得難い何かを得る初陣。その何かとは様々なものだ。
異形との相対、生き死にの争いという経験、勝利の高揚、生還する安堵。
あるいは、死。
それを糧にする事で成長をしていく。
我ら含め凡百の術師とはそういうものよ。
第四話「幽明詼諧-壱」
[記録]
2019年5月21日
東京都新宿区
授業中にて複数の呪霊が発生、同学校担当教師の"窓"が確認する。
事情聴取に赴いた補助監督により呪霊の最高等級が三級と判明する。
これに対し高専東京校一年一組の三級術師を三名、二年一組の二級術師一名、
三級補助監督二名、四級補助監督一名を派遣。
当初の任務は達成される。
◇◆◇
曇天が空を覆う日。
一限目の授業のために教室へと入ると、㯃天宮くんと百瀬さんが見つめていた。
「おはよー...ぉお?ど、どうしたの二人とも」
「今日は」
「任務あるって言われたでしょ」
「任務?」
初任務だ。
今は五月の終わり頃、入学してから本格的な授業に入って一か月に丁度なるかどうかくらい。
現代の呪術界は若い術師が無駄に死ぬ事を防ぐために一年生の初任務を
七月頃から入ると聞いていた。おかしいな、時期がかなり早いんだけど...
私これから軽率に死ぬ感じ?
「おお水上探したぞ。遅いじゃねぇか㯃天宮と百瀬に待ってて貰ったんだからな」
「そんな事言われても私、任務の話なんて聞いてないんですけど...」
「え?」
「え?」
「先生?」
「...はぁ」
?????
え、なに伝達ミス?そんな事ある?それなら二人はどうやって任務ある事知ったワケ?
「...あんた、昨日学校終わった時先生に翌日任務あるって言われなかった?」
「へ?昨日?」
「あっやべ」
三人の視線が先生に集まる。
「なんか、申し開きあります?先生。」
「いやすまん...なんも言えねぇ...」
「で、何で連絡出来てないの。」
「お前らに伝えた後に水上にも伝えようとしたんだけどもう帰っててよ...」
「男の俺が女子寮に行くのも気まずいじゃねぇか?」
「だから明日朝早くに伝えればいいと思ったんだが...」
「忘れてた。」
...。
こいつ殴っていいかな?
「はぁ...めんどくさいんで早く静香ちゃんにも話してください」
「あ、あぁ...分かってるよ」
「さっき言った通り、水上には任務に参加してもらう」
「メンバーはお前たち三人と、二年生の二級術師が一人の合計四人」
「引率と帳を降ろすために補助監督が三名つく」
「詳細は...今からじゃ時間取るだけか、移動中にタブレットから確認しておいてくれ」
「まぁ三級相当の簡単な任務だよ」
聞いた感じは、理不尽な感じでもない内容だ。
「でもまだ五月ですよね?例年だと七月頃に初任務って聞いてたんですけど」
「学生の無駄死にを防ぐためのやつだな」
「その通りだ。通常、一年生たちの初任務は最短でも七月になる」
「幾ら等級通りの任務を当てられたとしても、実際の現場では想定通りとはいかない」
「予測不能な事態が幾つも起きるもんだ」
「等級相当の実力があっても、こうした予測不能な事態に対して臨機応変に対応する」
「その自力がないと簡単に死ぬ」
「特に一年生の内はな。経験も浅いから昔はそれで死ぬことがそれなりにあったらしい」
「そのために設けられた長めの準備期間のようなもんだな」
「このご時世ですしね」
「あぁ。」
実際の現場で呪霊のみが相手になるとは限らないと聞く。
というのも、何らかの要因で呪詛師が干渉してくることがあり得るからだ。
小学校、病院、廃墟、etc。
そこに居続ける呪霊を放置する事で何かを得る者が、世の中には必ず存在する。
例えば事故物件として土地の価値を下げる事なんかは分かりやすい。
それに似て利用者を減らすこともそう。その場所の価値が下がった所で買収し、
後にまた呪詛師を雇って今度は呪霊を祓う、なんてこともあるそうだ。
小賢しい所では高専に依頼するって奴もいるとか。
どの面下げてって感じだけど彼らが呪霊を利用している証明が出来なければ糾弾も出来ない。
要するに、呪詛師が乱入してきてこっちがやられちゃうって事態があり得るという事だ。
「んで、今回お前たちがこの早い時期に任務を当てられた理由だが」
「ま、ここまで言えば自覚はしてんだろ。お前たちは自力があるって判断したからだ」
「㯃天宮は言わずもがなだな」
「百瀬は態度こそ悪いが体術座学共にクラス内上位、点数だけなら㯃天宮と並ぶ」
「水上は呪術の技術こそ他二人には劣るが少なくともクラス内の中より上」
「それに劣勢においてそれを覆す方法ってのを考える頭があるのは証明済みだからな」
「だから、お前たちには早めに実戦を経験してもらってさっさと経験値を得て欲しいって事だ」
私がこの二人と一緒に...?
