イノセントDays   作:てんぞー

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初デュエル

「さて―――講義の時間だ」

 

 後ろへと揺れる様に下がる。その動きに合わせる様にキリエが前へと向けてフェンサーを突き出してくる。それを後ろへと下がったことで開けた間を利用し、ヘヴィエッジを振るう。下から持ち上げる様に振るわれた刃は突き出された片手剣を吹き飛ばし、キリエの片手を大きく上へと弾く。その瞬間、キリエの体はがら空きになっている。攻撃するなら今がチャンスだ。

 

「≪魔力弾≫」

 

「きゃうんっ」

 

 魔力弾を一つ生み出し、それを隙だらけだったキリエの体へと叩き込み、その姿を軽く吹き飛ばす。キリエの体が吹き飛びながら砕かれた道路によって生み出される土煙ヘ転がって消えて行くのを確認すると、ヘヴィエッジを軽く回転させながら道路へと突き刺すと、新たに魔力弾を生み出しながらそれを左手で浮かべる。

 

「これが魔法だ。セットしておいたスキルカードはこうやって口に出して言うか、イメージする事によって発動させることが出来る。最初のうちはこんな感じだろうが―――」

 

 左手で浮かべる魔力弾が二個、三個、四個、と数を増やし、その数を一気に十にまで広げる。背後、離れた位置で観戦している連中の驚く様な、そんな声が聞こえてくるのでちょっとだけ気分が良い。大学の講義でちやほやされているときのスカリエッティは大体こんな気分だったのだろうか。だとしたら教師と言う選択肢も悪くはないのかもしれない。ただ問題は自分が馬鹿なので他人に教えられるのが体を動かす技術ぐらいなのだが。

 

「そこぉ!」

 

 土煙の中からキリエの掛け声とともに銃声が響く。体を横へと飛ばすが弾丸を回避するには遅すぎ、弾丸が魔力弾と体に当たって来る。LC値が減少するのを理解しながらも視線を向ける先は土煙の中から出現して来るキリエの姿。その手には二丁の銃が握られている。そこから放たれる魔力の弾丸は此方が用意できる魔力弾よりも数が多く、そして早い。

 

「よっと」

 

 ヘヴィエッジを盾にする形でキリエへと向かって接近する。体を二丁の銃、ザッパーから放たれる弾丸に削られるがダメージ自体は大きくはない。キリエもなんだかんだで趣旨を理解して、威力を低めに攻撃してきているらしい。おかげで非常にやりやすい。

 

 接近した所でヘヴィエッジを振るい上げると、キリエがザッパーを繋げ、変形させ、そして本来の色のヘヴィエッジを手に握り、振り下ろす刃を正面から叩いてくる。それをブレイクポイントにお互いの体を吹き飛ばしあう。ついでに下がったキリエの姿へと向かってヘヴィエッジを投げつけ、少しだけ時間を稼ぐ。

 

「キャラクター、というか俺達がこのブレイブデュエル内で姿を取るアバターには特殊な能力が設定されている場合がある。そこのフローリアン姉妹がデバイスの可変機能、片手剣、銃、大剣って変化できる機能がついていたりする。まあ、デバイスの可変機能は割とメジャーで、ほとんどだれもが所有しているものだからアバター能力とは言わないんだけどね―――まあ、そんなわけで本当のフローリアン姉妹のアバター能力は加速と減速な。触れたオブジェクトの時間を加速させたり減速させたりするよ」

 

「そこ普通はスルーして言わないところでしょ!? なんでバラすの!?」

 

「言わない理由がないし」

 

 ゲス笑みを浮かべ、キリエを挑発すると、キリエが震える両手でヘヴィエッジを掴み、上段に大剣を構えながら突っ込んでくる。こういうリアクションが帰ってくるあたり、何気にキリエもまだまだだな、と思いつつ両腕に本来のガントレット型デバイス、ベーオウルフを取り出し、ダッキングとスウェイを同時に行いながらキリエの斬撃をくぐり、右こぶしのボディブローを叩き込む。キリエの体がくの字に折れるのを見つつ、口を開く。

