オリヴィエが顔を赤くしながら離れて、そしてティーダとアインハルトの手によってクラウスが三度程殺されてから漸くブレイブデュエルのレクチャーが再開される。しかしここまで来ると既にクラウスは慣れた様なもので、大きく跳躍し、ひとっ跳びでビルの壁へと飛び移り、そこを蹴って跳躍し、更に上へと向かって飛んで行く姿が目撃できる。その姿をアインハルトとオリヴィエが呆然と眺めている。
「うん、まあ、アレはちょっと慣れるの早すぎる気がしないでもないけど、クラウスがやっていることは間違いじゃないんだ。この世界ではあんな風に体を動かすことが出来る。誰もが一種のスーパーマン状態になっているんだ。そしてこれはカードを強化すればするほど強力になって行く―――まあ、今はまだカードの力を使っていないデフォルトの状態だけどね」
「デフォルトの状態でこれとは、カードの効果を使うともっとすごくなるんですね……」
「まあ、凄くはなるけど、対戦型ゲームだからね、これ。相手もカードのステータスを反映しているから一方的に強くなる、って訳じゃないんだ。ただもっと動きの自由度が上がるってのは間違いないよ―――まあ、普通デフォ状態であそこまで跳ね回るのは難しい筈なんだけどね、流石に。流石野生の男クラウス」
と言いつつ手を動かし、予めセットしておいたN+のカードを出現させる。手品の様にいきなり出現したカードに驚くが、ティーダが横から苦笑交じりに解説を入れる。
「予めダイブする前にセットしておいたカードがあるよね? これはそのプレイヤーカードだよ。セットした奴なら思考召還で手元に……ってこれはなれてないと難しいね。多分右腰辺りにブレイブホルダーがある筈だから、そこから取り出してみるといいよ」
「えーと……あ、ありました」
「装着した覚えはなかったんですが……」
取り出しやすいように最適化されている、という事だ。ともあれ、そうやってオリヴィエとアインハルトがN+のカードを取り出したのを確認し、そして確かめる。N+のカードは大体がバリアジャケット姿だ。確認した通り、オリヴィエとアインハルトのカードの絵柄はクラウスの様にバリアジャケット姿になっている。アインハルトのは盗み見たクラウスのに似て白と緑のバリアジャケットだが、下がミニスカートになっている。それとは真逆の黒いドレスの様なのがオリヴィエのバリアジャケットだった。こちらはクラウスとアインハルトの様に一切防御的部分や武装が見当たらない姿とは違い、両腕にガントレット、そして白いプロテクターの様なものが各所についている。
―――何気にオリヴィエのレアじゃね……?
なんとなくだが確認した資料の中にあったレアアバターだった気がする。気になったら後で確認すればいいと思いつつ、自分のカードを指で挟んで見せる。
「これを”リライズ”、つって変身というか纏うというか、適応する事が出来るんだ。まあ、これは見た方が解りやすいだろうから……リライズ!」
言った途端に手に握っていたカードが消える。その代わりに発生するのは自分の姿の変化だ。まずは茶色のハーフジャケットが出現し、そして現在の服装がもう少しだけ、近未来的なデザイン、文様の様なラインを得る。そしてずしりと来る、背の丈ほどの大きさの赤い大剣が手の中に出現する。それを片手で一回転させながら道路に突き刺す頃にはリライズ、即ちカードデータの適応プロセスが完了している。
「これがリライズアップだ。カードのデータを適応し、カードの姿へと自分を変えるプロセスだ。この鎧の様な服がバリアジャケットで、武器がデバイスって言う。とりあえずリライズアップすると絵柄通りの姿に変身しちゃうから注意な。とりあえず一回目だし勢いよく、ポーズを決めながらリライズアップ、って言うといいよ」
「―――リィラァァイズ、アァァァップゥ!!」
