酷く澄んだ青いソラ   作:クエクト1030

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術式は一つの世界とも言われます。
世界はその世界の主の解釈によって姿形を変える...
実に興味深い話です。
実際のところ、同じ術式を持つ術師2人でも術式効果が異なる事もありました。
これは素の術式としての話であり、拡張術式による違いではありません。
拡張術式による使用を含めれば、更に違いが出る事でしょう。
また術式は遺伝します。
「世界」は遺伝するのに、「世界」は「主」によって形を変える。
言ってしまえば「世界」は時代によってそのカタチを変える。
あぁ...本当に、この世界は面白いですよね。
───悉蔵のとある研究員の手記


第七話「幽明詼諧-肆」

ガタン ガタン

 

ガタン ゴトン ゴトン   ガタン

 

カン カン カン カン

 


 

 絡み合った線路。4人以外誰もいないホーム。

ピンポン。まもなく、一番線を電車が通ります。

案内が鳴り、次の瞬間には目の前を電車が通過する。

ピンポン。まもなく、十一番線を電車が通ります。

ピンポン。まもなく、四十四番線を電車が通ります。

ピンポン、まもなく...

─────まもなく まもなく まもなく─────

 

とん。

 

「...は?」

 

無数の電車が行き交う駅で、4人は背後から背中を押される。

いつの間にか立っていたホームから線路へ落ちる。

落下の最中に振り返っても、そこには誰も存在しない。

ゴトン、ゴトン。

4人が困惑するも、無情にも遠くから死の鉄箱が迫る。

 

最も手練る男は軽々と跳躍し駅のホームへと戻ろうとした。

だが、ホームへと足が触れた瞬間。

 

とん。

 

と、"背中を押され"、線路へと再度落とされる。

 

「(領域...だが単純即死タイプではないな。それなら既に轢かれて死んでる)」

「(高度な結界術とも言えないな。ホームで開始なこと、線路への突き落とし)」

「(術式が領域搭載かそれに近いタイプ)」

「(しかも最低でも結界術の練度は低いのは確定)」

「(つまり)」

「この領域は未熟、ワンチャン、ある!」

 

咬狩はその言葉と共に、片腕の呪布の全てを操作し密集させて。

拳には一つの球を作り上がる。

 

「千手流「手の内」」

 

千手流『手の内』。

千手流にて近年開発された、対領域の術。

呪布で作った球と、その中に小さな空間を作ることで成立する。

呪布を物理的な結界の外壁として見做し、中の空間を領域と見做す。

領域の中に領域を作る事で、領域の完全性を崩す事で抵抗するというもの。

結界術同士の押し合いとはやや異なるため、球が破壊されない限り、

領域の完全性を損ない続ける事が出来る。

ただし、結界術としての抵抗────つまり、領域の押し合いは出来ず、

しない事を縛りとしている。今回の場合、咬狩は己の拳を封じることで、

呪布の強度、呪術的価値を上昇させる。

そして、「手の内」の呪術的価値は呪詛師の領域の完全性を更に毀損する。

 

「必中効果は恐らく"ホームに突き落とす事"だ!」

「!」「!!」「道理で。」

「そして領域は未熟!構成条件を大きく崩すか、術者を倒せ!」

「(必中効果が突き落としなのは棚ぼただった。)」

「(恐らく結界術への知識がないために強力な必中に改造出来ないんだろう)」

「(おかげで、「手の内」本来の必中阻害を使わない縛りで強度を上げられる...!)」

 

ここまで数秒。咬狩二級術師の判断を聞いた一年生は呪詛師を探そうと目を凝らす。

駅を飛び交っていた電車は、咬狩の「手の内」結成後、金属音を鳴らしながら止まっていた。

その隙に線路及び線路の先へと走り、領域の外壁を探す。

しかし道中には扉の開かない電車が何本も止まっているのみ。

電車を覗き込み、また探し回っても術者の姿は見えなかった。

領域の外壁は発見に至る。

しかし極めて頑強で現在4名の術師による攻撃で崩すことは不可能という結論に至った。

 

