酷く澄んだ青いソラ   作:クエクト1030

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ああああああああああ何だあれはクソ邪魔しやがって!!!!!
せっかく遠出してここまで来たのに車両に被って変な映りしてるじゃねぇか!!!
許さん、許さん絶対に許さん...!どうせあいつらだ、呪術高専とかいう奴らのせいだ。
はい殺し確定、ゴミ掃除確定、まじ俺の邪魔するやつは全員皆殺しだから。
あ、そうだ。俺の旅を台無しにしたんだ、あいつら殺すついでに旅費を回収してやろう。
あいつらが邪魔したのが悪いんだ、正統な慰謝料だよな。
クソ共を掃除する俺は環境に優しい最高のヲタだよな~~~!!!
───とある撮り鉄の独り言



第五話「幽明詼諧-弐」

30分程車に揺られ、一年生一同は到着する。

荒井が正門前に駐車し彼らを降ろすと、胸ポケットからスマホを取り出して連絡を行った。

先行の補助監督、また咬狩斗真二級術師への連絡である。

それから数分経てば彼らは合流する。

咬狩斗真二。高専の制服を所謂ヤンキー風に改造した屈強な男。

別籬現宮海人。十傑が一つの者にして、金髪にスーツ姿と似つかない装いのへらへらした男。

そして白井相田。緊張した面持ちで背筋を伸ばすどこにでもいそうなスーツを着た男。

計三人が合流する。

 

「お疲れ様です、一年生三人の移動完了しました。そちらの準備はどうですか?」

「帳の準備と人払いっすよね、両方とも終わってますよ」

「あ、パンピーは白井くんがやってくれました」

「は、はい。保護者の方や近所の方々に説明は終わっています」

「ありがとうございます、咬狩二級術師は?」

「咬狩くんは一年生の方に行きましたよ」

「おや」

 

補助監督たちが報告し合うのをよそに、咬狩は一年生らの元へとやってくる。

顎に手を当てて観察し、満足したのか特に音弥の近くにまで歩き、話しかけた。

 

「よ、お前らが一年坊か。俺は咬狩斗真...ってもう聞いてるか?よろしくな!」

「㯃天宮音弥です、よろしくお願いします!」

「水上静香です。よろしくお願いします」

「百瀬春です」

 

全員の自己紹介が終わると、咬狩は音弥の肩を組んでひそひそと何かを話し出す。

 

「やるじゃねぇか音弥、もう二人も作ったのか」

「はい!」

 

※[注意]音弥は「もう二人も(友達を)作った」と認識しています

 

「片方はギャル風だが神秘的...もう片方は装いこそ普通だが容姿端麗!」

「いやぁ入学してこの短期間で二人も作るたぁ、隅に置けないねぇ」

「えへへ」

 

(何を話してるんだ...?)

(よく分からないけど、㯃天宮くんの肩を組んだまま先輩たちは上機嫌に戻ってきた)

 

「はははは、いやぁ最近の若者は元気でいいねぇ」

「むふんっ」

 

(先輩も若者では...?)

(一つ上なだけで大して変わらないでしょ...)

 

静香と百瀬は怪訝な目で二人を見る。

そんな事はお構いなしに、うんうんと頷きつつも咬狩は咳払いをして雰囲気を切り替える。

そして今回の任務について語り出した。

 

「さて、後輩諸君。俺は今日君たちの任務を見学に近い形にしてくれと言われてる」

「だから基本的に俺の後ろで自分の身を護る事だけ考えてついてきて欲しい」

「自信あり!って奴は前に出て一緒に戦ってくれてもいいがな!」

「この早い時期に任務なわけだからな、優秀なんだろ?」

「はい!」

「二人はそうですけど私は別に...」

「...そんな元気いっぱいに肯定すること?」

「ハハハハ!自信があるのはいい事だぞ」

 

一緒に笑う男連中、それに呆れる女連中と全くもってバランスの良いチームをしている。

 

(私は笑う程楽しいと思わないのだけど...)

(死ぬかもしれない現場にこれから入るというのに何故ああも笑えるのか...)