少し離れたビルの屋上からそう叫ぶ男の声がする。どっかで話を聞いているとは思っていたが、しっかりと盗み聞きしているらしい。良かった、純粋にそう思う。もし今聞いていなかったら、あとでクラウスにローキックを叩き込みながら教えるハメになるのはアインハルトになるからだ。とりあえずティーダへと視線を向けると、ティーダが頷き―――ティーダの武器、デバイスの”タスラム”を取り出し、それをクラウスの方向へと向かって撃ち始めた。数秒後、ティーダの射撃から逃げようとしてビルからビルへと飛び移ろうとした姿がティーダに狙撃されて地に落ちる。その姿をティーダが回収へ向かう。
「んじゃ馬鹿も消えたしどうぞどーぞ。さあ、遠慮なくオリヴィエから」
「えー……な、なんかちょっと恥ずかしいですね」
「う、うん」
数秒間じっと見つめていると、やがて顔を赤くしたオリヴィエが視線を持ち上げ、そしてカードを握りながら声尾を震わせ、響くような声で言う。
「り、リライズ……あ、アップ!」
「ちなみに言わなくても頭の中でリライズアップ、って思考すれば変身できたりする」
「兄さんの影に隠れていますけどイストさんも割と外道ですよね」
一瞬でバリアジャケット姿へと変身したオリヴィエが猛ダッシュで近づいてくるのと同時に両手拳でぽかぽかと、顔を赤くしながら殴って来る。はっはっはっは、と笑いながらぽかぽかと殴って来るオリヴィエの姿を受け入れる。確信犯ではあるが、後悔は一切ない。こうやって美女の可愛らしい姿を見れただけで価値があった。間違いなく、羞恥で顔を真っ赤にしているオリヴィエのこの姿は脳内に永久保存する。
「わああ! ものすごく恥ずかしかったんですからね! ですからね! 本当に恥ずかしかったのに! 酷いですよ!!」
「はっはっはっは―――いやぁ、やって良かった」
「兄さんがいなければこんな感じなんですけどねー。まあ、兄さんのキャラがぶっ飛びすぎているのが全部悪いんです」
それに関しては全面的に同意する。
既にバリアジャケット姿に変身したアインハルトの姿を確認してから、顔を赤く、息を荒くして上目づかいに睨んでくるオリヴィエの視線を受け流し、顔を横へと向ける。そこには感電する様に痺れるクラウスを引きずって連れて来るティーダの姿がある。何気にティーダの服装がかなりボロボロになっている辺り、クラウスが抵抗、しかも善戦したらしい。本当に戦う為だけに生まれたような男だと思う。
普通、この空間に入り込んでも数分で慣れるなんてことありえないのだ。クラウスのこういう適応力というのはやはり知り合いの中でも群を抜いているとしか評価が出来ない。そんな事を思いつつも、とりあえずは叩き終わって疲れたオリヴィエから一歩離れ、
「んじゃ次のレッスン始めるよ」
「謝罪、謝罪を要求します!」
「可愛いオリヴィエが見れて満足したので謝罪はしません」
「かわ―――」
そんな言葉に反応してオリヴィエは顔を赤くすると、両手で頬を抑える。その姿を合流してきたティーダと並んでみて、そして視線を合わせる。無言のままに手を叩きあって握手を交わし、肩を組みながらオリヴィエの赤面顔をもう一度楽しむ。美女のこういう恥ずかしがっている顔は何度見てもいいが、この程度で顔を赤くしちゃってオリヴィエはこの先大丈夫なのだろうか。未来が若干不安になって来るチョロさだった。これはちょくちょく面倒を見たりしないと比較的に危ないタイプかもしれない。
「まあ、それはそれとしていいもんが見れたわ」
「あぁ、そうだけど、だけど僕思うんだ。毎回こんなことやってるから未だに彼女が出来ないんじゃないかな、僕たち。いや、まあ、僕はティアナさえ見れれば人生もうどうなってもいいからそこまで気にしてないんだけどさ」
「お前シスコンってジャンルに関しては悟る領域に入ってないか」
ティーダが照れつつ、それほどでもないと言っている間に次にやる事を見せる為に飛行を開始する。何の予備動作もなく、突如として浮かび上がる此方の姿に対してアインハルトとオリヴィエが驚く様な表情をする。先に復帰したのは若いアインハルトの方で、三十センチ程浮かび上がっている此方に近づいてくると、片手で体に触れてくる。
