イノセントDays   作:てんぞー

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ばったりと

 そのあとアインスと一緒に一時間ほど商店街で時間を潰す。予想外に商店街でのウィンドウショッピングが楽しかった―――ティーダやクラウス達とウィンドウショッピングしようものなら間違いなくネタに突っ走っている所なのだが、そんな事をせずに和気藹々とした空気を保っていられるのだから、デートとは凄いと思う。そんな事を話しながら映画館へと向かう途中で、先、進路の話などをし始める。

 

「―――私はね、建築家になりたいんだ。いや、正確にはデザイナーなのかな? だから大学もその専門学校に通ってるんだけどね、自分で何かを作って、それを提供して、それで誰かの笑顔を作れたらな……と思えたらちょっとだけ、幸せな気分になれるんだ。ただこちら関係はお金がそれなりに必要になって来るし、その世界に入っても絶対に成功するって訳じゃないんだ。だから既に家にお金を入れているシグナムやシャマルと比べて、私も八神家の年長者なのに、って思ってしまう事があるんだ」

 

「それはそれ、これはこれ、ってならないのか? そもそも失敗する気なんて全くないんだろ」

 

「それは勿論」

 

「だったら夢なんてそんなもんでいいんだよ。俺なんか大学に進学する、って決めてもそん時は特に明確な将来、どんな職に就きたい、何がやりたい、とかまったくないんだぜ? それと比べたらアインスなんて凄い良くできてるさ。まあ、爺さんの言葉だけど”下をみりゃあキリがねぇ。けど上を見てもキリはねぇ”って所だよ。我が爺さんながら上手い事言ってると思ってるわ。上を見ても下を見てもきりがねぇし……まあ、俺が大学へ進学することを決めたのはやりたい事を見つける為が大半だったからなぁ……」

 

「イストはやりたい事を見つけられた?」

 

 そうだなぁ、と組んでいる腕からアインスの体温を感じつつ答える。

 

「どうだろうなぁ……ブレイブデュエルのテスターを始めて、モーションデータの協力をして、開発にちょこーっとだけ名前がのる感じ手伝ったんだけどさ。結局は流されてるだけかもしんねぇなぁ。卒業したらスカっちとグランツ所長がな? そのままグランツ研究所で雇ってくれるって言ってくれるんだわ。だけどそれって明確にやりたい! って気持ちから選んだわけじゃないしさ、なんっつーか……」

 

 そう、言葉にしてみるとあれだ。

 

「惰性で続けてるようなもんだ。β版を作ったり手伝ったりしたから、そのままの流れで本スタッフに、って感じに流れてるんだ。ただ否定する理由も一つもない。だから別にこのまま流れるのも悪くはない、って感じだな。ぶっちゃけ主体性がないってか。んー……」

 

 言葉にし辛い。が、それをアインスはちゃんと汲んでくれたらしく、成程、と言って頷く。そして小さくだが、苦笑する様に軽い笑い声を零し、此方へと視線を向ける。

 

「私自身は君がそこまで悩む必要はないと思っているけどね」

 

「そうか?」

 

「君はそう言っているけど、そんな君のおかげで道を見つけられている人達がいるんでしょ? 自分からすればそれはいい加減で流されているだけなのかもしれない。それでも君はちゃんと、他の人にあるべき道を示せてるんだ。だったら心配する必要はないよ。誰か他人の為にできたように、君自身の為に道を示せるはずだよ」

 

 

                           ◆

 

 

「あ、ヴィヴィオ達ががなんか倒れちゃいましたけど……というか皆胸を苦しそうに抑えて倒れているんですけど!? あ、埃が舞っちゃうからバタバタしちゃダメですよ」

 

「ふふふ……流石清純派のオリヴィエ君、この程度のヒロイン力ではダメージを受けないか! だけど見るがよい、すっかりヨゴレ系として定着してしまった彼女たちを、それを自覚している彼女たちを! あのまぶしい笑顔と言葉は何よりもの凶器だ! まあ、我がワイフが天使系だから私には通じないけどね! 既婚じゃなきゃ即死だった……!」

 

