イノセントDays   作:てんぞー

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逃げられない

「……!」

 

 また今日もブレイブデュエルで戦いを繰り広げてからシミュレーターを出ると、足元に小さい二つの姿を目撃する。それらはサイズで言えば少し大きめの人形程度のサイズしかない。しかし完全に自立し、独自の進化AIを持って動き回るぬいぐるみの様な小型ロボットを”チヴィット”と呼ぶ。基本的にグランツ研究所に所属する三人娘をモデルとしたのが最初に作られたのだが、グランツとジェイルの悪ノリの結果、時間をかけてだが他の有名プレイヤーのチヴィットも作られる様になり、それぞれの店にお手伝いの様なポジションで配布される様になっている。今、自分の足元にいるのは赤いコート姿の赤毛のチヴィット―――イストをモデルとしたチヴィット、イスちょとかいうやつだったりする。

 

 このチヴィット達は人の言葉をしゃべる事が出来ないが、理解するし、そしてそれぞれが性格が違う為、身振り手振りで表してくるそ性格やコミュニケーション方法は見ているだけで飽きなかったりする。ともあれ、シミュレーターの外に出ると足元にはイスちょがいたりする。この子はモデルとなった人物とは違って割といつでもいてくれるタイプというか、帰る時となるとエスコートしてくれたりする良い子だったりする。

 

「いや、まあ、責めているわけじゃないんだけどねー……」

 

 姉、オリヴィエの事を考えて態々暁町から離れたイスト。それだけではなく此方が目撃する回数すら減っている。最近というかここ数か月こそこそ何かしているんだろうなあ、というのは解る。そしてたぶん、このチヴィットがそんなふがいないモデルの代わりに付き合ってくれているのも。まあ、チヴィットに免じて許してやるとしよう。ともあれ、時刻を確認すると既に昼頃だった。今日はアインハルトもジークリンデもいないし、海鳴ガールズはさっそくT&Hでチームを組んで練習中らしい。というわけで自分は完全ソロで、全国ランダムマッチでちょっと蹂躙してきたばかりだ。

 

 そろそろお昼にするのも悪くないだろう。

 

「んじゃお昼にしよっか」

 

「……」

 

 イスちょが腕を組んで頷く。どうやら賛成してくれているらしい。これを見ているとホント、モデルの方はどうしているのかと聞きたくなるものだが、きっとどこかで馬鹿をやっているのだろうと結論付ける。

 

 とりあえずT&Hの購買コーナーへと行く。勿論デュエルスペース横のレクリエーションエリアのだ。そこでは軽食を購入する事が出来る。本当は余り良くないのかもしれないが、ハンバーガーとジュースにポテトを購入し、直ぐに店員が運んできたそれを近くのテーブルまで運び、一人―――と一機で黙々と食べる。このチヴィット、感情表現が意外と多く、此方が食べている姿を見ていると実に羨ましそうな視線を向けてくる。

 

 とりあえずポテトを一つ差し出してみる。イスちょの顔が輝き、それを受け取ろうとしたところで手を引き、掴めないようにする。チヴィットの体が前に倒れ、再びポテトを眺める。その姿に再びポテトを近づけ、そして触りそうなところで引っ張って自分の口に運ぶ。ころん、とテーブルの上に倒れて動かない、意気消沈のチヴィットの姿を見て、背筋にぞくぞく、と来る感覚を自覚する。

 

「貴女、物凄い邪悪な笑みを浮かべているわよ」

 

 その言葉は聞きなれている日本語ではなく、それ以上に聞きなれている英語だった。

 

「ハッ!?」

 

 軽く涎まで垂らしていたくさい。素早く唇の端を拭きながら視線を横へと向けると、オレンジ色の髪の少女が此方へとジト目を向けているのが見えた。初めて見る子だが、どこかで見たことがある気がする。記憶を洗うのは一瞬、一度見た事、覚えた事は絶対に忘れない超便利なゼーゲブレヒト式の体質のおかげで、この少女が一体誰なのかを一瞬で思い出す。

 

「もしかしてティアナ・ランスター?」

 

「あれ、私達顔見知りだったっけ?」

 

「いや、貴女のお兄さんとその友人達との友達なので」

 

「我が一族の恥部が大変申し訳ない事をしました……」

 

 知り合いと言った途端このリアクションなので、よほどティーダに関しては信用がないのだろう。ともあれ、目の前の少女―――ティアナは年齢で言えばどちらかというとアインハルトに近いっぽい。少なくとも肉体と骨格の成長具合からして大体ソレぐらいだと憶測できる。となると自分よりも年上かぁ、なんてことを思いつつどうぞどうぞ、と目の前の席を指差す。

 

「じゃあ遠慮なく……えーと」

 

「ヴィヴィオだよ。ちゃんでもさんでも様でもヴィヴィオさん様でもいいよ」

 

