イノセントDays   作:てんぞー

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予選

「―――派手にやってますねぇ」

 

「せやなぁ」

 

「姉ちゃん機械の暴走とかで死なないかなぁ」

 

 ジークリンデ、ヴィヴィオと揃ってグランツ研究所のコミュニティスペースにいる。それぞれジュースの入った紙コップを片手に、ホロウィンドウに浮かび上がるそれぞれの勝負をチェックしている。やはり気になるのは身内の勝負だ。だから浮かべているのはオリヴィエ、イスト、そしてクラウスの三人の勝負内容となっているが―――クラウスに関しては先程まで浮かべていたホロウィンドウをもう見る必要もなく、消してしまった。

 

「しかし圧倒的やったな、覇王のにーさん―――二十人抜き、無傷、それでいて全試合三十秒以内の一撃必殺KOやろ? 今まで覇王のにーさんは肉体と技術の組み合わせで恐ろしいっと思ってたけど全く違ったわ。ありゃあ肉体なんて関係ないわ。人として構成する全てのパーツでイカレてるわ、はは、一生相手したくないわアレ」

 

 そう、兄―――クラウス・イングヴァルトは予選が開始して一時間も経過しないうちに大会側からストップを叩きつけられ、トップで予選通過、本戦へのチケットを入手した。その為、兄は先に家へと帰ってしまった。これ以上ここに残ってしまうと無駄に滾ってしまう、と言葉を残して。おそらく今夜は一睡もできずに明日を迎えるのだろう、なんてことを思う。兄の事なのだから間違いない。

 

「まあ、兄はブレイブデュエルに触れた初日に”慣れた”って言いましたからね。アレって多分世界そのものじゃなくてミリ以下の能力の変化やシステム的な干渉全てに対して慣れた、って意味でしょうし。多分誰も理解してなかったでしょうけど、ウチの兄はああ見えて戦う事だけになるとホント頭おかしくなりますからね―――現代社会では評価されないですけど」

 

「現代社会の劣等生……」

 

「マジそのまんまやな。評価されるようになった時はたぶん第三次世界大戦とかそんな感じに戦争が始まった時ぐらいやろうな」

 

 一生評価されないでいて欲しいとは思うが、そういう事情とは別にまた”狂っている”場所が存在する。イングヴァルト家がそうだし、ヴィヴィオのゼーゲブレヒト家もそうだ。イングヴァルト家に関しては分家は全て消し去ってある上、親と隠居に関しては兄が決着をつけた。だからもう兄の様な人の形をした訳の解らない存在は生まれる事がない。ゼーゲブレヒト家に関してはヴィヴィオが何だか”干渉はされない”等と言っていたが、オリヴィエやヴィヴィオの様な存在が生まれる事はない……なんてことはなく、まだ狂気の研究が続いているのだろう。

 

 こういうのは出資者が、割とついているものだし。

 

「ハルにゃん? あんまり楽しそうな顔をしてへんで」

 

「すみません、ちょっと嫌な事考えてました」

 

「ハルにゃんはすぐダークサイドへ落ちかけるからね。ほら、それよりも試合を見ようよ。どうやらこっちはこっちで盛り上がってきたみたいだし」

 

 そう言ってホロウィンドウを指差すヴィヴィオの視線に合わせ、ホロウィンドウへと注意を向ける。その中ではイストが射撃型プレイヤーと対戦していた。

 

 

                           ◆

 

 

「トリガァッァァ、ハッピィィィィィ! イェェェェァァァ―――!」

 

「―――」

 

 神速で隙間を瞬時に把握し、一番弾幕の薄い個所を縫う様に移動し、ヒットしそうなものは覇王流の奥義、旋衝破を使って投げ返す。だが相手の周りに浮かんでいるのは銃を超えるガトリング銃、そして両手にもガトリングが握られている。こちらが完全なインファイターと把握したうえで完全なアウトレンジ、弾幕制圧で来る事を選んでいる。幸い魔弾のサイズが大きく、投げ返したときの連鎖爆発でルートを作れているが、弾丸一つ一つがもっと小さければ更に厄介な事になっている。

