イノセントDays   作:てんぞー

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開始日

 ―――週末、それは多くの者にとっては安らぎの時だ。仕事がなかったり、学業に励む必要がなかったり、つかの間の自由を得る事の出来る僅かな時間だ。この日に人は好きな事をする。遊びであれ、それがまた仕事の為の仕事であれ、それなりの自由が約束されている。故に週末、それは非常にスケジューリングのし易い日であり、集まろうと思えば非常に集まりやすい日でもある。

 

 ―――週末、グランツ研究所。

 

 ロケテストはまだ始まってはいないが―――間もなく開始、という段階まで来ていた。藤岡町の八神堂と、そして海鳴市のT&Hにブレイブデュエルを遊べる施設がグランツ研究所の方から提供され、設置された。一ヶ月、という短い時間だがジェイル・スカリエッティとグランツ・フローリアンという二人の天才が生んだゲーム、ブレイブデュエルは今、まさに羽ばたくという瞬間を迎えつつあった。間違いなく歴史的瞬間であると、使われている技術を知っている者であれば、言うだろう。そしてそんな日、そんな時に、

 

 幸運にもそれを最も近くで見る事の出来る場所に自分はいた。

 

 グランツ研究所、入口ホールにティーダと並んで立つ。これからブレイブデュエルをする事を考慮して自分の服装はマシンが読み取りやすいように軽いもの、ジーンズとハーフスリーブシャツにしてある。が、ティーダは先程まで作業を手伝っていたこともあって同じような格好の上から白衣を着ている―――イケメンは基本的に何を着ても似合う。良く言ったものだと思う。

 

「―――や、そろそろかな?」

 

 背後からの声に振り返れば、そこにいたのは白衣姿のグランツだった。片手をあげて気軽に挨拶をしてくるその姿からはこの男が人類の中でも五本指の中に入る超天才であるという事はまず解りはしないだろう。普通、すれた人間はある種の雰囲気を持っている。それは近寄りがたかったり、誇っていたり、そういう雰囲気を持っているものだ。だがグランツにはそういった雰囲気を一切纏っていない。おかげで誰であっても、グランツと接するのは難しくはない。

 

「あ、博士ども。一応テスターは多い方が良いって感じだったんで知り合いや友人で割と暇な連中だったりするのを誘ってきました。多分もうそろそろなんすけど」

 

「オリヴィエとヴィヴィオちゃんはジークちゃんを連れ出すのに悪戦苦闘しているから少し遅れるって」

 

 ティーダの言葉に状況を想像し、そして苦笑しながら頭の後ろを掻く。なんというか、ティーダの言っている光景は実に思い浮かびやすいというか、想像しやすい光景だ。そもそもジークリンデ・エレミアという少女はヴィヴィオら、子供グループの中では年長者のカテゴリーに入ってはいるが、その正体はめんどくさがりの半ニート娘だ。将来の夢は働き者の旦那をゲットして自分は楽をするという実に腐った娘だった。

 

「しかしイスト君もティーダ君も意外と人脈があると言うか、予想外にたくさん連れて来るもんだね」

 

「今はネットがあるから留学生で連絡を取りやすいんですよ。実際僕とかイストは留学生支援コミュニティに参加してますからね。こっちに来る学生の手伝いや、こっちで生活している人たちと共同で色々やってますよ。まあ、そうやって色々知り合った人たちですね、今日来るのは」

 

「イングヴァルト兄妹だけは中学からの付き合いっすけどなー」

 

「定期的に連絡は取ったけどこっちで再会するとは全く思わなかったからなんというか、運命とか重力とか、そんな感じのもんを感じるよねー」

 

「全くだ」

 

 一番付き合いが長いのがティーダとその家で、クラウスはその次だ。なんというか、引力みたいなものでこの地へと引き寄せられている。そんな気はするが、悩んでもどうしようもないし、どうせ意味もない事なので気にはしない。それよりもまた馬鹿が一緒に出来るメンツがいるという事の方が楽しく、そして嬉しい。なぜならクラウスは脳筋ではあるが、それでも頼りになる馬鹿だからだ。

 

「っと、見えた見えた」

 

 そんな事を言っている間にグランツ研究所の外に歩いている大小、二つの姿が見えてくる。特徴的なのが二つの姿共に緑髪をしているという事だ。大きい姿―――男の方は飾りっ気のない無地の白いシャツに黒のズボン、小さい姿、少女の方はそれとは変わってブラウスとスカート、胸元と髪に小さくリボンをつけているのが見える。クラウス・イングヴァルト。そしてアインハルト・イングヴァルトの兄妹だ。相変わらずクラウスの妹をやっているアインハルトには心の底から同情したくなる。小さく控えめに手を振って来るアインハルトに手を振り返すと、十数秒もたたずに二人の姿がグランツ研究所の前に、そして入口を抜けてこっちへとやって来る。

 

「こん―――」

 