「いやいや、意味が解りませんよ!? あんな風に誰かを肯定できるのって素敵な事じゃないですか―――ってなんで苦しみ始めるんですか。ヴィヴィオも流れ弾ってなんですか流れ弾って。あー、なんとなくですがノリが解ってきたのがちょっとだけ嫌ですねこれ……」

 

 

                           ◆

 

 

 商店街の端には少々古いが、映画館がある。デートの定番と言えば映画館でラブロマンス映画を見る事―――というイメージがあるが、別段見るのはロマンス以外でもいいのだ。そもそもロマンス映画を見るガラではないし、アインスにも予め相談した結果、ロマンス映画を見るよりもアクションを見た方が楽しい、という意見に行きついている。こういう確認は何気に楽しく時間を過ごすためには重要だったりするのだが、

 

 映画館前に到着した所で、予想外の人物達が映画館前にいるのを見つける。お互いを見つけるのと同時に、声が漏れる。

 

「お」

 

「あ」

 

 映画館前にいる集団で一番目立つのは背の高い、ジェイル・スカリエッティと同じ紫色の髪をした女性と、初老に入ったのか、髪色が白くなっている男の姿だ。その周りには二人の子供と思われる集団が取り囲んでおり、此方を見かけると驚いたような表情を浮かべ、手を振って来る。それに苦笑しつつも、手を振り返す。

 

「クイントさんにゲンヤさんにチビ達じゃねぇか」

 

「よう、まさかこんな所で鉢合わせるとは思わなかったぜ」

 

 ゲンヤ中島、中島家の父が驚きながらもニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言う。その視線はしっかりと腕を組んでいる此方とアインスの姿へと向けられており、その意図をしっかりと理解している様子だった。そんなリアクションを浮かべるゲンヤの頭をクイントが軽く殴る。その様子を見るに、相変わらずクイント相手には勝てないらしい。

 

「コラ、アンタもあんまり若い子をからかおうとしない。その様子を見るとこれから映画館かしら?」

 

「奇遇ッスね! ウチもこれから皆で映画を見る予定なんスよ!」

 

 そう言って手を振りながらアピールして来るのが中島ウェンディ、その横で顔を赤くして、意図を理解してしまったギンガ、その様子に首を捻っているのがスバルであり、神妙に頷いているのがチンク。そしてウェンディを止めようとしているのがウェンディの双子の姉のノーヴェ。この場には中島家が勢ぞろいしており、家族全員でどうやら映画を見に来た様子だった。

 

「これから”クラナガン危機一髪!”って映画を見る予定なんスけど、お兄さん達はどうなんすか?」

 

「あー……」

 

 ちょうど見ようと思っていた予定の映画だ。割と前評判が良かったのでアインスと一緒にこれでも見よう、と決めていたのだが、これからそれを見るという事はまず確実に中島家と一緒に見るという事だ。こちらとしては映画を変えればそれだけでいい話なのだが。ただ、リアクション的にクイントが言いたい事を察してくれたらしく、少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべる。―――この物凄い常識的な態度、対応、それでいてあのジェイルの血の繋がった実の妹というのだから世の中凄い。子沢山である事はスカリエッティ家も中島家もまったく変わりがないが、それでもジェイルの常識力は全部クイントの方へと向かったような、そんな気がする。

 

「イスト、私は別に構わないぞ?」

 

「そうか? というわけで此方としては大丈夫ですぜ」

 

「あぁ、うん。いや……ウチとしてはそっちでいいんだけどさ……なんというか、デートしてるんだったらもっと見る映画選べないの? なんというか、ちょっと色気なさすぎじゃない?」

 

「クイント、お前そう言うけどさ。俺達が付き合ってる頃だって見てたの大体カンフーとかのアクション映画だったじゃねぇか」

 

「懐かしいわねぇ、あの頃はジェイルとかが良く尾行とかしてきたものよ。昔なのに既にカメラによる監視とか導入してるキチガイでねぇ、後で煽る為だけに隠しカメラとかを設置してたのよアイツ。たとえば……そうそう、こんな所とかに良く隠してたものよ」

 

 そう言ってクイントが映画館前の植木を調べると、そこにはコードレスカメラが設置されていた。無言でクイントがそれを持ち上げ、そしてカメラを覗き込んでからそれを此方へと向ける。それを見て、確認し、そして顔を赤くしているアインスの様子をも確認しておく。とりあえずその姿は永久保存しておくとして、