 

「揺らめく水面の如く―――」

 

 滑る、揺れる、回る、そして流れる。流水の動きをもって隙間に体を差し込み、そして前進する。時の庭園ステージ、外庭で戦闘している為接近に使える障害物はなく、この動きを連続で繋げて少しずつ接近を果たしているが、接近すればするほど相手が障害物を破壊し、そして距離を稼がれているのは確実だった。ステージ開始毎にステージ建造物がリセットされていたが、開幕の自爆攻撃で建造物は完全に吹き飛んでいる。奇抜に見えて実は賢い選択肢だ。

 

 誰もやるとは思わないし、障害物を綺麗に吹き飛ばすにはノーチャージノータイムで行えるため、LCが代償だと考えれば実は意外にも”アリ”な選択肢だ。ただそれを”神髄”は警告した。経験からしても”そろそろ来る”という感覚はあった。故にスピリットフレアを使った防壁で自分へのダメージは最小限難い止めても、

 

 ―――地味に削られていくな。

 

 弾幕の回避に発生する僅かな掠り、それがLCを一桁一桁、確実に、そして着実削っていた。スピリットフレアを使って当たりそうなのを流してはいるが、完全防御の為に一瞬でも立ち止まってしまえばその瞬間に蜂の巣になる事は確定している。であるならば出来る事は一つ―――着実に耐えて距離を詰める。

 

「―――」

 

「ハッハァ―――!! 今度は勝たせてもらうぜ赤鬼さんよぉ―――!!」

 

 その言葉に笑みを浮かべる。声は覚えていない。対戦した相手など星の数ほどいる。だが隙のないその様子から、何度も練習して来たのは伝わる。

 

「キッチリしっかり戦術も練って弱点も潰してきた、今度こそだ……!」

 

「ハ―――」

 

 余計なもん、育ててるな、と自分が今までやってきた事に軽く笑い、そして軽い頭痛を堪えながら笑みを消し去り、そして―――続けて回避の動きに入る。完全なインファイト設定で来ているので、一切の遠距離戦闘が自分には可能ではない。いや、ある程度限定的にであれば出来る。だがそれにリスクが存在し、ここでは不要なリスクだ。故に耐える。耐えて耐えて、耐える。

 

「―――風に舞う柳の如く」

 

 動きの質を若干変える様にし、そして回避運動に入る。速度ではなく、完全に技量を利用した見切り、受け流し、そして先読み。それを駆使した完全な回避術でLCを削られながらも、攻撃を凌いで行く。一見ただの虐殺に見える様であるが―――それは違う。着実に此方が追い詰められつつも、真に追いつめられているのは決して自分ではない。

 

「ッ―――」

 

 相手だ。少しずつ焦るのが解る。

 

 ―――それは此方が機械的に全ての攻撃を一切顔をゆがませる事なく処理しているからだ。追いつめている。なのに焦りや苛立ちが一切見えない。その恐怖、不安が少しずつ相手の心の中へと広がって行き、巣食って行き、そしてその考えはこう変わる。

 

「流石だぜ、やっぱチマチマやってたんじゃ倒れないよなあ―――!!」

 

 そうやって大技を出そうとする。否、出す。相手の周囲にある銃は出現したまま、弾丸を吐き出している。そしてそれを一切途切れせる事なく巨大な砲―――それも人よりも大きなものを取り出し、それを大地に叩きつける様に配置する。相手の奥の手、最高の一手、そして本人が自覚していないであろう敗北の一手になる。

 

「消えろおおお―――!!」

 

 逃げ場などなく、正面から砲撃が迫って来る周りには分厚い弾幕が貼られており、一発でも受ければ足を絶対に止められる事が確定している。故にやる事は確定している。

 

「―――技能連結……エレミア、ゼーゲブレヒト」

 

 自ら砲撃の中へと飛び込む。

 

