昼食が終了しえ再びステージの時間となると、ステージに全員が集合する。まずは八神堂のメンバーが―――それにヴィータの姿が加わっていた。そのヴィータの背後ではやては仁王立ちしながら腕を組み、笑っていた。
「はーっはっはっはっは! 残念やけど実は今日はヴィータは半ドンやねんで! シグナムに匹敵する八神堂のエースヴィータを追加したヴォルケンリッター四人組でうちらは勝負や―――」
はやての言葉はステージに揃った此方の姿を見て固まる。ステージの上に立つのはまず俺、イスト・バサラとなる。その後ろに続くようにオリヴィエが遠慮がちに、そしてその後ろから両目を包帯で隠したティーダが―――そして最後に犬の用の首をはめられたクラウスをリードでひっぱるカリムがステージの上に到着する。その光景にはやてが一瞬で白目になり、それと同時にティーダが見えない為階段に足を引っ掛けてステージから落ちる。その姿を見て、クラウスが腕を組み、引っ張られながら言う。
「情けない奴め、この面汚しが……!」
「お前が言うんかい! というかなんやこの光景! どこからツッコめばええねん! 明らかにおかしすぎやろ! 質問したいのに質問するところ多すぎて質問出来んわ! なんやこれ! なんや、これぇ! 誰や! なんでや! なんなんやこれぇ!」
「あ、主、落ち着いてください! ツッコミどころが多すぎる事は認めますが少し落ち着いてください! いえ、どうやって落ち着けばいいか私も解らないのですけど!」
「アインスもはやても落ち着け……まず、その飼い主はチーム最後のメンバーである事に間違いはないが……まさかヴィータの様に後出しをしてくるとはな」
ぶっちゃけた話、それを把握していたのはティーダぐらいだろう。というかおそらくティーダとカリムが組んでそう言う話へと持って行ったのだ。多分だが、味方にさえ知らせないのはティーダの判断だったと思う。なぜなら俺に教えればクラウスへと伝わる。そしてクラウスに隠す、等と言う概念は一切存在しない。だから黙っておく方が遥かに安全で効率的だ。まあ、ティーダは”最終的に勝てばなんでも良い”という精神の体現者なのだ。クラウスの様に”スタイルを貫くことを追及する”のとはまた違うスタンスだ。
と、そこでカリムが両手を揃え、そして軽く頭を下げる。その動作にリードが引っ張られ、クラウスがよろける。
「どうも、始めまして。おそらく知らない方が多数でしょう。なので名乗らせていただきますと、そこでステージから落ちて死んでいる馬鹿と、キチガイの様に気持ちの悪い赤毛の馬鹿と同じ大学に通っている、このチームの一員でカリム・グラシアと申します」
「明らかに前半部分の説明いらなかったよな。というか間接的なダメージを味方に叩き込んでるからカリム自重しようぜ」
オリヴィエの方へと視線を向けると、カリムの本性に白目になりつつあるオリヴィエの姿があった。またRZSの時みたいに意識が遠退きそうなので、軽くオリヴィエの両頬を抑えて頭を振る事で目を覚まさせる。
ステージから落ちたティーダは動かない。打ちどころでも悪かったのだろうか。このまま永遠に動かなさそうな気配までしているが、ティアナが来たら一発で蘇りそうなのもまたティーダらしいと思う。ともあれ、視線をステージから落ちた死体から外し、そして軽く体を捻ったりし、調子を確かめる。昼飯を食べて体力と腹の調子は整えた。そのうえで軽く体を動かして運動もしてきた。
「さて、俺達は死体を抜いた四人で勝負だ。そっちはヴォルケンリッターでいいんだな? いいんだなぁ!?」
「なんでビビってるような言い方やねん。しかも既に死体扱い……ティーダ、不憫な子……! せやけどええで! こっちもヴィータをこっそり合流させたし、お互い似た様な事をやってイーブンや! これで最終戦! 次も勝たせてもらうで、なんせ二勝中やからなぁ!」
その言葉に答えようとすると、先にカリムが小さく笑い、離そうとすることを遮られる。
「あぁ、すみません―――まさか勝てる、なんて夢見ているとは少々面白くて」
「あの、イストさん? カリムが見た事がない位好戦的なんですけど」
「さんはいらない。あと多分カリムがそうな理由って生まれかもしくは生理じゃねぇの」
二本の指が目に突き刺さる。
「目がぁぁああああ!!」
