この世界には限界がある
どれだけ見通し、頭をこねくり回しても、局面の変わりようがない
この家はダメだ
私だけでも探さなければいけない
この世界をもう少しだけ延命させる術を、探さなければ
例え私が地獄に落ちる方になっても、この世界に覆う呪いを祓わなければ……
東京のある喫茶店。
「わかりません、何がなんやら、って感じですよ」
「呪霊が出て来て、『あ、俺死んだな』って思って目を瞑ったんです」
「そうしたら、ビュン! って風を切る音が聞こえて。目を開けたら呪霊が消えてたんですよ」
「ふむ……」
「まぁ死なずに済んで何よりですけど、もっと呪霊掃討に力入れて欲しいですね。おちおち働いていられませんよ」
「ご心配おかけしております。私たちとしてもそろそろ呪霊が活発になると踏んでおりまして。こんなに早いとは思いませんでしたが……ともかく。これからは、安心して生活していただけると思います」
「えぇ、よろしくお願いしますよ」
東京高専内部、補助監督の事務室。
「えーーー、またあーーー!?」
「また。これで何件目かなぁ……はぁ、未登録の術師なら早く見つけたいんだけど」
「もー百件超えてからは数えてないよぉ。おかしくない?」
「おかしい。いやおかしいよほんと」
「残穢が全く確認されない、呪霊の祓除報告。報告といっても窓からで、残ってるのは祓除された呪霊の残穢のみ……」
「報告されていない呪霊祓除数はどれくらいなのやら」
「それに、呪詛師の死体も何件も上がってるよね」
「そっちも同じで残穢が全然ない。それでもって、重機を使ったみたいな酷い死体」
「どっちにしてもかなり強い術師なのは間違いない……」
「何が目的なんだろうね。私らとしては冷や汗もんだけど」
「現場出るのめちゃくちゃ怖いよね、ほんと」
東京のどこか。
「げほ……お、まえか……」
「質問に答えろよ。これは何だ?」
「それは……はは、そんなことも知らないのか」
白髪の青年は奪い取った一冊の紙を指して、目の前でぐたりと座り込んでいる男の足を容赦なく踏み込み、ミシミシと音を立てて骨を砕いた。
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
「答えろよ。」
「ッ……符号だよ、暗号って言い方の方が分かるか……ぐ、ぅッ」
「符号ねぇ、何の?」
青年は足を踏み揺らして、次の質問を投げかける。その瞳は純粋な好奇心で満たされている。
「これからこの東京で起きる一大イベントだ……一口噛めばかなりの金になる」
「どんなイベント?」
「知らない……いや、本当に知らないんだ! や、やめろ! マジで俺らフリーは知らな────があああああ!」
「うーん、本当に知らないのか」
青年はもう一つの足を踏み砕きながら頭を悩ませる。
自分は何者なのか、何をすればいいのか。何をしようか。少し空を見上げると、一つだけ思い出したものが浮かぶ。
「明登」
「……?」
「思い出した。俺の名前だ」
「他には……うーん。ダメだな」
青年はそう言いながら、男を再び見下ろす。
「他になんか言いたい事ある?」
「こ、殺すのか」
「うん」
「……は、はは。この、イカれたクソや────!!!」
パン。
一瞬にして、トマトを潰したように頭蓋から先ほどまで思考していた赤黒いナニかを飛び散らせる。
「金は……結構持ってるか」
「どうしようかな。とりあえず美味しいご飯食べて……」
青年は血飛沫の一つも浴びる事なく、また汚すことなく慎重に男の懐を漁ると、最初から何も無かったかのように悠々と現場を去っていった。
「また呪詛師の死体が上がりました……もうヤダ!」
今回の幕間をもって予告していた二週間の休載をいたします。三週間後、4月10日にまたお会いしましょう