酷く澄んだ青いソラ   作:クエクト1030

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呪詛師が取引を受ける際に交わされる縛りは非常に多い。
呪術行使の殆ど全てが許可制になること。
任務の拒否権が完全に無くなること。
報奨金の数割が天引きされること。
一定の監視を置かれること。
その他数多く。
彼らは呪術界にとって、都合の良い道具として運用されます。
それが、彼らに唯一出来る償い故に。
───別当司の〆言葉



交流会編
第十話「転入生」


2019年7月某日。

 

 呪術高専に長期休暇は事実上存在しない。なので本日もみんなで仲良く席に座り、素晴らしい座学を受けている────────────。

 

「あっづ…」

 

 呪詛師を捕縛したあの事件から早二か月。今は7月に入り暑さがどんと押し寄せてきた。先生の授業を聞いていると、外から耳に障る蝉の鳴き声が聞こえてくる。バカ暑い気温で蒸発しそうなのに、苛立ちと騒音で更に沸騰しそうな気がしてくる。

 

 あれから、音弥くんと春ちゃんは二級術師に昇格していた。元々二人は二級術師としての実力を持っていたけど、定例的な問題と、術師としてだけではなく、子供としてある程度安全にって事で三級スタートだったらしい。

 後者で見れば今もそのはずだけど、本人たちの希望が強いって事で昇格したとか何とか。音弥くんは…まぁ、言わずもがなって感じだけど。春ちゃんはお金を早く稼ぎたいって言ってたな。

 

 あの任務から、私も二級昇格しないかって(音弥くんに)誘われていた。実績だけ見れば、一級呪詛師の討伐だけでなく捕縛になるんだから、確かに昇格を申請すれば受かるのかもしれない。

 でも正直、まだ怖い。

 純粋に私は二人と違って、素の力が不足してる。それに加えて、まだ自分の存在を自分として受け止め続ける事が出来ないし。あの時は死ぬかもしれないって状況で、ヤケクソになってたところが大きかったわけで…

 それでも二人が変わらず受け止めてくれたって事は…すごい嬉しかったけど。それでも、やっぱり怖いものは、怖い。

 だから私はまだ三級術師に留まった。最初に言った通り、素の実力もしっかり身に着けて、胸を張って昇進したいしね。

 

 一時限目の授業が終わると休み時間に入る。クラスの皆は噂話をし始める。

 それは転入生の話だ。

 


 

 時は少し遡る。

 

 朝のホームルーム。

 一年生の担任、雨宮宗則(あめみやむねのり)は教壇に立ち、その日の授業の確認を行う。一から三までの授業数、そして自由枠の四限目について等。入学から変わらず、惰性的な流れ作業を生徒もまた聞いていた。

 そんな中、雨宮は聞きなれない単語を話す。

 

「あぁ、そういや今日の昼頃に転入生が来るぞ」

 

 濁った教室の空気が一瞬で緊張する。頬杖をつき早くも舟を漕ぐものまでいた生徒が目を見開く。

 

「転入生!?」「新しい友達だーーー!!!」「あれ、でも昼頃?」「どんな奴なんだろな~」

 

 口には出さなかったけど、私も内心どんなら子が転入してくるのか気になった。転入、ってことは新しく発見なり保護なりされた術師なのかな。何か任務があって、その過程で保護された...とか。

 あれ、でもお昼ごろに紹介? いや、まぁそういうこともあるか。高専生は基本的に寮生活だし、引っ越すのは間違いない。それの運び込みとか設置に時間がかかるとか? あとは今日は顔出しだけで、すぐに特別休日入って心身を休めたら準備するのに努めるとかあるのかも。

 私の時は術師の家系なのもあって入学時期に合わせてたから、ここら辺の流れをよく知らないんだよなぁ。

 

「あ、ちな転入生は二人な。」

「二人も!?」「わーい!友達いっぱいー!」「二人追加かぁ」

「一部は顔見知りがいるかもな〜」

 

 顔見知りとなると...音弥くんあたりの、かな?

 

────────

────

──

 

 午前の二限、そして昼休みも終わる。今日の三限目は件の転入生の歓迎に充てられることになった。

 

「よっし。んじゃお前ら」

「待ちに待った、転入生紹介だ〜」

「「「いえーーーい!」」」

「よし、二人とも入ってこーい!」

 

 暑いけど転入生紹介のため一度閉められた扉が開く。外からは、桃色の髪の毛をした可愛い女の子と...と、、、とととととと!?!???!

 

「よし、二人とも自己紹介しろー」

「忌部白夜と言います。皆さん、よろしくお願いします」

 

 この子は問題じゃない!控えめな胸に桜みたいなカラーリングでイイね!

 問題は!!!!

 

「安藤公己です。よろしく...」

「お、お前ぇええええ!?」

 

 思わず席を立って叫んだ。

 こいつ!!!!!この前の呪詛師じゃねぇか!?!??

