私の大切な妹に何してるの!! 作:便利屋68のアルバイト事務員
ミカエルとルシファーって双子なの!? じゃあ書くしかねえよなぁ! となって描きました。好きな果物はリンゴとデラウェアです。
第1話 ある天使のゲヘナ行き
──トリニティ総合学園自治区某所。
桜の花も散り、青々とした葉が茂り始める5月上旬。その終わりに近い8日の日、一組の双子がこの世に生を受けた。
一人は神に祝福を受けたような二枚一対の純白の翼を携え、淡く桃色と薄紫色に煌めく渦状星雲をデフォルメしたような
もう一人は鱗と羽毛を併せ持った六枚三対の白亜の翼、そして淡藤色の似たような光輪を持った女の子。
光輪は遠目に見れば色しか違わないように見えるが、雲のような上層、木の葉のような光が舞う中層と異なる部分も少なからずあった。
双子の姉妹は蝶よ花よと愛でられながら育ち、派閥は違えど同じような立場の幼馴染と共に、将来のトリニティを背負う者と成る──はずだった。
学校生活の半分が過ぎる2年の夏休み。その終盤に双子の姉がゲヘナ学園に留学する事を決めたのである。
「⋯⋯本当に行くの? あのゲヘナだよ!?」
「もう決まったことだよ、
「でも!」
「大丈夫。お姉ちゃん強いから!」
自身をお姉ちゃんと称した少女の名は聖園シエル。腰ほどまである藤色のストレートスーパーロングヘアと、六枚三対ある白亜の翼が特徴の生徒。そしてトリニティ総合学園の生徒会『ティーパーティー』の役員⋯⋯だった。ゲヘナ学園への留学が決まっているため、現在は無所属である。
声を荒げているのは、シエルと双子の妹である聖園ミカ。緩くウェーブのかかったピンク色のスーパーロングヘアと可愛くデコレーションされた翼の生徒。
二人が所属する派閥はパテル分派と言い、トリニティ総合学園内の派閥の中でも特にゲヘナ学園嫌いの気質が強い。そういった環境で育ってきたミカも例に漏れず、当然のようにゲヘナ学園とその生徒達を嫌っている。
ならば、同じ環境で育ってきたはずのシエルはどうか。こちらは周囲と異なり、ゲヘナに対する嫌悪は無い。それは関わりの無い相手を嫌うほど単純ではなく、同時に関わりの無い相手を好意的に思うほどお人好しでもないということ。良く言えばフラット、悪く言えば無関心。それがシエルにとってのゲヘナの評価であり、留学の理由でもあった。
あまりにも
「シエルさん。ゲヘナ学園を悪く言う訳ではありませんが、何があるか分かりませんのでお気をつけて」
「あはは⋯⋯大丈夫だって。最強とは言わないけど、私強いからね。ナギちゃんも知ってるでしょ?」
「ええ、それは勿論」
「うぅ⋯⋯なんでナギちゃんはそんなに平然としてるの? シエルちゃんがゲヘナに行っちゃうんだよ!?」
まるで今生の別れとでも言うようにミカが嘆く。
シエルからしてみればそんなに騒ぐことかといった話なのだが、ミカ本人にとっては大問題だった。
大好きな姉が、大嫌いなゲヘナに自分から寄っていく。ミカからしてみれば、まるで恋人を寝盗られるかのように脳が破壊される気分を味わっていた。
「ゲヘナに行くといっても留学ですし、何よりシエルさんの強さはよく知っていますので」
「それはそうだけどさ!!」
「もう、ミカちゃん? あんまり文句ばっかり言わないの。そういう文句は1回でもお姉ちゃんに勝ってから言いなさい」
「⋯⋯ごめんなさい」
同じ日に産まれた双子ではあるが、ミカはシエルに勝ったことがなかった。テストの点数はほぼ同じ。しかし、戦闘に関してはシエルの圧勝。
幾度となく模擬戦や姉妹喧嘩を繰り返してきたが、ミカはもちろん年上の先輩達でさえシエルに傷を負わせたものはいない。
