壁にも思える人の合間を抜けながら前へと向かって進んで行く。集客の数が予想外だったのか、観客席に座れる人数を超えるだけの来場客が、今日はいる。そしてそのせいで立ち身に回っている客までいる始末だ。試合に出場していないスタッフや、敗退しちゃったショッププレイヤーは今忙しく働いているらしい。そんな事を自分は気にする訳でもなく、隙間の間を縫う様に、プラスチックのトレーの上の物を零さない様に注意しつつ進み、観客席の最前列にスペースを確保している友人達の所へと到達する。椅子に座っている友人二人が此方の姿を見かけると、手を振ってくる。気を付けながらも少しだけ速度を上げて、滑り込む様に友人の隣へ、
ジークリンデとヴィヴィオの間の席へと座り込む。やっぱりどんな腐れ外道やキチガイであれ、友人の隣の方が安心する。いや、決して寂しさを感じている訳ではない。ただやっぱり知っている人が近くにいる、というのは安心を抱かせてくれるのだ。という事で運んできたLサイズジュースの二人分を私、自分の分のLサイズジュースと三人で分け合うXLサイズのキャラメルポップコーンを膝の上に乗せる。スカートが少し汚れてしまうかもしれないが、まあ、そこらへんはしょうがないと思う。
何せ、今日は祭なのだから。
「間に合いました?」
と、言いつつも正面のステージにあるスクリーンを確認する。どうやら現在はBブロックの最終試合の途中だった様だ。しかし戦いもクライマックスに突入しているようで、ヴィクトーリア・ダールグリュンとディアーチェ・K・クローディアによる戦闘が激しさを増していた。スクリーンに映し出されている二人のLP値はどちらも底をつきそうな状態に突入している。自分が取りに行く前はAブロック最終試合だった筈なので、シュテル・スタークス対謎の美少女艦長Rの試合が気になるのだが。
「Aブロックからはシュテルさんが勝ち抜けー。謎の美少女Rさんのアースラ召喚を妨害する為にシュテルさんが最初にパイロシューターを多重展開させて召喚条件である”動かない事”を妨害しようとしたんだけど、それが決まる前に謎の美少女艦長まさかのインファイト。そっから打ち上げーのバインドしてーの、アースラ召喚。今回アルカンシェル見れるかなぁ、とか思ってたらまさかのフルドライブモード特攻バリアブレイクで食いしばってアースラを内部から爆発させて、逆にアースラを利用したアースラ落としへチェーン。謎の美少女艦長R……もうめんどくさいからリンディさんでいいや……えーとリンディさんが≪フルブロック≫でガードしようとしたら残骸貫通してルシフェリオンブレイカーを効力切れるまで掃射し続けて死亡」
「謎の美少女艦長R……一体誰ハラオウンなんや……」
「アリシアって泣いている子もいるんですよ」
多分泣いていないどころか爆笑しているだろうが。しかし順当というべきか、シュテルがAブロックは進出となったらしい。しかしここまで来た選手たちは誰もかれも”奥の手”を少しずつだが見せている感じはする。決戦のCブロックや衝撃のDブロックもなんだかんだで今まで見たことのない手札が見え隠れしていた。きっと、それはトーナメントが進めば進むほど明確に、そして苛烈になるだろう。
ともあれ、今はヴィクトーリアとディアーチェの試合だ。
「で、ヴィクトーリアさん達は?」
「二人とも基本的には範囲殲滅系だから序盤は範囲殲滅魔法のラッシュ。どっちが多く展開し、処理できるかって勝負になるけど紫天の書でカードを大量展開できるディアーチェが二歩先に進んで最初のヒットを達成」
「そこからヴィクターが接近戦に持ち込んだんよ。このランク入るとリザレクか食いしばり、或いはフルブロックを持ち込むのが普通になって来てるやろかね、フルブロりながら殲滅魔法を突っ切ってそのままディアーチェに接近、元々ヴィクターってウチと軽くなら殴り合えるだけのセンスはあるし、殲滅魔法食らって減った分は逆に接近戦でイーブンまで持ち込む。んで今、バリアブレイクでディアーチェが距離取ったとこやな」