 

学生諸君が大変仲良く(・・・・・)談笑していると、遠くから眺めている荒井補助監督が

明るい声で出発の知らせをかける。

 

「四人ともー!準備が良ければこっち集合ー!」

「だってよ、吉幾三~」

「古い...」

 

学生術師四人、補助監督三人の計七人が小学校正門前に集まる。

荒井は補助監督を代表してこの場を仕切り、今回の任務の流れについて再度確認する。

 

「今回の任務は学校敷地内に対する破損行為は原則禁じられている」

「等級は三級相当...」

「学校は呪いの鬱積する場所、呪霊の力が最高でも三級と見られるのであれば」

「個の呪霊としてよりも数として溜まった呪いが発現している可能性が高いと考えられる」

「よって、担当術師は数による制圧や奇襲に対して特に警戒されたし」

「...というのが任務と事前情報、調査で想定出来る所だね」

「それぞれ気になる事、共有しておきたい事、確認したい事はある?」

 

これといって返事もなく、発言は無い。

 

(任務前の最終確認は終わった。これで...これから、初任務が始まるんだ。)

 

静香は一人息を呑み、緊張の面持ちで校内へ向かう。

沈黙を以て準備完了とし、術師を校内、補助監督を校外とそれぞれが別れ配置につく。

これより任務が始まり、帳が降ろされるのだ。

 

「準備は良いですね、皆さん」

「帳を降ろします」

 

補助監督三名は合図を執る。厳かに、そして同時に呪詞を唱える。

 

「闇より出でて闇より黒く」

「因幡に駆ける術も無し」

「契を結び国建つ折よ」

「その汚れを禊祓え」

 

室加小学校、幼き子らの学び舎の天井に今。

日輪の輝きを隔て、呪いを暴き出す帳が降りる。

 

 

◆◇◆

 

 

帳の内、室加小学校。

「呪霊を炙り出す」ために夜となった結界内は薄暗く、おどろおどろしい雰囲気を漂わせる。

風は冷たく地は固く。満月のように映される日輪が四人の術師を薄く照らす。

 

「うぅ...すごい不気味、任務って毎回こんな雰囲気の中こなさないといけないの...」

「まぁ毎回って程じゃないが多いには違いねぇなぁ」

「怖いのは最初のうちだよ!これも慣れだって!」

「だから早く慣れろって事ぉ?ひぃぇ...」

「一人だけビビってるし...」

「こんなのビビらない方がおかしいじゃん!あと私初めてなんだけど!?」

「私も任務は初めてだけど」

「誰も仲間がいない...」

 

彼らは束の間の談笑、今任務における最後の日常を味わう。

だが、それも長くは続かない。

帳は既に降りた今、最後の時間も終わる。

 

 ガシャン

     パリン

 

校舎二階より窓の割れる音が鳴り響く。

幾枚もある窓ガラスの破片と共に、異形の呪霊が術師を目掛けて降り注ぐ。

数にして拾壱。奴らは"学生"である事から得物たる子供(小学生)と似た雰囲気を感じ取り、

その心と顔を恐怖に歪めんと高らかに嗤い声を上げる。

浅慮、愚昧。曖昧でありながら奔放に、奴らは呪いを振り撒く。

 

「キシシシシシシシ!!!」

 

だが、ここに一人その嘲笑を跳ね除ける───いや、張り合う男がいた。

 

「オオオオオオオォォォォォォ!!!!!」

 

肉の芯に響く咆哮を轟かせ、呪霊も後輩も総じて己の声で制する。

ひとしきり叫び、彼は深く息を吸う。胸に腹、それらは膨らんでは萎む事を繰り返す。

呼吸の合間、今まさに振り落ちる呪霊を前にして、男は彼・彼女らに背を見せながら呼びかけた。

 

「お喋りはここまでみたいだぞお前ら、呪霊共のお出ましだ!」

「やるぞ後輩共ォ!!!」

 

咬狩は呪霊の群れに飛び出し腕を振りかぶる。

振られた制服の袖は捲くり上がり、彼の鈍く光る腕が露わとなった。

そこには巻きつけられた血濡れの包帯───呪力を帯びて鈍光を発する呪具があった。

 

