イノセントDays   作:てんぞー

25 / 59
将来への不安

「これは超唐突な話なんだが」

 

「おう」

 

「―――俺、デートすることが決まったんだ……」

 

「王!」

 

「うむ、囲め。そして拷問の準備を始めるのだ。勿論一番苦痛に叫びを上げる方法でな」

 

「スタンガン持ってきたよ!」

 

「釘と縄も用意しました!」

 

「やあ、ここに丁度ハンティングライセンスと猟銃とアフリカゾウさえも一発で眠らせる麻酔弾を所持するマッドサイエンティストがいるよ! 楽しそうだからとりあえず誤射させて!!」

 

「貴様ら反応早いな」

 

 昼下がりのグランツ研究所。客が少ない時間、働く必要がない為、適当な椅子に座って休憩していると、自然と最近の話になった。特別脅かそうとも自慢をしようともしている訳ではないが、それでもなんとなく話したくなった気分だったので、話題に出した。その瞬間、幼女共と白衣のキチガイが群がってきた。最近ブレイブデュエルをさせることに成功したチビっ子三人娘も此方をしきりにチラチラとみている。こちらを見ないでさっさとブレイブデュエルで遊んでろ、とは思う。

 

「で」

 

 と、シュテルが釘を片手に握り、先端を此方へと向けて言う。

 

「私からダーリンを奪う泥棒猫はどこの誰ですか」

 

「まず最初に言うと俺オメェのダーリンじゃねーからな。最低でも十八、十九超えないと異性としてカウントしねーからな、俺は」

 

「くっ……!」

 

 シュテルが床に膝をつき、叩きながら悔しそうな声を漏らすが、この幼女は一体何を言っているのだろうか。そしてそのフォローに入るダークマテリアルズの面々もそれはそれで充分頭がおかしい。とりあえず後でこいつらの相手をするとして、目下の問題は猟銃を既に握って此方へと誤射する気満々のジェイルの存在だ。とりあえずジェイルの事だ、誤射をすると言ったら絶対にする。この男は”本当”の意味でのキチガイだ。シュテルやヴィヴィオの様な見せかけ、遊びでのキチガイごっこではなく、本当に頭からのキチガイだ。やると言ったらやる。だからとりあえずジェイルの場合、勢いを殺す事からが重要だ。

 

「誤射っても犯罪は犯罪ですよ」

 

「それもそうだね!」

 

 ジェイルが猟銃を投げ捨てると、それを小さなロボット達がキャッチし、回収し、そのまま持ち去って行く。本当にグランツ研究所で使用されているテクノロジーが怪しくなってくる。毎日少しずつだが、全く新しい技術が生まれているのではないと錯覚するが―――ジェイルとグランツのコンビで開発できないものはこの世には存在しない様にすら思える。そう考えると本当に何でもやらかしそうで、二人の天才は別の意味で怖い。

 

「で、唐突にデートをするって自慢が入って夢のある少女たちを確殺したのはいいとして、急にどうしたんだい。日ごろから年下の子供ばかりにモテているのはいいけど、同年代や好きなタイプからばかりは全くアピールを貰えない君としては実に珍しい事じゃないか。あ、いや、言う必要はない! 解ったぞ! 麻薬だな!?」

 

「俺、クスリにだけは手を出さないって決めてるんだよ―――容赦なく友達には突き刺したけど。人間、気合で薬物乗り越えられるもんなんだなあ……ってそうじゃねぇ。アレだよ。このイスト様にもついに春がやってきたんだよ―――いや、ハルにゃんオメェじゃねぇよ。そこで反応して出てくるんじゃねぇよ。ついでという感じにヴィヴィオも逆立ちして近づいてくるのやめろ、貴様に恥じらいはないのか。一人だけちゃんと大人しくしているジークを見習って―――」

 

 ―――ジークは立ったまま寝ているだけだった。

 

「うぉっほん、つまりだなぁ……今まで妙にロリにばっかり人気のあったイストさんだけど、ついに同年代の女子からもお誘いが来る様になったのだよ。なんというか……んー、モテ期? そんな感じのもんがイストさんにやってきたというか? まあ、ついに今までのキチガイ達に囲まれてきた生活が報われるというか……いやあ……ほんと……漸くだよ……左も右も地雷か厄ネタ……まともな女子はいねぇ……やってきたらロリ……もしくは厄ネタの気配がする……あぁ……そうなんだ、漸くなんだよなあ……」

 

「そんな我が友人イスト君に素敵な事を教えよう! 私の様なマッドサイエンティストでも! キチガイでも結婚して娘がいっぱいいるんだよ!! 君なら割と問題なく家庭作れるんじゃないかなぁ。いやあ、割とマジで。今までは星のめぐりが悪かったってだけでさ……」

