イノセントDays   作:てんぞー

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初作成

「―――さて、これがブレイブホルダーで、こっちがデータカートリッジだ。ブレイブホルダーはブレイブデュエル用のデッキケース、一応ベルトにひっかけて持ち歩けるようになっているよ。で、こっちのデータカートリッジが君個人のIDカードの様なものだよ。これをセットしないとブレイブデュエルで遊ぶことはできないから注意してほしい―――ちなみにだけど両方とも、今は無料配布期間中だから遠慮なく貰ってほしい。あ、クラウス君はそれを握り潰さないでね、壊れるところが想像できるから」

 

「うむ、了解した。言われなかったら耐久度を確かめるところだった」

 

「そこでさらっと耐久度を調べるって選択肢が出る辺りが実に脳筋覇王だよな」

 

「絶縁したい」

 

 アインハルトの絶望の声を頭を撫でる事でなだめつつも、到着するのは研究所内、ブレイブデュエル用に改築されたエリアだ。ブレイブデュエル用の大型シミュレーターやディスプレイのほかにカードローダーというターミナル等が設置されている巨大なスペースだ。そのエリア、カードローダーの前でグランツは解説する様に手の中にブレイブホルダーとデータカートリッジを握っている。既に両方とも、自分とティーダ以外の全員分が配布されていた。

 

 グランツはカートリッジをカードローダーに装着すると、カードローダーに出てくるスクリーンを見せてくる。

 

「えーと、まずは新品のカーリッジを繋げると、こんな風に個人情報の入力画面に入るよ。ここで身長、体重、性別、病気かどうか、あと連絡先を入力してほしい。この内、身体データに関しては解らなくても焦らないでほしい。この後で使うシミュレーターが自動でそこらへんのデータは採取してくれるから。じゃあなんで入力してるんだ、って言われると負荷軽減の為なんだよね。とりあえず画面を壊さないように入力して欲しいんだ。壊さないように」

 

「そこで何度も俺を見るのはやめろ。貴様、まさか俺がただの破壊者だとでも思ってないか」

 

 違うのか、という言葉をオリヴィエ以外の誰もが黙って飲み込んだ。オリヴィエは少し戸惑いながらグランツの横のカードローダーへと向かって行く。アインハルトもクラウスを無視してカードローダーへと向かって行く。これがギャルゲかエロゲであれば間違いなく誰を助ける、という選択肢が出てくるあたりだろうが―――紳士的に考えて個人情報入力中の女子に接触するとか人としてありえないので選択肢なんてなく、クラウスの所へと向かう。女子に関しては比較的に年齢の高いグランツの方が相手をしてくれるはずだ。アレぐらいの年齢だと妻子持ちだしセクハラ扱いにはならない筈だ。

 

 クラウスが使っているカードローダーを見ると、ちょうど身体のデータを入力し終わっていたところだった。それを確認しながら声を零す。

 

「はぁ……百八十九センチか。まぁた背が高くなってるなぁ、お前。体重も増えてるところ見るとまた筋肉増えてるな。やっぱ体鍛えていると違うなぁ」

 

「それでもまだ身長の方はお前の方が上だろう。確か前測った時から変わりがなければ百九十二だったか。まあ、肉体に関しては貴様よりも恵まれているから身長如きで負けていようともそこまで気にはしないんだがな」

 

「負け惜しみお疲れ」

 

 クラウスが睨んでくるので睨み返す。横から仲が良いなぁ、なんて声が来るが、基本的にこんなことがやれる相手はティーダとクラウスぐらいなのでやっぱり仲は良いんだと思う。というよりクラウスの事は馬鹿だと認めているが、一言も友だと思ってはいない、とは言ったことはない。つまりはそういう事だ。

 

「これはなんだ?」

 

 と、そこでクラウスに促されるまま確かめるとカードローダーのスクリーンにはスタイル選択の画面が表示されていた。簡単にスタイルの違いをクラウスに説明する。

 

「そりゃあスタイルだ。一応バトルものだからな、ブレイブデュエルは。スタイル分けされているんだよ。遠距離中距離がメインのミッドチルダ、近距離間接距離がメインのベルカ、そして若干トリッキーながらも全距離対応のインダストリー。こん中じゃインダストリーが上級者向けかねぇ。まあ、どのスタイル選んでもカスタムすれば―――」

 

「ベルカ、っと」

 

「あぁ、うん。だよね」

 

「そもそも俺には拳以外は何も合わんからこれ以外の選択はない」

 

「お前決闘で正々堂々と戦おうって言われて武器渡されたら開始直後に粉砕して殴り掛かるタイプだもんな」

 

「そっちのほうが強いしな」

 

