酷く澄んだ青いソラ   作:クエクト1030

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この企みには、資金、組織、友が必要になる。

裏社会に潜り込み資金を稼ぐのが手っ取り早いだろう。私は呪術師であってもただの人間でしかない。私の代でこの試みは終わらなければならず、急ぐ必要がある故に。例えこの計画が失敗であっても、成功であっても。

この二年で最低限稼ぐ事が出来た。次は組織を形成する必要がある。私の企みは一人ではなし得ず、多くの知恵が必要なため。

六年をかけて呪詛師の組織を構築する事に成功した。秘匿性を重視した構造。これで資金と組織が手に入った。その中で友と出会うこともあった。

これを見るアナタへ問います。
私は、運命を変える事が出来たのでしょうか。
───[削除済み]の日記



年末年始編
第十五話「不非命中夭(ひめいちゅうようにあらず)


 呪術高専東京校に所属する外部術師を含めた全ての術師へ伝達する。

 年が切り替わる12月31日、呪術的大事件が発生する。

 被害規模は不明。想定脅威も不明。

 三級以下の術師は東京郊外にて民間人の避難及び保護や蝿頭の祓除を優先────

弓削(ゆげの)家当主 弓削(ゆげの) 識夜(しきや)

 


 

 

「……なにこれ?」

 

 

 教室で授業を受けていた私たちの元に、書類が届く。

 複雑な紋様の捺印がされた正式な任務書類。けど、その内容が意味不明。

 

 

「何が起きるか分からないのに、大事件? どういう事?」

 

「……」

 

 

 雨宮先生は目を開いて顔を硬くしている。信じられない、と言いたいような表情。

 私も信じられない。 "何が起きるのか分からない" だって?

 十傑は弓削家は、占いの家系。呪術界を一家総員でその未来を占い、最も良い未来へと碁を打つ家だから、何が起きるか分からないなんて、わけが分からないぞ。

 

 

「はっ……弓削にも観えない未来が……あるってことか」

 

「何が問題なんですか先生ー!」

 

 

 音弥が元気に挙手をして質問する。私も同じ疑問を持った。いくら十傑の家と総出と言っても結局は人間なんだから、粗は出るし出来る事も限られるはず。そもそも完璧に全部見れてるなら現場の犠牲者だって出さずに済むわけだし。

 ……まぁ勿論、組織が腐敗していないならだけども。

 

 

「……弓削の占いは、必ず "観る事は" 出来るんだよ。すぅ、ふぅ」

 

 

 先生は懐からタバコを取り出して火を点ける。この人喫煙者だったの? というかここ教室なんだけど……

 

 

「俺も術師を長くやってるわけだから、弓削の占いを元にした任務についたし、その後に色々調べたり、教えてもらったこともある」

 

 

 先生は深く煙を吸う。

 

 

「……どれだけ酷い被害が出ても、それは弓削が予期していたものだった」

「分かるか? どれだけ人が死ぬ事件が起きるとしても、それを観る事は出来て、そこに向けて俺たち術師っていう駒を置くんだ。そうやって全体の被害を抑えてるんだ、あの家は」

 

 

 とても苛立った声と一緒に吸い込んだ煙を吐く。先生が感情をここまで露わにするのは初めて見る。普通に怖い。

 

 

「それが……そもそも見えないって言ってやがる。この意味が分かるか?」

「あいつらは普段から死者を出さない事が出来ないにも関わらず、今回に至ってはそもそも何が起きるかも分かりませぇん、ごめんなさぁい」

「でも何かは起きそうなので危険を承知で死ににいってくださぁい」

「この文章はそういうことだ」

 

 

 先生は私たちを見回して、視線を送る。送った人は五人……私、音弥、春ちゃん、白夜ちゃん、安藤。

 ……二級以上、あるいは二級以上の実力を待つとする術師。

 

 

「弓削の人たちだってやりたくて術師を向かわせるわけじゃないって事は先生も知っていますよね」

 

「チッ。あぁ分かってるよ」

 

「あんまり苛立たないでください、皆んなが不安がります」

 

「……あぁ。」

 

