ヤニカス魔法少女 作:ヤニカス魔法少女って良いよね
「はぁ……はぁ……!!!!」
不自然なほどに人がいない繁華街、その路地裏を1人の少女が息を切らして走っていた。ひどく怯えているらしく、何かから逃げるように全力を振り絞っている。
ダァンッ!!
重厚な音と共に微かな痛みが少女の右頬を撫でた。どうやら銃のようなもので撃たれたらしい。
「ヒィッ!?いや、いやだ、まだ終わりたくない!!
少女が手を出血した部位に当てると暖かな光と共に傷が癒える。
魔法だ。
「行き止まり!?でもこれくらいの壁なんてッ」
がむしゃらに走っていた少女だが、どうやらこのあたりの地理には疎いらしく行き止まりへたどり着いてしまった。しかし目の前には少女の背丈の2倍ほどの壁があり飛び越える気でいるらしい。そのまま跳躍した少女は、最も簡単に壁を飛び越え………ようとして足に走った激痛に倒れ伏した。
「あがッ……うわァァァ!!!!」
あまりの痛みにのたうちまわりながら自分の体を見ると、下半身にあるはずのものが無い。
「私の足……あし、が……」
「お探しのものはこれかいレディ?」
「!!」
聞こえてきたのは同じく少女の声。カッコつけたような喋り方だがその声に生気は疲れ果てたサラリーマンのように気だるげだ。
「ファンタズムバレット……!!」
「ほう、やっぱオレの事知ってたか。お前さんみたいな木っ端魔法少女でも知ってるなんて有名になったもんだねぇ」
曲がり角から現れたのはファンタズムバレットと呼ばれた1人の少女。その手には身長と不釣り合いなスナイパーライフルが握られている。先ほど少女を銃撃したのも彼女らしい。ファンタズムバレットの足元には少女のものであった片足が落ちておりその周辺はすでに夥しい量の血液で彩られている。
「痛くて話せないのも可哀想だし、最後くらいサービスしてやるよ。〈
「なんで、なんでなんでなんで……なんで私なの!?」
「うわ、急に喋り出した。えーと、ヒーリングライダーさん?ライダーの部分は未覚醒か。そりゃ残念だ、魔法医療免許不所持だからなー。チッ、一応ちゃんとやらせてもらうぜ。おい、逃げんな。〈
いつのまにかスナイパーライフルをしまってピストルを持っているファンタズムバレットは、逃げようとしている少女改めヒーリングライダーに魔法が付与された銃弾を撃ち込んだ。名前の通り、痛みを感じなくなる銃弾、そして物と物を縫い付ける銃弾だ。今回の場合地面とヒーリングライダーを縫い付けている。
「えー魔法少女規約第5条違反の為、ヒーリングライダーを除籍処分とし同時に変身資格を失効とする」
ファンタズムバレットが持つタブレット端末には長ったらしく条文が書かれており、彼女自身も面倒くさそうに読み上げているがその分量的に端折っているのは明らかだ。
「いや!!せっかく魔法少女になったのに、なんでこんな目に遭わないといけないの!!」
「お前さんが免許の更新サボったからだろ」
何言ってんだコイツ、と言わんばかりにファンタズムバレットは言う。どうやら魔法少女関係なく世知辛い問題だったらしい。
「実年齢は……16歳ね。まあ免許更新云々が分からないとかそういう言い訳は色んな奴らから色々聞いてるし聞き飽きてるんだわ。そういうのを処理してくれるマネージャーも居るはずなのにこの体たらく。正義だ人の命だ言う前に自分から救えってな。オレ?オレは全部1人でやってるぜ、免許もこの通り」
特に聞かれてもいないのにファンタズムバレットは懐から大量の免許証を取り出して見せつける。
「こう言うのもできて一人前の人間になるんだよ。てか魔法少女名的に医療免許と運転免許もこれから取らないとだったし、まあ丁度いい辞めどきなんじゃね?ああ、お前さんの意見聞く気無いから。今日ははよ帰りたいし。んじゃ、〈
「いやー!!私はまだ、モテてな……」
ファンタズムバレットは額を正確に捉え彼女自身を象徴する魔法弾を発射し、ヒーリングライダーと呼ばれた少女は倒れ込んだ。魔法弾の効果が発動しているのでビクンビクンと体が脈打っているのがどうも煽情的に映ってしまう。