 相手からすればそれは呑み込まれたのも同じだろう。だが結果としては全く違う。自ら飛び込む瞬間に一番ダメージの入る箇所だけをスピリットフレアに守らせる。聖王の鎧の様に障壁として纏う。それをもって体を小さく、当たる面積を減らし、最低最小限のダメージで姿が砲撃の中から出ないようにして一気に突き進む。砲撃魔法の中は凄まじい”圧”とはなっているが、決して動けないものではない。寧ろ弾幕を一斉に叩きつけられる方が圧として逃れ難いものがある。故に覚悟と準備さえあれば、

 

 砲撃魔法の中は絶好の隠れ場所となる。

 

「千は一に集約される」

 

「これでも突破されるのかよ!?」

 

 砲撃魔法をそのユニットの中から真っ二つに粉砕する様に踏破し、そして相手の目の前まで到達する。その表情にあるのは驚き、そして嬉しそうな笑顔だった。だがそれ以上言葉を続けさせる前に半自動的に体が最善を刻む。つまりは最適な技能の集約と応用。邪魔なのは相手が此方へと狙いを定める為の目、引き金を引く為の指、そして音声発動をさせる為の声。

 

「千技一打・エレミア」

 

 掌打を喉へと叩き込み、喉をつぶし、衝撃は分散しながら目、そして両腕を破壊する。そのまま指を首にひっかけ、次の技に繋げる様に体の各関節を二手目で粉砕し、大地に叩きつけてバウンドして来た体に対して義手からあふれ出るスピリットフレアを二刀の剣へと変化させて固め、

 

「絶技、解体」

 

 全身をバラバラのパーツへと一呼吸で解体する。声もなくポリゴンとなって砕けて行く姿を一瞥し、消え去った所でスピリットフレアの剣を消す。勝者表示と共にLCの回復、そしてステージの修復が一瞬で完了する。そして。

 

『―――Here Comes A New Challenger』

 

 乱入者の登場宣言と同時に、空が歪む。そこから姿を現すのはピンク色のポニーテール姿の騎士―――シグナムの姿だ。てっきり彼女はクラウスの様なロマンティストタイプで本戦でぶつかる為に避けてくるものだと思っていたが、シグナムは着地するのと同時に、リライズを完了させ、見慣れた甲冑姿に変身している。そのままレヴァンティンを向けてくる。

 

「なんとなくだが明日、本戦を待っていては戦えない気がした! 故に斬る! これ以上の言葉は私も、貴様もいらんだろう……!」

 

「おっしゃる通りで」

 

 言い終わった直後、大地を粉砕する程の力と速度で一気にシグナムが接近して来る。それに対してスピリットフレアで再び片手剣を今度は一本だけ生み出し、それで両手握りのレヴァンティンを切り払い、シグナムの胴体に隙をこじ開ける。そこに踏み込む―――のを止め、絶好の好機を逃がしてシグナムの横へと回り込む。今の隙はシグナムが作った”誘い”だ。踏み込んだ瞬間に一瞬でこちらが解体されている。

 

「私に剣で―――と、言おうと思ったがそもそも貴様に武器の概念など意味はなかったのだったな。何を握ろうが、全てが手足の延長線上の存在か。羨ましいものだ……!」

 

「お前それ山の中で道具一つも持たされずに放り込まれても言えんの?」

 

 応用応用応用利用利用利用利用。

 

 ひたすらそれだけだった。ある物を利用して、応用して、そして使いこなす。出来る事を最大限に発揮して、それを繋げて行く。新しく何かをやるのであれば、今までの技術を組み上げてやれば最初からその習熟度はパーツに使ったものと同じになる―――それ以上の練習や失敗を心配する必要がない。

 

「一度山の中で発狂するまで暮らしてみろ。覚えられるかもしれないぜ」

 

 横に周り込んだところから速度を乗せて刃を振るう。振るった刃の軌跡が一瞬で四つ、五つ、六つと増えてシグナムへと襲い掛かる。それをシグナムは両手で刃を握ったまま、回避運動へと入る様にしながらも掻い潜り、斬撃を返してくる。正面から叩き伏せる様に迫って来るその刃の技量は、前にクラウス対シグナムで見た時の剣筋とは段違いのレベル―――猫を被っていたとさえ評価できる内容だった。

