イノセントDays   作:てんぞー

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そして大団円

「ハッピークリスマース!」

 

「イエェーイ! 死ねぇ―――!」

 

 乾杯と同時にナイフがオリヴィエ目がけて投擲される。それを真横からフォークでからめとり、回収しながら時間差で飛んでくる残り二本のナイフを上へ弾き、落ちてくるのを回収する。回収したナイフをクルクルと回しながら投げてきたロリ三人の前に突き刺さる様に片手で投擲し、カウンターまでの流れを綺麗に完了させる。ざく、と音を立てながらテーブルに突き刺さるナイフを見て三人娘が固まる。それを見てクラウスがうむ、と言いながら頷く。

 

「誰がこの展開を予想したであろう」

 

「いや、予想していたには予想していたし、こんな形で収まれば大体大団円かなぁ、とかって風に思っていたんですけど、なんというか……予想以上というか。えぇ、やっぱり予想外という言葉で片付けておくのがいいんでしょうね、こういう場合」

 

「納得できなぁーい!!」

 

 むすー、とした表情で口の中にローストチキンを頬張るヴィヴィオの姿がある。その姿を見て苦笑したら、横に視線を向ける。そこには此方に寄り掛かる様に身を寄せ、そして肩の上に頭を乗せるオリヴィエの姿がある。少し前までであればありえない光景だっただろう。その事実としてヴィヴィオ達三人娘が壮絶に不愉快である事を表情として表現し、それを見て爆笑しているティーダと恭也がいる。

 

 ―――もう既にオリヴィエの告白から三日が経過している。

 

 告白、というか宣言に近いものだった。それからたった三日程だが―――そこは素直に認める事にして、現状、オリヴィエとは実に解りやすい関係となった。漸く迎えたクリスマスはホテルから離れたドイツの街中にあるレストランで行っている。その内装は黒を基準とした落ち着いたところに少々アンバランスなクリスマスデコレーションが施されている。流れている音楽もドイツ人のアーティストのクリスマスミュージックなんだろうが、言葉が欠片も解らないので音だけを楽しんでいる。

 

 まあ、何はともあれ、

 

「一生かけて守るって決めたからな、ふらふらするのも適度に止めて、これからはもうちょい真面目に働くわ」

 

「聞きましたか今の発言をクラウスさん」

 

「うむ、聞きましたぞティーダさん―――アイツキモイぞ」

 

 迷う事無くフォークを投擲するとそれをクラウスが捕まえ、投げ返してくる。まぁ、ここら辺は何時も通りのやり取りだ。馬鹿やって、笑って、溜息はいって再び会話に戻るまでがワンターン。ちょっとだけ関係が変わっただけだ。それ以外に特に変化はない。それはこの三日で証明している。しかしこうやって大っぴらにオリヴィエが抱き着いている所を見せているとなんだか感慨深いものがあるらしく、好機の視線が周りから突き刺さってくる。

 

「いや、まあ、こうやって確かめるの何度目になるか解らないけどさ、見る度に思うわ。ヘタレで臆病者のお前が良くそのぽんこつ娘とくっつく気になったよな。ほら、今も寄り掛かってるお前のぽんこつ娘を見てみろよ。普通幸せそうな顔をしてる筈なのにどう見ても妄想している女の顔にしか見えないぞ」

 

「失礼な。私だって何時だってそんな顔をしている訳じゃありませんよ」

 

「姉ちゃん、それ否定してない」

 

 あれぇ、と首を傾げながらオリヴィエが言うと、溜息を吐く。多少なりとも言い訳というか説明をする必要があるかもしれない。

 

「いや、まあ、確かに臆病でヘタレだって事は否定しないけどさ、覚悟を決めてやった事、言った事だったら真正面から向き合わなきゃいけないだろ。逃げるわけにもいかないし。ヤンデレの気配もなきゃあ依存症の気配もないし。ストレートに、正面から思いをぶつけてるんなら受け止めるっきゃないっしょこりゃ。昔ならいざ知らず、ポンコツになってからはこう……見てて不安しかないから俺がいなきゃ駄目かなぁ、とかって思わせられるし……な? ほら……」

 

「ちょっと待ってください、なんでそこで皆納得の表情を見せるんですか!? いや、ちょっと待ってくださいよ! 最近の私はしっかりしてますよ? ほら、ここ三日ほどカリムやヴィヴィオの世話になってませんし! ね? だから卒業! ポンコツ卒業しましたから! ……え? いやいやいや、その分イストに頼ってるって事はないですから。ありえないですから。私はちゃんと一人で色々できてますからね!」

 

「どんだけ取り繕っても姉ちゃん遅いよ。妹は見た。枕を抱きながらえへへへ、と気味悪い声で笑いながらベッドの上を転がる姉の姿を」

 

「ヴィヴィオ―――!」

 