 挨拶をしようと口を開いたアインハルトに被る様にクラウスがいい声で言った。

 

「殺しても良いレベルで殴れる環境があると聞いて」

 

「あ、この馬鹿がクラウスです。苦労している方がアインハルトで」

 

「あ、うん。君達の言いたい事は大体わかった」

 

 グランツがクラウスの発言で大体どういう人間かを察した。こういう事を直ぐに悟る辺り、やはり、とグランツの事を思う。それよりもまずはアインハルトへと片手をあげながら挨拶を返す。

 

「や、アインハルトちゃん。今日もクラウスの妹をお疲れ様」

 

「いい加減兄さんとは縁切りして別の家の子になりたいです。イストさん、イストさんのご両親は養子縁組とかできませんか」

 

「俺の両親ならヴァチカンで鬼ごっこだよ」

 

「改めて聞くと君の家族ってエキセントリックすぎてちょっと常識じゃ測れないところがあるよね」

 

 事実は事実なのだから仕方がない。この間手錠を父親の手にはめている母親の写真がメールで送られてきた。ガチで捕獲に成功したのか、プレイでそんな事をやっているのか最近では良く解らなくなってきた。とりあえずは両親が生きているという事で納得しているのでそれ以上はどうでもいい。

 

「おいイスト、俺は本気で殴っても死人が出ない環境があると言われたから来たんだが……この白衣の男、一回でも殴れば首の骨が折れるぞ」

 

「兄さん、その蛮族マインドやめましょうよ。最近では兄さんの痴態に対して羞恥心を超えて子供を見る様な母性を感じつつあるんですから」

 

「じゅ、重症だねこれは」

 

「博士、実はこれまだ序の口なんですよ」

 

 グランツもティーダも声が震えていた。気持ちは解らなくはない。脳筋覇王クラウス、その”伝説”の絶頂期、ピークとでも言うべき時代は出会った中学生頃だった。おそらく自分もティーダも、そしてクラウスも一番馬鹿だったころの時代。判断するための知識や知恵が足りなかったり間違ったりで、今の様なストッパーや良心なしにフルスロットルで前進し続けていた若き中学生時代。できるならあの暗黒期には二度と戻りたくはない。

 

「まあ、後三人来るはずだからクラウスはもうちょっと待っててくれ。たぶんというかお前なら確実に気に入る筈だから」

 

「ふむ、貴様がそう言うならそうしよう」

 

「なんで腕を組んで頷いて無駄に偉そうなんでしょうね、この兄は……あ、あとヴィヴィオさんとジークリンデさんからさっきメール貰いましたけど、二人は急用ができたらしいので今日は無理らしいです。今日は誘ってもらって申し訳ないですが、後日来るそうです」

 

「あちゃぁ……」

 

 まあ、急用ができてしまったのであればしょうがない。せめてオリヴィエが来てくれるだけでも御の字としよう。というよりメインはクラウスではなくオリヴィエとアインハルトなのだ。誰が野郎をメインになんて据えるものか。やはり美女、美少女が一番に決まっている。というわけで、クラウスはあくまでもオマケでしかない。アインハルトのオマケだ。

 

「イスト、貴様は今、俺に対して失礼な事を考えていなかったか」

 

「寧ろ考えない理由あるのか……?」

 

 その言葉にクラウスは腕を組み直し、考える様に首を捻り、数秒間考えるようなしぐさを取ってから視線を向けなおしてくる。

 

「何時もの事だったな。ならば良し」

 

「なんというか……ホント、っと、その……エキセントリックだね?」

 

「博士、別に言葉を選ばずに変とかキチガイとかって言っても問題ないんですよ。彼自身、自分が変人の類である事は自覚しているようですし」

 

 ティーダがそう言ってクラウスへと視線を向けると、クラウスが頷きつつサムズアップを向けてくる。そんなクラウスの姿に誰もが軽く溜息を吐いていると、グランツ研究所の外に新たな人影が出現するのが見える。其方の方へと視線を向ければ、上品な白のワンピース姿のオリヴィエが外にいるのを見つける。外から手を振って来るその姿に手を振り返しつつ腕時計で確認する時間は既にクラウスとアインハルトが到着してから三十分近くが経過している事を示していた。あんまり時間を消費していない様に思えて、実は割と時間を消費していたことに驚きつつも、研究所内へとやって来るオリヴィエへと頭を下げる。

 

「遅れてすみません。本当はヴィヴィオ達を連れて来るはずでしたけど……」

 

「あ、オリヴィエさんこんにちわ。先に到着したので伝えておきました」

 

「あ、そうでしたあ。ありがとうございます。えっと、そちらの方々は初めての方々ですよね。イストさんとティーダさんと同じ大学に通っている者でオリヴィエ・ゼーゲブレヒトと申します。微力ながら手伝えることがあると聞きましたので、本日は宜しくお願いします」

 