先生の言う通り呪術の腕は二人より下なのに。
「今回つく補助監督三人は三級補助監督二人に四級一人」
「まぁこの任務なら妥当って所だな、本来なら二人で足りるだろうが四級も一人ついてる」
「ま、現場の数を増やす事が目的だな。お前らと似たようなもんだ」
「...補助監督にも等級ってあったんですか?」
百瀬さんが質問する。
確かにこれまでの授業では補助監督の等級については触れていないような...
というか等級についてはざっくりとした分かりやすい指標しか扱ってなかった気がする。
「授業ではそこまで触れてなかったな」
「補助監督にも術師と違う条件で別けて等級があるんだよ」
「四級は最低限の補助が出来る事、三級は一つの都道府県に深い知識を持つこと」
「二級からは一人で帳を降ろせる事と、二つ以上の都道府県への深い知識」
「一級は二級と同じ条件に加えて、一つ以上の都道府県で窓を始めとした広い人脈を持つこと」
「こんなところだな、術師と比べたらまぁ一般人よりの資格内容って感じだ」
「特級はどういう指標なんですかー?」
「あぁ」
「特級はまぁ、言っちまえば呪術界・一般社会においての"致命的な情報"」
「それを知ってしまった奴の事だな。漏らさない事を条件に高給が約束されるらしい」
「当たり前だけど従わなかったら即刻秘匿死刑な。まぁ滅多にないだろうが」
は、死刑?
補助監督っていういかにも安全そうな括りの最上級に死刑が結びついてるの怖すぎでしょ。
「ここら辺は別に知っても知らなくても変わらないから後回しにしてたんだがなー」
「ま、ここまで話して気になってるだろうし明日の授業に等級についての時間を入れとくわ」
「そろそろ時間だな、正門で補助監督が待ってるから三人とも向かえー」
「はーい」
「了解」
「はぁい...ん?」
待って、私準備ロクに出来てないんだけど!?!?
◇◆◇
「はぁ...はー...」
「すごい勢いだったね~」
「うるさいっ!」
な、何とか必要な道具だけ取ってこれた...
先に二人に補助監督の車にまで行ってもらって、走って必要な道具を持ってきたのはいいけど
くっそ、帰ったらあの教師絶対ぶん殴ってやる...!不必要に疲れた!
「はは...では出発しますよ」
運転手の補助監督は笑いながらそう言って、車を走らせる。
社内はさっき言ったように運転手に補助監督が一人、助手席に㯃天宮くん
後部座席に私と百瀬さんの計四人。
二級術師の二年生ともう二人の補助監督は先に人払いのために現場で整理したり、
残穢の調査とか帳を降ろす準備をしているそうだ。
運転している補助監督の人は...ツーブロックでスーツを着た清潔感のある男性。うん普通。
術師はイロモノ揃いって聞くけど補助監督の人はどうなんだろ?