「あとタバコ消してください」

 

「チッ」

 

 

 白夜ちゃんに淡々と指摘されて不服そうにタバコを消す。懐からケースを取り出して吸い殻を入れてから先生は少し俯く。悩んだような、苦しそうな様子で顔を上げて、顔を上げてまた話を始めた。

 

 

「お前らにとって、最初の"事件"になる」

「呪術的事件は、テロって言ってもいい。分かるな、テロだ」

 

「死ぬかもしれないって事ですか」

 

「普通の呪霊祓除とは違う。大抵は呪詛師も噛んでくる。それも、組織的に」

 

「強い呪詛師もいっぱいいるんですか!」

 

「笑い事じゃねぇぞ音弥!」

「……はぁ、いる。二級呪詛師だったら可愛い方だ」

「大事件ってなると、上澄みばかりが出てくるだろうな。一級呪詛師以上。」

「普段からお互い殺し合うような呪詛師の中の生き残り連中が、一攫千金のために食いついてくる」

 

 

 いつもみたいに好奇心に満ちた声の音弥に怒鳴って続ける。

 

 

「呪詛師の等級指定は、同じ等級の術師を難なく殺せること」

 

「二級呪詛師なら可愛い方ってことは、そう言う事なんでしょ」

「私ら二級程度は雑兵。歩、あるいはポーン。」

「とりあえずの最低限、つまり」

 

「死ぬ事前提……」

 

 

 その日、私たちは早退した。葬式よりも酷く落ち込んだ空気のまま。

 

 死ぬ。私はどうだろう。この身体だから死なない……なんてのは、慢心なんだろう。本当に、あっけなく死ねるんだろう。

 先生はこうして友達でも家族でも亡くしたのかな。別にこんな事でなくても、普通の任務で死んでもおかしくないのが私たちの世界だし、未来が見えているのに何故自分の友達が死ぬように任務を出した、って気持ちを考えたら確かに怒りも湧く。

 

 人間として死ぬことを目指していた私が、いざ死ぬかもって未来を教えられて……私は死ぬ事の恐怖を思い出した。

 

 死にたくないなぁ。

 

 

 


 

 

 

 12月25日。クリスマス。

 私たちは全員で任務に出ていた。あれから弓削からの追加の資料はない。作戦は? 対策は? 私たち二級程度には教えられないって言うのかな。

 クリスマスのような行事は呪霊の活動も活発になるから、授業をまともに受ける日の方が少なかった。その中で甦生くんは呪霊との戦いで指を欠損して、香くんは行方不明になった。

 

 先生は「例年以上に活発」「生徒が二人も……」って、日に日に焦燥している。

 

 私は最期のクリスマスになるかもしれない、とは思ったけど、結局何もしなかった。

 帰省も考えられない。あの家に戻って何があるのだろうか。……妹は、心残りだけど……私が帰っても、大した意味はないだろうし。

 

 いい男がいるわけでもないし、呪霊を祓って、祓って、祓い続ける。幾つかの任務を通して私の使い方も術式もやり様が増して、呪力操作も向上して、呪力を練ることも上手くなった。出力だって高くなっているだろう。蛇口のイメージをしてから、呪力をより多く一度に使える様になった気がする。

 

 

 

 そうして、思い残すことも思い浮かばずに、2019年の聖夜が終わった。

 

 

 


 

 

 

 12月30日。雨。

 冬休みは返上で、私たちは夜の東京に潜っていた。キラキラ光る電光掲示板、摩天楼から発せられる輝き、雨天にあっても光を反射する川の水面。けど川は全てを見返すわけではなくて、その底には見えない暗闇で満ちている。

 

 私たちの潜伏場所は様々。東京といってもこの狭い土地の中に夥しい数のビル、路地裏が存在して、そのどこに潜んでいるのか。そもそもそんな普通の隠れ場所に存在してくれるとも限らない。

 

 かくいう私は────目黒川に潜伏している。いや、潜水って方が正しいかもしれない。

 

 

「くっさいなぁ、ここ」

「陸の方だと聞くほど酷いとは思わなかったのに……」

 

