イノセントDays   作:てんぞー

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チャンピオンシップ開幕

「―――さて、本日は集まってくれてありがとう。ネタとかなしで言わせてもらうけどこうやって集まってくれたことに心の底から本当に感謝しているよ。ブレイブデュエルは僕とグランツ君が二人で夢を見て、そして実現させた次世代の玩具だ。そう、玩具なんだ。一応軍事目的で利用とかなんとかって言われたりしているけどそれ全部、断っているんだよね。ついでにある程度此方から監視、自壊出来る様に組んでるし……いや、まあ、これは関係ないか」

 

「君はほんと話題から外れるのが上手だよね、ジェイル。ともかく、私達が言いたいのは君達に感謝している、という事なんだ。こうやって第一回チャンピオンシップを開催できるのも君達がこうやってブレイブデュエルを遊んでくれているからなんだ。このチャンピオンシップが終了する事によってロケテストは完了して、そして全国での本格稼働が始まる。そうなれば今以上に広くなったネットワークの世界で、全国対戦も出来る様になるし、新モードも追加予定だ―――今日で、一つの節目を迎える事になる。改めて、君達に感謝を―――」

 

 グランツ研究所、ブレイブデュエル用の巨大エリアは大会用にその姿を大きく変えていた。デュエルスペースは更に拡張され、空にホロウィンドウが浮かび上がり、そこからシミュレーター内での対戦が見れる様になっている。その舞台の奥、グランツとジェイルが並んで立っており、恥ずかしそうに笑みを浮かべている。

 

 そんな二人を押しのける様に、天井からワイヤーを使って降りて来る姿がある。緑色のバニースーツのような格好にマイクを片手に握っているのはT&Hの看板娘、アリシアだった。グランツとジェイルの二人を押しのけたアリシアはマイクを握りつつ、大きく腕を広げる。

 

「デュエル、したいかぁ―――!!」

 

「おおお―――!!」

 

 その言葉に間髪入れずに咆哮の様な答えが返ってきた。一瞬で声で満ちる会場の様子にアリシアは満足そうな表情を浮かべ、そして頷く。

 

「さあ、第一回グランツ研究所主催ランカーズチャンピオンシップ! 強い君も! 強くない君も! 遠慮なく参加する為にデッキは持ってきた!? 戦術を用意してきた!? 勝つ用意は? 負けても悔しがらない用意は? 終わった後握手する準備も? ならばよぉーし! 勝つだけが全てじゃない。だけど負ける事が全てでもない。ブレイブデュエルは勝っても負けても楽しんだもん勝ち! 本気で戦って負けたら本望で挑もう、なんて言ったって今日は大会で皆ガチの超ガチ! 文句は言えないよ―――!」

 

「アリシア―――!」

 

「こっち向いて―――!」

 

「母さん、恥ずかしいから声を出すの止めて! 止めて……!」

 

「プレシア! 貴女もいい年してはしゃぎすぎです! あぁ、もう! ビデオカメラを振り回すのを―――プレシア、そのビデオカメラ初めて見るものですがまさか今日の為に新しく買ったとか―――」

 

 どこかでクロノの悲鳴やリニスの声が聞こえてくるが、とりあえずは他の観客同様聞こえなかったふりをしてその騒ぎをやり過ごす。ポケットからちょっとスマートフォンを取りだして確認すればブレイブデュエルの掲示板でさっそく晒されてネタにされていた。職人の仕事は早い。もう既にAA化されているとは思いもしなかったし、思いくもなかった。スマートフォンを消して、そしてポケットにしまって視線をステージへと戻す。

 

「さあ、本日のルール行くよ! と言っても本日は予選デー! 本戦はあ・し・た! だからと言って今日は大事な大事な本戦出場者を決める日だよ! 明日、本戦で戦う事の十六人を決定するよ! ルールは簡単! 戦って、戦って、そして戦う事! 本日一日で勝利数が多かった十六人が本戦に進むことが出来るよ!!」

 

 ただし、とアリシアが一文字一文字にポーズと間を作りながら言う。そのモーションにどこかのT&H店長が発狂しているが、その姿はなるべく視界に納めない様に気を付けておく。

 

「敗北した場合は即敗退! 本戦への出場権を失う様に出来ているよ! 厳しい? 馬鹿いっちゃ駄目! 最強のプレイヤーを決める大会なんだからこれぐらい当たり前! 本日のグランツ研究所は何時もの倍のシミュレーターを稼働させて準備万全! なお一般の勝負は本日、グランツ研究所では出来ない仕様になっているから、普通のデュエルをしたい人は是非八神堂、もしくはT&Hの方へお願いしまーす! あ、ちなみに十六人だけ残っちゃった場合は自動的に決定なんで!」