再びスクリーンへと視線を戻す。ボロボロ、そしてバリアジャケットが解除されたディアーチェが紫天の書から大量のカードを取り出す。それは溢れ出す様に、零れだすように紫天の書から出現し、そして水の様に大地へと向かって流れて落ちて行く。それが燃え上がり、そして塵となって消えるのと同時に、ディアーチェの周囲を炎が出現し、まるで檻の様に展開する。回転しながら展開する炎を睨みながらヴィクトーリアが雷鳴を纏い、
正面から突っ込む。
「んー、ヴィヴィオちんならこの場合どうする? ヴィクター視点で」
「ワンオフスキルなしの話で言うなら幻影系の魔法で隠れてなるべく遠くに隠れる。。接近戦が得意って手札は切ったからディアーチェも近接と範囲攻撃を警戒する。だからそれを逆に利用して遠距離狙撃で引き撃ちする。逆にそっち警戒し始めたら接近戦に持ち込む」
「素晴らしくロマンの欠片もないガチ戦法やわぁー……ハルにゃんならこの場合どうするん?」
「私も幻影魔法で姿を一時的に姿を隠しますけど、逆に接近ですかね。話を聞いた感じ接近戦であれば圧倒できる感じですし、一度接近できれば後は流れに乗せることが出来そうです。問題は接近を成功させるところですから、そこらへんは個人の技量を交えた話になりますね。私個人の話だったらまず成功できますけど」
「ハルにゃんって割と自信家やよね」
サムズアップをジークリンデに返しつつポップコーンを食べる。やっぱ映画を見る感覚なのでキャラメル味で正解だったなぁ、なんて思っているとヴィクトーリアが炎の檻を正面から強引に粉砕突破する。その向こう側に浮かんでいたディアーチェが既にバリアジャケットをリライズしなおす事で新たに纏いなおしていた。接近してきたヴィクトーリアにバリアブレイクを叩き込む事で距離を開けようとし、
「ここで強引に距離を開けてジャガーノートですかね」
「うーん、ヴィクトーリアさんが一枚上手かぁ」
バリアブレイクを叩き返す事でバリアブレイクを相殺した。そしてそのままディアーチェを片手で掴むと雷撃を集中させながら大地へと向かって加速し、衝突。そのまま荒野のフィールドを粉砕する様に岩塊を破壊しつつ雷鳴と共にヴィクトーリアが超高速で疾走する。ディアーチェのLPが粉砕されるのは一瞬だった。
「これでBブロックも終わりかぁ」
Bブロックの最終試合が終了し、試合の終了したヴィクトーリアとディアーチェがステージの上に出てくる。アリシアとティーダがMCを進め、派手な勝負を見せた二人に対して称賛の声と拍手が浴びせられる。惜しい所で負けてしまったディアーチェは若干悔しそうな表情を浮かべるが、すぐさまそれを解いてヴィクトーリアと握手し、二人でステージの奥の方へと消えて行く。
「ついに終わっちゃいましたね……Bブロック……」
「なんというか既にスタンバイ済みなんかね、あの二人。ステージの裏辺りから垂れ流しの闘気とか殺気とか感じるんやけど」
「確実にスタンバイ完了してますね、この感じ」
アチャー、な感じに可愛らしく頭を叩いてみるが、気配が気配なので何にも助けにならない。久しぶりに渾身のボケのつもりだったか、気配を感じられる人間からすればこんなもんですよね、なんて思いながら視線をステージの上へと向ける。なんだかティーダの目が若干死んでいるような気もするが、そう言えばティーダもティーダで付き合いが長いし、あんな近くにいるのならダイレクトに伝わってくるよね、と納得し、
「合掌」
「笑える」
「他人の不幸でコーラが美味い」
観客席は安全圏なので。たぶん。なのでティーダの不幸で楽しんでおこうと三人で結論付ける。そうやって誰かの犠牲で笑えている間は此方が苦労しなくて済むのだ。……今度、何かお詫びでクッキーでもプレゼントすべきか。
そんなくだらない事を考えていると、ステージの上に、二人が上がってきた。スピーカーを通してアリシアとティーダの震え声が会場に響いてくる。
