「―――終わったなあ」
「だなぁ」
「地味にめんどくさかったなぁ」
「人生で初めてスーツを着た。親の葬式とか俺は上半身裸で唾を吐いてやったからな」
「お前絶対地獄に落ちるって」
ゼーゲブレヒトに関するイベントがすべて完了してしまい、残った数日、ドイツで完全に暇な時間が出来上がる。もはやオリヴィエやカリムを護衛する必要はない。ここ数日完全に気配を殺してずっと追いかけていたので非常に神経を使って、疲れた。物凄い疲れた。そう言う事もあって、今日ばかりは女のいない、男四人だけでドイツの田舎町に繰り出し、適当なパブで四人そろって酒を頼む。まだ外は明るく、酒を飲むには早すぎる時間かもしれない。
しかしビールの国ドイツ、ここへ来たのであれば飲まなきゃやってられない。未成年はこの場に存在しない為、遠慮なく四人分のビール、フランクフルト、ザワークラフトとチーズをツマミに乾杯する。これで当分頭を悩ます問題がなくなって、ほとんど通常通りの日常が帰ってくるのだ。小さな苦労、というだけのイベントだった。
はっはっは、と笑いあいながら軽くイングヴァルト家の葬式を思い出し、そして思い出すのをやめる。あの時のクラウスはどんな馬鹿でもやる、と言ったら間違いなくやった―――というか今も大体そんな感じだ。全く変わるどころか人間としては成長していない、とか口が裂けても絶対にいう事は出来ない。何故なら激しくブーメラン発言になるので自分にクリティカルするからだ。
「というか、個人的には恭也が英語だけじゃなくてドイツ語まで喋られる事に驚きだよ。俺だって英語と日本語だけで割と大変なんだが」
「うん? あぁ、やっぱり仕事で色んな国の言葉を理解できるようにしておく必要があるからなぁ。最低限有名な国の言葉は喋られなくても聞くのと読むのだけはできる様に勉強したからな。ウチの父さん辺りは喋る事も徹底的に出来るらしいけど、俺はその領域にはまだ遠いな……」
「君は大学卒業したら本格的にそのニンジャマンになるっぽいんだが」
忍者ではない! と、ティーダの言葉に返答すると、恭也はビールのジョッキを掴み、それを飲んでからザワークラフトを口の中に放り入れ、それを食べてから話を続ける。
「実際、大学を卒業したら俺は”そっち”の方で働くことになるだろうな……。俺は元々その前から働くつもりでいたんだが、父さんが最低限大学を卒業しない限りは認めないって言ってきてな、だから大学に通うことにしたんだ。しかしそれはそれで正解だったと思うよ。大学に入ったおかげで覚えられる事に幅が増えたし、前には考えられなかった事が考えられるようになったし、人間かと疑いたくなるような生物と友人になれたしな」
そこでクラウスがマッスルポーズを決め、それを全員で無視する。そうだ、と恭也が言う。
「俺ばかり話すのも不公平だ。お前らも将来的にはどうこうする、とか話があるんじゃないのか? 何がしたい、何をする予定とか、今は全員クリーンな状態なんだろう? だったらそういう事の二、三個ぐらいある筈だろう」
恭弥のその言葉にそうだなぁ、と腕を組みながら呟き、悩む。クラウスは別として、ティーダが一番そういう事に関しては考えているタイプだ。だからトップバッターを譲る為にもティーダへ視線を向けると、ティーダがそうだね、と口にだし、
「僕はそこの無計画共とは違って割と将来に関しては考えているからね、ちゃんとした計画はあるよ? まあ、大学の卒業は諦めちゃったけどその代わりにグランツ研究所に就職する事もできたしね。僕はそのまま研究所でスタッフと研究者を兼任していくつもりだよ。ステイツの親父は”警察になれ、銃が持てるぞオイ”とか言ってるけど自殺すればいいなぁ、って程度にしか思ってないし。というか警察って死亡フラグの塊だからやだよ。毎年何人死んでると思ってるんだ」
ともあれ、とティーダが一旦言葉を区切り、
「最低限ティアナに対して胸を張る事の出来る仕事をしていたいからね。となると現状グランツ研究所がベストかなぁ、って大学で働いている間に既に考えはあったんだよ。だから、まあ、大学は途中で抜けちゃったけど、結果としていい感じに今はなってるし、あの研究所で働くと凄い勉強になるし。割と僕の人生は順調で、充実してるよ」