「さん様のチョイスは一体どこから……? とりあえずウチの馬鹿兄を知らないかしら。冬は一度実家の方に帰ってくるって前々から言ってたんだけど返ってこないどころか連絡も入れないから一家の代表で直接見に来たんだけど」

 

「こういう場合って両親が来るもんじゃないの?」

 

「ウチのお父さんは”銃を所持出来ない国とかマジナイワー”とか言ってアメリカの外へ出ようとしないのよねー」

 

 どうして、こう、エキセントリックな人間の周りにはエキセントリックな連中ばかりしか集まらないのだろうか。いや、自分は超真っ当なのでそこらへん物凄い困惑している。超真っ当だから。ともかく、ティーダからは何度も聞いた事のある”愛しの妹”という存在は確かに美少女カテゴリーながら、何処にでもいる普通の、少し苦労していそうな少女だった。まあ、家族に愛に注ぐ理由はいらない―――らしい。少なくともゼーゲブレヒト家に家族だから愛を、なんて言葉は存在しないし概念自体がない。というか愛なんて言葉自体ないのではないのだろうか。

 

 まあ、なんだかんだでこの娘、ティアナは兄に愛されている。それは羨ましい話だ。

 

 今の自分はちゃんとオリヴィエに家族として愛されているからそこまで嫉妬する話ではないが。それでも、アインハルトがクラウスに思われている所を見る光景は、言葉に出来ないが少しだけ嫉妬していたことはある。

 

「で、シスコンに会いに来たんだっけ? シスコンだったら大体暁町のグランツ研究所で仕事しているよ。大学辞めて就職しているし、順調に人生のステップアップに成功しているんじゃないかなぁ―――馬鹿だけど」

 

「ごめん、大学辞めた事も就職したことも初耳なんですがそれ」

 

 そう言えば馬鹿コンビが大学を辞めた時、かなり軽いノリで大学を辞めました、と叫んで次の日頭を抱えていたがアレ、完全にノリの所業だったのだろうか。だったら報告できないよね。……確実に出来ない。

 

「家族会議案件不可避」

 

「その邪悪な笑みを止めなさいよ」

 

 イスちょの顔を人差し指で突っつきながらもう片手でハンバーガーを食べ、そしてポテトをティアナへと差し出す。勿論、このチヴィットにやっている様ないじわるは一切しない。ティアナも普通に感謝して食べる。食べられないのはイストをモデルとしたこのチヴィットだけだ。目が潤み始めているようにも見えるが、そんな事は気にせずにイジメは続ける。こう、自分よりも弱い存在は良い様にするのは非常に気持ちが良い。きっとなのはも砲撃には同じような快感を見出したのだろう。

 

「そういえば日本に来て驚いたけど、ウチの馬鹿トリオって結構な人気なのね」

 

「数か月前にトリオからカルテットへとランクアップして事故率が増えているけど、初期メンバーの三人は元気だし人気というか有名人よ。主に悪い意味で」

 

「身内が本当に申し訳ありません……!」

 

 そのまま頭を下げてしまいそうなティアナをまあまあ、となんとかおさえて落ち着かせる。しかし、こんな事をやっていると最近自分のヨゴレゲージというか人間ヨゴレ度というか、そういう感じのものが一気に減っている気がする。たぶん原因はオリヴィエのポンコツ化に間違いがない。昔はしっかり者の真面目ちゃんだったオリヴィエ。その頃であれば無責任に振る舞う事もできた。しかし現在、螺子が一本どころか五本ぐらい外れてしまって普通のポンコツ系女子になってしまったオリヴィエは違う。アレは一人にしておいては駄目なのだ。

 

 昔の様な超人的な集中力、アレを維持する事はおそらく無理だろう。

 

 なんだかんだでこの賢妹がサポートしないと駄目なぐらいにはあの姉はポンコツ化してしまっている。そのせいで最近、フルでギャグ、というかヨゴレ系に入れていない気がする。スタンスで言うとアインハルトに近い感じがする。こう、姉をぞんざいに扱いつつもなんだかんだで世話を焼いてしまうような―――というとレベル的にオリヴィエのレベルがあの馬鹿覇王と同レベルになってしまう。

 

 オリヴィエ、地に落ちたり。

 

「ねえ、貴女って定期的に邪悪な表情を浮かべないといけない病気にでもなってるの……?」

 

「その妙に納得している表情をやーめーてーよー」

 

 青筋を浮かべながらも昼食を食べ終わる。まあ、なんだかんだで総合的には”あの連中の家族”という感じの印象にとどまった。まあ、特筆して注意すべきものがない、ともいう。ともあれ、お昼を食べたところで、そろそろ帰るべきという気持ちが出てきた。珍しい出会いがあったものだし、それをネタにオリヴィエと―――姉と交流するのも悪くないかもしれない。

 