 

 アリシアの話している内容がその背後、ホロウィンドウとして出現する―――相変わらずの謎技術っぷりに驚かされるが、アリシアの言っていることは簡単な事だ。負けなければ良い。勝ち続ければ良い。それだけの話だ。実にシンプルで、解りやすく、そしてスマートだ。これ以上なく自分にあっているやり方だ。だからさっそくステージに背を向けて、動き始める人混みに逆らわない様にそのままシミュレーターの方へと向かって行く。

 

「ティーダ以外は全員、ウチのチームは出場か。ま、ソロだししゃーないな。アイツ、ソロだと弱いし」

 

 それに敵対されても邪魔になる。

 

 ポケットに両手をつっこみ、急ぐこともなく、ゆっくりとシミュレーターへと向かって歩く。此方の事に気付いて、片手であいさつしながら道を開けるのが数名いる。その姿は横を通り過ぎながら頑張れ、賭けの為に勝ってくれ、等と身勝手な事ばかり言ってくる。本当に気楽な連中だなぁ、と苦笑しながら足をシミュレーター前まで到着させる。不思議な事に、ちょうど一台だけ空いていた。それを利用しようとする者はいないし、そもそもシミュレーターに近寄ってこようとするものすらいなかった。別段、何やらエラーがあるとか曰くがあるとか、そういう事はないのに。

 

 誰も利用しないのなら遠慮なく利用させてもらう。

 

 カートリッジを、そしてデッキをシミュレーターにセットし、対戦設定を乱入歓迎の連戦仕様に設定する。そして、そこでブレイブデュエルの大型シミュレーターを起動させる。

 

 目を閉じ、一瞬だけ体が浮遊感に包まれる。次に目を開き、確認するのは―――美しい緑色の庭園だった。

 

 青空の広がる空の下、庭園が広がっている。直ぐ近くには塔の様な建物と、そして断崖絶壁が見える。その下に広がっているのはまた、空だ。巨大な庭園そのものが宙に浮かんでいる特殊なステージ、”時の庭園”ステージだ。視線を時の庭園の周りへと向ければ、この”本島”の様に浮かんでいる小さな幾つかの浮島の存在が見える。それを足場にするも良い、空を飛んでも良い、適度に障害物のあるステージだ。ただメインはやはり、空中戦。空中戦主体のステージになる。

 

「もう……いるな」

 

 感覚が冴えている。知覚できる範囲が前よりも広がっている。いや、違う。前よりも広げられているだけだ。集中力を向上させたおかげで前よりも気配を知覚しやすくなっているだけだ。出来る事をもっとスムーズに、効率的に行っている、それだけの話だ。本来は出来る事を、精神的リミッターが抑え込んでいるせいで出来る事が出来なくなっている、そういう事だ。故に浅く息を吐いてから、右手を浮かべる、まだ人の手であるそれの上に出現するのは今回、今日使い続けるキャラクターカードだ。

 

「武装形態」

 

 そうつぶやくのと同時に姿が変わって行く。カジュアルだった服装はもっと近未来的なデザインに、下は赤と紫が混じったような色のロングパンツ、上半身は赤のインナー、その上から白いハーフジャケット、そして首周りには赤紫色の炎が、スピリットフレアがマフラーの形をして巻き付いている。そこに一切の熱を感じる事はなく、武器と防具、両方の機能が備わっていることを直感的に理解できる。両腕は肘から先が完全に鈍色の義手に変更されており、その指先はまるで怪物の物の様に先が尖っている。義手の関節、その隙間からはチラチラとスピリットフレアが漏れ出ており、それをもってリライズが完了される。

 

 自分のカードに自分のカードを融合させてリライズする処理とは別に、

 

 他のプレイヤーのキャラクターカードを自分のカードに融合させることで新たな特性を所有している特殊なカードを生み出す事が出来る。―――それをユニゾン、という。素材に使ったカードのランクが高ければ高いほどリライズ、ユニゾンで出来上がるカードの能力は高く、そして優秀となる。今リライズしたこのカードもSR+にSR+をリライズした、という内容だ。その為ある程度だが、スピリットフレアを自由に扱う機能が搭載されている。

 

 ―――自分にとっては形を変えられる自由な武器程度の認識でしかないが。

 

「来るなら来い」

 