 

「ちなみに俺のアバタースキルは≪武芸百般≫と言って、スキルカードスロットに別のプレイヤーのキャラクターカードを投入することによって、その人のデバイスや武装が使用可能になるってもんだ。デバイスやプレイヤーに応じてステータスにボーナスが入るんだが―――」

 

 そのまま拳を振り上げ、キリエの体をビルへとめがけて全力で殴りぬく。

 

「―――俺、格闘の方が強いからもっぱら手加減とか武器の使い方のレクチャー用にしか使ってない死にスキル化してるんだよな」

 

 ユーリのスピリットフレアの様な非武器型の武装で、格闘と併用することが出来ればそれなりに効果があるのだが、いくら自分が”どんな武器を十全に使いこなせる”技量を持っていたって、格闘で戦うのが一番強い為、武器を握ると軽度の弱体化にしかならない。

 

 いや、ステータスボーナスが入ることを考慮すればトントンなのではなかろうか?

 

 一応SRやHRランクのカードを使えばデバイスだけではなくアバタースキルも使用可能になるなんてジェイルが言ってはいたが―――現状、SRランクは誰も所持していない。ショッププレイヤーだから配布してくれる、なんて甘い事をどの博士も許しはしないのだ。

 

 故に現在、若干産廃スキル。大会で上位入賞してSRやHRを確保しない限りは。

 

「よ、っと」

 

 手を軽く振るうと今度は赤いボディの折り畳み式のデバイスが出現する。それをベーオウルフを装着したまま握り、もう一度返す様に振るえば先端の部分が開き、青い魔力の刃が生まれる。ボディの色は自分が出したために赤くなってしまっているが、デバイス自体はレヴィのバルニフィカスだ。鎌形のバルニフィカスを片手で握り、とんとん、と右肩を叩く。

 

「えーと、そんでキャラクターカードにはそれぞれASとBSがあるのは知ってるよな? ASってのは常時発動しているスキルだ。俺の今使ってるカードの効果は攻撃時AT2倍、だからダメージを与える時にダメージが2倍になるって内容だ……えーと、キリエちゃん大丈夫―――」

 

 やりすぎてないよな、そう思った瞬間には顔面に何かがたたきつけられるような感触を得る。のけぞりながら目を開けば、そこにあるのはコンクリートらしき物体の塊だというのが解る。十中八九、キリエが加速させながら投げたのだ。威力自体はないが、速度が乗っていて衝撃だけは強い。上半身が大きく後ろへと傾くのを自覚するのと同時に、キリエが加速して踏み込んでくるのが見える。次に何を紹介すべきかはキリエも解っているはずなので、あえて抗わず、キリエに任せる。

 

 故に次の瞬間には体が吹き飛んでいた。

 

 痛みはない。そもそも痛みが発生するなら子供用のゲームとして出す事なんて不可能だったし。体に感じるのは衝撃だけだ。捻るような、そんな一撃を叩き込まれたような感覚だった。それによって体が吹き飛ばされ、ビルの側面に叩きつけられる。壁を砕き、そしてそこから体をゆっくりと持ち上げながらキリエの声に耳を傾ける。

 

「これがBS,ブレイクショット! キャラクターカード別に設定されている必殺技みたいなものよ。こっちはASと違って扱いとしてはスキルみたいなもの、キャラクターカードに固定されているスキルの様なものだと思えばいいわね。ブレイブデュエルはステータスだけじゃなくてASとBS、その相性が勝負を分けるわよ!」

 

「はーい説明終了! イストさん負けるの大嫌いだからこっからガチね! 超ガチで戦うからね! 女の子の前で負けるの嫌だからね!!」

 

「女の子を殴る事に対する忌避感とかはどうなのよ―――!」

 

 ない、と断言しつつバルニフィカスを振り上げ、キリエへと向かって飛び上り、頭上から強襲する様に襲い掛かる。横へとステップで回避するキリエは即座に飛び上り、飛行して逃げようとする。その判断は正しい。純粋な飛行勝負だったら絶対にキリエやアミティエ、一番遅いユーリ相手にですら勝てる自信はない。