「そんな事はいいから。で、女は?」
「やっぱそれかよ」
めんどくさげな表情を浮かべるティーダに対してクラウスがうむ、と頷く。
「そこのニンジャボーイは既に嫁がいるからいいとして、俺はそもそも俺の横に立つような女が現れるかどうかすら解らないから話にならない、そこのヘタレは賭けレース開催中で面白いから手を出すのは協定違反だ。だから真面目に、普通に恋愛をしてそうな貴様はどうなんだイケメン」
「クラウス、貴様とはもう一度殴り合う必要がある事を俺は再確認させてもらった。とりあえず不能になる呪いを送っておく」
「やめろ……やめろ―――!」
「本当に落ち着きがないね、君達は。いや、そりゃあ僕は君達と違って突き抜けたキチガイじゃないし、フツーに見えないところで恋っぽい事してるよ? 何回かデートもしてるし。勿論君達が見えないところで、感じ取る事もできない時にね! いやぁ、ちょっとだけ苦労するけど電車に乗って離れた場所でデートするのは悪くないよ。君達がいないからなぁ!!」
言葉を必要としないギルティ判定がこの瞬間、確定した。口を開いているティーダが瞬きするその瞬間、意識と呼吸の合間、完全に存在する空白の瞬間にテーブル備え付けのポットからマスタードの塊を取り出し、それをティーダの口の中へシュートする。そして全く同じ技術でテーブルからカウンター、厨房へ消えたクラウスが唐辛子を持って帰って、それをティーダの口の中へと叩き込む。
全ての行動が完了した時、それを知覚できたのは恭也だけだった。そして恭也も親指を下に向けている為、間違いなく此方側の住人。つまり仲間、同志である。
ティーダ殺すべし、慈悲はない。
「―――!!? ッ!! ―――!」
ティーダがもだえ苦しみながら椅子から落ちて床に倒れ込む。その姿を眺めながら良し、とチェックをいれてを放置する。ティーダの事なのだから数秒後には脳内のティアナと出会って安らかな笑みを浮かべ始めるに違いない。そう考えているうちにもティーダがトリップし始める。床のままだと邪魔でしょうがないのでティーダを持ち上げて、椅子に座らせたらそのまま放置する。安らかに今は眠るが良い。どうせ後で復讐にくるし。
「さて、とりあえず一人目が死んだな……さて、次はだれを殺すか……」
「趣旨が変わってないか? いや、それは別にいいんだが……というかクラウスはどんな感じなんだ」
その言葉にクラウスは腕を組みながら小さく笑い、
「既に言ったと思うが、俺の場合最後まで一緒に立っていられる女が想像できん。というか俺を相手に最後まで付き合ってられる女がこの地球にいるかすらどうかが怪しい。俺みたいな突然変異の怪物が一代で消えるのは大体相手がいないからな。まあ、俺も適当に付き合ったり別れたりを繰り返してはいるが、結婚まではどう考えても無理だろ」
そこでふむ、とクラウスが言い、一旦言葉を止める。
「あるいはヴィヴィオみたいなのが同年代にいればいい相手になったかもしれんが、存在しないものを求めても意味はないだろ。適当に生きて、アインハルトの結婚相手をいじめながら生きるさ」
「許してやれよぉ!」
「というかお前の結婚概念は種族の繁栄とかかよォ!」
トンカチが欲しい、とかいうと建設現場から鉄骨を持ってきたりとクラウスの発想は時々スケールが違いすぎて理解できない時がある。今回のこれも、間違いなくそう言う話の類なのだろう。恋とか愛とか、そういうのを話しておきながら何故か最終的には子孫を残すという全く別次元に突入している。人間と自分の事を言うのであれば、もうちょい人間スケールへダウングレードしてくれないかなぁ、とちょっとだけ祈りはするけど、たぶん無理だろう。クラウスは一生”ジャンル:クラウス”扱いな気がする。
ふぅ、と息を吐きながらフランクフルトを食べる。何時の間にかテーブルの上の料理が尽きてきた事に気づき、追加のビールと共にメニューに書いてあるツマミを片っ端から頼む。幸い、お金だったらカリムから大量に払ってもらっているので余裕はある。そのおかげでこの旅は非常に贅沢が出来る。それがなかったとしても、軽く店の中にいる人間の記憶を全部消して逃亡すればいいのだ。