 

 川の底に滞留するヘドロから硫化水素が漂う。滞留といっても最近除去されたらしいが、増水する時は排水が合流するとかなんとか。あとは除去しても少しは残るもの……とか、補助監督の人が言っていた。

 幸い私に害のある影響は無かったけど、臭いものは臭いし、穢れって感じがするから任務が早く終わってお風呂に入りたい気持ちでいっぱい。

 でも、気持ちはよく分かったよね。この川が呪霊の発生源だってことが。今日は鳴りを潜めて、代わりに人間が呪いを振り撒いているけれど。

 

 悪臭に顔を歪めながら待機していると、岸で同じ待機している補助監督の人が報告を受けたみたい。

 

 

「静香ちゃん、"追い込み"が成功したようです。呪詛師は三人。渋谷側から朝日橋付近へ逃走。朝日橋へ移動お願いします」

 

「了解です」

 

 

 川を伝って目標地点に移動する。私の担当は「追い込み漁」もしくは「誘い込み」……釣り野伏だっけ?

 ともかく今回は追い込みが成功したらしい。

 

 

「目黒で合流するぞ」

 

「了解」

 

「────な、逃げ」

 

「逃がさない」

 

 

 川の水を引き上げて、橋ごと三人を飲み込む。飲み込んでも油断はせずに水圧と水流でぐるぐると掻き回して窒息させる。

 意識が落ちれば岸にあげて、拘束したまま補助監督に引き渡す。

 

 報告を聞く、急行する、窒息させる。今日で二十数回目の漁を終える頃には交代の時間になった。

 他の漁師、もとい術師が十数人やってきて、川を境界線に呪詛師の漁がまだまだ続けられる。

 

 雨の勢いは増したようだった。

 


 

 

「はぁ〜〜〜……あったかい……」

「気持ち悪ーい生ぬるーい感じじゃなくてこういうの、こういうのを求めてたんだよ〜〜〜」

 

 

 私は下水道に密かに建造されている休憩室に戻る。雨で排水量が増しているから、今日ここを利用出来る、というかそもそも辿り着けるのも私だけだ。

 備え付けられたシャワーを真っ先に浴びて全身を清める。術式も併用して匂いも完璧に落とした。

 

 

「ふあぁねむ……さっさとねよ……」

 

 

 布団に潜り込む。ご飯を食べていなけど、どの道さっきまで酷い匂いばかり嗅いでたから食欲なんて無かった。

 

 

 

 私が起きたのはそれから約5時間後のこと。

 

 ドンドンドン。

 

 扉を鳴らす音がする。

 誰も来るはずがなく、来ようとも思わない下水道に訪問客がいる。

 

 私は、水の弾丸を装填しながら扉を開けた。




弓削(ゆげの)
 十傑の家の一つ。呪術界の未来を文字通り占い采配している。
 占いの術式を相伝とし、戦闘員としての術師を持たない代わりに日本全土を占う事で未来に起きる呪術的事象を先に把握し、呪いの隠蔽と民間人の保護、事件解決に術師の生存へと、あらゆる手段を尽くしている。
 当然、全てが詳細に見えるような便利な術式ばかりではない上に、複数人で分担しているため穴は発生するが、大まかな被害規模が分かる以上は先んじて行動出来るため存在するのとしないとでは大違い。

・"事件"
 呪術的事件、テロの事。
 呪術的事件とだけ言えば大小さまざま存在するが、"事件"と異なる意味合いとして上の等級の術師が用いる場合、放置していれば一般社会及び呪術界を揺るがす、大きく損壊させる案件の意味を指している。

・呪詛師の等級
 この世界においては「同等級の高専側呪術師を難なく殺害出来る」ことを示している。例外も存在するが基本的にはこのように個人の戦闘能力で表されている。
 これらの判断をするためには呪詛師の能力を把握して報告する事は当然不可欠であるが、等級が高い・危険な呪詛師ほど入念に足取りを消し、対峙した、あるいは追跡する術師を抹殺してしまうため、登録されている呪詛師の数は実際の総数のほんの僅かと見做されている。
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