千手(せんじゅ)流「紙縛居(かみしばい)」」

 

彼は呪力と技により、その腕に巻きつけられた呪具を自在に操る。

それは呪具を前提とした技であり、流派にて伝えられるもの。

この呪具と技が作るものこそは呪霊を捕らえる網であり、呪霊を留める血布の檻である。

咬狩の技は上空より迫る呪霊の胴体を巧みに絡めとり、纏め、締め上げる。

そして血布を巻くもう片方の拳に更なる呪力を込め、怒号と共に一切鏖殺の拳を放つ。

 

「ッシャオラァ!!!」

 

咬狩斗真二級術師の拳は一纏まりの呪霊の身体を連鎖的に衝撃を伝える。

その威力は断末魔を上げる暇も無く、呪霊を拳にて一網打尽と粉砕するにたらしめた。

 

「ハハハハ!こんなもんか呪霊!」

 

男は呪霊を蹴散らして尚も笑い、次なる獲物はどこかと頭を振り回す。

 

 

◇◆◇

 

 

千手流───古くは南雲(なぐも)家の相伝術式「四肢累々(ししるいるい)」より発足した、徒手及び布を用いた縛術。

紙縛居は己の血を染み込ませる事で呪具化させた布を操り対象を捕縛する術。

この血布は本来「四肢累々」の術者が術式を呪具に定着させ呪具化する過程を製法とし、

相伝術式の有無に関わらず製造するために余分な工程の追加と調整、

更に「流派が受け継ぎ続ける」という縛りによって伝えられる。

そして現在。近年になり遂には術式未保持の術者であっても作る事を可能として、

「この呪具を呪力により操作する」性質を付与するに至った。

 

 

◆◇◆

 

 

 

「ハハハハ!こんなもんか呪霊!」

「来ないならこちらから行くぞォ!」

 

一撃粉砕。

拾壱の呪霊を祓除した咬狩は雄叫びを上げ射程距離外にて顔を出した更なる呪霊へと突き進む。

 

「は...?な、何今の」

 

(いやいやいや早すぎでしょ!?)

(あの包帯は呪具、だよね。あれが先輩の術式?というか腕の筋肉ふっと!?)

 

「何って...術式か呪具の効果か、もしくは流派で伝わる術じゃないの」

「いやそれはそうだけどさ」

「うわ~!すっごーーー!俺たちも負けてられないね!」

「は?私はやる気ないって言ってるじゃな...」

 

百瀬が言い終えようとした時。

校舎二階の窓より、更なる呪霊が六体。静香らを目掛け落ちて来る。

 

「キシシシシシシシシ!!!!」

「呪霊来るよ!」

「はー...だる」

「二人ともやるよ!」

 

百瀬が手を顔に当てため息をつき静香が慌てて臨戦態勢を取るのに対し、音弥は目を輝かせる。

そしてやはりと言うべきか、音弥は即座に構えて真っ先に交戦を始めた。

 

幣青(へいしょう)呪法「萌芽実生(ほうがみしょう)」!」

 

音弥は術の名を発しながら一番近い呪霊に対して何かを投擲する。

 

(あれは...石...いや、㯃天宮くんの術式を考えると種だ。かなり小さいものを飛ばした。)

 

「シシ?ケシシシシシシシ!!」

 

呪霊に対してそれは命中する...しかし、呪霊の身体に静かに呑み込まれてしまう。

攻撃にしてはあまりにも弱い攻撃に対して呪霊が嗤い始める、が。

 

「シギィ!?」

 

呪霊の内側から鋭い先端を持った────木の根が飛び出す。

内側から身体を喰い破られた呪霊は少しの痙攣を残し、消滅した。

呪霊の消滅によって内部に張られた木の根がゴトン、と音を立てて落下したが、

これもまた時間経過によって消滅していく。

 

「木の根、ならさっき投げたのはやっぱり種?」

「正っ解!相手に種を打ち込んで発芽させるんだ!すごいでしょ!」

「すごいけど物凄っいえげつなぁ...」

「よくもまぁ㯃天宮くんの術式でここまでやるもんだよ...」

「へっへーん」

 

(木の根を張る種、植物の生命を操るような術...)