「天丼はいかんぞイスト、それは既にティーダがやっている」
両目を抑えながらもクラウスの声がする方向へ蹴りを叩き込む。足の先から感じる硬い肉の感触がクラウスにヒットしたことを伝えてくれる。その一回であきらめることなく、二度も三度もクラウスの体へキックを叩き込んで行く。
「地味に爪を立てていていてぇんだよ!」
「時間が経過する度にどうしようもなく混沌として行くぞはやて」
「少し強引にでもこれ、シミュレーターの中につっこまな話が進まないで……!」
◆
「さて、茶番はここまでですわね」
「アレ、本気にしか見えなかったんですけど茶番でしたんだ……」
はやてに押し切られる形でシミュレーターに入り、その先のミッドチルダステージ、ビルの中の一室でチームごと召還される。そこにはまだ私服姿の自分と、クラウスと、オリヴィエ、そしてカリムがいる。カリムが言った通り、ステージの上での行動はパフォーマンスを兼ねた茶番になっている。何よりもカリムのキャラクター性を掴ませないためのもの、らしいがアレぶっちゃけ本性じゃないかと個人的には疑っている。ともあれ、そういう事もあって必要以上にカリムが喋る事はなかった―――この面子の中で一番ブレイブデュエルをやっていないのはカリムであり、ほぼ誰にとっても未知数な存在だから、なるべく手札は隠せる方が良い。
「さて、で、作戦はどうすんだよボス」
そうカリムへと問いかけると、カリムは笑顔のまま答えてくる。
「作戦なんてありませんよ」
「―――え」
「なるほど、面倒がなくて俺はそれに賛成だな」
オリヴィエがカリムの発言に固まっている間に、クラウスが頷きながら同意し、リライズアップを行う。一瞬だけ光に包まれたクラウスは、次の瞬間見慣れた白と緑のバリアジャケット姿へと姿を変える。それを追う様に、此方もリライズアップを行う―――今度使用するキャラクターカードはアインス戦の時の様なデバイスをとっかえひっかえするタイプではなく、ひたすら格闘戦に特化したタイプのカードだ。ASもBSも完全にそれに適している。光が一瞬だけ体を囲み、次の瞬間にはバリアジャケット姿―――そして両腕が義手に変化する。デバイス、ではなく両腕そのものが機械となっている。汎用オブジェクトの鏡を取り出して自分の姿を確認してみれば、いつもの自分よりも少し老けて見える。目も髪に隠される様に片目だけが開いている状態となり、
「年齢すらも変えるタイプのカードも問題なく稼働、っと。オールド・イストさん登場」
「オールドと言うよりはミドルという感じだがな。ふむ、面白いな。俺もそういう年齢変更型のカードを使って少し年を取った自分の姿というのを見て見たいな」
「これ、子供から大人とかは無理らしいけどね、グランツ博士の心情的な問題で。その代わりに俺らみたいな育ち切ったやつが老ける程度だったら問題がないらしいけど」
個人的にはティーダやクラウスが歳を取った場合の姿と言うのが非常にそそられる。自分の姿を見る感じ、落ち着きのあるミドル、という感じの姿になっている。そんな感じのクラウスやティーダを果たしてリアルで見る時は来るのだろうかと思いつつも、その答え合わせを将来にやるのは悪くないと思う。
「えっと、なんか自分だけ解っていない様で少し悔しい感じがします……」
オリヴィエがそう言って何時ものバリアジャケット姿へとリライズアップすると、それに続くようにカリムがリライズアップを完了させ、そしてそう難しくない話である、とオリヴィエに告げる。
「簡単な話、基本的なスペックでは全体的に勝ってるんですよ、私達。問題なのは戦術と戦略。一試合目のクラウスの敗北はスキルへの知識の少なさ。二試合目の接戦はイストが遊んだことに。三試合目の敗北はティーダが自殺したこととオリヴィエに躊躇があったことが問題でした。逆に言えばそれ以外の点を抜けば全体的にハイスペックなんですよ、貴方達は。特にクラウスとイストはリアルの方で喧嘩しなれているから、ブレイブデュエルへの経験のフィードバックが早くて誰も手が出せない独占状態ね。だから私たちの最高の戦術を教えます」
それは、
「―――ゴリ押し……!」