 オリヴィエとヴィヴィオが奇抜なポーズを決めながらシャー、と蛇の様にお互いを威嚇しあう。そうやってふざけあっているオリヴィエにもヴィヴィオにも、ちゃんと覇気がある様に見えている。今回の旅でちゃんと実家の事に関してはケリを付ける事が出来たらしく、そしてそれが心に引っかかる事も無いようだ。最後の最後で少々ドタバタが起きてしまったが、ティーダを丸太に縛り付けて川に流す事で成功したのでとりあえず許す事にしておく。それはそれとして、中々高級なレストランらしく、出てくる料理はどれも一級品だ。普段は飲まないワインもいつも以上に美味しく感じる。そこまでワイン等の味に詳しい訳でもないが、少なくとも上等な味である事は解る。

 

 オリヴィエが妹と交流している間、チーズを口の中に放り入れながら改めて友人達と顔を合わせる。

 

「しっかしホント世の中どうなるか解らないな。それとなくモテる事は知っていたが、お前も俺みたいに時間がかかるタイプだと思っていたんだが」

 

「馬鹿野郎、俺はお前の様な人でなしと違って鈍感じゃないんだから人の好意と悪意には敏感だぜ。ただそれとは別に”俺程度の男と付き合うならまだ良い相手がいる”って思っちまうから応えられないだけでな。”俺じゃなきゃ無理”って奴なら応えるさ、そりゃあ」

 

「アインス」

 

 その名前を出されると物凄く弱い。弱いも何も超困る。何が困るって割と本気にさせてた感じがするので、どう足掻いても俺が人でなしという結果になってしまうからだ。これは間違いなく日本に帰った時にシグナムに斬られるという確信がある。しかし、まあ、何というか、仕方がないって言葉で締めくくるしかない。

 

「惚れちまったんだからしゃーない。つーわけでジャパニーズ焼き土下座芸をするっきゃねぇわな」

 

「焼き土下座を日本の文化の様に言うのを止めてくれないか。それ、お前らだけだから」

 

「なんだと? だがスカリエッティがジャパニーズカルチャーと叫びながら全自動土下座焼き機を制作してくれたぞ。”十数年日本で生きたが、これをまた使う事にはなるとは……!”という感じに後ろで雷のエフェクトを発生させながら言っていたな」

 

「グランツ博士もそうだけど改めて考えると人類の二歩三歩先をあの人たちは技術力で抜きん出ているよね。それで開発するのが新薬とかじゃなくて子供のおもちゃなんだから恐れ入るよ。持っている能力で自分の好きな事しかしないからホント憧れるよ。アレ、人から言わせれば能力ある癖にやらないってもんらしいけど、事実はやりたくないだからなぁ」

 

「人を助ける技術は結局人を殺す技術になるからなぁ、玩具作ってる方が遥かに健全だわ」

 

 まぁ、そういう意味だとあの二人の博士のやっている事は割と正しいのかもしれない。だからって全てを肯定出来る訳じゃないが、それでもあの二人がブレイブデュエルを作ったおかげで今があるのだから、感謝しない理由は存在しないと思う。ワインを飲みながらそんな事を考え、溜息を吐きながら天井を見上げる。

 

「しかし、今回の旅で色々と終わったなぁー……」

 

「というか暁町へとやって来てから色々と終わった、と言うのが正しいかな。現状どんな事をやっているよ僕ら? まず暗黒入っていたロリを瀕死に追い込んでキチガイにしたでしょ? 次に友情大決戦を繰り広げて周りに被害を増やしながらクラウスを更なるステージへとレベルアップさせたでしょ? 黒服相手に脅迫する事でちょっとしたお小遣い稼ぎしたでしょ―――」

 

 ちょっと待て、とそこでストップをかける。

 

「俺、脅迫材料そのままネットにぶちまけたんだけど」

 

「アップの瞬間に消して回収したに決まっているじゃないか。金になるんだから利用しない手はないだろ。もう二度と突っかかってこれない様に徹底的に金をふんだくってやったからな。お前に頼んでないとか言われても、お小遣いが欲しかっただけだから」

 

「カリムとこいつだけは絶対に組ませて敵に回したくない」

 

 誰が強いとか誰を敵に回したくない、なんて事を話ながらも、馬鹿な会話は続いて行く。こうやって話ながら今までやったことを振り返って行くと、割とはちゃめちゃやっていることを思い出す。そのはちゃめちゃも何も始まったのは日本へとやって来てからではない。日本に来る前からも割と派手にやらかしている。それを一つ一つ、振り返って行く。どれもこれも貴重な記憶であり、そして今の自分を作り上げている要素だが、

 

「さて、ガキの頃に憧れたカッコいい大人になれているかなぁ、俺」

 

「無理だろ」

 

「無理だな」

 

「寧ろどこを見て自分をカッコいいと言えるんだお前」

 

「お兄さんの良さはかっこよさじゃないから安心するといいよ!」

 

「こいつ、まだ好感度稼ごうとしてる……!」

 