(㯃天宮くんの術式、それは─────)

 

 

◇◆◇

 

 

それは呪術戦の授業だった。

数回の授業とレクリエーションでどう勉強するか、どう覚えていくかを知ってからのこと。

ある意味でこれが"初めての授業"と思うような、これから続く厳しい授業の第一回。

体術に対して呪力を載せ、術式、呪具、流派の術、結界術、式神...

己が使える者であれば何を使ってもいいし使わなくてもよい、実戦形式の授業。

そこで彼は、術式で"木を生み出して"見せた。

静香はそれが不思議だった。何故なら─────

 

「ねぇ、㯃天宮くんの術式って木を生み出せるものだったの?」

「私が聞いた話だと、㯃天宮家の相伝術式はどれも陰陽五行に関するもので」

「物質を生み出したり操作するとかの、戦闘向きの術式じゃないって聞いたんだけど」

「らしいねー」

「らしいって、アンタね」

「だって俺、宗家来たの大体三年前なんだもん、陰陽五行(そっち)は逆に知らないよ?」

「え、そうなの?」

 

衝撃だった。

分家が宗家に送り出す...有り得なくはない、のかな。そんなことを考える。

同時に、送り出すとして彼であれば確かに宗家が了承する理由になるのかもしれない、とも。

 

「ならその木を生み出したりするのはどこで覚えたの?」

「んーっとね」

「となりのトトロで手をにょきーって伸ばして木を成長させたシーンあるじゃん?」

「小さい頃にそれを見てさ、俺も出来たらいいな!って思ったんだ」

「それで母さんと種を買ってきて庭に撒いて、やってみたんだ」

「そしたら伸びたんだよね!それがきっかけ!」

 

(...は?こいつ何言ってるんだ?)

 

それが、静香の頭に真っ先に浮かんだ言葉だった。

 

彼の術式「幣青呪法」、その本来の術式効果は陰陽五行に基づいたものである。

結界術に効果を施すこと、強度の強化を始めとしたものであるが、

物質を生み出すものではない。

その上で物質を生み出す・操作するのは拡張術式の解釈の定義を一から構築する必要がある。

マニュアルがないからこそ出来た芸当なのか。

だとしても本来の用途───術式効果と異なる運用。

ドライヤーで髪の毛ではなく肉を焼いたり、あるいは車のボンネットで目玉焼きを作る。

アイデアと原理とルールに基づいたものの過程...その全てを短縮してるのか?

静香の脳内に様々な憶測と推論、肯定と否定が入り混じる。

だが、考え込んでいる静香を見た音弥が不思議そうに言葉を続けた。

 

「えー、そんなに深く考えなくてもいいんじゃないかなぁ」

「そりゃ考えるよ。何その使い方、おかしいでしょ」

「おかしくないよー!」

「はぁ...おかしいとかおかしくないとかどうでもいい。強ければいいでしょ」

 

言い争いになろうとした時、百瀬がタオルで汗を拭きながら話に混ざる。

 

「次、静香(アンタ)の番だってよ。降花とだって、早く行きな」

「うわごめん!行って来る!」

「いってらっしゃ~い!頑張れ!」

 

"今際の際"になって、彼女はこの出来事を反芻することになる。

 

(私はその後、道風ちゃんとの試合で疲れ果ててこれ以上考えなかった。)

(でも今になって彼の在り方と彼女の言葉が頭の中を駆け巡る。)

 

思えば、これが私の"始まり"だったのかもしれない、と。

 

 

◆◇◆

 

 

(幣青呪法の実質的な拡張術式、それが㯃天宮くんの術式運用...)

 

「まだ来るよ~!ほら二人とも構えて!」

 

(あ~そうだった。まだ一体倒してだけだ...木の根のエグさにドン引きで忘れてた...)

(けど他の呪霊は㯃天宮くんの術式を見て警戒しているっぽい、中々近寄ってこないな。)

(咬狩先輩は...もう見えなくなってるし。)

(呪力の感じではそう遠くは行っていないみたいだけど自分らでやるしかないのか...)