「お前、ほんっとーに生まれる時代間違えてるよ」

 

 ともあれ、そんなこんなで馬鹿な会話を繰り広げていると、操作を続けていたクラウスが情報の入力などを終了し、カードローダーの方から五枚のカードが出現して来る。カードローダーから出現して来るその五枚のカードをクラウスは抜き取り、そして手に握る。

 

「なんだこれは」

 

「はい、ちょっと見せてねー」

 

 チラっと視線を横へと向ければグランツとティーダがオリヴィエとアインハルトの相手をしている。たぶん同じく、カードの所まで説明を進めているのだろう。だから自分は脳筋の相手をしようと決め、クラウスのカードを覗き込んでからクラウスへと視線を向ける。

 

「まず、お前の絵が描かれているこのカードがプレイヤーカードだ。ここに”AT”と”DF”と”LC”って数値が見えるだろ? これが攻撃力、防御力、体力みたいなもんだ。基本的にこの先でVR空間にダイブする時に、この数値が大体の身体能力に直結して来るからな。だからどんな幼女だってATが高ければお前よりも物凄い破壊力を持ち出してくるからな」

 

「それはそれで征服する時が楽しみになって来るな」

 

「そこはかとなくアウトだったよな―――えーと……お? お前ラッキーだな。NとN+のカードじゃねぇか。このプレイヤーカード、キャラクターカードとかっても言うんだけど、こいつあ同じ絵柄のやつを二枚、このカードローダーで融合させることによって半段階上のカードへと進化させることが出来る。つまりこのNのカードを二枚融合させることでこっちの、N+のカードになるって事だな」

 

 クラウスの今の私服姿のNカードとは別に、クラウスのもう一枚、N+のカードは白と緑のサーコートの様なバリアジャケット姿のクラウスになっている。これは確か初期のNカードを二枚リライズ、つまりは融合させることによって生まれてくるカードだ。それが最初から入手できているのは中々ラッキーだと言える。

 

「まあ、このカードにゃあエーススキル、つまりASとブレイクショットである”BS”、レベルや強化とか色々あるけど今はそれを説明した所でどうせお前興味ないだろうから、あとでゆっくりアインハルトちゃんから教えてもらえ。んで、こっちの三枚がスキルカードってやつだ」

 

 クラウスの手に握られている、エフェクトの様な絵が描かれているカードを指差す。クラウスが入手したスキルカードはNのプレイヤーカード同様固定で貰える魔力弾のカード、それにプロテクションとクイックムーヴのカードだった。どれもランクとしてはNランク、一番ランクの低いカードだ。そもそもこの初期の五枚のカードからはR以上のカードは出現しない様に設定されている。

 

 ―――どうでもいい話だが、顔の写真や骨格とかそういうもののデータを取ったわけでもないのに、既にキャクラターカードの方には完璧なクラウスの姿が描かれている。一体どうやってデータ入力を行っただけでそんな事が可能になっているのかは、地味に気になっている。ジェイルとグランツ、驚異の科学力というやつなのだろうか。

 

「とりあえずこのカードが一番基本的な射撃魔法のカード。発動させると魔力の弾丸を飛ばすことが出来る。こっちが簡単に言えばバリア。数秒間体を守るバリアを張ることが出来る。んでこっちが高速移動。発動させると一時的に体が加速して超早く動くことが出来る。今回はクラウスには来なかったけど、こういう魔法というかアクティブ型のスキルとは別に≪食いしばり≫みたいなパッシブ型のスキルもあるよ。ちなみにキャラクターカードの効果でか、アバターが特殊タイプでもない限りはブレイブデュエルのステージ内で使用できるスキルカードは全部で五枚。使ったらもうつ使えない、なんてことはありえないから安心してもいいよ……まあ、これぐらいかな」

 

 たぶんそのうち課金でスロット拡張でもするのじゃないだろうか。ジェイルやグランツは比較的そう言う課金商法を好んではいないが、ブレイブデュエルのランニングコストを考えるとどこかで収入が入るように設定しなくてはならないのだ。

 

「ふむ、意外と覚える事が多いのだな」

 

「まあ、今回は初回って事もあるから対応マニュアルも完璧じゃないんだよ。今日の経験が明日の経験へ繋がるのさ」

 

「まあ、そうしておくか」

 

「何偉そうにしてるんですか兄さん。捨てますよ」

 

 道路に捨てたところでそこらへんの森から木を運んできてログハウスでも作成しそうなのはきっと気のせいであってほしい。高校生の時に実際やった記憶など絶対にあってはならないのだ。

 

「あ、イスト君そっち終わったー? 終わったね、うん。じゃあこれから本命のブレイブデュエル・シミュレーターの方へと移ろうか」

 