 ぺこり、と軽く頭を最後に下げたオリヴィエの姿を驚愕と共にグランツは見てから、クラウス、ティーダ、そして此方へと視線を向けた。

 

「君達はどこまで私を驚かすんだ」

 

「博士、それってもしかしてまともな友人はいないって思ってた、って言ってるんだよね」

 

 あんまり間違ってないからそれ以上は言い返せない。今の所友人、と言える関係でまともなのはアインハルト、そしてオリヴィエぐらいなのだ。だから多少こういう顔をされたり、言われたりされてもしょうがない―――しょうがないのだ。一番自覚しているのは自分なのだから。だからと言って改善しようとする気は皆無なのだが。

 

 ともあれ、既に見知っていたアインハルトはともかく、まだ初見のクラウス、そしてグランツが握手と名前を交わしあい、そうやって全員がお互いを把握する。ここで漸く本来の目的というか、この集りの意味を開始することが出来る。だから移動をする前に軽くスペースを作り、グランツが話しやすいような環境を作る。

 

「えーと、改めてこんにちわ。私がこのグランツ研究所の所長、グランツ・フローリアンだ。おそらく君達は知っているかもしれないけど、一応それなりの有名人、というやつだよ。まぁ、それで既にイスト君とティーダ君は知っているし手伝ってもらったけど、私はジェイル……あぁ、ジェイル・スカリエッティの事なんだが、彼と共同で”ブレイブデュエル”というゲームを開発することに成功したんだ。今日はそのロケテストの初日なんだ。テスト出来る人員が多い方がデータが取れて助かるからこうやって友人を集めてもらったんだけど……ここまでいいかな?」

 

「質問、良いか」

 

 そう言って声を挟んでくるのはクラウスだった。アインハルトが余計な事を言わないかどうかに見張られつつも、クラウスが言葉を告げる。

 

「俺はイストに全力で体を動かせるゲームがあると聞いて来たんだが、一体どういう事なんだ?」

 

「うん、良い質問だね。さて」

 

 クラウスの質問にグランツは一旦言葉を置いてからポケットに手を入れ―――そこから一枚のカードを取り出す。それには白衣姿のグランツの姿、数字や文字、そして大きく”N”の字が書かれている。それを見せる様に持ち上げつつグランツは話を続ける。

 

「私達が開発した”ブレイブデュエル”というのはこのカードと幾つかの機械を使って遊ぶものなんだ。手順とか難しい話を全て抜いて話をすると、このカードのステータスを反映したヴァーチャル空間で君達は自由に動き、戦ったり遊んだりすることが出来るんだ」

 

 それに補足する様にティーダが口を開く。

 

「ちなみに言うとこのVR空間は何度も僕やイストで経験している。そして断言するけど現実と全く違いがない。体は自由に動くし、現実で出来る事はこのVR空間でも100%の再現度で再現することが出来る。それだけじゃなく、カードのステータスを反映しているから現実よりももっと強い力や速さで動き回ることだって出来る」

 

「勿論流血表現や痛覚の類は法律に抵触する部分があるからそこは排除させてもらっているけど、それ以外では現実と遜色の無い空間を再現している。ビルや道路、木が壊れた時だって現実で壊れる場合の様な壊れ方をするし、不自然さは極限まで消し去っている。それこそもう一つの現実と言っても良い位に」

 

 そこまで喋ってからグランツは言葉を止める。それは今、グランツが口にした言葉を飲み込むための時間だ。ジェイルとは違って、グランツは基本的に優しいタイプだ。情報を呑み込むのが必要というのを理解し、レクチャー等をする時はそう言う情報を呑み込む為の”間”を用意してくれる。

 

「基本的には個人やチームでのPvPを想定しているゲームになっている。空を飛んだり、武器を持ったり、魔法を使ったりスキルを発動させたり、とね。でも勿論そういう暴力的なのが苦手な人がいるのも知っているからスポーティングモードだって用意してある。とにかくこのブレイブデュエルの世界の中では”現実以上”に自由が約束されている。それは間違いなく保証する」

 

 さて、ともう一度、グランツが言葉を置く。

 

「質問はあるかな?」

 

 その言葉に反応してクラウスが頷く。

 

「―――つまりは全力で暴れられる場所があるという事か……!」

 

「え、あ、うん。そういう事だね。うん」

 

 どうやらグランツも、早くもクラウスの扱い方を覚えたようであった。

 

 ほんの少しだけ、先行きが不安だった事は誰も隠せなかった。




 ジークリンデ・エレミア(15) 将来はヒモになりたい

 クラウス? 騎士道教わらなかったことが致命的だったんじゃないかなぁ(メソラシ
 たぶん騎士道とか帝王学とか責務を覚える前にアメリカの大自然に触れてしまったのが原因なのだろう。彼もまたベルカァなアメリカの犠牲者だったのだ……。

 なお一番の犠牲者はその妹の模様
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