武を尊ぶパテル分派において、強さとはそれだけで高く評価される。当然、そうあれかしと育てられてきたミカにとっても。
「じゃあ、私は明日以降の準備があるから」
「ええ、ごきげんよう。何かあったらモモトークで連絡してください」
「うん。じゃあね、ナギちゃん。ミカちゃん」
──翌日。
新居へと荷物の搬入と荷解きを終え、シエルは周辺の把握をするために私服で出歩いていた。
そして⋯⋯風紀委員会に囲まれていた。
「風紀委員会だ、大人しくしろ! 怪しいトリニティ生め!」
「⋯⋯冤罪じゃないかな?」
「市街地でトリニティの生徒が暴れているとの通報があったが、お前以外にはこの周辺にトリニティ生は確認されていない。必然的にお前だ!」
「ふーん⋯⋯で? 私は襲われたから応戦しただけなんだけど、何か文句があるのかな?」
風紀委員の生徒がにわかにざわめき出した。
そうなのか? と確認を取り始める風紀委員達。しばらくして疑いが晴れたのか、風紀委員達は謝罪して去っていった。
「⋯⋯なんだったんだろう。迷惑な話」
留学前はこんなことは無かったのにと不満を抱くが、それも当然。留学前は顔と名前、そして強さがトリニティで知れ渡って居たので、ヘルメット団やスケバン含む不良生徒達に絡まれること自体無かったのだ。さらに言えばパテル分派の次期首長としての呼び声も高く、下手に手を出すのもリスクが高すぎたという事情がある。
そんなことを知る由もない本人は、その後も不良生徒や抗争中のヘルメット団達を(応戦中の風紀委員ごと)蹂躙し続け、新学期が始まる頃には畏怖の対象として知れ渡っていた──。
多々ありつつも始まった新学期。
万感の思いを胸に登校したシエルに向けられたのは、檻から抜け出した危険な猛獣に向けるような、畏怖/恐怖の視線だった。
新入生ではなく、別の学園──それもゲヘナとは仲が悪いことで有名なトリニティから来た謎の強者。夏休みの終盤にやってきた脅威。種族はもちろん、一般の生徒からしてみれば実力も隔絶したシエル。
──悪魔達にとってあまりにも異物すぎた堕天使は、当然のように孤立した。
所持品を隠されたり、陰口を言われたりといったイジメはない。治安が悪いキヴォトスの中でも、殊更治安の悪いゲヘナだからこそと言うべきか、その行為によって破滅する可能性を感じ取ったのだ。
風紀委員会のような目的がある訳でなく、報復による攻撃がどれほどになるか想像がつかなかったことが1つ。そして引越してからの数日という短い期間で武威を轟かせた実力を恐れてと言う理由が1つ。
他に理由が有る無しに関わらず、アンタッチャブルと化すのに時間は要さなかった。
一方、本人は聞いていたよりも治安が良いことに驚いていた。
突然来た留学生にどう接したらいいのか分からないんだよね。うんうん。などと的外れなことを考えていた彼女は、自身に向けられる畏怖の視線を“パーソナルスペースの測定”だと好意的に捉え、自分自身が治安維持に一役買っているとは微塵も考えていなかった。
「ちょ、ちょっといいかしら?」
自分の実力がどれほど飛び抜けているのか、それに気づいていないシエルに話しかける影が2つ。
1人は肩甲骨あたりまである赤いロングヘアと、うなじあたりから左右に生えた2本の角を持った少女。1人は腰まである長い銀髪をサイドテールで左に纏めた少女。
恐る恐る話しかける赤髪の悪魔に対し、くふふと面白そうに笑う銀髪の小悪魔。
一瞬イジメを疑ったシエルだったが、2人の雰囲気からそれは無いと否定する。むしろ
「何か用事?」