 

「あんたら二人に任せていい?」

「百瀬ちゃんも手伝って!」

「そうだよ~!皆でやろう!」

「はいはい...」

 

静香が考える横でやる気のない声で質問を投げかけた百瀬は却下され、仕方なく構える。

音弥、静香も同様。三人共に構え、残る呪霊と相対する。

 

(術式の射程、個人の実力を考えるに近中遠で例えるならこっちのがいいな)

 

「百瀬ちゃんと㯃天宮くんは前衛、私は後衛で援護する」

「了解...」

「オッケー!」

 

静香は現状の戦力を分析し、隊列を支持して術の準備に取り掛かる。

 

(呪霊が踏ん切りをつけて迫る前に先手を撃つ!)

 

静香は急ぎながら部屋から持ち出した試験管を取り出し、栓を抜く。

収めた水を取り出し(・・・・)両の手の中で包み込む。

術師を極めるという事は引き算を極めるということ。

 

(だけど私は引き算がほぼ出来ない。)

(未熟の上に"理解が難しい"からだ。)

(出来るのは今やっているニュートラルの術...)

(ただ液体を操るだけの効果「流咏(りゅうえい)」だけ。)

 

そう。彼女が一人だけで戦うとしたら話にもならない。

だが─────まだ三級合同任務(このレベル)なら、話は違う。

両の手を空とし、掌印を三つ結ぶ。

ニュートラルの効果「流咏」。ただ液体を操るだけの術。

その殺傷能力のない術はしかし、付与した水が手を離れても尚、空中に留め続ける。

次いで呪詞が加わる。

 

「氾濫」「浸食」「奉魃(ほうばつ)水鏡(すいきょう)

 

掌印が三つ結ばれ、呪詞もまた三つ唱えられる。

そして再度合わせた両手の中の水は"加圧"され、呪霊に狙いを定められたそれは放出される。

 

「術式順転「雨垂れ(あまだれ)」ッ!」

 

ビッッ

 

水断の刃となったそれは、鋭い音を立てて空を裂き呪霊を穿つ。

 

「シギィッ!?」

「く...ぅっ!」

 

一体の呪霊は身体を貫ぬかれた後、そのまま引き裂くように腕を振る事で両断される。

静香は呪霊を一体祓除し安堵するのと同時に辺りを見回す。

 

(良かった、祓えた...!あと建物への被害も無し!)

(けど持続が短すぎる。この短い時間で術が途切れちゃった。)

(再発動にはもう一度掌印と呪詞を取らないといけない。)

 

再装填(リロード)する、二人とも前衛(まえ)お願い!」

「静香すごいじゃん!よーっし任せろ!」

「ふーん...なるほど、先生の言ったのは間違ってないのか」

 

百瀬、㯃天宮は残りの四体に対して前に出る。

 

「私が先に仕掛ける」

「オッケー、じゃあ(じか)でやるよ!」

 

百瀬は再び迫り出した呪霊たちの間に肉薄し、手で触れる。

彼女の歩法は足音や接近の認識をズラす。

クラスで顔合わせをした際に音弥が見せた縮地と似たものだが、

百瀬の歩法の場合は音消しと速度の緩急の方に特に優れている。

これは流派に寄らない事を選んだ彼女が、入学までに身に着けていた技術(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「はい、チーズ」

 

触れた呪霊の動きが止まる。

 

(百瀬ちゃん、術式についてほぼ話してくれてないけど...)

(術式を発動して手で触れた対象は、約一秒ほど動きが止まる性質があるのは分かってる。)

(そう、私()は授業での呪術戦で既にそれを知っている。)

 

「はい、シード()!」

 

動きの止まった呪霊に対し、すかさず音弥は先と同じ種を生成して、今度は()で打ち込む。

「萌芽実生」に限らないが音弥の術式は現時点では間接的には効果が続かない。

その他にも範囲が狭まる事や、効果が弱まるものがある。

...そう、打ち込んだ時点で勝ちに近しい程に強いあれがまだ弱いのだ。

 

「キシャァアアアア!!!?」

 

始めに発揮した「萌芽実生」よりも早く、太く、強い根が呪霊の身体を喰い破る。

二人ともに手で触れる事を条件にした発動。両の手で二体の呪霊を祓除する。

が、残りの二体が仲間がやられているのを隙にして静香の方へと距離を縮めてきた。

 

「そっち行ったよー!」

「わかってる!」

 

(来る...!けどこの時間で次の試験管を取り出して栓まで抜けた!)