 

「……」

「あ、高専に来れたんだね! これから一緒に頑張ろうね公己!」

「あ、ぁぅん。あー……ういーよろしくぅ」

 

 音弥くんはいつも通りとして、春ちゃんは声こそ出さないけど目を開いて硬直してる。あとこいつの返事なんだよ!無理して陽キャのふりする陰キャじゃねぇか!?

 

「先生!!! これどういうことですか!!!」

「取引で高専生に所属することになったらしい」

「だからもうお前らに危害加えることは出来ないから安心しろ」

「そう〜〜〜〜〜いう問題じゃなくて!!」

「こいつ、こいつは!!!」

 

 頭の隅に冷水が流れる。

 こいつは殺人犯で薄気味悪い気持ち悪いクソ野郎だ。

 クソ。でもこいつの罪をここで暴露して、他のクラスメイトはどう思う?音弥くんみたいな例外を除いたら、避けるだろう。

 私のせいで。

 それはなんか嫌だ。私のせいでそれが相手の自業自得だとしても、独りぼっちにさせるのは何だか自分に納得できない。

 

「〜〜〜〜〜〜、イーーー!!!」

 

 頭を掻きむしって机を叩きながら席に着く。

 

「ま、ちょっと色々あってな。別に仲良しこよししなくてもいいけど」

「二人もお前らも、協力が必要な時になったらしっかり連携を取るようにだけな」

「よ・ろ・し・く・た・の・む・ぜぇん♡」

 

 雨宮先生はウィンクしながら猫撫で声で茶化す。クラスのみんなは私が大声を出したせいで空気が凍りついてたけど、このフォローのおかげで皆んな鼻で笑ったり愛想笑いして、空気がちょっとだけ戻った。

 


 

 三限目の授業、教室内でのコミュニケーション。

 

 改めて、三限目は転入生二人とのコミュニケーションの時間になった。自由時間の前に、効率のため一度順番に自己紹介をしてから、二人への質問攻めタイムが始まった。

 質問攻めといっても教壇に立って答えるってより、二人それぞれの席に集まって、周囲の椅子を引ったくって座りながら集まって質問する感じ。

 そんな形式なもんだから、皆も人数差をそれとなく考えてくれてるのか半分半分になるように二人の周囲に群がって質問をしている。

 

「私からしつもーん! 白夜ちゃんは何の食べ物が好きですか〜!」

「うーん、ラーメン? かな」

「おぉー、藁谷くんと同じだぁ」

「何ラーメンが好きなんだ?」

「むっ。それは…答えるのに覚悟が必要な質問なんじゃない?」

「ッ! ……ちなみに俺は味噌。」

「醤油…!」

「「…!!」」

 

 ばちばちー、と謎の戦争が起きている。

 

「まぁ、一番ってだけで全部好きだよ」

「味噌と言えば、北海道の味噌バターラーメンっていうの食べてみたいなって思ってるなぁ」

「袋麺のなら食べたことあるよ、リピートしてるから部屋に置いてある」

「ほんと!?」

「お、おう。今度持ってこうか?」

「お願い〜! ありがとう藁谷くん〜!」

 

 白夜ちゃんは幸せそうな顔してる。食事が趣味なのかな?

 

「楽しそ〜、白夜ちゃん食べるの好きなの?」

「好きだよ〜」

「私と同じだ〜」

 

 降花ちゃんもにへら〜っと笑う。可愛い。キチガイ男とツンツン女の影響がこびりついた私にとって癒しかもしれない。

 

「公己くんも何が好きな食べ物あるの?」

「え、あー...炒飯かな」

「炒飯美味しいよね。パラパラ派?」

「パラパラも好きだけど水分あった方がいいな...」

「水分ある炒飯も美味しいよね。あと口に優しい。」

 

 香くんが慈悲深くも安藤に話しかけてやってる。…こいつ人殺しなのにな……。

 

「公己〜! 運動場なら術式使用オッケーなんでしょ!?」

「四限目って自由枠なんだ、また領域見せてよ!」

 

 音弥くんも話しかけてる。いや…あの時普通に殺されかけてたわけなんだけど…確かに呪詛師が裁判で持ちかけられる取引はかなりきついらしいし、高専関係者や一般人に申請無しで呪術を使っちゃいけないとか何とか、色々あるのは私も知ってるけど。

 普通殺されかけたホームにもう一回足を運ぼうだなんて思うか?

 

 こいつは思うかぁ…。

 

 春ちゃんも珍しく席を立って、安藤に小さい声で話しかける。

 

「アンタ、何級指定されたの?」

「準二級術師...って等級らしいけど...」

「準二か...まぁ妥当か」

 

 それだけ聞いて、席を離れていった。

 

 単独任務の不可。暫くの間は準二級だろうな、こいつは。

 

「白夜ちゃんは何級スタート〜?」

「ちなみに私らは音弥くんと静香ちゃんと春ちゃん以外、まだ四級で〜す」

「あー、うーん。スタートって言うとちょっと違うけど…準一級だよ」

「へー!すごー…すご?へ、準一級!?」

 

 準一級!?