強制的に魔法少女を辞めさせるというのはどうも激痛が伴うようだ。
「うっし、今日の仕事終わりー。傷無し、記憶無し、血痕無し、魔力無し。じゃあアフターフォローよろしく」
少女が着ていた煌びやかな服はいつのまにか学生服へと変わり千切れていたはずの足も元に戻っている。ファンタズムバレットが来た道を戻る途中、耐熱服のような重装備の小人が数人現れ少女を担いで行ってしまった。
「……ふぅ。仕事終わりの一服は最高だねぃ」
ファンタズムバレットはビルの屋上でタバコを吸っていた。明らかに未成年の少女の見た目をしている彼女がタバコを吸っているのは世間体が悪い。
「この一本のために、オレは生きてんだァ」
◆
魔法少女。
魔法を使う少女達の総称でありすでに世の中に広く受け入れられている存在。荒廃し化け物が蔓延る並行世界の地球から、こちらの地球を侵略しにくるという怪物達、通称デーモンと戦う地球の守護者達のことだ。魔力と呼ばれるその力に目覚めるのは年端も行かぬ少女ばかりであり、幼い精神性が危険視されて管理を求める声で溢れていた。
『始まりの魔法少女』と呼ばれる地球最初の魔法少女が立ち上げた魔法少女協会はすでに1万を超える魔法少女が所属しておりその全てが厳重に管理されている。故に、人々と魔法少女の関係性は良好であり多種多様な形で交流がある。
そんな魔法少女の1人、ファンタズムバレットの存在は魔法少女の中でも特に異端と言えるだろう。世間一般で言う魔法少女とは、可憐で鮮やかな衣装を見に纏いデーモンと戦う乙女達のことだ。しかしファンタズムバレットはそのすべての特徴が当てはまらない。軍服のようなかっちりした衣装を身に纏い、協会が定めた決まりに背いた魔法少女からその力を奪い一般人へと回帰させることを生業としている。魔法少女であるためデーモンの討伐も使命の一つだが、主な任務は魔法少女を裁くことにある。約10年近くその仕事を続けた結果が彼女の異名『魔法少女殺し』。実際に殺害するのではなく、魔法少女としての機能のみを殺す対魔法少女のスペシャリストだ。
「これが君の評価な訳だが」
「魔法少女らしくないかっちりした衣装で悪かったなこんちくしょう」
「気にするところはそこでいいのかね……?」
魔法少女協会本部会議室、通称『円卓』にてファンタズムバレットは自分の評価を聞かされていた。
「そりゃそうでしょう。今更なんですからそんなことくらいしか気にならんすよ。第一席」
「君はもう少し仕事の環境に対して意見を言ってくれてもいいと思うがね」
「仕事は仕事っすから」
第一席と呼ばれた彼女こそ、魔法少女協会を作った『始まりの魔法少女』ソードマスターだ。現在はスーツを着ている、いわゆる変身をしていない状態の彼女に対し、ファンタズムバレットは初めて魔法少女に変身した瞬間からずっと変身状態を維持している。
「タバコ、辞めないのかい」
「変身してたら吸い放題なんで」
「魔法少女の利点の活かし方は君が1番独特だと思うよ。ああ、そういえば先日はご苦労だったね。いつも君は良い仕事をするよ」
「育てばいいヒーラーだったんすけどねぇ。ありゃ内側がダメでした」
「私もそうだと思ったから処理したんだ」
先日処理されたヒーリングライダーのことだ。実際には、免許の更新など後から適当に辻褄を合わせて処理してしまえばいい。除籍ほど重い罪にする必要も全く無かったのだが、腐っても魔法少女協会は一つの組織だ。不穏分子は排除するに限る、ということだ。
「知ってたかい?彼女、マネージャーとできてたらしいよ?マネージャーの方は奥さんもいるらしいのにね」
「え、こわ。聞かせないでくださいよ」
「ぶっちゃけ処理の理由はそっちの方が大きいよ?」
「政って奴ですか。あー嫌だ嫌だ。純粋に魔法少女させてくれないですかねぇ」
「私達はもう純粋って柄でも無いよ?」
