私の大切な妹に何してるの!!   作:便利屋68のアルバイト事務員

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 遅くなってすみません。便利屋が指名手配される理由について結論が出せず、中々筆が進みませんでした。


第6話 舞い踊る天使と悪魔

 ──ゲヘナ学園学生寮。

 

「便利屋68(シックスティーエイト)の発足を祝して、乾杯!」

「かんぱーい!」

「おめでとー!」

 

 アビドスの借金を立て替えてから早くも2週間が経ち、多くの生徒がつかの間の平和を謳歌していた今日この頃。

 戸建てを所有するシエルとは無縁のゲヘナ学生寮にて、とある会社の発足を祝う小規模なパーティーが開かれていた。

 パーティーと言っても華やかなものではなく、一般的な洋菓子店で買ったケーキを切り分けて食べ、ペットボトル飲料を紙コップに注いで飲む程度の庶民的なもの。

 

「人数は少ないけど、正式に起業できて本当に良かったわ!」

「アルちゃんの夢に向かって、また一歩前進したね〜。シエルちゃんも、色々根回ししてくれたんでしょ?」

「少しだけ、ね。起業自体は手続きさえ踏めば誰でも出来るし、私がしたのは知り合いに紹介しただけ。そのうち依頼が来るといいね?」

 

 便利屋68。ゲヘナ学園の1年生、陸八魔アルを社長として発足した小企業。

 アルの想定では部活程度に収まる予定だったのだが、どこぞの留学生が持ってきた書類にわけも分からぬままサインやら社名やらを記入して言った結果、気づけば正式な企業として発足するに至っていた。

 アル本人も最初は困惑していたものの、“真のアウトロー”を目指す上で好都合だと受け入れることになった。*1

 ケーキも食べ終わり、お祝いからこれからの方針を決める会議へと移り変わる。もちろん、最低限の片付けしかしていないため、妙に違和感のある絵面であるが。

 

「ポスターとか貼ってみる? 知ってもらわないと、依頼も何もないよね?」

「いやいや、そんなの必要ないよ。こういうのに必要なのは実績⋯⋯でしょ?」

「それはそうだけど、実績って言ったって何をするの? ボランティアのために作ったわけじゃないのよ?」

「アルちゃんが目指してるのはアウトロー。つまり、風紀委員会とか校則とかに縛られない何でも屋⋯⋯違う?」

 

 シエルの問いかけに対し、一瞬考える素振りをしつつも頷くアル。認識に相違は無いと確認したシエルは頷き、ポケットから1枚の紙を取り出した。

 折りたたまれたそれは、開くとA4サイズのコピー用紙であり、印刷された文書であることがひと目でわかる。

 内容は以下の通り。

 

 

 ゲヘナ学園風紀委員会

 委員長 空崎ヒナ様

 

 便利屋68の陸八魔です。

 

 空崎様にはますますご活躍とのこと、お慶び申し上げます。

 この度、目出度くも弊社『便利屋68』が発足致しました。

 弊社は『一日一悪』を社訓に掲げ、『金を貰えばなんでもする』をモットーに精進していく所存です。

 

 つきましては、これからの弊社発展のため、貴殿並びに貴会に対する攻撃を行わせていただきます。

 ご多忙とは存じますが、是非お相手いただきますよう謹んでお願い申し上げます。

 

 日時:10月30日 午前10時30分

 

 場所:ゲヘナ学園屋外第一演習場

 

 

「⋯⋯犯行声明じゃないの!?」

「丁寧に書いてるけど、ただの宣戦布告だね」

「29日のお昼頃に送信予定だよ」

「たった3人で襲撃って、無謀にも程があるわよ? 3年の先輩達が引退したとはいえ、流石に戦力差が大きすぎるわ!」

 

 泣くように⋯⋯否、若干泣きつつアルが叫ぶ。

 問題児や違法サークルの多いゲヘナ学園の秩序維持を一手に担う風紀委員会。10月に入り、3年の生徒の多くが引退したものの、その大部分は未だ精力的に活動している。

 新しく委員長の席に就いた空崎ヒナを筆頭に、便利屋の何倍もの生徒が風紀委員会に所属している。

 