 

「千技一打―――……一斬一打・ゼーゲブレヒト……!」

 

 振るわれてくる刃に完全に経験と、そして感覚が順応する。刃をあえて刃で受けつつも、それを滑らせ、大地を踏むことで震動を通して動きを刹那の間だけ停止し、相手の呼吸の間を知覚する。その時間に神速を使って潜り込み、回避と防御が不可能な完全なカウンターを斬撃としてシグナムの体に叩き込む。

 

 ゼーゲブレヒトの極意―――即ち完全な理解反応からの抹殺。ヴィヴィオから見聞きして覚えた内容。ゼーゲブレヒト特有の超理解、超反応、それを利用して相手の呼吸そのものを盗む。完全に意識の死角の中に潜り込み、相手が重い一撃を放つ、無防備な瞬間に必中のカウンターを叩き込む。ゼーゲブレヒト全体の防御的な動き、足止めの動き、耐える型はゼーゲブレヒトの人間に対して相手を理解する時間を生むためのものだ。

 

 故に一斬一打、流派や技術の統合によって生まれるカウンターをゼーゲブレヒト式に放つ場合、それはどんな状態からであっても確実に成功するカウンターを叩き込むもの、という風になる。

 

 ―――最も、ヴィヴィオは既に一人で全てを一打に集約し終わっていたが―――。

 

「……」

 

 浅い。

 

 そう直感した瞬間にはシグナムの刃が振るわれていた。武器を手放しながら回避に動きを入れるが、肩が浅く斬られる。ダメージ的には相手が胸に受けた甲冑を割る一撃の方が強いが―――行動を阻害するレベルには至ってはいない。故に回避運動に入った所から手放した剣の代わりにまた新たな剣をスピリットフレアで生成する。今度はマフラーに使用しているスピリットフレアをも注ぎこみ、もっと硬く、そして少しだけ長いのを作る。

 

「―――」

 

「……!」

 

 回避から一気に反転し、一斬を繰り出す。既にシグナムが呼吸のリズムを変えている。故にまた”一打一斬”からのカウンターを叩き込むことが出来ない。呼吸を変えたシグナムの呼吸のリズムを再び読み取り、相手の行動に割り込む準備を進めつつ、言葉もなく両手で刃を握って再びシグナムへと向かって切り込む。斬撃と斬撃がぶつかり、斬りあい、弾けながら距離を生む。

 

「悪いが受けて覚えるのは貴様らの専売特許だけではない。エキシビジョンでの”二度”の敗北、学習させて貰ったぞ―――」

 

 二度の敗北―――おそらくクラウスとの勝負の事だ。”呼吸読み”による行動割り込み、意識の死角を盗む方法、それを経験したシグナムはつまり、それの対策やそれ回りの認識を出来る様にしたのだと悟る。成長、あるいは進化しているのは決して己だけではない。相手も敗北や信念を糧に成長する。それをしっかりと胸に刻みながら両手で刃を握り、大地を踏みしめながら再びシグナムへと切り出す。

 

 ―――戦いの流れを掌握しつつ。

 

 

                           ◆

 

 

「シグナムさん、ちっとキレ悪くね?」

 

 コミュニティスペースで、イスト対シグナムの戦闘を眺めながら誰かがそう呟く。実際、その言葉は正しい。シグナムとイスト、現状は片手剣と両手剣による剣術勝負になっている。速度で勝る片手剣をイストが両手握りで加速させ、破壊力で勝る両手剣でそれをシグナムが切り払っている図式となっているが、それをシグナムの剣術を知るものはキレがない、あるいは精彩を欠いていると評価する。が、そんなの当然というか、当たり前だ。

 

「だってシグナムさんずっと警戒しながら戦ってるもんね。そりゃあ踏み出せないよ」

 