『Cブロック最終試合はイスト・バサラ選手にクラウス・イングヴァルト選手! 両選手とも第一回戦と予選では圧倒的実力差を見せてきた超実力派のプレイヤーですよ! 文字通りなんでもアリのバサラ選手に対してスキルなんていらない! 拳以外の武器は一切使わない最強のグラップラーイングヴァルト選手です! そういえばランスターさんって二人とは幼馴染でしたよね……ランスターさん? どうしたんですかお腹を押さえて』
『ステージの両端から放射される殺意の波動でちょっとぽんぽんが痛いだけだから大丈夫だよ。というかおい、お前らどうせ一言も喋らないというか口開いたらぶっ殺す以外の言葉でないだろう。おら、ちょっとインタビューするぞ』
「ティーダさんやさぐれてる……」
「アレはしゃーない。事情知ってる人間なら誰だってやさぐれる」
「それな」
ステージの上でティーダがイストの方へと移動し、ティーダがマイクをイストへと向ける。イストがそれを片手で受け取り、そして持ち上げ、
『ぶっ殺す』
『おう、マイクがミシミシいってるから早く返せよ』
素早くマイクを回収したティーダが今度クラウスの所へと向かい、そしてマイクをクラウスへと向ける。それを取ったクラウスは、口を開く前にマイクを握りつぶしてしまい、その残骸をステージの上へと捨てる。それを見て、両手で顔を覆う。
「……後で弁償しに行ってきます」
「お疲れさん」
……多分兄の事ですから、良く考えずにテンション任せに握ってしまっただけなんでしょうね。こういう時に限って妙な罪悪感を抱いているのが微妙に小市民っぽいというかなんといいますか……。
既にこの事態を見越してスペアマイクを用意していたのか、素早くマイクを取り出したティーダが男を二人ともさっさとシミュレーターの中へと叩き込み、汗をハンカチで拭きながらアリシアの横に立つ。アリシアは軽くうん、と言いながら頷き、
『さて、これで両者シミュレーターの中に配置しましたね。おそらく現在はデッキのセット中でしょう。では付き合いの長いランスターさん! ズバリ! 今回の勝負はバサラ選手か、イングヴァルト選手か、一体どちらが勝つと思っていますか?』
一番気になる所を容赦なくアリシアが聞いてくる。これ、ティーダには若干辛い質問なんじゃないだろうか、と一瞬思うが、ステージの上でティーダは小さく笑うと、あっさりと答える。
『8:2の確率でクラウスかなぁ。クラウスはスペックに技術が揃っていて、しかもちゃんと経験がある。その上でアレは一切の油断や慢心を抱かない。一度経験した事のある状況だけじゃなくて、自分の理解の及ぶ範囲であれば全てに対する対処法を予め頭の中に叩き込んでおくんだ。普通はめんどくさがって超パワーファイターとしての姿しか見れないけど、本気になれば違う。拳という武器。殴るという動作であらゆる状況、あらゆる動き、あらゆる罠に対する対応を完成させてしまうんだ。それ以外にも必要だと感じれば普段は使わない手段や物にさえ手を出す冷静さもあるし。いや、まあ、拳だけの方が強いんだけどさ……。だからイストの勝率が二割ぐらいかね。イストの勝算はクラウスの理解をどれだけ超えられるかだろうけど―――』
そこでティーダは一旦言葉を止め、
『この世で一番実力に関してお互いを認め合っているからね。全く新しい何かをしても”お前ならその程度簡単にやるだろ”って信じ切ってるかもしれない』
『新手のヒロインですか?』
『時々思う事だけどあの野郎が女だったら間違いなく最強だったと思う』
「あー……なんか納得できそうだけど認めたくないこの感じ……!」
「最大のライバルが男……?」
「そこ、ショック受けんなや」
どうやらイストとクラウスのスタンバイが終了したらしく、スクリーンには今回の決戦のフィールドとなるらしいミッドチルダステージが表示される。ステージの上に立っていたティーダとアリシアも実況席の方へと移動し、実況の準備に入る。もうそろそろ始まるのか、と現在の状況を再認識しながら改めて思う。少々複雑だな、と。なんだかんだ言って改善されるような事は”ない”のだ。どちらが勝っても、今まで通りの馬鹿な日常と関係が戻ってくるだけで、後悔にどうやってケジメをつけるか、それだけの話なのだから。