「大丈夫。大抵は吹けば飛ぶような有象無象だし、最高戦力は私が抑えるから安心して?」

「⋯⋯それなら、大丈夫⋯⋯かしらね?」

「みんなまとめてバーンッ! だねっ?」

「乗り気になってきたところで、色々と準備しよっか? 新しく口座作ったり、物資を調達したり」

 

 シエルは襲撃に成功した場合、指名手配されると考えている。その後は学生証に紐づけられた口座が凍結され、日々の生活にも困窮する可能性があると。

 その対策、リスク分散として、別名義の口座を複数用意し、仮に口座を凍結されても、ある程度活動するための準備はしておくべきだと考えていた。

 

「作戦を立てたり、訓練もしたりで大忙しだよ? ア・ル・ちゃ・ん♡」

「くふふ〜。風紀委員会を襲撃なんて、悪いんだぁ〜?」

「や、やってやるわよ! 風紀委員会を怖がってたら、真のアウトローになんてなれないわ!」

 

 

 

 ──10月29日、風紀委員会。

 

 この日の風紀委員会は上を下への大騒ぎだった。

 というのも、原因は明白。どこぞの留学生が送信した、愉快犯のごとき犯行声明のせいだ。

 最初はよくあるイタズラメールの類だと思われたが、詳しく調べてみると実在する企業であり、所属しているメンバーの1人が留学生のシエルであることが判明。これまでの行動から、イタズラではなく、本物の犯行声明であると処理されたのだ。

 ただでさえタスクの溜まっている風紀委員会としては迷惑もいい所だ。しかし、たった3人であることに加え、シエル以外の2人は1年生。風紀委員達は、シエルさえどうにかすれば鎮圧できるだろうと高を括っていた。

 

「聖園シエル⋯⋯彼女は私が相手をする。アコ達は残りの2人をお願い。傭兵を雇っているかもしれないから、少しくらい過剰戦力でも構わない」

「お任せ下さい。鎮圧が完了し次第、ヒナ委員長の援護に向かいます」

 

 1人要注意人物がいるものの、1年生2人が相手なら数の暴力でどうとでもなる。多少過剰になろうとも、中隊規模*2の人数で圧殺すれば良いと。

 

 

 

 ──翌日10時30分。

 

 風紀委員達が待ち構える屋外第一演習場。獲物を待ち構える蜘蛛のように、準備万端の空崎ヒナが演習場の中央に佇んでいる。他の風紀委員達は物陰から周囲を警戒しており、それが便利屋を一網打尽にするための罠であることは明白。

 これで本当に襲撃を仕掛けてくるなら、余程のバカか、余程実力に自信があるかの2択であると、誰もが思ったその時。

 

「ごきげんよう。ヒナちゃん」

 

 演習場の入口から、まるで警戒などしていないかのようにシエルが歩いてきたのだ。

 堂々と、ただヒナのみを見据え、不敵な笑みを浮かべた──六枚三対の翼を持った天使が。

 

「⋯⋯本当に来たのね。袋叩きにされるとは思わなかったのかしら?」

「うん。微塵も、これっぽっちも思わなかったかな。だって私は強いし、掃いて捨てるほどいるような有象無象じゃかすり傷も付けられないもん」

「そう。傲慢ね」

 

 二言三言の会話。しかし、それは戦いの火蓋を切るには十分だった。

 

 小柄な身体と同程度の長さ*3機関銃(終幕:デストロイヤー)が火を吹き、秒間20〜25発の横殴りの雨となって降り注ぐ。

 それもただの雨ではなく、禍々しい紫色の尾を引く(しんぴをまとった)弾丸の雨だ。いくらシエルといえど、この攻撃は当たれば痛い。*4

 

 避けられる弾丸は避けつつ、急所に当たりそうな時は翼で弾くシエル。防戦一方にも見えるが、その表情は不敵に笑ったまま。

 一度も引き金を引かないシエルに、ヒナが気味の悪さを感じ始めた頃。

 演習場の一角から銃声とは異なる爆音が響いた。

 

「⋯⋯なるほど。貴女の役目は私を留めることね?」

「もうバレちゃった? だからって、向こうに行かせるわけじゃないけどね」

「そうでしょうね⋯⋯。はぁ、めんどくさい」

 

 再び引き金を引く。先程と同じことの焼き増しになり、弾薬の無駄だと思った矢先。

 シエルが短く両手の引き金を引き、命中するはずだったいくつかの()()()()()()()()()()