 

 なのでバルニフィカスを全力投擲する。

 

 ブーメランの様に軌跡を描きながら飛翔するデバイスをキリエは空中で華麗にフリップを決めながら回避するが、そこで無駄に優雅さを演出するのが運のツキだ。無駄な動きは大きな失速へとつながる―――即ちあっさりと追いつける状態となる。

 

「あ」

 

「どっこいしょ」

 

 キリエの頭を掴み、それを大きく振るうような動きを持って全力で地面へと叩きつける。道路にクレーターが出来、キリエが半ば埋まるが、それに気にする事無く、飛行による加速を咥えた全力のストンピングを急降下で繰り出し、キリエを更に道路の中へと埋める。

 

「こ、こっから逆転してキリエパーフェクトヴィクトリー、KPVな展開は―――」

 

「―――ところがどっこい、ないんです、ないんですよ……!」

 

 動けないのを良い事にストンピングを繰り出す。おそらくキリエはプロテクションの類のカードを用意してこなかったのだろう、ストンピングをしても反撃や防御を行うことが出来ずに、そのままズブズブ道路の中へと沈んで行き―――数秒後には跡形もなく道路の中へと埋まり切って、消滅する。

 

「いやぁ、キリエちゃんは強敵だったなぁ……」

 

「イストさんって戦い方外道ですよね」

 

「外道なんじゃないよ。効率とメタとハメを利用しているだけだ」

 

「それを世間では外道と呼ぶんです」

 

 手段や過程などどうでも良い、勝てば良いのだ。そう言ってみたいが、現在はアインハルトとオリヴィエの視線があるのでやめておく。これが研究所メンツかクラウスだけであれば間違いなくポーズを決めながら言った所だが、芸風に慣れきっていない存在の前ではあまりやる事ではない。とりあえず戦闘が終了し、勝者表示が目の前に表示される。とりあえずこんなものでお手本はいいだろうか。

 

 そんな事を思い、表示されたホロウィンドウを消そうとした瞬間、

 

 ホロウィンドウが横から吹き飛ぶように砕け散った。大体何があったのを察しながら横へと視線を向ければ、そこには腕を組んで立つ、クラウスの姿があった。大体予想通りだった。そしてこの次に何を言うのかも、もう解っている。

 

「良しイスト、俺と―――」

 

「アミタちゃん任せた」

 

「え?」

 

 滑り込む様にアミティエの背後へと移動し、アミティエを前へと押し出す。少しだけ困惑しているが、アミティエの事だから断る事はまずないだろう。だからアミティエを前へと押し出した時点で飛行を開始、そのまま離れた場所で観戦しているティーダ達の所へまで飛ぶ。

 

 百メートルほど離れたビルの屋上、柵に寄り掛かるようにティーダ達はいた。屋上へと着地すると、オリヴィエとアインハルトの視線が突き刺さる気がする。なので二人へと視線を返し、

 

「いや、これ対戦型ゲームだから……」

 

 声を震わせながらそう言うと、オリヴィエが近づいてきて、人差し指を突き付けてくる。

 

「それでも女性が相手なんですからああいう戦い方は褒められたやり方じゃありませんよ? 確かに対戦格闘型のゲームかもしれませんけど、イストさん、戦っているのは貴方と、そして相手なんですよ? ゲームのキャラクターではないんですよ? 偽りの肉体とはいえ―――」

 

「あ、はい。次回からもうちょい優しくやります」

 

「うん、解っているならいいんです。イストさんが才のある方である事は私が良く知っています。ですからさっきみたいなわざと酷い方法を選ばなくても勝てる事も知っています。だからイストさん、もう少しだけ、相手に優しくなりましょうね、ね?」

 

「うん……俺もうちょっと他人に優しくなるよ!」

 

 微笑みながらそう言われると心が浄化されてしまう。心の底までヨゴレゲージであふれていた筈なのに、一瞬で浄化されてしまう。というより今、浄化された。そんな気分でいると、ティーダがアインハルトへと接近する。

 