 まあ、なんというか家族コミュニケーションというやつだ。真面目になって考えてみると姉と一緒に生活はしているが、真面目に一対一で正面から話し合ったという機会が存在しない気がする。同じ時間を過ごす事はあっても、正面から向き合う……そういう事は果たして普通にある事なのだろうか? 自分が特殊な環境で育ってきたのは良く解っている。

 

 だから、思い至ったら即行動。

 

「うっし、なんか最近裏切り行動が目に余る姉を粛清する為にもそろそろ家に帰ろうかな。あ、君のお兄さんがいるグランツ研究所へはこの近くのバス停から行けるから適当に道を聞きながら行けば迷わないと思うよ。ナンバー56で”グランツ研究所前行き”って日本語で書いてあるから」

 

「うっ、日本語あんまり出来ないのよねー……」

 

 勿論、今までの会話は全て英語で行っている。だから周りは今の会話の一切を理解できないだろうが、T&Hにはリンディやプレシアがいる。彼女たちならネイティブレベルで英語を離す事が出来るから一切問題ないだろう。そんな事を思いつつ余ったポテトを全てイスちょにあげて、それ以外のゴミを全てトレイに乗せて捨てる。

 

 それが終わったところで背を向けて、軽く手を振って去って行く。ティーダは知り合いで、ティアナは知り合いの妹になるが、さすがに自分の自由時間を潰してまで案内する程の義理は―――まあ、ある。あるけど、なんだか無性に姉と話がしたい。なんとも他愛のない当たり障りのない普通の姉妹の会話をしたい。たったそれだけ、端から見れば本当にどうでもいい話だが、重要なことかもしれない。いや、そんなことはないのだろうが、ともあく、そういう気分なのだ。だからしょうがない。

 

 ティアナには心の中で頑張れ、と軽くエールを送り、ティーダに死ねと心の中で呪っておく。

 

 そんな事をしつつT&Hの外に出る。そこで真っ先に感じるのは冷気だった。やはり冬は寒い。しかし日本という国は四季がはっきりしており、それら全てを快適に楽しめるのだから素敵な国だと思う。

 

「はぁー……さむさむ」

 

 手に暖かい息を吹きかけながらも雪で白くなった道を歩く。一歩一歩の足取りは割と軽い。歩法とかそういう問題ではなく、心の問題としてだ。実家からのうるさいコールはあるが、ほとんど絶縁している様なものだし、ここでは楽しい生活を遅れている。友達はいるし、漸く姉と呼べるような存在が出来たし、好きな人もいる。やりたいことがあって、挑戦できることがあって―――ゼーゲブレヒトにいる間は絶対できなかった全てがこの場所には揃っている。

 

 ―――なのに。

 

「なんで邪魔するかなー……」

 

 正面、視線の先には黒服にサングラスをかけた姿の男がいる。あからさまにこの雪の風景に似合わない男だ。そして何よりも最悪なのは見ただけでその目的と、そして相手が実力者である事が解ってしまう事だ。いや、一人だけなら自分が技量だけで圧倒できる。

 

 ただ、気配は一つだけではないのだ。

 

 目の前に立っているほかにも右から、左から、そして後ろから出てくる気配を感じる。その数は確実に三や四、という生易しい数字ではない。確実にオーバーキルとも言える数字の人数が自分を取り囲む様に存在しているというのが視線を動かさずとも理解できた。

 

「―――ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒト様、本家の方へ連れ戻しに来ました」

 

「うっせぇセンスの欠片もない黒一色のクセして。黒服で統一するにしたってせめてイタリアンブランドのスーツ着ろよ。それ、どうみたって量産品のクズクオリティスーツじゃん。流石にドン引きだよ。もしかして女の子を迎えに来るのにそんな安物のスーツできたの? ねえ? だから結婚できてないんだよ」

 

「……」

 

 軽く罵倒入り混じった挑発をしてみるが、反応なし。駄目かぁ、と心の中で呟き、拳を構える。それを見た黒服達が懐から注射器を取り出すのを見る。こんなことをするんだからおそらく見られても良い状況なんだろう、今は。面倒くさい。

 

「多少乱暴でも構わん―――確保しろ」

 

「ほんと、なんで邪魔するかなぁ……」

 

 一人目が動き出すのと同時に、

 

 全ての呼吸を把握し、掻い潜り、

 

 そして正面の男の胸に絶招を叩き込んだ。

 

 ―――どう足掻いてもこの場に逃げ場はなく、過去とは向き合うことしか出来ない。




 姉がポンコツ化するせいで少ししっかりしてきた元ヨゴレ系。

 日本でこんな子として大丈夫か? とは思うけど黒服以上にトンデモな連中が海鳴や暁町にいる時点でもはや何も言えない。喋る動物達と比べたら黒服が日常的に歩いていても一切違和感ないや。
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