(もう一度「雨垂れ」で─────いやダメだ。)

(「雨垂れ」は射程延長線上にいる二人に当たる可能性がある。)

(当たるかもしれない以上は使えない。)

(なら...二人が戻るまでの時間を稼ぐ!)

 

「氾濫」「浸食」「踏車(とうしゃ)

「術式順転「水衝(すいしょう)」」

 

「流咏」で水を薄く引き伸ばし、呪詞を唱え術を発動する。

呪霊は触手のような腕を引き伸ばし鞭のようにしならせ、静香を打つ。

だがそれに対し「水衝」を付与した水の盾を当てて攻撃を防ぐ。

形状的には盾というより壁が近いそれは、二体の呪霊の鞭をいなし続ける。

そして呪霊の背後に追いつく二人を確認した静香は脚を呪力で強化し、呪霊の一体を蹴り飛ばす。

 

「そらっお返しだ飛んでけ!」

 

それに対して百瀬は呪力を強く込めた拳で呪霊を迎え─────

 

「ふんッ!」

 

呪霊の胴に穴を空け祓除する。

 

「音弥!」

「任せて!」

「幣青呪法「鉄木(てつぼく)」!」

 

続いて音弥は地面に触れ、周囲の木々から木の槍を形成し手元に生やす。

そしてそれを手に取りすぐさま呪霊目掛け投擲する。

 

「キシ!キシシシシ!!」

 

呪霊は百瀬の攻撃を確認し振り返っている。故にその投擲を回避する。

だがそれも当然のこと、彼は力を緩めて投擲したのだから。

 

「静香!」

「...!」

 

(これは当たれば上々、当たらずとも私にパスがいったらいいと考えての投擲だ。)

(自分で当てにいけばいいのに、彼はこういう時に自分以外に華を持たせようとする節がある。)

(私や百瀬ちゃんからしたら仕事を他人に押し付けてるのも同じなんだけどな。)

(...いや、それも違うか。彼はきっと私達に術師としての楽しさを教えたいだけか...)

 

「わかってます、よ!」

 

ハァ、とため息を一つ漏らしながらも静香は槍を横から受け止め、

その勢いを殺さないように回転しながら更に加速する。

呪霊は音弥の方向を向いたまま。その隙に呪霊の背後を彼から受け取った木の槍で突き刺す。

そして呪力で槍と腕を強化し、呪霊の身体を全霊で以て袈裟懸けに引き裂く。

 

「ぜりゃああああ!!!」

「シ!?...キ...シャア...ァ」

 

呪霊はその身体を無散させ消滅していく。

六つの呪いは三人によって、祓われた。

 

 

◇◆◇

 

 

「はぁ...はーーー...疲れた...」

 

緊張が解け、静香は膝をついて肩で息をする。

そんな彼女に呆れた顔で見る百瀬と、笑顔の音弥が歩いてくる。

 

「オーバーすぎ。こんなの普通でしょ」

「アドリブだったのによく受け止めてたね!しかも祓った!静香すごい!」

「二人して真逆の事言いやがって...」

 

静香はため息交じりに呼吸を繰り返せば、次第に息が整う。

調子も戻り立ち上がる...とした所で、遠くからドシドシと音を立てて咬狩が帰って来る。

 

「おーーーい!どこ行ってたんだお前ら、俺の近くにいろって言っただろ」

「先輩が勝手に走って行っちゃったんじゃないですか」

「付いて来いよ!呪霊は寄って来る奴もいるが見つけ出さないといけないのもいるんだぞ!」

「...確かに」

 

(論破されたが?)

(クッソ、それならそうと事前に言っておいてくれ...!なんか悔しいんだけど...!)

