進みたくない。呪いたくない。誰とも縁を結びたくない。
最初は私の力が無くて。二度目は帰らずで。三度目は私の落ち度だった。
誰の命も零さないように、友達を守れるように、必死に鍛錬を積んだ。
それでも、刹那の油断だけで守れるはずだった友達を失った。
無能で木偶の坊で役立たずで名ばかりの愚図。
私はもう何もしたくない。
きっと私は、こうして己を呪い続けるべきなんだ。
静香、音弥、百瀬の三人は体育館へと向かった咬狩を追い地を蹴り続ける。
二級術師、特に肉弾戦に特化した咬狩の速力は三級の彼らとは大きく差があり、
一年生三人が追い付く頃には体育館に残存したほぼ全ての呪霊を咬狩が祓除していた程だった。
「もう一匹ィ!ハハッ、こんなものか!」
開け放たれた扉の先では、先に咬狩が見せた「紙縛居」及びそれの基礎である縛術、
そして鍛えられた肉体と呪力により強化された拳で以て呪霊を打ちのめす光景が広がる。
「うわぁ、これ以上やること無くなっちゃったらどーしよ」
「見学気分でいいって言ってたんだし、やる事ないのが一番じゃない」
「楽だし。」
「はー...はー...二人ともはっや...」
音弥、百瀬の二人が余裕の表情と軽口を叩き、静香は息を切らせ手を膝につく。
「でも今の分で帳上がんなかったらさー」
「今度は校内しらみつぶしに歩き回ることになっちゃうよねぇ」
「静香はだいじょぶ?まだ続くかもだけれど」
音弥は静香を心配するように声をかけつつ、改めて校舎の方も観察する。
「い、息だけ...はぁ...呪力とかはまだ大丈夫だけど...ぜぇ...」
(この二人足早いわスタミナすごいわどんな鍛錬してんのよ...!)
(私だって一応鍛えてはいるんだけど、こんなんじゃ自信無くすわよ!?)
「しらみつぶしか...それはそれで時間もかかるし、嫌だな」
百瀬は息が整いつつある静香を横目に体育館内の光景を撮影しつつ、何回目かのぼやきを零す。
音弥もまた、静香の息が整うのを待ちつつ咬狩の暴れっぷりをその目に焼き付けていた。
三人が体育館出入口で目の前の光景を眺めていくうちに、
この体育館内において感知できる呪霊、その残り一体を残すだけという段階にまで至る。
呪霊は血の布に雁字搦めにされ、咬狩二級術師が誇る膂力の元に祓除される...
その、目前だった。
「んっ?」
「なんだ?」
突如、窓より日差しが差し込み呪術師たちを照らす。
一同は何事かと思い、振り返り、目で探り、呪力を探る。
その結果はごく当たり前の事、ごく当然の表現のみを彼らの頭には思い浮かばせた。
"帳が上がっている"
「あれ...呪霊祓い終わる前に帳が上がった?」
「...どういうこと?」
「妙だな、今回の帳も登録した俺らの呪力以外が感知される限りは勝手に解けないはずだ」
咬狩は捕らえた呪霊を改めて捻り潰し、血布を腕に巻きなおす。
「...拙いかも。」
「みんな、急いで戻ろう!」
「わかった...!」
「帳が壊されたか、"張った人がやられた"かもしんない!」
音弥と静香の反応に咬狩は同意する。
「だろうな...一年共、お前らは自分の身を守る事に専念しろ」
「いいか、敵がいると気が付いたら必ず逃げろ」
「はいっ!」
「了解」
「わかりましたっ」
咬狩はスマホを取り出し、高専に連絡を取ろうとする。
プルルル...
一度目のコール音が響く。
そして全員がまずは現場の確認をしようと足を動かす時だった。
遠くより、電車の駆動音が響く。
その音の主は次第に大きくなり、呪術師らの元へと近づいていく。
「待って、何か聞こえない?」
「...電車?でも...」
彼ら四人は知っている。
ここ室加小学校周辺に、駅も線路もない事を。
「逃げ遅れた子が電車ごっこしてるとかならうれしいんだけどね~....そんなんじゃなさそう」
そして同時に、嫌な情報に気づかされる。
この音は、"補助監督たちが居た方向から近づいてくる"、と。
(...これで補助監督の人らの安否は悪い方に確定したようなもの、か)
(先輩は発見次第逃げろって言ったし、ここは大人しく逃げた方が身のためかな...)
(でも何で電車の音なんだろ...音を使う術式、とか?意味不明だけど...)
(そもそも術式っぽい現象な時点でこれ準一級以上の案件になってるよね。帰りたい。死にたくないのだが?)