これ以上なく、ボスキャラにふさわしい戦法だった。ゴリ押し。そう、ゴリ押し。古来からボスキャラとはクソの様に高い性能にクソの様に高い性能のスキルをクソの用に連打して来る生き物だ。それを戦術と戦略で乗り越えるのがプレイヤー、勇者サイド。なのでどこからどう見てもラスボスとその配下という風にしか見えない此方サイドは、ゴリ押しで行くべきというか、ゴリ押しが一番強い。
なぜなら、
―――現状のブレイブデュエルでイスト・バサラ、クラウス・イングヴァルトを超えるインファイターは存在しない。
そしてそれを完全な形で覚え、トレースできるオリヴィエは短時間であれば勢いに任せて経験を誤魔化せる為、一時的に同じレベルに立てる。故に懐に入って、殴り始めれば誰も自分達三人を止める事は出来ない。ザフィーラでさえ所詮は”犬”なのだ。武術、武道、そして実際に殴り合った経験が圧倒的に違う。だから一番強いのは戦術に頼った連携ではなく、
ゴリ押しによる個人制圧。
ブレイブデュエルのプレイヤーがまだ発展、成長しきっていない今だからこそできる無双の戦術、だからこその禁じ手。ショーにならないって解っているから絶対にやらなかった一手。ティーダでさえ観客の事を考えて指示しなかったことを、あっさりとカリムは遠慮する事無くやると宣言していた。ここら辺、カリムがラスボスと呼べる所以である。
事情とか知ったことではない。
そういう所だ。
それを解りやすくオリヴィエへと伝え、説明すると、案の定オリヴィエがドン引きの表情をカリムへと向け、
「私なんだか今日一日で新しい世界をたくさん見つけているような気がします……」
「ウェルカム……! ウェルカムッ……! ようこそ新たな世界へッ! ウェルカムッ……! 歓迎ッ! 俺達は歓迎するッ……! 美女なら余計に歓迎するッ……! つまりオリヴィエなら大歓迎―――あ、すいません、カリムさんも一応含めておきますので無言の視線で殺しに来るの止めてください」
カリムの視線に最後は黙りながら、クラウスの横に並んで腕を組んで待つ。その姿を見てカリムが口を開く。
「―――そもそもです、恥ずかしくはないんですか?」
その言葉にクラウスがピクリ、とリアクションを見せ、カリムが笑みを深める。
「えぇ、同じぐらいの実力者だったらまだいいでしょう。だけどどうなんですか? クラウス・イングヴァルト、貴方は生まれてからずっと武だけの人生をささげてきたのに、スポーツチャンバラ如きに負けたのですよ。えぇ、知識が無かったらとか言い訳はどうとでも言えます。ですが、貴方は心の底から恥ずかしくなかったと言えますか? ただのシステム如きに自分の人生の全てを否定されたことに憤りはないんですか? ”あの程度”で満足できてしまうんですか? ―――その程度だったんですか、貴方の満足は。随分と安い友情のようでしたね」
「―――」
カリムの安い挑発にクラウスが笑みを浮かべる。かなり安い、解りやすい挑発だ。煽っているとも言える。が―――思わない事はないのだ。それをカリムは刺激している。何故なら、誰にだってプライドはあるのだから。
「貴方もですよ、イスト。あの程度を本気、だなんて言い切るつもりはないですよね」
「ハハ」
「オリヴィエは……言う必要ないですね。特にいう事もありませんし」
「あ、あの、ちょっとだけ期待してたんですけど! 怖かったけどちょっと期待してたんですけど!」
オリヴィエの事を無視してカリムがいいですか、と言葉を置く。
「公式的なデビュー戦はこれが最初になります―――そして私は大勝以前に蹂躙での勝利しか認めません。良い勝負ができる等と思っている連中に本当の暴力というものを教えてやりなさい」
その言葉にクラウスと共に頷く。
そこまで言われてしまったら、本気を出さない訳がない。―――何かあったらカリムのせいにするとして、間違いなく百パーセント中の百パーセントで勝負する事を決意する。
「ふふふ、ハハハ―――ハーッハッハッハッハ……!」
「これ、どう見ても悪役ですよね……」
「悪役で結構!!」
「俺達ワルだしな!」
クラウスと揃えて笑い声を上げ、響かせる―――エキシビジョンでまさかの接待完全ゼロの勝負が始まる。
カリム、接待/zero宣言。炎にニトロを投げ込まれた男ども、接待の意味を忘れる。
大天使、親友の本性に白目。BD起動から時間経過がそんなにないので、必然的にリアルで強い奴が強い現状。稼働二か月、三か月となれば話は別だけど最初の一ヶ月は……。