 

「時期早々の任務だからそこら辺の事情を知らない不具合、ね」

「でも俺らで戦う機会になったし、ラッキーだね!」

「ラッキーじゃない!」

「おぉ、お前らだけで呪霊を祓えたのか!すげぇ、優秀なのは本当なんだな」

「えっへん!」

 

(祓わないといけなくなったのはこの人が勝手に走っていったからなんだけど...もういいや。)

 

「はぁ...次は走る前に声かけてくださいね」

「しょうがねぇなぁ、そうしてやるよ」

「次はどこに行くんですか?」

「面倒な教室は全部潰しておいたから後は体育館、プールを回って百葉箱の呪物の確認だな」

「...全部?」

「おうよ!」

「すごいですね!」

「はっや...」

 

(私達が六体の呪霊と戦ってる間に...は、早くない?)

 

静香含め三人がその事に反応すると、自慢気に咬狩は話を続ける。

 

「コツがあるんだよ、コツが」

「呪霊、特に低い等級で知能もないやつらはな、丁度良いくらいに呪力を発して脅してやる」

「そうすると隠れてる奴も追いつめられたと思うのか、群れになって出てくるんだ」

「んでそこを一纏めにしてぶっ飛ばせばいっちょ上がりってわけだな」

 

三人の中に咬狩を尊敬する念が浮かぶ中で、音弥が疑問を投げた。

 

「それでも隠れてる呪霊がいるんじゃないですか?」

「あぁ。いる事もあるな」

 

咬狩は良い指摘だ、と言わんばかりに笑顔で音弥の疑問を肯定する。

 

「だが大半の奴は炙り出せるし、帳の効果で俺らの呪力以外がある場合は帳は上がらない」

「だから出てくる奴、分かりやすい奴を潰してそれでも隠れる奴を最後に虱潰しって事だな」

「まぁ、帳の効果に呪霊を炙りだすものもあるから、ずっと隠れてる奴なんてのはほぼ居ない」

「いるとしたらー...二級以上で、知能がかなり高いかよっぽど臆病な奴くらいだ」

「三級にもいるかもしれんが、さっき言ったみたいに知能が高いのが条件になるかね」

 

真面目な顔をした咬狩に音弥が言葉を続ける、が。

 

「呪霊はそこまでして隠れる生態じゃないって事ですね!」

「つまりはそういう事だ!」

 

話が簡単になった瞬間に表情が緩くなり、気の抜けた声で音弥を再度肯定する。

 

(IQ高い言動してからいきなり下がった言動しないでくれ頭がおかしくなる!)

 

静香と百瀬はそんな男連中に、再度頭を抱える。

その後は休憩も兼ねたしばらくの談笑と水分補給を行う。

だがそれもすぐにも時間は経過し...

パンッ、と手を叩きながら咬狩が立ち上がり、三人に声をかける。

 

「うし、休憩終わり!」

「さっき次に行く候補地は話したよな?次は体育館だ」

「早速向かうぞう吉幾三ー!」

 

咬狩は再度手を叩いて一年生を急かす。

女子二人の反応は無く、音弥のおー!という声を返す冷ややかな雰囲気だけが残りながらも、

そんな事お構いなしにと咬狩は体育館を目指し走り出した。

今度こそ遅れないようにとハッと構える女子二人の姿を音弥は微笑み、

三人は咬狩に追いつくがために走り出していった。

 

◆◆◆

 

彼女は未だ暗い帳の内にて必死の思いで駆け回る。

静香にとって初任務であると同時に初めての呪霊祓除は、これにて幕を閉じる事となった。

だが、これは初戦を終えただけの事。

静香のみならず。音弥のみならず。百瀬のみならず。咬狩を含めた彼ら術師は。

この後、これ以上の試練を迎える事となる。




最後までお読みいただきありがとうございます。

最近は気圧と持病で自律神経が滅びて頭と肩が痛いとです。
皆さんも体調には気を付けましょうね...

さて、今回はナレーションと静香の考えている事の書き分けをしてみました。
いい感じの形を探りながらなので見にくいかもしれない?
ダメそうなら何とかいい感じの方法を見つけられたらなーと思います。
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