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」

「ヒナちゃんの銃って、弾丸は7.92mmモーゼルだよね? 結構改造してあるけど、ベースはMG42っぽいし」

「⋯⋯だったら、何?」

「私の銃はね、どっちも9mmパラベラムなんだ。初速は365m/s。弾頭重量も、弾速も、どっちもヒナちゃんに負けてる。⋯⋯でもね、神秘を()()()弾丸なら弾くくらいはできるんだよ」

 

 無茶苦茶すぎる。ヒナの心境はこの一言で表せた。

 シエルの説明は衝突した場合の話であり、まず不可能に近い。音速をゆうに超え、マッハ3に近い速度で撃ち出された弾丸に、音速を少し超えた弾丸を当てるとはどういう曲芸だと。

 相対速度はマッハ4にも迫り、もし仮にそれができたとして、自分にあたる弾丸のみを識別して、弾ける角度で正確に当てるというのはもう訳が分からない。

 得体の知れない恐怖。天使の姿をしたナニカ。

 

 ヒナは理解した。

 万に一つの勝利を掴む。それ以外に、勝ち筋は無いと。

 

「本気になったのかな? 少しは楽しませてね、ヒナちゃん」

 

 返答は銃声。

 そして──接近。

 

 距離を取れば弾が分散し、密度が下がる。密度が下がれば命中率も下がり、対処もしやすくなる。

 故に選んだ行動は接近。全長1m超の機関銃を持っているとは思えない、距離2mでの近接戦闘。

 銃を手に持ち、蹴りや肘打ちを織り交ぜた、至近距離での銃撃戦。それは架空の戦闘術であるガン=カタを想起させ、白と黒という対象的な服装も相まって、一種の舞踊にすら見えるほど。

 

 数秒か、数分か。時間も忘れるほどの激しい戦闘の最中(さなか)、ヒナの無線に救援要請が入る。

 

『戦闘不能者数75名を突破! 至急、救援をお願いします! 繰り返します! 半数が戦闘不能! 至急、救援を──』

「⋯⋯してやられたわね。中隊規模で足りないなんて、甘く見ていたのはこっちの方だったみたいね」

「2週間みっちり鍛えたもん。1年生とはいえ、掃いて捨てるほどいるような有象無象に負けるわけないよ? 便利屋(うち)の社長達がさ」

 

 そう話しているうちに、続報が届いた。それは──

 

『くぅ⋯⋯っ。対便利屋中隊、全滅⋯⋯! 申し訳ありません、ヒナ委員長⋯⋯!』

 

 ──たった2人を相手に、風紀委員の中隊が⋯⋯それも、幹部を含む中隊が全滅したという報せだった。

 ただでさえ勝率が低いところに、幹部を含んだ中隊を全滅させる実力者の合流。ヒナは敗北を悟った。

 

「はぁ⋯⋯。こちらの負けね」

「今度お詫びするから、それで許して欲しいかな」

「⋯⋯お断りするわ。どこかの誰かのおかげで多少は治安も良くなったけど、問題児はまだ沢山いる。逃がした犯罪者への対処なんて1つしかないでしょう?」

 

 即ち⋯⋯指名手配。

 シエルがトリニティに戻った時、ナギサ達から長いお説教を受けることが確定した。

 

「そんな!? 風紀委員の戦力底上げに協力するから! 指名手配(それだけ)は勘弁してー!」

「ダメよ」

 

 

 

 その後、ゲヘナの一角に「なななな、なっ、何ですってーーーーーーー!?」と少女の叫び声が響いたのは余談である。

*1
言いくるめられたとも言う。

*2
60〜250人。間をとって150人くらい。

*3
身長142cmに対し、銃の長さが122cm。

*4
ヒナが攻撃タイプ:爆発、シエルが防御タイプ:軽装甲なので相性も悪い。




 カヨコとハルカが所属する前に指名手配になってて草。
 原作で指名手配された理由は不明ですが、本作では風紀委員に対して攻撃をしかけ、全滅させたことで指名手配されたことにします。
 一応、この後増援はありましたが、到着した頃にはもう居なくなっています。ヒナも敗北しているため、原作と比べてもかなり警戒されていると思います。
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