 

「あの、急にガチ顔で慰め始めるのやめません? 傷つくんだけど!?」

 

 ジェイルの同情する様な視線が何よりも胸に突き刺さった。それに何よりも精神的ダメージを喰らっていると、両足に引っ付き、そして両腕にしがみついてくる存在が見える。―――勿論、ダークマテリアルズの四人組だ。そのまま立ち上がり、両足にしがみついたユーリとレヴィ、そして両手のシュテルとディアーチェをひっぱりまわすが、四人が剥がれる様子はない。それどころかさっきまで観戦していたヴィヴィオが走って合流し、背中にとびかかって引っ付いてくる。

 

「く、クソ、このチビっ子共め……えぇい、離れろ!」

 

「吐け! 吐くんだ! 誰だ、誰とデートをするのかを吐け!」

 

「吐きなさーい! 情報を今すぐ吐きなさーい!」

 

「吐かないとあることないこと博士に言ってお給料カットしてもらうよ!」

 

「レヴィだけ手段が妙に具体的で悪質だな……!」

 

 何気にマテリアルズの中で一番のガチ思考がレヴィだと思って、評価している。

 

 そんな事を思いつつ、そろそろ体に張り付いた幼女たちを引きはがそうと、協力を求めてジェイルへ視線を向ける。が、ジェイルは無言で此方へとカメラを向けて写真を撮っていた。役に立たない腐れパープルと罵倒しておきながら、助けを求めて視線を今度は店内へと向けるが、そこにはどう見てもスマホに書き込みを行っているプレイヤー達の姿しかない。今度そいつらのブログを絶対に炎上させてやると心に近い、最後の砦であるアインハルトへと視線を向けると、アインハルトが笑顔を向けてくる。

 

「私も気になるので……」

 

「神は死んだ」

 

 一番援護が来そうなアインハルトまでチビっ子たちに陥落されていた。これは本格的に味方がいないなぁ、と思っていると、そこらへんのプレイヤーがサムズアップを向けてきている。何ニヤニヤしてんだぶっ飛ばすぞ、と殺意を込めて睨む度、そのまま白目をむいて気絶し始める。器用なやつめ、後でスレで晒してやる。そんな事を思っていると、体にしがみつくチビ達からの圧力が増してくる。割とネタが混じっているが、それなりに知りたがっているのは真実らしい。話題に出し始めたのは間違いなく自分なので、これ、最後まで言っちゃっていいのだろうかちょっと悩む。ぶっちゃけた話、煽るだけ煽っていいのだが、ここで向こう側に被害が出るかもしれないからだ。

 

「オラ、早く吐けよ。もしかして姉だったらこのヴィヴィオ・ゼーゲブレヒト、未来の為に姉という人種を抹消せぬばならん」

 

「お前キャラが変わってるぞ」

 

「キャラとかよりも奪われる危機にあるヴィヴィオちゃん的には敵を排除したいのです。だから誰とデートするのかはよ。姉であった場合マジにゼーゲブレヒト家が赤く染まるから覚悟をしなきゃいけないから。たとえ実の姉でさえゼーゲブレヒトには容赦できないのだ」

 

 背中から回り込んで顔を見せてくるヴィヴィオがマジ顔でそんな事を言う。その眼を見ると、それがジェイルと同種の目である事が発覚。身近にも物凄い真正がいたらしい。周りの子供たちの将来が不安になるな、等と思いつつ一人ずつ体から引きはがしてゆく。意外としがみつく強さが強いが、それでも大人に敵うほど強い訳ではない。一人一人片手で持ち上げて、引きはがしてゆく―――が、直ぐに戻ってしがみつく。軽く逆ギレゲージが体の中で上昇を始めるが、それを握りつぶしながら溜息を吐いて、普通のプレイヤーがいるエリアからずるずると引きずりつつ移動する。

 

 身内になら構わないが、流石に関係のない奴にまで聞かれることはない。ガッカリオーラを漏らしている連中の事はガン無視で、スタッフエリアまで引きずり、一人一人ゆっくりと剥がす。今度はちゃんと言うつもりであるのを察しているのか、子供たちが剥がれたら前に並んで立つ。お前ら本気出しすぎだろうとは思うが、

 

「俺自身はどっちかと言うと子供が苦手なんだけど、なんでこんなに懐かれてるんだ」

 

「その答えは簡単だよ」

 

 追いかけてくる様にスタッフルームに入ってきたスカリエッティが答える。

 

