【完結】ひらがなこわい   作:烏賊葛

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紙、土塊、屍肉

「いやー、まいったまいった」

 

 2体のゴーレムからの熾烈な攻撃をかいくぐり、額に書かれた文字を削り取ってただの土山へと変え。

 それでいて僅かに息を切らすだけのレイジの耳に届いたのは、どこまでも軽薄な声だった。

 

「たしかにそういう風に作ったけどさぁ、ちょーっと暴れ過ぎだぜ、245号く~ん?」

 

 睨みつけた視線の先。再び盛り上がった大地。その中から現れたのは、白衣を纏い黒髪を好き放題に伸ばした、不健康そうな長身痩躯の男。

 

「誰だ」

 

「――おいおいマジかよ!?そこまで吹っ飛んでんの!?いくら何でもそこまでヤワには作ってないぜ俺様さぁ!!!!」

 

 何が面白いのか腹を抱えて笑い出す男に、レイジと……フィノの視線だけが、突き刺さる。

 大人たちは、怯え竦んで視線を地面へと落としている。

 まるで、すべての希望が拭い去られたかのように。

 

「ムラサキ」

 

「おやまぁオヒメサマ。こりゃまた会えて光栄の至り」

 

「思ってもいないことを口に出さないで。フユカイだわ。――このジョーキョウ、貴方の仕込みなのね?」

 

 疑問の形こそ取れど、少女にとっては半ば答えのわかった問い。

 それに対し、ムラサキと呼ばれた男は満面の狂笑を浮かべて言葉を吐き出した。

 

「さっすがご明察!そこのちびっ子はわりと気合い入れて作ってやった『()()()()()()()()()245号』くんさ!!あっちこっちから素材かき集めて見た目で判別できねえようにして魔力も漏れないようにフルオートで制御させて誰がどこからどう見たってただの人間のガキにしか見えないようにしといたからさぁ!!あんたもあんたの護衛も分かんなかったみたいだなぁ!!!」

 

「……なに、を」

 

 ぽつり。レイジの呟いた言葉が、転がって。

 狂ったように笑っていた男の視線が、レイジを捉えた。

 

「流石に数ヶ月森の中に放り込んどいたらバグりもするかぁ~……オートでメンテするにしたって限界はあるってことかね」

 

「俺、は――」

 

「はいはいお仕事ご苦労245号!この馬鹿みたいにだだっ広いフェム・レーン大樹海の中で逃げ出した奴隷ども見つけてくれてありがとうね~~!!!」

 

 逃げてきた。奴隷。恐怖。怒り。人間。

 フィノから、村長から、そして目の前の男から聞いた言葉が、脳内で繋がっていく。

 

「キオクソーシツ、ではなかったのね。レイジ」

 

 左胸を抑えて、後ずさるレイジ。

 視線は伏せられ、表情は伺えず――

 

「アッハハハハハ!!!ちょっと見ない間にバグってバグってバグり果ててんなあぁ245号~!!お前の心臓はそこにはねえだろう!?ずいぶんとまぁ人間臭い動きを学んだもんだ!!!帰ったらバグ取り除いて使いまわして使い倒してやるから覚悟しろよ!お前はお前が役に立つってことをちゃ~~~~んと証明してみせたんだ!!!俺様の役に立てることを光栄に思ってくれよ245ごウボぇぁ!?!?!!?!」

 

 なおも喋り続けるムラサキの顔面に、拳。

 振り抜いたのは、レイジ。

 

「もう、いい」

 

 ぽつり。呟いた言葉は、何との決別か。

 転がっていくムラサキを真正面から睨みつけ、憤怒(Rage)の表情で言い放つ。

 

「お前の、言う、245号なぞ、知らん」

 

 前世で居場所がなくても。そこにいるべきはお前ではなかったと罵られても。お前が奪ったのだと謗られても。

 今世で自覚せぬままの裏切り者だったとしても。皆を追い詰めたのが自分だったとしても。その後悔すら自分勝手だと、分かっていても。

 

「お前の、言う、仕事なぞ、知らん」

 

 かつて差し伸べられた手を、忘れたくなかったから。

 さっき感じた優しさすら、裏切りたくなかったから。

 

「俺は、レイジだ。堂後(どうご) 礼仁(れいじ)だ」

 

 拳を握る。

 吹き飛んだムラサキと、フィノの間に立つ。

 

「クソがクソがクソがクソ転生者共がァ~~~~!!!!!毎度毎度いいトコで邪魔しやがってよぉてめえらはよォ~~~~~!!!!!」

 

 土埃にまみれながらも立ち上がったムラサキが吠え、ペンのような道具を取り出す。

 

「フィノ。皆を、避難させてくれ」

 

 言うが早いか、大地を蹴る。

 背後からの視線には、気づかぬふりをして。

 




総合日刊ランキングにも入ってて二度見しました。
ありがとうございます。
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