私の大切な妹に何してるの!! 作:便利屋68のアルバイト事務員
──アビドス高校正門前。
早朝から車を飛ばしてアビドス高校にやってきたシエル。
思い返せばアポイントメントを取っていなかったことに気付き、正門から入っていいのだろうかと頭を悩ませていた。
時間も時間であるため、生徒の出入りは皆無。どうするべきかとウロウロしていると、ショットガンと盾を持ったピンク髪の少女(幼女とも言えるほどの身長だ)が声をかける。
「ウチに何か用かな〜? そんな砂漠用のおっきな車で来るなんて、バカにしてるとも取れるけど?」
「そんなつもりは無いんだけど、ごめんね。アビドス砂漠ってアビドスの自治区じゃない? だから入っていいか聞こうと思ったんだよね」
「砂漠かー⋯⋯。うーん、許可とか取らなくっても良いよ? 別に封鎖してる訳じゃないし」
「そうなの? それは良かった。これ、一応菓子折りと弾薬とかの物資。借金返済頑張ってね」
「うへ、恩返しとかはしないよ?」
「その程度で恩になるなんて思ってないから大丈夫。生きてたらまた会おうね」
積荷を渡し、手早く車を発進させる。
シエルの胸中にあるのは、先程会ったピンク髪の少女──小鳥遊ホシノの事だった。
話しかけて来た時は勿論、菓子折りや物資を受け取る時でさえ、何時でも応戦できるように様子を伺っていた。もしもシエルが何か敵対行為をしようものなら、即座に散弾を叩き込むつもりだったのだろう。
朗らかに笑いながらも目の奥には警戒心が宿っており、喋り方や仕草から感じる印象とは真逆の気配を感じさせた。
「あれが『暁のホルス』と呼ばれた小鳥遊ホシノちゃんか⋯⋯。ずっと警戒されてたし、今度はあそこでクレープ焼こうかな」
独り言を言いつつ車を走らせていくと、次第に砂の割合が増えていく。吹き溜まりに積もっている程度から雨の後の水溜まり程度、道のほぼ全てが砂に埋もれる程とどんどん砂の割合が増え続け、遂には住宅地だったのだろう家の残骸が点在するようになる。
豪雪地帯で家の高さほどに雪が積もっている写真があるが、その砂版と言えば想像できるだろうか。
砂の重さに耐えきれなかったのか、それとも吹き付ける風に運ばれた砂がヤスリのように削ったのか、倒壊した家屋も散見される。
かつてはキヴォトスで最も多くの生徒数を誇ったと言われるアビドス自治区。しかし、それも今となっては大部分が砂に埋もれた僻地と化していた。
砂煙を上げながら砂漠を進む。砂嵐を起こす蛇は実在するのか、どういった存在なのか、期待に胸を膨らませながら運転していると、振動の質が変わったことを感じ取った。
直下では無いが至近。写真の縮尺を考慮すれば、半径100mの範囲には目標が存在する。
そう感じとったシエルは、両手で握っていたハンドルから右手を離し、愛銃を手に周囲を警戒する。
ハンドルを僅かに傾け、大きく円を描くように進路を変えた。──その瞬間。
運転する車の左を掠めるように、砂中から巨大な金属の塊が姿を現す。
分厚い金属の装甲にその身を包み、機械でありながらどこか生物のような風貌、蛇と鯨を足して2で割ったような造形、そして何よりも特異な
キヴォトスにおいて、
あまりにも異質。あまりにも不自然。
そう感じたシエルの行動は──銃撃。
「これは⋯⋯うん。ダメだね。車はキチンと返そうと思ったけど、運転しながら戦える相手じゃなさそう」
シエルの持つ神秘を込められた弾丸が巨大機械──ビナーの装甲を叩く。
運転しながらの片手間に撃った弾丸は有効打にならず、表面を軽く凹ませる程度のダメージとも言えない程の傷をつけた。
シートベルトを外したシエルは走行中の車から飛び降り、
「⋯⋯うん、よし。やっぱりちゃんと神秘を込めて撃てば、一応ダメージは与えられるね」
数cmどころか1m近くありそうな装甲を貫き、毎秒8発前後の銃弾がビナーの装甲に穴を開けていく。
シエルの使う銃はトリニティで試作された短機関銃のウェルガンと、ゲヘナで作られたMP3008の2挺をデコレーションし、更に発射速度を調整したもの。
調整された発射速度は共に毎分500発。4秒弱でマガジンは空になり、限りある弾薬が恐ろしい早さで消費されていく。
「穴は開くけど有効打にならないなあ⋯⋯。困った困った」
ビナーの側面から放たれるミサイルを避けつつ言ちる。
言葉とは裏腹に、彼女の顔は楽しげに、嬉しげに笑っていた。
人とは比べ物にならないほど巨大で強大な機械の蛇。それは言い換えれば、
メジャーリーグのエースピッチャーが、子供を相手に本気の投球をするだろうか? ──否。
地に落ちた雛鳥を食べるために、肉食動物が全力で走るだろうか? ──否。
シエルにとって他の生徒の多く*1はメジャーリーガーにとっての子供であり、肉食動物にとっての地に落ちた雛鳥と同義だった。
それほどまでに隔絶した実力の差。誰に頼んだ訳でも無く、ただの偶然という残酷な現実。
シエルが呼吸をするように行う、神秘の操作という技術。しかしキヴォトスにいる生徒の多くは、己の身に秘められた神秘の自覚すらも行えないものがほとんど。
戦力という点で見れば、周りが棍棒や投石器で戦っている中、シエル1人だけ戦車や戦艦で武装しているような状態なのである。ほんの少し力加減を間違えただけで、
それを幼くして自覚したシエルは、誰に言われるまでもなく、射撃訓練と手加減に時間を費やしてきた。
そんな日々の末、シエルは銃口を撃ち抜くような射撃精度を、気絶に留まる程度の手加減を身につけた。
「私、アナタに会えて本当に良かった。手加減をしなくて良い相手がいるって、今までしてきたことは間違いじゃないって知れたから」
シエルを真に滅するべき敵として認識したのだろうか、ビナーの口から光が漏れだしてくる。
「だから⋯⋯お願い──」
数秒のチャージの後、ビナーの口から光線が放たれた。
砂漠の表面を溶かし、ガラス化させながらシエルに迫る超高温の熱光線。
神秘を身に宿し、光輪によって強化された生徒と言えど、直撃すれば蒸発しかねない『アツィルトの光』。
それに対するシエルの行動は──防御。
六枚三対ある白亜の翼で身を包む。ただそれだけ。
もしもこの戦いを見ている者がいたならば、シエルの行動はただ諦めたようにしか見えなかっただろう。そう思うには十分すぎる程にビナーの光線は力強く、携行できる銃火器との差は大きく見えた。
しかし、実態は異なる。
ビナーの熱光線が過ぎ去った跡、ただそこに残るのは溶融しガラス化した砂漠のみ──
──では、なかった。
2000度を超える熱光線を受け、それでもなお変わることなく佇む異物。
立ち上る陽炎により、光すらも揺らぐ破壊の痕。
形あるもののほぼ全てが、そこにあった痕跡も残さずに消え去るはずだったガラスの上。
白亜の翼に包まれた天使は──
「──私の全力、受け止めてね?」
──火傷はおろか、かすり傷1つ無い無傷だった。
主人公が最初から強すぎるせいで今後の展開に困る現象。あると思います(無計画性の発露)