「あ……本当に浮かんでます。見せてくれている、という事は誰にでも出来るんですか、これ?」
「正解。ブレイブデュエルの世界では飛行はデフォルトで備わっている能力だ。だから少し練習さえすれば誰だって自由に空を飛ぶことが出来る……まあ、俺とかティーダとかは飛ぶ事よりも走り回る事の方が得意だし慣れているからあんまり空を飛ばないんだけどな。とりあえずは自分の体の周りに透明な膜があって、それを浮かべる様に想像すればいい。それが最も基本的なイメージの仕方らしいし」
「オラ、起きろよクラウス。ちょっと飛んでみろよオラ」
クラウスに蹴りを入れるティーダの姿を無視して、視線を女子二人へと向ける。その間には既にオリヴィエもアインハルトも目を閉じる様に集中していた。ここら辺はハッキリと得手不得手が分かれるものだ。自分やティーダはここ、初めて飛ぶのに一時間ぐらい練習が必要で、シュテルやレヴィ達は一分後には空でウルトラCを決めていた。
「ん……」
そうやって小さく声を漏らすのはアインハルトで、その体が地面から数センチ浮かび上がるのが見える。それを察知したのかアインハルトが目を開けた瞬間、同時に集中力も切れて、その体が下へと落ちる。たった数センチの落下だが、それでも飛行からの落下、という未知の経験にアインハルトはちょっと大げさによろめく。
「お、ととと……うーん、これって結構難しいですね。なんというか、ずっと集中して行けなくちゃいけない感じがして」
「ははは、アインハルトは俺みたいに格闘技とか先に覚えちゃっているタイプだからな。ちゃんと地に足がついていないと、って考えがあるから空を飛ぶのが難しいんだよ。慣れてくると飛んでるのも地上に足がついているのもまったく変わらないって解るんだけどね」
まあ、と言葉を置く。
「個人的には透明な足場がある、ってイメージするのがやりやすいと思う。その場合そこまで自由に動けるわけじゃ―――」
「あ、出来ました」
そう言って一メートルぐらいの高さに浮かび上がる、というよりは虚空に乗っているオリヴィエの姿があった。ちょっと嬉しそうに微笑みながら、両手を合わせている。そんな姿を見ていると、やっぱりちょっと頼りなさそうだったり、天然が入った清純系女子が至高だと思う。
「コツを掴むと割と簡単にできますね。どちらかというとイストさんの言った方がやりやすい感じですが。うん、この浮かんでいる感じはちょっと新鮮で楽しいですね」
「そうやって楽しんでもらえると幸いだよ―――んで脳筋、お前はどうよ。空を飛べた?」
視線をクラウスへと向けると、クラウスは両腕を組みながら首を捻り。
「イスト、いいか。俺は貴様の事を友だと思っている。そしてこれからも友、そして競い合う強敵だとも思っている。だからそんな存在が物凄い残念な事を言っているならそれをたださなくてはならないと思うのだ。だから教えてやろうイスト―――人間は空を飛ばない」
「お前マジで殴るぞ」
「冗談は置き、己が飛ぶ所等想像できるか。俺には無理だ。練習すれば可能かもしれんが、興味も必要性も感じない。この空間であれば全力で体を壊さずに動ける、それだけで十分すぎる」
「はは、まあ、クラウスならこんな感じだよね」
実にクラウスらしい言い分な為、呆れるどころか納得してしまう。ともあれ、一通りブレイブデュエルに関する基本的な事は説明した。
「まあ、後は色々とバトル関係の説明に関して残ってるな。デバイスとか、レアアバターに備わっているスキルとか。他にはスキルカードのアレコレとか。だけどまあ、いきなり最初から全部かっ飛ばして教えるのも辛いしだるいだろ? というわけでまずはこの自由な世界観を存分に味わう為にも自由行動にしようと思うんだが……いいかな?」
横、ティーダへと視線を向けるとティーダが頷いているし、問題はない。そしてクラウスはさっきから勝手に楽しそうにしているから無視するとして、アインハルトとオリヴィエへと視線を向けると、二人とも頷いてくる。
「んじゃこれから自由行動。困ったことがあったり聞きたい事があったら俺かティーダに頼めば可能な限り手伝うよ。今日ここへ呼んだのは俺達だしね」