 気配はすれど、声も姿もない。ただこの領域に敵がいる事だけは認識できる。故に戦闘は既に始まっている。軽く足を動かし、時の庭園の中でも開けており、見通しのいい場所へと移動する。その中心で足を止め、そして軽く呼吸を繰り返してから視線をまっすぐ、正面へと構えない状態で向ける。

 

 場所は時の庭園の外庭。空間の半分を空が占領しており、そしてもう半分を敵の庭園に存在する建築物が占領している。それ以外に視界を邪魔する様なものはなく、非常に見通しが良くなっている。どの方向から攻撃が来ても比較的に感知しやすい立ち位置だ。故にその間、中心で立ち、敵の一手を待つ。最初の一手だけは相手に譲る。そうしても絶対に勝てる。そういう気概があり、そういう気持であった。さっさと来い、

 

 一撃で仕留める。

 

 そう思った時、

 

「―――やだなぁ」

 

 声がする。視線を声の方向へと向けると、建築物の屋根の上に立つ姿が見える。レオタード型の速度重視のバリアジャケット姿なのは―――レヴィだ。デバイスであるバルニフィカスが今は青、ではなく赤色に色を変化している。おそらくシュテルのカードをユニゾンしたものを使っているのだろう、何時もはチリチリと纏っている雷の代わりにその体の周りに火の粉を纏っている。何時もの様な自信満々、天真爛漫な表情がレヴィにはなく、少し悲しげな表情を浮かべるレヴィの姿だった。

 

「やだなぁ、今のお兄さん。何時もは真面目でも本気でも絶対どこかで笑みを浮かべて余裕を見せてくれるのに、今のお兄さん欠片もそういうのはないや。いや、そうじゃない。なんというか……今のお兄さん、凄く……うん―――怖い」

 

 レヴィの声に確認する様に自身の顔に触れる。が、確かにそこには何時も浮かべている笑みがない。なるほど、集中したり追い込むに当たって、表面的な余裕を全部片づけてしまったらしい。だから、レヴィの言っている意味は解っているし、通じる。だが答える言葉は今日と明日ばかりは何もない。

 

 目を伏せることなく、真っ直ぐ視線をレヴィに返すと、レヴィが溜息を吐く。

 

「嫌いだなぁ、そういうの。お前には解らない世界がある、って言ってる感じがあるし、何よりもお兄さんらしくないや。ガチなのは別にいいけど、関係ない時までプリプリしてるのはかっこ悪いよ? ……いや、まあ、お兄さん達の関係良く知っている訳じゃないから特に強く言えないけど。うーん……」

 

 真剣に此方の為に悩んでくれているようだから、小さくだけだが、笑みを浮かべて返す。少々大人げないのは承知しているが、

 

「言いたい事があるなら勝って話せ。今のお兄さん、道端の石に心を割く余裕はないのさ」

 

「―――言ったな?」

 

 爆発で屋根が吹き飛んだ。いや、レヴィが吹き飛ばした。それを加速としてレヴィが連鎖的に爆発を起こし、爆風で更に加速しながら動き、気付いた瞬間には既にスラッシャーフォームに姿を切り替えたバルニフィカスがレヴィの手の内で振りぬかれる形に入っていた。それを片目で体に食い込む瞬間を認識しながら、手を伸ばすのは首元だ。

 

 ―――音を立てて炎の魔力刃が弾かれる。

 

 マフラー状のスピリットフレアを伸ばし、それを首に巻き付けたまま鞭の様に操って下から跳ね上げる様に刃を弾き飛ばした。瞬間的にレヴィの体勢が崩れるが、瞬きを終える前には既にその体勢は立て直されていた。素直にその姿に感服する。レヴィがやっていることは基礎だ。踏み込み、体勢の立て直し、刃を振るう動き。それを完璧に覚え、そしてやっているだけに過ぎない。教えた事をちゃんと理解し、そして今でも反復練習しているのだろう。馬鹿のフリをしていて頭の良い、そして努力家の人情家。

 

 追って来るようにおそらく、乱入してきたのだろう。

 

 だから小さく笑みを浮かべる。

 

「次で終わりだ」

 

「あぁ、次で終わりだ」

 

 ―――戦いとは長引かない。

 

 特に自分やレヴィの様に一撃に重みを乗せる必殺タイプは倒すも、倒されるのも一瞬で終わる。そもそも技量が上がれば上がるほど達人同士の戦いは長引く、という認識の方が馬鹿なのだ。どう足掻いても短期決戦で決められないと手札をドンドン攻略されてしまう。技と技は単体で出すのではなく、それを合わせて使うからこそ初めて意味が生まれるのだ。