覇王流やエレミアには時としておかしな技もあるが、便利なので文句は言えない。
「で、キング・オブ・ヘタレは最近どうなんだ、お前の周辺事情は」
「いい加減人をヘタレヘタレ言うのやめないか。……いや、確かに顔が合わせづらいからただでさえ狭い行動範囲が海鳴に限定されちまってるんだけどな……! おい、何だよその哀れなものを見るような目は! お前解ってるんかよ! お前のせいでもあるんだよ緑色のぉ! お前と殴り合う為に集中力全部ぶっ込んでるから誘惑は全部断ち切ってたんだよクソが。おかげで俺の人間関係ボロボロだぁ……」
「ハハ、ざまぁ」
即座にクラウスに掴みかかって、体を揺すってやるが、笑い続ける上に見下す表情を浮かべてくるのが極限的にウザイ。本気で殴ろうかと思うまでが何時もの流れ。溜息を吐きながら諦め、自分が悪いのは解っているので、もう一度溜息を吐きながら頭をテーブルに叩きつける。
「あぁ、そうだよそうだよ……俺だよ。俺が悪いんだよ……。でもな? 俺はな、そこまで万能って訳じゃないんだよ。こう、エロボディを近くにキープしてそれに飛びつかない聖者じゃないんだよ。女には割と飢えてるんだよこれが……! 今はな……! はぁ、前までは余裕があったけど、こうもクオリティの高いのが近くにいると段々理性が削れて行くんだよ……こう……そのな……なんというかさぁ……」
「その気持ちはよく解るぞ」
驚く事に、恭也が此方の肩に手を置きながら同意の言葉をくれた。どういう事だ、と思って顔を持ち上げると、
「俺もその……なんというか……昔は割と、こう、鈍感系でな? 恋愛感情を友情の類と勘違いして女性に接していた時期があってな―――ほら、俺のルックスってそう悪くはないだろ? おい、何だその顔は。調達したのに使う事のなかった毒針をケツの穴に叩き込むぞ。いや、待て。貴様らならなんか克服しそうだから止めておこう。ともあれ、そのおかげで一時期アピールがすさまじい時があってだな」
こう、
「―――理性と正気が削れる。容赦しない奴が戦争に勝つって言うが、真理だなアレ……」
そう言って恭也の目から光が消える。それだけで何があったのか、大体それが想像できた。無言でクラウスと視線を合わせ、頷き、そして運ばれてきたビールジョッキを握り、恭也に持たせる。恭弥がしっかりとそれを握ったのを確認した所で自分のジョッキも手に取り、
「録画してないそれ?」
「当時の光景を知っているヤツお前以外にはいるのか? 詳細に話せる奴で? 勿論いるよな? ん? 安心しろ、ちょっとデュ! エ! ルッ! をしながら情報を拡散するだけだ」
「貴様らァ! 覚悟してろよォ! 日本に帰ったら絶対報復するからなァ! イスト、貴様はそのヘタレっぷりを八神堂に報告してやる! そしてクラウス! お前は……お前は……うーん……お前は―――そうだ、ゲイのお見合いサイトに投稿してやる」
「弱点がないからって一番ダメージのデカそうな手段を選んだなこいつ……!」
そんなこんなを話、言葉のボクシングを始めていると、何時の間にかティーダが復活し、一心不乱にスマートホンを弄っていたことに気付く。視線を復活したティーダへと向ける。
「お前、何やってんの」
「嫌がらせ」
ティーダが笑顔でそう言った瞬間、店の扉が勢いよく開け放たれた。
その向こう側から現れたのはコートに身をくるんだ金髪の女、
―――オリヴィエの姿だった。
片手で胸を押さえ、此方が固まっている間にオリヴィエはズカズカと踏み込み、そして大声で言った。
「私をこんなにした―――責任、取ってもらいますからね!」
そう言って、オリヴィエがテーブルの上へ倒れた。
その姿を見てからティーダへと視線を戻す。その顔には笑顔があり、
「―――ほら、最終ラウンドだよ親友。ドイツで全部決着つけて日本に帰ろうよ」
それにしても、
「ぐえげぇー……」
「もう少し乙女らしい声でねぇのかこいつ……」
真ラスボスついに登場。なおこの作品で日本人がいない場合は大体英語でしゃべっています。実にインターナショナルだね。
しかしオリヴィエのヒロイン力が死滅してる……。