そう言うと、オリヴィエがおずおず、と言った感じに前へと踏み出そうとした瞬間、アインハルトが滑る様な動きでオリヴィエの前へと出て、此方の両手を取って来る。
「あ、あの、飛行が上手くできないので手伝ってくれませんか!」
それを断る理由は存在しない為、快諾しようと口を開こうとした瞬間、
―――目の前にホロウィンドウと共に文字が出現する。
『You Have A Challenger!』
挑戦者が出現した、そのメッセージが出現するのと同時に空へと視線を向ければ、小さく空が歪んだ直後にピンクと、そして青の二つの姿が出現する。片方はバリアジャケットも、そして髪色もピンクの娘であり、もう片方は赤髪の青いバリアジャケットの娘だった。二人とも色は違うが、それでもバリアジャケットのデザインが全く一緒なのが解る。キリエ・フローリアンと、アミティエ・フローリアンのフローリアン姉妹だ。
しかし、
「俺てっきりシュテル辺りが”先輩後輩の格の違いを見せてやります”とか言って殴り込んでくると思ったんだけど、なんで姉妹が来てるんだ」
「あ、シュテル達は紅茶クッキーで買収したわ」
―――ダークマテリアルズ、戦う舞台にさえ上れなかったとはなんて哀れな。
そんな事を思っていると空に浮かんでいたキリエとアミティエが降りてきて、キリエがビシっと此方へと向かって指を向けてくる。
「ブレイブデュエルと言ったら魔法戦! 飛んで、殴って、そして撃つ! ブレイブデュエルの体験をしに来たのに初心者だから体験はやらないくても、ショッププレイヤーともあろうものがエキシビジョンなしで済ませるとは言語道断!」
「あ、ちなみにキリエがこんなこと言ってますけど、裏でスカリエッティ博士がPR用の戦闘映像がほしいから適当に戦ってほしいと。いい映像が取れたら採用して宣伝用に使いたいとか」
「あ、そういうのはバラしちゃ駄目よ」
即行でネタバラしをされたキリエがアミティエを睨むが、既に慣れているものなのか、アミティエはそれを軽く横へと受け流す。―――しかし、キリエの言っていることは間違ってはいない。ブレイブデュエルのメイン、戦闘を一回もしないどころか見ないのは少々空しすぎる。腕を組んで納得しようとしたところ、いつの間にかティーダがほかの面子を連れて後ろへと下がっている姿を見かける。
「おい」
「いやぁ、任せたよイスト先輩。僕、非暴力主義者だから」
「勝ったと思うなよ」
「もう勝負ついてるから」
何時も通りの展開を一通り繰り広げたところで視線をキリエの方へと戻す。其方の方も何時の間にかアミティエが下がっていて、キリエがやる気満々の表情を見せている。どうやら向こうは存分に戦いたい様子だが、
「お前なんか殺気立ってね?」
「私の事を淫乱ピンクと呼んだでしょ……! 博士が言ってたわよ!」
ジェイルめ、後で絶対デコピンの一発でも叩き込んでやる。そんな事を思いつつ道路に突き刺していたデバイスを―――赤く染まった”キリエのデバイス”のヘヴィエッジを持ち上げ、肩に乗せる。準備が完了した所で開いている片手をくいくい、とかかって来るように促す。実にめんどくさい事ではあるが、相手が乗り気なので仕方がない―――それにここはこう、男子的アピールもできるかもしれない。ちょっと余裕を持つ様な感じで挑発する。
「俺に勝てたらなんでも言う事聞いてやろう」
「よっしゃぁ! 意地でも勝つ! そしてブランドバッグを買わせるわ……!」
「それ、俺に対するペナルティちょっと重すぎやしないかなぁ……」
小片手剣形態、フェンサーを構えたキリエが一直線に切り込んでくる。それに対応する為の動きを始める。
なお原作だと乱入から初心者相手に勝負を吹っ掛けるという。ほぼ説明なしで。それを考慮するとこれはまだ優しい(震え声
クラウスがアレすぎるせいで女子二名のキャラが消えて行くんだが、これはクラウスさんレッドカードかなぁ……あと女子よりも感想で人気なんですがこれは(