「見えるかアインハルトちゃん、アイツああいうタイプが苦手だから。あと大きい方が良いとか言いつつ実は胸とか気にしない方だから」

 

「成程……」

 

「子供相手に何言ってんだお前」

 

 サムズアップを向けてくるティーダは何時も通りだから良いとして、そこでメモしようと頑張っているアインハルトは一体何なのだろうか。いや、別に鈍感でも何でもないからわかってはいるのだが、さすがに子供はノーセンキューである。そんな事を思っていると、先程までいた広場で、アミティエとクラウスが十歩程の距離を離れるのを見る。アミティエは武器を握っているが、特に警戒する様な様子を見せていない。

 

「まあ、アミタちゃんの事だからきっと”初めての方ですよね? お先にどうぞ”とか言ってるんだろうなぁ」

 

「俺達三馬鹿最強の馬鹿相手に先手を譲るとは」

 

「えぇ、そうですね。多分アミタさん終わりましたね」

 

 ティーダ、アインハルトと、三人でそろってアミティエの未来を想像し、頷く。唯一クラウスとの今日会ったばかりのオリヴィエが首を傾げ、そして視線を向けてくる。

 

「クラウスさんって少々破天荒な方ですが、凄いんですか?」

 

 オリヴィエがクラウスを”少々破天荒”という明らかにありえないレベルの表現をしたことにティーダが戦慄を隠しきれていないが、一番最初に復帰したのはアインハルトで、アインハルトは頷きながら視線を下のクラウスへと向けたまま喋る。

 

「我が兄ながら、生まれた時代を間違えているとしか評価できないですね。中世の頃に生まれていればまず間違いなくどっかの将軍か何かとして活躍するのが我が家の馬鹿兄だと思いますよ」

 

 そうですね、とアインハルトは言葉を置き、

 

「レーダーを搭載したサイボーグ型熊か虎が人の形をしているうえで、武術の流派を一つ極めている。そういう風に表現するのが兄を表現するうえで一番正しいと思いますよ。達人とか超人とか、そういうカテゴリーじゃなくてもっと、こう……うん、やっぱりあれですね」

 

 視線をクラウスの方へと向けると、視界の中でクラウスは流れるような動きでアミティエの懐へと潜り込む。クラウスは実家の流派でカイザーアーツ、覇王流というのを完璧なレベルで習得している。だからといって、それをこの空間で完璧に引き出せるかどうかは完全に別だ。そもそもこの世界と現実世界は物理法則が一緒であっても、身体能力は格段に違うのだ。技術一つとっても力加減が大きく変わって来る。体だって何時もの数倍を超える速度で動いている為、タイミングなんて大きく変わる。

 

 何時も通りの動きを初めての状態で実践するのは不可能だが、

 

「兄さん、アレはたぶん化け物ですね」

 

 アミティエの懐へと潜り込んだクラウスが片足でアミティエの足をふみ、逃げようとする体を止めるのと同時に両手を使ってアミティエの手首を殴り、攻撃を封じる。次の瞬間には開いている片足でアミティエを地につけたまま蹴り上げてから、拳を胴に叩き込んでいる。その衝撃に空気が揺れるのを感じながら、アインハルトの言葉をティーダが引き継ぐ。

 

「伊達や酔狂で覇王って僕たちが彼を呼んでいるわけじゃないんだよね」

 

 二撃目の拳、今までの様に確かめるものではなく、完全に本気のそれがアミティエへと叩き込まれ、そしてアミティエのLCが完全に消失した。初手をクラウスへと譲ってしまったのが確定的な敗因だが、

 

「―――ふむ、慣れた」

 

 それ以上に、風に乗って届いて来た言葉がただの馬鹿ではない事を証明していた。




 クラウス:強い奴は強いし出来てしまう黄金タイプ
 ティーダ:考えてハメて追い込む水銀タイプ
 イスト:何を使っても問題なく十全に戦える刹那タイプ

 オリヴィエ:世界に舞い降りた 大 天 使

 クラウスさんは人間というジャンルで見てはいけない生き物らしい。
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