 さり気なく滑り込む様に膝の上に座ろうとしていたヴィヴィオがオリヴィエによって受け流され、そのままジークリンデに捕まって連行されて行く。相変わらず女子サイドの会話は異次元に突入しているというか、魔界というか、いろんな意味で此方以上にぶっ飛んでいる部分が多いけど、それはそれで楽しそうだ。

 

 美味いメシに美味い酒を飲んで食べて、それで小さく笑う。

 

「何だかんだで自分の周りにある問題はこれで大分片付いたし……これでしばらくはこういう馬鹿騒ぎも終わりかねぇ。忙しかったと言えば忙しかったけど、間違いなく楽しかったんだよなぁ……こういう時間が無くなると思うとちっとは寂しく感じるわ」

 

「というかトラブルばかりの方が頭おかしいんだよ。パズルゲーじゃないんだから一つの問題解決したら連鎖的に問題が追加発生する必要ないんだよ。なんでアメリカにいた時も日本にいる時も問題しか発生しないの? 今まで問題解決に使ってきたお金はどれだけかかってると思ってるんだ……」

 

 ティーダがそう言うと、カリムへと視線が集まる。今回の旅、その資金は全部カリムから出ている。こうやって豪勢にやっている以上、物凄くお金がかかっている為、その金が何処から来るものか非常に気になるものだ。その視線を理解してか、カリムは小さく笑う。

 

「あ、お金の事ですか。それなら心配いりませんよ。全部ゼーゲブレヒト本家に請求しているので近いうちに借金のカタにあの家と土地が持っていかれてホームレス当主が出来上がるので。―――やるなら徹底的にしないと気が済まないので。出来る女、カリムです」

 

「鬼畜を通り越してド外道がここにいた」

 

「納得のドン引きである」

 

「出来る女じゃなくて殺す女カリムだろ」

 

「今、口答えをした三人は後で確実に報復されるので覚悟していてくださいね」

 

 店内に迷う事無くツッコミを入れた三人の悲鳴が響く。それを聞いた店員が迷惑そうな表情を浮かべるので、そろそろ自重するべき時なのかもしれない―――まあ、もう二度とドイツに来るようなことはないため、別に出禁扱いになろうが構わないというのはあるのだが。それでもこれから、

 

 いよいよ、本当の意味で社会人になるのだろう。

 

 だとしたらもうちょっと、真面目に将来の事とか、そう言うのを考え始めたほうがいいのかもしれない。

 

 だからちょっとだけ身をオリヴィエの方に寄せる。

 

「なあ、オリヴィエ」

 

「なんですか?」

 

「俺、割と一途な男なんだ。だからちょっと愛が重いかもしれない」

 

「奇遇ですね、私も割と愛が重いタイプだと思うんですよ。たぶん貴方を独占し続けないと満足できません」

 

 視線の中でクラウスが塩をそのまま呑み込んでいる。会話が甘いと口を出さずに表現しようとしているのだろうが、その数秒後に塩を吐きだし、店員に持ち上げられて店の外へと運ばれて行く辺り何時も通りの馬鹿をやっている。ブレないなぁ、と内心思いつつ、

 

 人間、そう簡単にブレるもんじゃないよな、とも思う。

 

 変わろうとすれば変われる。オリヴィエやクラウスの様に。

 

 だが自分を貫こうとすれば自分やティーダの様に、変わらない連中もいる。

 

「とりあえず今度、ヴァチカンの方へ行こうか。運が良ければハントされる前のウチの親に会えると思うし」

 

「そうですね、少し落ち着いたら挨拶に行きましょうか。おや……どうしたんですかヴィヴィオ、悔しそうな顔を浮かべて? え? すいません、今私幸せなので聞こえないんですよ、負け犬の遠吠えが。というわけでイスト」

 

「おう」

 

「愛していますよ」

 

 その言葉を聞いて、椅子に寄り掛かり、天井を見上げる。録音している馬鹿連中や、シャドーボクシングを始めるチビっこたちの事は今は忘れて、息を吐く。

 

 ―――これからも、大変だなぁ。

 

 それは間違いがない。アインスに会ったり、シグナムに斬られたり、ジェイルに煽られたりときっとイベントがたくさん待ち受けているのだろう。だけど彼女できたし、なんだかんだでみんなが笑えるような終わり方を今回の旅で迎える事が出来た。だからこれは間違いなく、

 

 ―――俺達の手で掴みとったハッピーエンディング。

 

 今はそれだけでいいのだ。




 割とあっさり目かなぁ? とか思いつつもマテリバは話を無駄に引っ張ったり重くしたりで酷くなった感じがあったので、こっちを書く時はあっさり話を進めようって決めてたのでまぁ……そういう細かい話はあとがきで。

 ともあれ、これで本編は終了ですわ。

 後日エピローグとあとがきを同時に投げて、それで完全な完結となります。

 本編としての最終話は大体こんな感じとして、お次はエピローグとあとがきでお会いしましょう

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