 

 必殺技を単体で叩き込むの等馬鹿のする事だ。組み合わせて、絶対に当たる様に、必殺出来る様に使うから意味があるのだ。故に勝負は長引かせず、一瞬で、スマートに決めるのが理想。

 

 レヴィのやろうとしている事は解る。こちらが半タンクタイプの格闘特化プレイヤーである事を理解しているから、此方が対応できない完全な超速度で動きを全て圧倒し、反応できないまま一撃で焼き斬る事を目標とする―――いや、レヴィにはそれ以外が出来ない。そしてそれにレヴィは特化しているからそれ以外は何も必要としない。故に此方の勝利条件はレヴィを捉え、そして確実に、一撃で仕留める事。

 

 初戦からハードに、そして手札を晒す事になるが、

 

 一つ宣言させてもらう。

 

「―――俺を殺せるのはアイツだけだ」

 

 レヴィの姿が爆熱と共に消える。左半身を前に出す様に構える。

 

 爆音と爆熱、炎が辺りを満たして音と風でレヴィを捉えるのが不可能になる。その中で、目を開け、息を吐き出して浅く吸い込み、そして前へと、炎へと向かって踏み出しながら自身の精神を追い込んだ結果を発揮させる。

 

「技能連結―――エレミアの神髄、限定神速」

 

 思考だけが加速しモノクロに見える世界の中でレヴィの動きを視界が捉える。速度は本来のそれのまま、しかし視線の中では緩やかになった世界で、体は意思を離れて本能と経験から最善の動きを敵に対して反応として与える。即ち理性では捉えきれない、知覚できない速度のレヴィへと手を伸ばし、そして姿を掴むという結果へ。

 

「―――」

 

「鏖殺絶技」

 

 ―――全ての技能は集約される。

 

 千を超える技と、奥義と、術の全ては一つ一つの動作で放つものとされている。故に同じ動作を必要とする技は重ねられる。そうやってすべての動きを一つの動きへと集約し、基本動作へと姿を変えさせる。

 

「千技一打・エレミア」

 

 掴んだ瞬間には既にレヴィを大地へと叩きつけ、そしてその一打によってレヴィの無力化は完全に完了していた。

 

「ま……あ、あれ……?」

 

「エレミアの体術ってのは凄いぞ。触っただけで間接外したり砕いたりするからな。覇王流が一対一で極限まで破壊を追及する流派なら、エレミアは極限まで効率を求めたマルチアーツだ。どこまでも冷静、効率的に対象を破壊するか、だ」

 

「うわ、手足が変な方向を向いてる」

 

 大地に倒れ、そして足に踏まれて押し付けられているレヴィの両手足、その間接は完全に粉砕され、本来は向いてはいけない方向へ向いていた。レヴィはその様子に体をバタバタしていて、その姿を見て小さく笑い声を零す。ばたばた、と動くのをやめてレヴィが笑みを浮かべながら首だけを動かして此方へと視線を向ける。

 

「うん、そうやって笑っているお兄さんの方が僕、好きだな」

 

「うるせぇよタコ」

 

 そのままレヴィを踏み潰して倒す。

 

 ぐわぁ、とコミカルな悲鳴を上げながら消えて行くレヴィの姿が完全に消えるまで眺めてから小さく溜息を吐き、そして仕方がない、という。

 

「マジモンの本気を出す、そして何時も通りの自分を演出する。両方同時にやらなきゃいけないってか……大人は辛いねぇ。俺も、あんまし表面に向ける様な余裕ねぇんだけど……しゃあねぇか。大人だし」

 

 心を入れ替え、そして見えないが、観客へと向けて指をくいくい、と挑発する様に向ける。

 

「―――オラ、テメェラ見てるんだろう。俺を敗北させてみろよ。連戦で疲れてる所狙えばいけるかもしれねぇぜ?」




 神髄は経験と本能から肉体をフルスペックで最善手を選ぶ。限定神速は思考速度を加速して見切ってるだけ。どっちもお互いを阻害する事ねぇから同時いけるんじゃね? →じゃあ使った。それがイストさん。勝手に他人の流派とか技とか纏めちゃう系男子。

 余裕な様で実は自分の精神を割とギリギリまで追い込んでます。あと千技一打は完全なオリジナル。理論は同じ動きの部分あるならまとめて一緒にできるよな、という。

 他のキチガイに隠れてたたけど(主に新人類の影)漸くキチっぷりを表現できそう。

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