「となると...」

「あとの候補は駅のホームだね!」

「咬狩先輩、必中効果は?」

「必中無効に切り替えは出来る。が...」

「が?」

「この静寂...」

「奴の方は領域が不全になりすぎてるのかもしれん」

「分かりました!結界の維持は出来るけど、術式が領域なせいで、領域が不全になると術式の副次効果諸共使えなくなってそうってことですね!!!」

「...あ、あぁその通りだ。よく今ので理解出来るな?」

 

ほとんど咬狩先輩と漆天宮くんだけの作戦会議というか現状把握だけど

二人の解説は分かりやすかった。

要するに、呪詛師はかなり未熟。

術式は脅威ではあるけど技術の低さ故にピーキーになってる。

領域の不安定さが術式の副産物の使用も妨害してる。

最初に私たちを襲った電車は間違いなく副産物の方。

可能なら、領域が咬狩先輩の領域対策を取られた後も攻撃するはずだけど

明らかに電車は止まって音沙汰ない。

 

「問題なのは。」

「このままだと相手の攻撃を封殺出来るけどいつ出られるか分からない、ということですよね」

「そうなる。領域な以上、呪力はかなり消耗するはずだから呪力切れまで待機する選択肢もある」

「けど、私たちの予想が全て当たったいるとは限らない、ですよね?」

「その通り。」

「...どうすんの?」

「まず、このまま膠着状態を維持する」

「だが相手が再び電車を走らせた時───つまり、この状況を復旧した場合」

「「手の内」の効果対象を必中効果妨害に切り替え、ホームに上がる」

「そして術者を叩く、と。」

「あぁ。だが奴が電車に乗ってる場合は意味がない」

「この場合、必中効果から強度の方に戻す。だから大声で伝えてくれ」

「了解。」「はい!」「分かりました」

 


 

男は操作盤を叩きながら憤慨していた。

くそ、くそっと吐き出しながら、一番強い力で操作盤を叩くと、

叩いた手がブワッと熱くなり、痛みが走るために叩くことをやめ、

一発だけ足の裏で蹴ってから、死ねよ!と吐き出して何とか落ち着く。

 

急に電車が動かなくなったと思えば、俺の理想の駅に招待してやった奴らが

うろちょろ歩き回ってやがる。別に姿を見せてやってもいいけど、

わざわざ見つかる必要もない。だから全部の電車の扉を閉めて運転席の下に隠れてた。

けど...これは確実に体力を消耗している。多分この駅のせいだろう。

今までこんなに長く維持してたことが無いから分からなかった。

駅を作った後にどっと疲労が押し寄せることは毎回だったが、

こうしてただ維持するにも体力をかなり使うらしい。

これでもう10分くらい経つか...?

あいつらは線路をうろついてたようだが諦めたのか?はっ、また一箇所に集まってら。

しかし...ふぅ、どうしようか。俺が無敵な事は変わらないが駅が解除されたら...

いや、そうなったらそうなったで電車をまた走らせればいい。

駅以外で走らせる時はせっかく撮った写真が消えることを意味する。

だがゴキブリのように生き延びるこいつらを殺すためには...仕方のない消耗だ。

落ち着け...落ち着いて。

駅の中での電車は何故か動かなくなった。

複数走らせる電車の全てが同時に停止。

動かなくなった、が...扉を閉める事は出来た。

電車は走る時に扉にロックをかけるから、ロックをかけたままだったのか。

それなら自分でかけたと思ったのか?

駅を解除してから使う写真は、写りがあまり良くないものを使えばいいとはいえ

それでも...現状で解決する方法はないのか?

 

 

 

この駅は俺の、俺だけの駅だ。

俺の大切な場所に誰かを招いて...邪魔者がいるから、居心地が悪いんだ。

じゃあどうする。

殺して排除する。

どうやって?

電車は使えない。

本当に?

そうだ。駅の中での電車と、駅の外での電車は異なる。

なら...そう。

駅の中で、写真を使ったら?

きっと、早くてかっこいい電車が走る。

写真が消える事は、俺の領域というものに名付けた意味と同じだな。

これは俺が、俺が成長するために必然的な壁なことを今理解した。

写りが良くないなんてのは俺の間違いだった。

全て俺の大切な一枚で。

その一枚たちと、お別れをする。

初めに焼きついた、あの悲しくて綺麗な走りのように。

 

「走れ、『別離運転』」

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