「えと、その⋯⋯どうやったら、あなたのようなハードボイルドでアウトローな人になれるかしら!?」
「⋯⋯?」
シエルは背景に宇宙を背負った。
赤い髪の少女が何を言っているのか分からなかったのである。
「ハードボイルド⋯⋯? アウトロー⋯⋯? 私そんな風に見える?」
「え?」
「え?」
授業も終わり、部活も委員会も無く時間の空いていたシエルは詳しい話を聞くことになった。
赤髪の少女──アルが言うには、留学から数日で並み居るゲヘナ生を蹂躙し、周囲の反応を歯牙にもかけない姿が理想的なアウトローに映ったのだという。
そして銀髪の少女──ムツキは、話しかけていいのかと後込みするアルに発破をかけただけとの事。
「⋯⋯なるほど。不良生徒も問題児も風紀委員も関係なく倒して、周りから距離を取られる私がカッコよかったと」
「ええ! その通りよ!」
「えっと⋯⋯まず1つ。私、風紀委員も倒しちゃってたの?」
「それはもう豪快に!」
「そっか。で、私に向けられる視線は畏怖や恐怖のそれだったと」
「勿論! さも当然であるように歩くあなたの姿は、まさしく理想のハードボイルドなアウトローだったわ!」
「くふふ、アルちゃんってばストーカーみたいに尾行してたもんねぇ?」
ストーキングもされていたらしい。尾行をしていたのであれば、それはもうようなではなくストーカーである。
そして彼女達の証言が確かだとすれば、シエルは治安維持に出動していた風紀委員すらも倒してしまっていたのだとか。
そっかーなどと相槌を打ちながら紅茶を飲むシエルは、内心頭を抱えていた。
当然と言えば当然だが、留学生と言えど本来の所属はトリニティ。シエルがゲヘナで問題を起こせば、その苦情が行く先は大切な妹と幼馴染が中核を担う予定のトリニティである。
もしもその苦情が行っていれば、自分は帰った時にどんな小言を言われるか。自信満々に大丈夫と宣言した過去の自分を射殺したくなった。
「それでね、その⋯⋯どんな仕事も受ける便利屋を始めようと思ってるの」
「⋯⋯え? うん。え?」
「ゲヘナに留学しているとはいえ、あなたはトリニティの生徒じゃない? だから非正規社員って形で所属して欲しいのだけれど、良いかしら?」
「ねえねえアルちゃん。多分途中から聞いてなかったと思うよ?」
「そう? じゃあもう一度説明するわね?」
「あ、大丈夫大丈夫。アルちゃんが便利屋を作るから、そこに所属して欲しいって話でしょ? そこは聞いてたから」
グルグルと思考を巡らせていたシエルは1つの境地に至った。それは⋯⋯諦観。
もうどうにでもなーれ☆と言わんばかりに思考を放棄し、そうだゲヘナのトップになろうと独裁政権の樹立を企てていた。
「そう? それで、答えを聞かせてもらえるかしら?」
「もちろん良いよ。アルちゃんが社長で、私が非正規の契約社員でしょ?」
「良かったわ! あなたが入ってくれるなら百人力よ!」
「シエルね。あなたじゃなくて、シエル」
「⋯⋯! ええ、よろしくねシエル!」
「くふ、良かったねアルちゃん」
アダムとイブが楽園を追放される原因となった知恵の実。これはリンゴだとかバナナだとか色々言われていますが、サマエルが植えた葡萄の樹とする説もあるそうです。
そして、キリスト教においてはサマエルもルシファーもみんな魔王サタンと同一視されます。これは悪魔が人々に試練を与える存在だからとされていますが、同時に魔王は1人という思想から、堕天使となったルシファーもサマエルもサタンにまとめられちゃったんですね。
私はリンゴとデラウェア(葡萄)が好きですが、サタンとはなんの関係もありませんよ?