だけど、そんな話にこういう風に持ってくるのがやはり自分の知るあの二人らしいなとは思う。
「ミッドチルダステージですかー。アレって地味に近接系だとビルが邪魔になって動き難いんですよねー。特に格闘系統だとビルの陰に隠れたり、屋内に逃げ込まれると非常に厄介な感じで。いや、まあ、ハルにゃんのモンスター・ブラザーさん直感で居場所割り出すぐらいするでしょ」
「百パーセントの的中率で出来ますね。アレって偶に未来予知してない? って疑う事があるんですけど経験と傾向から来る予測も組み合わせているから精度高いんですって」
「あ、ログインしたで」
クラウスとイストがフィールドにログインする。ログインするのと同時に二人がリライズをし、そして完了させる。クラウスは何時ものバリアジャケット姿で、イストも姿は何時も通りのデフォルトのバリアジャケット姿だ。しかしビルの上に着地するのと同時にイストは銃―――ティーダのデバイス、タスラムを取り出し、それを握りながら前へと向かって全力で疾走する。それはクラウスが全力で疾走するのと同時であり、そして向かってくる方向であった。
お互い、目視すらしていない筈だが、直感だけで居場所を把握しあったのだろうか。
そんな事を思っている数秒の間に、クラウスとイストが一キロメートルの距離までに接近する。牽制する様に放たれる弾丸をクラウスが掴んで破壊し、イストがタスラムを投げ捨てる。
そして、二人が接近する。八百、七百、六百メートルと素早い動きで距離が刻まれて行く。二人が接触するまでにはあと数秒もいらない。一瞬で終わる。その認識にポップコーンへと伸ばす手は止まり、そしてジュースを握る手に力が入る。食い入るようにスクリーンへと集中を向け、そしてこれから始まるであろう頂上決戦を見る。
三百、百メートルと接近し、このまま打撃戦に入るのか、
「ぶつかる!?」
「いえ―――イストさんの手!」
おそらく五十メートル距離、そこでイストの手が動く。それは拳を握る為の動きではなく、何かを捨てる様に動かす手の動きだ。それを会場のスクリーンが捉える。それは小さく、ヒラヒラとしており、バリアジャケット、そのコートの内側に隠すようにし伸ばされていたのを動きによって落とされ、発動しようとしているものだ。カメラが注視する事で確認できるそのカードは複数存在する。その内容は、
≪龍魂召喚≫≪瞬間召喚≫≪破滅召喚≫≪サクリファイス≫そして―――
『―――俺ごと薙ぎ払えぇぇぇぇ―――!! はぁーっはっはっはっはっはぁ―――!』
「うわぁぁ、私のヴォルテールが寝取られたああ―――!?」
スピーカーからイストの絶叫が響いてくるのと同時に、会場のどこからかそんな少女の絶望する声が聞こえてくる。同時にピンクざまぁ、なんて声も聞こえてくる。
しかしそんなコントとは裏腹に、ミッドチルダの上空に巨大な黒い竜が出現する。それこそビルよりも巨大であり、一瞬で街を吹き飛ばせそうなほどの巨体を持つ竜―――ヴォルテールだ。しかし使用されたスキルカードの構成は瞬間的な、そして本来のスペック以上の”無差別”な攻撃召喚。
ミッドチルダの上空に出現したヴォルテールがその登場と共に一瞬で半径二キロ程はあるであろう火球を生み出し、それをノータイムで、
イストとクラウス両名を呑み込む様に放ってヴァルテールが消えた。
炎と破壊、そして灼熱の地獄によって戦いの幕が明けた。
初手自爆でどっかの魔王を思い出す。
クラウスは剛拳タイプ。イストが柔拳タイプ。世紀末覇王決定戦にも見えてくる不思議。ヒロイン? あぁ、アイツは良い奴だったよ……。
というわけで二人の勝負は下手に話数を分けずに次回で終わらす予定なので、ちょっと長くなりそうですが、それで第二部はクライマックスで御座る。