 ヴィヴィオの声に視線がヴィヴィオの方へ向く。その視線に合わせてヴィヴィオが手を差し出すと、仕方ねぇなぁ、という声と共に聴きたがっている、或は敗北したプレイヤー達が財布から百円玉を取り出してヴィヴィオへと支払って行く。商魂逞しい友人の姿にあきれつつ、せっかくなので集計してあげる。そんな様子を横でジークリンデが微笑ましそうに見ているのでローキックを叩き込む。

 

「んじゃ教えるけど―――そもそもなんでお兄ちゃん……イストさんは剣で勝負挑んでるの? って話になるの。どう考えたって剣術勝負だったらそれに特化しているシグナムさんのほうが強いし、上手いでしょ? お兄さんはなんでも器用こなせるからと言って、決して一芸特化にそれで勝てるって訳じゃないんだから、片手剣で勝負を挑んでいる間は徐々に押され続けるんだよ? ほら―――なんで?」

 

 スクリーンの中のイストとシグナムのLC表示は、イストの方がLCが低くなっている。焦りも、疲れも、そういう変化らしい変化を一切見せる事無くイストは淡々と機械的にシグナムに対して片手剣を両手持ちで、立ち向かっている。それに相対するシグナムの力量は―――イストを上回っており、ダメージレースでシグナムが僅かにだが勝利している。イストのバリアジャケット、そして体に少しずつだが切り傷が目立ち始めている。それを確認して、誰かが声を上げる。

 

「態々剣を使ってるって事はそれでなんらかの狙いがあるとか?」

 

「あとは何時も通りに別の武器に繋げる為とか」

 

 そこ、と言ってヴィヴィオが指をさす。

 

「推測しかできない。特技が相手に合わせてスタイルを切り替えて戦えることなのに、それを放棄して剣にこだわっている。しかもシグナムは特別思い入れがあるわけでも、因縁があるわけでもない。なのにそうやって拘っているという事は”何かある”と思わせている。踏み込みすぎる瞬間を待っているのか、引く瞬間を待っているのか、それすら解らない。そしてどちらをしても的確に適応、変化できる。だから常に警戒しなくちゃいけないから完全に踏み込めない」

 

 つまり、

 

「一種の心理戦を仕掛けてるんだよ」

 

 

                           ◆

 

 

 淡々と速度を刻む。

 

 両手剣と片手剣の違いはその運用の幅と速度、そしてそれが出せる威力だ。前者二つに関しては片手剣が優れており、そして威力に関しては重量のある両手剣の方が高い。故に片手剣を運用するのであれば、威力が出ない分工夫、別の道具、もしくは卓越した技量が必要となる。そうしなければ大剣や両手剣、そういった重量のある武器に対してダメージレースで勝利することが出来ない―――それが現在、自分とシグナムの間で発生している現象の結果だ。

 

 シグナムが一閃繰り出す為に此方は斬撃を二回繰り出す―――が、DFを入れて計算するとシグナムの一撃で同等のダメージを出すためには最低限三発シグナムに叩き込む必要がある。そのうえでシグナムの技量を計算に入れた場合、十回斬撃を発生させたところで通るのは二つ、三つぐらいだ。故に必要なのは更なる速度と技量だ。

 

 速度を刻む。

 

「それは……ラッセルの動きか……!」

 

「違うな、俺が教えたんだよ」

 

 体を低く、バリアジャケットの上着パーツを削除、義手の余分なパーツの破棄、体から重量を消すのと同時に、足音を消す。体の動きから完全に重力の干渉を消し去る様に、体の動きに飛行魔法を混ぜる。ステップ一つ一つに重さの干渉を失くし、動きをステップからストライドへ、流れるような動きへと変える。歩行と動きの質を一瞬でスイッチさせ、刻む動きから流れ舞う、剣舞の動きへと変える。

 

「―――!」

 

 斬撃量を二倍に増やす。

 