 そう言ってグランツはブレイブデュエルエリア、その大きな一角を取るブレイブデュエル用シミュレーターポッドまで歩く。そこに全員で到着すると、グランツがポッドの一つを開き、そして扉を開けたまま、シミュレーターポッドの中を見せる。

 

「これが最新式のVRダイビングギアだ。特に名前はないからポッド、シミュレーター、そんな風に呼んでもらえるといいかな。中を見ればわかるけど、ここにデータカートリッジをはめて、ここにキャラクターカードとスキルカードをはめるんだ。あとはこの中で”開始”ってボタンを押せば自動でブレイブデュエルの世界へ行ける様になるはずだから。それじゃ、中に入ってからはイスト君とティーダ君に全部任せるよ。私は外からモニタリングしてるから―――あ、ちなみにこれ全部、アップデートや開発と共に変わる可能性があるからね! それだけは忘れないでね! んじゃ、頼んだよ」

 

「了解っす」

 

「了解しました。……ところでキリエ達はどこにいるんですか」

 

 このままシミュレーターへと搭乗する前に、ティーダがそんな事をグランツへと問いかける。するとあぁ、とグランツは頷きながら答える。

 

「彼女たちならスタッフ用のシミュレーターで遊んでたよ。今日はロケテス初日でもまだ宣伝してないからね、本格的にお客さんが入って来るのは明日からだから今日はまだ、ね」

 

「そうでしたか―――これ、絶対来るなぁ」

 

 最後にぼそっと呟いたティーダの言葉に軽く同意しつつ、待っている他の面子へと視線を向ける。

 

「そんじゃ適当にシミュレーターを選んだら入って、さっきグランツ博士がやったとおりにカートリッジとカードをセットしてほしい。もしN+のカードが出ているならそれを使った方がこれからやる事は更に実感出来ると思うよ。というわけでN+のカード持ってる人手挙げて」

 

 全員が手を挙げた。良し、とうなずきながら自分も適当に近くのシミュレーターに入る。自分の右腰にはブレイブホルダーを吊り下げてある。まだカードの数が少ないため、ホルダーの中にデータカートリッジもしまうことが出来ている。そこからカートリッジと、予め用意しておいたデッキを取り出してセットする。

 

 現在はこうやって実物をセットする必要があるらしいが、将来的には完全なデータオンリーで管理出来る様にするのが目的らしい。なんでも細かい問題が今はあって、着手できないとか。しかしそれは自分の考える事ではなく、博士やティーダの考える事だ。セットを終了したら開始のボタンを押し、

 

 ―――慣れたダイブの感覚を体を包む。

 

 何も見えなくなるのは一瞬だけ、次の瞬間には足の裏がしっかりと大地の感触を得ていた。視界を持ち上げながら確認するのは近未来的な高層ビルが多く見える空間―――ミッドチルダステージだった。振り返りながら他のみんなの姿を探せば、私服姿のままのアインハルトとオリヴィエ、そしてクラウスの姿を見つける。そこでちょうど良く私服姿のティーダも現れ、

 

「そんじゃ」

 

 今度は出来る事に関してレクチャーを始めようと思った矢先、

 

「ふんっ!」

 

 クラウスが自分の胸に腕を突き刺していた。

 

「なるほど……死んでいない、これがVR空間というやつか」

 

 自分の胸から腕を引き抜きながらクラウスはそんな事を納得しているが、それを見ていたアインハルトは両手で顔を覆い、そしてオリヴィエは笑顔のまま動きを凍らせていた。視界の端で自殺ダメージで一気に死亡してログアウトして行くクラウスを無視しつつ、オリヴィエに恐る恐る近づく。

 

「お、オリヴィエー? 大丈夫ー……?」

 

 そんな事を言いつつオリヴィエに近づくと、

 

「―――きゅぅ……」

 

「うわっとと」

 

 案の定、ショキングすぎる光景に耐えきれなかったオリヴィエが目を回しながら倒れてきた。その姿をキャッチする様に支えると、ダイブしなおしてきたクラウスが無傷の状態で帰ってきた。その視線はオリヴィエへと向けられ、

 

「ん? なんだ、貧血か。レバーを食え、レバーを。そういうわけで妹よ。俺は今夜レバーを所望だ」

 

「もうヤダこの兄」

 

 何故、この男がいるとギャグにしかならないのだろうか。

 

 そんな事を思いつつも、話を進める為にもオリヴィエを起こしにかかる。




 クラウスはどうしてこうなってしまったんだ……! 一体何があってこうなってしまったんだ……!

 もっと、こう、イケメンとか、そう言う属性はどこへ消えたんだ……!

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