「「はっはっはっはっは…………はぁ」」
ファンタズムバレットは少女の姿とはいえ、実年齢を考えると両者ため息しか出ないのだった。
「君は変身を解かないのかい?」
「オレは魔法少女に殉じるって決めてるんでね」
「頼もしい限りだよ」
煙を吹かしながらファンタズムバレットは答えた。
「今日は自主退職2名の封印処理を頼むよ」
「了解です。ちなみに?」
「アクトライとメタルサーファーの2人さ。知ってる?」
「あー、名前だけは知ってますね。まあまあベテランでしたし手厚く葬ってやりますよ」
「任せる」
ファンタズムバレットの仕事は何も強制的に魔法少女を殺すことだけではない。魔法少女を自主的に辞める場合は魔力を奪わず日常生活に支障がないように封印処理を行うのでそれも彼女の仕事だ。
「んじゃ、失礼しまーす」
自動ドアからファンタズムバレットが出ていくと、ソードマスターは一息付き彼女が出て行った扉を見つめた。
「魔法少女に殉じる、か。その生き方ができる君が羨ましいよ。ファンタズムバレット」
一言だけ愚痴のように溢すと、ソードマスターも会議室を出て行った。
「あー、よし。魔力の封印処理、完了しました。お二方、今日までご苦労様でした」
「…………え、ええ。ありがとう」
「本当に魔力が感じ取れないわ。これ、本当にまだ残ってるの?」
「はい。ですが世界の危機、というレベルで無ければお二人の封印処理を解除することもありません」
ファンタズムバレットは今日の任務を完了させた。目の前にいるのは魔法少女を辞めただの一般人になった女性2人だ。
「魔法少女殺しの噂は聞いたことあったけど、まさか眉間を撃ち抜かれるなんてね。人生何があるか分からなくて面白いわ」
「……そうね」
スッキリしたという表情をして饒舌なのは元アクトライ、未練があるのか口数がすくなっているのが元メタルサーファーだ。ファンタズムバレットも仕事柄いろんな反応をされるのは分かっているので特に何かフォローすることもない。2人ともそれぞれのやり方で現状を納得しようとしているのだから。
ちなみにファンタズムバレットの魔力の封印処理は眉間に専用の魔法弾を撃ち込むので側から見れば処刑シーンに見えるし、彼女の使う銃がテーザーガンのようなものではなくコテコテのピストルなので大抵の退職者にはビビられている。
「退職金は経理の方に話を通してあるので指定された部署まで行ってください。ここだけの話、結構凄いですよ」
「「……行ってきます!!」」
「ははっ、あれくらい元気な方が良いね」
一仕事終えたファンタズムバレットはいつも通りにタバコを咥えて火をつける。本日はすでに5箱目のタバコだが変身状態のため体に悪影響がないのだ。そうでなければすでに彼女はこの世にいないだろう。
魔法少女になる際、二つの単語を組み合わせた名前を与えられる。例えばファンタズムバレットならファンタズムとバレットというように。新米魔法少女はこの名前の片方に関連する魔法しか使うことができない。彼女の場合はバレット、つまり銃撃関連の魔法しか使えない。この片方の要素しか使えない魔法少女は1次覚醒者と呼ばれ両方の要素を扱えるようになれば2次覚醒者、そしてそれらを組み合わせた複合魔法を使えるようになれば3次覚醒者と呼ばれる。今回の2人はともに3次覚醒者でかなりの実力者だったのだ。
そんな魔法少女でも、加齢による魔力量の減少は避けられない。だからこその封印処理なのだ、よく言えば引退、悪く言えばお払い箱、というわけだ。ファンタズムバレットという例外を除いて。
「今日は奮発してラーメンだな。〈
ワープのような魔法弾を足元に撃ち、出現した魔法陣に乗ったファンタズムバレットはそのまま姿を消した。
ファンタズムバレットは1次覚醒から3次覚醒、
「おっちゃん、ラーメン大盛り半チャーハンと唐揚げも!!にんにく多めで!!」
だからこそ、ファンタズムバレットは自らと同じような存在を作らない為にも汚れ仕事を引き受けているのだ。