 

「超叱る」

 

「手伝うわ」

 

 

                           ◆

 

 

「ハイ、撤収―――! って、アレ? オリヴィエ君がいない?」

 

「嫌な予感がするとか言って先に帰りましたよ。あと現地班が機材を回収しながら逃亡を開始しました。バレたからどうせ全員捕まるというのに……」

 

「というか博士の顔が青ざめてるんだけどこれはどうしよう。本気でクイントさんの事が苦手なんだね……」

 

 

                           ◆

 

 

 おそらく絶対に尾行か盗撮を続けていたティーダやジェイルに関しては満場一致で処刑するという事を心に誓っておき、中島家と合流し、このまま映画を一緒に見る、という流れになった。その後はまた分かれて此方は此方でデートの流れになる事が確定している。中島家の下の方の子供は意味が解っておらず一緒にあそぼう、なんて言っているがそれを必死に止めようとするギンガの姿は中々に笑えた。

 

 中島家の面々と一緒に見た映画は典型的なアクション映画だった。

 

 主人公はクラナガンという犯罪者の多い都市に潜伏する元警官で、そこで過去の同僚が犯罪に手を出しているのを目撃してしまい、それを止めようとするためになんやかんやで大暴れする、という映画だ。シナリオ自体は良くあるそれだが、映画の売りがスタントマンを一切使わず、そしてCG等の技術を一切使用していない、という所だった。映画中に出てきた銃も本物で、銃弾も本物、極限までリアルを追求したアクション映画、という内容だった。派手なアクションに中島家の子供たちにはそれが面白かったようで、主人公が傷つく度にどよめき、立ち上がるたびに声援を送っていた。

 

 しかし、

 

 映画が終わってしまってからアインスと二人で並んでいると、こう感じてしまうのだ。

 

「うーん……少し、物足りない感じだなぁ」

 

「ふふ、そうだね」

 

 ブレイブデュエルに慣れてしまった身としては、少々物足りなく感じる。そもそもブレイブデュエルから見た世界とは”現実と全く違いがない”のだ。だから映画館での派手なCGによる戦闘シーンがあるとして、それをブレイブデュエル内ではもっとリアルに再現することが出来るのだ。伊達に最新技術の結晶を無駄に遊びに使っている訳ではないのだ。そこに更に、映画内で見せられたアクション、非常に申し訳ない話だが、

 

「アレぐらいだったら俺やクラウスでも出来るってか、昔もっと派手にやらかしたというか」

 

「君が偶にぼそり、と呟いてる高校の時の話だよね?」

 

「あぁ。あの時は注射器とナイフをクラウスに突き刺したうえで鉄パイプで後頭部を殴ってオイルかけて放火した。その後落石とダム決壊アタックを食らわせて一対一で殴り合ったもんだ……」

 

「……人間? だよ……ね……?」

 

 クラウスだから、で済むのがクラウスの素晴らしい所だ。思考放棄しているとも言えるが、それでも大抵の事がやっぱりクラウスだからで終わる。というかそれ以上の説明がつかない。クラウスの存在を調べようとしても、どう足掻いても理解できない、という事が理解できるので、あの馬鹿の事で悩むだけ時間の無駄だ。それにしても最近のアクション映画はもう少し派手にやるべきだ。観客が出来る範囲の事でアクションをしていても少し残念だけだ。

 

 まあ、少々残念な結果となってしまったが、片手を上げて軽く中島家に別れを告げ、再びアインスと腕を組む。

 

「さて、お腹が空いてきたことだし軽く食べようか」

 

「確か持ち込みありのお店を見つけてくれたんだっけ?」

 

「そうそう、翠屋っていう所なんだけどね。デザートの類は美味しいって海鳴で評判らしいからね」

 

「では、昼食はそこで、しようか」

 

「あぁ」

 

 ―――そして今日一日が終わったらクイントとタッグを組んで処刑ラッシュだ―――。




 海鳴……エンカウント……喫茶店……うっ、頭が

 出会わせてはいけない……絶対出会わせてはいけない様な組み合わせが今出来上がりつつある……そんな予感がないがしなくもない。

 なのセント世界の登場人物ドンドンだしますわよー

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