「子供は苦手だというくせに君はそれを一切表情に見せないし。それに付き合いがいいから小さな子とでも遊んであげるし、テンションを合わせられるし。それでいて何か問題があったらそれを解決するまで手伝うタイプだろう、君は。そこまで付き合いが良くて面倒見の良いお兄さんだったら普通に懐くわ。君、ほとんどの場合でめんどくさがらずに最後まで付き合うのがいけないんだよ。適当に袖にしておけばよいのに―――あ、私が家で扱いが軽いのはそう言う理由なのか……!?」

 

「寧ろスカっちの場合構いすぎてウザイ方だよね」

 

「一架さんがスカリエッティさんちょっとしつこいって言ってたよね」

 

「ん?我は二乃が煩いって言ってたのは知っているぞ」

 

「そう言えば三月さんが邪魔だって言ってましたね」

 

 子供たちに残酷すぎる現実を突き付けられたジェイルが無言のまま倒れる。その姿が思ったよりもあまりにも哀れで、しばらく無言で倒れたジェイルのその無残な姿を見る事しかできなかった。誰もが合掌してジェイルの冥福を祈る中で、それで、とシュテルが言う。

 

「いい加減に言ってくださいよ、これで身内の誰かが抜け駆けしているんだったら容赦なく殺しに行かなくてはならないんですから。ライバルは物理的に少ない方が楽なんですから」

 

「お前らの愛は子供のくせして本当に重いなぁ! 将来の為にも言っておくけどお前らもうちょい参考というか見本にする人間は選んでおけよ? それで苦労するのは周りじゃなくて自分自身になって来るから。んで相手だけど……アインスだよアインス。八神堂の。デートっつーか、ちょっと一緒に遊ぼうって誘われてたんだよ。オラ、ちょっと見栄はってたわ!」

 

「どーみてもデートじゃないですかヤダァー!」

 

「しかも一番ダイレクトアタックしづらい相手……!」

 

「でも風評操作はできるよね」

 

「やめーや」

 

 偶にレヴィが笑顔でぼそっと零す言葉が怖い。本当に偶にだが。その言葉が一体どこから来るのだろうかは、実に悩むところだ。ともあれ、レヴィが偶にシュテル達を超える狂気の発想に至るのを一人の大人として何時かはどうにかしなくてはならない。というかいい加減子供の相手から卒業できるのは何時だろうか。

 

「はいはーい、この話終わり終わり。お兄さんにもプライベートがあるという事ですよー」

 

「年の差は愛で乗り越えられる」

 

「おう、間に入るであろう議論を抜いて答えだけ先に言うなよ。そういうのすげーリアクション取りにくいんだよ」

 

「とか言いつつしっかりリアクションをお兄さん取るよね。毎回そうやって付き合いの良さを証明しているからみんな調子に乗って集まって来るんだよ。お兄さんってネタを振られたら毎回ちゃんとリアクションを取るじゃないか。なんというか……凄い律儀というか……」

 

「あの、幼女のくせして冷静に分析するの止めません?」

 

 幼女にプロファイリング出来てしまう人生だと思ってしまうと生きてるのが物凄い惨めになって来る。このまま山でも天でも海でもいいので、新たな世界を開いて飛び出したい気分だ。もしかして爺や親父も家を飛び出したときはこんな気分だったのだろうか。

 

「しかし、絶壁姉じゃあくて良かった。これで姉を殺す必要がなくなった……」

 

「マジ顔でそう言うのはやめなさい。めっ、だぞ。めっ」

 

 ぺしぺし、とヴィヴィオの頭を叩くと、なぜか嬉しそうな表情をする。最近の子供の育ち方は本当に良く解らない―――と思ったが、自分やティーダの少年時代はもっとバイオレントだったのでこれぐらいはまだ許容の範囲内ではないか、とは思ってしまう所がある。ともあれ、遊びという名のデートだ。

 

 デートなのだ。

 

 我が世の春が来た。

 

 非ヨゴレ系、美女、巨乳、と理想を体現したような相手とデートだ。これはもう盛り上がらない事はないだろう。

 

 しかし、

 

 何故だろう、何故か嫌な予感しかしないのは何故なんだろうか。いや、そんな事はない。ない筈なのだ。

 

 明るい未来がきっと、待っているのだ。

 

 今はそう信じる事しかできなかった。




 個人的な感想だけど、厄ネタも地雷もなしでヒロインとか笑わせるわ。ヒロインを名乗るんだったら最低限二つか三つ厄ネタか地雷を搭載しないと認められない。というわけでヒロインには地雷設置済み。良く訓練された皆なら直ぐに見つけて踏みつけてくれるよね。

 しかしもはや何時もの、でロリに関しては通じそう

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。