一般社会での顔として動くしまともな人が多いのかな。
「三人とも任務は初めてだよね、この早い時期に駆り出されるなんてすごいね」
「俺は今回の任務を担当する補助監督の一人、
「今日一日よろしくね」
「よろしくお願いします!」
「よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
すごい、礼儀正しくて優しい声だ...!
なんだか感動しちゃった...早朝からあの適当教師に任務言い渡されたせいかな
まともな大人って、かっこいいんだな...
「初めての任務で緊張していると思うけど、大丈夫。君たちの先輩もついてるからね」
「今回は先輩の仕事の見学くらいの感覚で臨むといいと思うよ」
「楽でいいや、適当に写真でも撮っておこ」
「せっかくなら皆で戦おうよ~」
「結構。無駄な事はしたくないの」
「あはは...私も見学できるなら見学に回ろうかな、任務は初めてだし」
「静香も?むー、勿体ないなぁ」
「ははは。㯃天宮くんだったね、
「普通は怖がったり、怖がらなくとも二人のようにまずは見学するのが多いもんだよ」
まーそりゃそうだよね、呪霊って不気味だし気持ち悪いし怖いもん。
というか㯃天宮くんがおかしいんだよ...なんで嬉々として生死の場に首を突っ込もうとするかなぁ
「とはいえ任務。確か雨宮先生は詳細を共有出来なかったと聞いてるから」
「後ろの二人は前のポケットにタブレットがあるからそれを」
「㯃天宮くんはそこのダッシュボードの中にあるからそっちを見てね」
「中に任務の詳細が書かれているから、それを確認しておいてね」
どれどれ...
三人ともタブレットを起こして画面を見る。
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[室加小学校集団幻覚事故]
任務等級:三級
発見日:2019年5月15日
場所:東京都新宿区
要員:
百瀬春三級術師、荒井健三級補助監督、
内容:
授業中にて複数の呪霊が発生、同学校担当教師の"窓"が確認する。
呪霊の数は多く、群れている事から四~三級相当と仮定、事情聴取に赴いた補助監督により
目標の呪霊を確認、最高等級が三級呪霊と確定する。
呪霊の発生は学校の敷地内全体に起きているが、特に教室に多く発生・密集している。
上記の状況のため、帳の効果を以下に設定する。
「呪霊を炙り出す」「派遣した術師以外の呪力が感知される限り内から外に出られない」
「結界を押し合わない代わりに内外強度を底上げする」「帳展開時の内部風景を固定し外へ写す」
本件はカバーストーリーとして調理実習室から発生したガスによる集団幻覚、
また幻覚を見た者を始めとした集団パニックとして処理される。
この学校はこれからも使われる現役の建物のため、原則破壊するような戦い方を禁ずる。
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全員が任務内容を読み終え、顔を上げる。
静香は生真面目で緊張した顔を、音弥は真剣さと好奇心を抑えきれない顔を
春は呆れ、心底どうでも良さそうな顔を浮かべて互いに顔を合わせた。
「室加小学校、複数の呪霊、三級任務...」
「要するに雑魚ばかりって事でしょ。そう深刻に構えずに気楽にすればいいのに」
「私は二人みたいに強くないから怖いの!」
「静香は強いと思うけどなー」
「嫌味か???」
「違うよ!」
「仲が良いんだね」
「良くないですが!?」
学生の青い春の喧騒に耳を傾けながら、補助監督荒井健は笑顔で現場へと車を走らせていった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
スタレのホタルちゃんを描いたりAPEXしてたりしたら
トテモナガイ時間が空いてしまいましたごめんなさい。
この世界には天元様がいないので、日本全土に張られた結界も存在しません。
よって、結界術の補強や帳の底上げ等もないために、任務での帳は補助監督複数人で行います。
また結界の強度を上げるための要件もその都度設定しないといけないため面倒ですね。
天元様の偉大さが身に沁みますね。
呪術界の要所(高専等)に関しては、十傑の家が担当しています。
建造物の建立から結界の維持、また警備員までそれぞれが分野で別れて何とかやっていますね。
そこら辺の話を次回か次々回で触れられたらいいかなぁと思っております。
それでは今回はこれまでで。