとアミタちゃんやキリエちゃんの様に捻くれず育ってくれないかなぁ……」

 

「すみませんが淫乱ピンクはNGです」

 

「その言い方はやめなさい」

 

 シュテルの頭を片手で掴んで持ち上げ、いたくはない程度に軽く頭を握りしめる。シュテルがその中でもがき苦しんでいるがそれを無視してとりあえずシュテルを振り回す。その光景を直ぐ前で見ているレヴィが羨ましそうな視線を向けているが、そんなにアクションがお望みなのだろうかこのチビっ子は。であるならば、なるほど、それ以上の言葉は不要。

 

「うわ―――!」

 

「きゃ―――!」

 

 グラスを置き、もう片手でレヴィを振り回し、シュテルに対するホールドも掴む程度のものに変えると、それなりに楽しそうな悲鳴に変わる。チラリ、とこっちを見ているグランツの表情が間違いなくドン引きのそれだが、当人たちが楽しければそれでいいんじゃないか、と酒に軽く酔っている頭で思っていると、

 

 トレーの上に料理やツマミを乗せて運んでくる大小二つの姿が部屋にやって来る。

 

「ツマミの追加だぞ―――っとうおお!? レヴィとシュテル貴様ら何をやっておるのだ!?」

 

「キャッホゥ!」

 

「振り回されてるだけですよ王」

 

 グラデーションのかかった白髪の少女、ユーリ、レヴィ、そしてシュテルのリーダー的存在のディアーチェがティーダと共にやってきた。ディアーチェが光景にドン引きしている間にティーダは持ってきたものを置き終わり、そして此方へとやって来る。シュテルとレヴィを解放しながら意味もなくハイタッチを決め、さっそく運ばれて来たばかりのツマミに手を出す。

 

「僕はさ、常々思うんだけどさ。性格とか顔はまあ、いいんだよイストは。だからさ、もう少しその奇行をなんとかすればもっと出会いとか色々あるんじゃないかな」

 

「お前もイケメンで家事が出来て頭が良いのにデート中に”あ、妹にメールしなきゃ”とかって突然の奇行に出るから彼女の一つもできないんだよ。いい加減ティアナ離れしろよ」

 

「あぁ!?」

 

 ガチギレしたティーダが此方の襟首を掴んでくるが、こいつの沸点は一体どこにあるのか偶に見失う事がある。そんな様子をあきれた様子で見ているのは勿論三人の少女達だ。そんな姿を見られ、ティーダと共に咳払いをしながら姿を正す。それでも向けられるのは白い視線だ。それに対して少しだけ反省を覚え始めていると、部屋にまた一人、小さな姿が増える。

 

「あまりイジメすぎちゃ駄目ですよー。一応お二方にはグランツ研究所未来のスタッフになっていただく予定なんですから」

 

 そう言って入ってきたのはユーリ・エーベルヴァインだった。一番小さい末っ子の彼女はやって来るとめ、と指をディアーチェ達に、そして此方へと向けてくる。その姿に苦笑しつつ視線をティーダへと向けなおす。

 

「んで、お前の方はどうすんだよ。就職とかに関してもうそろそろ考え終わってる頃だろお前」

 

「僕? 前々から言ってるままだよ。元々日本には留学できているだけだしね。大学を卒業したら国の方に戻って就職するよ。確かに日本は好きだけどね……それでもやっぱり暮らすんだったら祖国の方がいいな、僕は。何よりアメリカにはティアナがいるし。イストは?」

 

「俺かぁ? いやぁ……爺さんが”大自然の声が聞こえた”とか言って山に消え去って、親父が”神の声が聞こえた”とか言ってヴァチカンの方に消え去ったから天と地を制覇した我が家的にそろそろ俺には海の声でも聞こえてくるんじゃないかと期待してたんだけど、そんなカオスな事もなかったしなぁ……テキトーに手に職つけて暮らそうかと思ったけど、割と本気でグランツ研究所で雑用やって生きてるのが一番楽しいのかもしれないなぁ」

 

「すまんが前半部分のせいで後半部分が全く聞こえなかったのだが。というかもっと詳しく聞かせて欲しい」

 

「はっはっはっはっは―――いや、まあ、ぶっちゃけイストさんはね、就職できてちょっといい暮らしさえできれば別にどこへ就職しようと拘りはないんだよね。さっき冗談で言ったと思ってるけどマジで爺さんは行方不明だし、親父はマジでヴァチカン行ったし、お袋もそれを追いかけてったからアメリカに帰っても家族がいないんだよね。いや、もしかして森の中で仙人の様に暮らしている爺さんがいるかもしれないけどそれはもはや暮らしているってレベルの話じゃないしなぁ」

 

「なるほど、お兄さんの奇行は遺伝子レベルだったんだね」

 

 笑って納得しておく。というより家族がアレで、自分も結構アレな部類というのは割と自覚している。もしかして彼女が出来ない理由はここにあるのかもしれない。もしくはがっつきすぎなところ。いや、アクションとしてはそこまで見せているつもりはない。

 

 と、思ったところで、いつの間にか帰ってきたジェイルが横から肩を組んでくる。

 

「いやいや、ここに就職するなら私もグランツも大歓迎だよ? 実際当初はエネミーやアシスト用の汎用モーションはプロフェッショナルのモーションアクターや軍人とかを雇ってデータを溜める予定だったからね。それがたった一人で全部のモーションをやってのけちゃうんだからコスト的にも大助かり。しかもバイトだから本職ほどお金を払わないで済む! いやぁ、いい拾い物をしたものだよ」

 

「スカっち子供の前でお金の話はやめような! な! 超大事だけど! あ、あとでお給料に関してちょっと話そう」

 

「君も結局は食いついているじゃないか」

 

 ティーダのジト目に晒されながらもジェイルと肩を組み直す。

 

「まあまあ、給料の事は置いておくとして―――これからはロケテストの先を募集したり交渉したり、そういう事でもっと君達の様なスタッフに頼るようなことになるから、宜しく頼むよ、っとと」

 

 とジェイルはそこまで言ってから背の低い少女達の方へと視線を向ける。

 

「勿論君達にも私は頼るからね! 超頼るからね! 何せ私よりも運動とコミュ能力あるからね! 年下とか関係なく使わなくちゃ!」

 

「酒で酔っているとはいえ、さすがの屑っぷりですスカリエッティ博士―――燃やしましょう」

 

「僕さんせー!」

 

「……」

 

「いや、真顔でユーリも迷うような仕草はやめんか。というかシュテル貴様もマッチを探すのをやめい! あぁ、貴様らも笑ってみてないだけで止めるのを手伝わんか!?」

 

 ディアーチェのあたふたする姿に笑いつつ、食べ、飲み、そして時間を過ごす。

 

 間違いなく、ブレイブデュエルのロケテストは成功すると、その未来を違う事無く確信しながら、

 

 パーティーの夜は更けて行く。




 マテ娘共、性格は大分マテリバ寄り。そして出番がカットされたアミタとキリエは犠牲になったのだ……キャラ把握のな。おそらく近いうちにちゃんと喋る。

 バトルはロケテが始まればおそらく。マテリバとはちょい変わってますよ。

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