 クラスの皆んなも白夜ちゃんに目線を向けている。

 準一級、準一級って一級間近じゃん。入学早々に!?あ、いや転入か。いやだとしてもスタート位置がそれってどういうこと!?

 

「色々あって家出しててさ、その間に呪詛師狩りして日銭を稼いでたんだ」

「だからスタート時……というか、入学時の等級上がったんだと思う」

「直近で狩ったのも準一級呪詛師だったから、もしかしたらそこでかも?」

「あーでも狩れてはいないっけか…うぅ惜しかったなぁ…」

 

 困りながら悲しみながら悔しがりながら、穏やかな口調で言う。

 

 トリアエズ。色々と気になる点が多いんだけど。

 家出といえば可愛いけど白夜ちゃんの家は苗字からして呪具作りの忌部一族でしょ?醜伏以外は市井に降ることを支援してるって言うけど何で家出って形取ったんだろ、音楽の方向性の違いとか?

 んで呪詛師狩りってどれくらいの期間のことを言ってるんだ??? 一年で入ってきてるってことは今十五歳だよね? いや入学に年齢は基本関係ないとしても! 見た目的には身長伸びきってない十五って感じなんだけど…。そんな子がどれくらいの期間を家出して呪詛師狩りを…??? 呪詛師の査定って基本的に「同等級の術師を問題なく狩れる」ことを意味するわけだけど、それを更に狩るって普通に一級なんじゃ…? 領域対策無いだけ???

 そしてスタート時の等級は! 原則は任務の危険度と若者の未来がどうとかで! 三級あたりが上限じゃないのかァ!

 

「準一級!?白夜すごいんだね!!!」

 

 早速それを聞いた音弥くんが飛び付いた。

 

「え〜?えへん。それ程でも〜」

 

 …普通に照れるんかい。

 

「白夜もあとで模擬戦しようよ!」

「いいよ〜」

 

 快諾するのか…。

 穏やかで害ありませんよーって顔と雰囲気だけど、もしかして中身血みどろだったり…? 十傑の人間だしな…ありえるかも。

 

「皆んなも一緒に模擬戦やろうよ!公己はね、領域が使えて~───ぐへっ」

 

 背後から春ちゃんが音弥くんに触って、不可避の蹴りをぶち込む。ナイスキック。

 

「勝手に巻き込むな。やりたい奴だけやればいいの。」

 

 音弥くんに言い聞かせるのと、クラスの皆んなに乗ることはないと諭すように言う。

 

「春の術式、相変わらず対処出来なくてすごいね!」

「あ、あはは…」

「……」

 

 ケロっと起き上がって音弥くんは笑ってる。白夜ちゃんは苦笑いか愛想笑いをしてる。可愛いね。いや騙されちゃいけないか。

 安藤は顔が引き攣ってる。あの時の戦いでも思い出したのだろうか。

 

────────

────

──

 

 そんなこんなで親睦を深めて、三限目が終わりに近づく。雨宮先生はいつの間にか入っていた眠りから目覚めて、目を擦りながら言う。

 

「ん~~~、そろそろ終わりかぁ」

「四限目、それぞれ何するか決めたらやる事記入しといてくれよー」

「あそうそう。お前ら、二ヶ月後に京都校との交流会やるから」

「会場は京都校側な。旅行のための準備しとけよ~」

 

手を振って教室を出ていく。

………

……

「「「「交流会ぃぃぃぃぃぃ!?!?!??」」」




[一年一組クラスチャット]
音弥:四限目楽しかったね!皆んなお疲れ様!
白夜:誘ってくれてありがとう、楽しかった
降花:全然追えなかったぁ…白夜ちゃんの術式もよく分かんないし…
白夜:えへん。
甦生:流石準一級。
静香:基礎スペックが高すぎる…ズルい!
白夜:静香ちゃんの方がズルいような…
 春:安藤は体力無さすぎ。
公己:しょうがないだろ
静香:"呪術師"としてやってくんだったら体力つけないとねぇ
公己:分かってるよ…
 香:先生の言ってた交流会も楽しみだね
音弥:うん、楽しみ!!!
静香:交流会は多くの術師、あと一族も注目するらしいね
白夜:だね、それぞれの家毎に着眼点は異なるけど、忌部は分かりやすいよ
白夜:武器術と身体能力を見せつければ声かけられやすいと思う
 香:どうして?
白夜:忌部は自分たちの武器を使うに値する持ち手を欲する所があるんだ
白夜:だから有望な使い手はつい呪具を下ろしたくなる
甦生:俺らにとって超重大じゃん
降花:が、がんばろっ…!
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