全員がそれぞれに身構える中で、それは遂に姿を現す。
それは電車だった、学生に限らず大抵の人間には見慣れたその乗り物が、"線路も無しに"四人の元へと高速にして正確に迫る。
「......は!?マジで電車なの!?」
「うわぁ~~!!あれ術式かな!式神かな!?」
「言ってる場合か!間に合わない!」
「チッ!」
咬狩は片腕の血布で三人を巻きつける。
「じっとしてろよ!」
そしてもう片腕の血布を校舎二階ベランダの手すりへと巻きつけ、自分らを吊り上げる。
轟音と共に走り去る電車は走行途中に存在する障害物等を透過して迫って来ていた。
だが、四人との距離が近くなった途端。衝突すると言わんばかりに、通路上の用具入れや地面を壊し、抉りながら走行する。
そして彼らが元居た場所を高速で通過し、直線状に存在した学校の建物、障害物を幾つも破壊して消滅する。
「術式っぽいね!」
「何なのこの馬鹿みたいな術式!?」
「巨大な質量をぶつける、か。強いぞこれは」
「(うわぁこの布きもちわる...)」
その凄まじい力の残骸を上から見下ろして百瀬を除いた三人はそれぞれの感想を口にする。
...百瀬は血布に対しての嫌悪感を抱いていたが。
咬狩は吊り上げていた自分たちを地上にそっと降ろす。
音弥、静香、百瀬、咬狩の四名はそれぞれに周囲を見渡し、呪力を探り、思考を巡らす。
「どうやって成立してるのかな、術師は乗ってたりするのかな?」
「乗ってるなら運転台に居るのかな~~~」
「そんな呑気に考えてる場合じゃなくない?」
「待って、あっちに誰かいる。」
百瀬が指を指した方向に全員の視線が集まる。
そこには、身長170もない程...中肉中背、頭を丸刈りにし首からはカメラを下げ、
リュックを背負った青年が佇んでいた。
「あれ、死ななかったのかよ」
青年は不機嫌そうに頭をかいて舌を鳴らす。
その足元にはべっとりと赤い液体が付着していた。
赤黒く染まった足先は、この緊急事態の犯人である事を物語っている。
咬狩はそんな彼に対して確認を取るように言葉を投げる。
「おいクソガキ、今のはお前の術式か?」
「は?クソガキ?」
「おい、くそキモゴリラが人間様にそんな事言っていいと思ってんのか?」
青年は更に苛ついた様子で四人を見る。
「スーツを着た大人はどうした。」
「スーツ?あぁ、あいつらね」
「また写真の邪魔してたからさ、もうそういうゴミはいなくなるべきだと俺思うワケ」
「人身事故にしてやったよ、んでお前も仲間なんだろ?」
「呪術師...とかいう?」
「だからさ、悪いけど...いや全然悪いなんて思わねぇけど。お前らも皆殺し確定ってワケ」
(高出力の呪力が漲ってる)
(咬狩先輩に並ぶか、それを超えるくらいの呪力出力と量...!)
「...おいお前ら、さっき言った事は覚えてるな?」
「ちゃんと覚えてます!」
「逃げろ!こいつは"最低でも"2級呪詛師だ!」
「っ!」
「返事してる場合じゃない!早く逃げるよ!」
青年の呪力を危険視したのは、当然ながら静香だけではなかった。
咬狩斗真はその脅威を認め、血布を青年に巻き付けんと操りながら一年生らに叫ぶ。
音弥はハッキリした返事を返し、静香は逃げようと足を動かし、百瀬もまた同様だった。
全員が皆一同にこの者の脅威を認識し、力足りない者を離脱させ情報を持ち帰る。
その認識と判断はある意味正しかった。
「は~...ほんとお前らは同じような反応ばっかりするよな」
「お前らみたいな社会の生ごみを取り逃がすわけないだろ?」
呆れた声を零しながら、青年は"掌印を構えた"。
「ッ!?一年共、もっと急げ─────」
その判断が誤りであった事を二級術師は後悔する。
高出力の呪力が迸り、空間を満たし、世界は塗り替わる。
電動客車の駆動する轟音と空を劈く汽笛が鳴り響き、四人の視界は眩い白で塗りつぶされる。
「領域展開─────」
「────『
最後までお読みいただきありがとうございます。
そしてお久しぶりです。色々ありましたがちょっと戻ってきました。
またぼちぼち書いていこうかなと思います。
これで11月にも入るので、皆さん防寒対策はしっかりしてくださいね。
あとオリジナルの世界観の小説書きたいなって思ってます。そのうち投稿するかも。