 視線誘導、体を使った死角の発生、足さばきによる一時的な視界からの喪失。それを利用して一瞬で斬撃が増えた様な錯覚をシグナムに叩き込み、ぺースを引き上げる。それに対してシグナムが笑みを浮かべ、炎を刃に纏わせて対応する。ぶつかり合う刃と刃から炎熱変換の炎、そしてスピリットフレアが砕け散りながら宙に舞う。シグナムの体に加速度的に切り傷が増える。しかし、炎を使い始めたシグナムがその不利を一気に巻き返し始める。

 

 切り結んで弾けた火の粉が舞いながら体を焼いて行く。

 

 シグナムの剣が鋭さを増す。

 

 本来のキレが戻る。

 

「―――企んでいる事をそのまま潰すか」

 

「修羅道礼賛っ―――……!」

 

 シグナムの動きが小刻みな、ステップを刻む動きへと変化し、速度が刃に乗る。その速度が完全に片手剣で繰り出せるそれに到達した瞬間、エレミアの神髄と神速を同時に発動させる―――本来は同時に発生させるようなものではないそれは脳の領域を大きく使用する。並列で思考を処理していても、それは食い合い、凄まじい頭痛を引き起こす。

 

 その痛みを精神で凌駕する。

 

 動きを自分の物から強引な動きへと変える。エレミア式のしなやかで効率的なそれからもっと荒々しく、攻撃的で、そして自らを省みぬ破滅的な動きへと質を変化させる。即ち完全粉砕、破壊に特化した流派、覇王流の動きに。それをもってカウンターに入る。

 

 シグナムの目では捉えられない剣技をあえて神速を使う事なく、神髄の応用で”本能のみ”を引き出し、むき出しの闘争心で迎撃する。

 

「シィ―――!」

 

「一斬一打―――」

 

 シグナムの一撃が体を抉る。が、それは次に繋げる動きだ。次へとつなげる為に停止する事はない。故に自ら死地へと飛び込む。体に更に深く刃を無理やり食い込ませ、無理やりにでも動きを止めさせ、スピリットフレアを破棄、シグナムの足を完全に砕く様に踏み抜き、足元を陥没させつつ、技能集約を果たした拳を叩き込む。

 

「―――イングヴァルト」

 

「―――」

 

 衝撃が貫通して、背後の大地を真っ二つに粉砕しながら衝撃が抜けて行き、一拍間を置いてからレヴァンティンが砕け散る。シグナムの体がゆっくりと横へ滑り落ちる。その姿を支える事無く、漸く我慢していた呼吸を再開し、バクバクと主張する心臓を落ち着けて行く。

 

 正面から見る分にはシグナムの姿はそのままだろうが、

 

 背後へと回ってその姿を確認すれば、必殺されたと理解できる。

 

 背中、その後ろ半分が完全に消え去っている。

 

 故に即死、シグナムは少しずつ、ゆっくりとだが砕け散って行く。

 

 その消え行く姿を息を整えながら見ていると、シグナムが視線を此方へと向け、そして口を開く。

 

「最後に聞かせてくれ……何故断った? 私が言うのもアレだが、優良物件だぞ」

 

 勿論アインスの事だろう―――あの日以来、まだ一度も会えていないが、答えは変わらない。

 

「美女にチンピラは似合わないつったんだよ」

 

「貴様は馬鹿だなぁ……」

 

 シグナムの姿が消え、ステージとアバターの再生が始まる。その姿を眺めながら溜息を吐いて、そして消え去ったシグナムに対して答える。

 

「知ってるよ、ばぁか……さて、で―――負けたい奴から来い」

 

 次のプレイヤーを呼び込むためにも会場に向けて挑発を放ち、

 

 そして、強敵を迎える為、勝利する為にまた構える。




 なおシグナムとの戦闘はトータルで1分程でした。強けりゃあ強いほどアクション加速してるってイメージ。というか戦闘中で立ち止まるのは即死させてってコールな感じのイメージ。

覇王流:タイマンで絶対ぶち殺す系流派
エレミア:超効率特化で効率的にぶち殺す系流派
ゼーゲブレヒト:時間かけて見て覚えて理解してじっくりぶち殺す系流派

 だいたいこんなイメージで書いてる。なおモブはあのままずっとガトっていれば勝率六割ぐらい。

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