ヤニカス魔法少女 作:ヤニカス魔法少女って良いよね
「かったるい」
どうしようもない一言が、誰もいない空間に木霊する。声の主であるファンタズムバレットはとある百貨店の喫煙室で至福のひと時を過ごしていた。見た目が少女なのでタバコを吸っているのを目撃されたら確実に補導されるリスクはあるが、人避けの魔法を使っているので安心して一服しているのだ。
「ふぅー…………最近はデーモン共も優秀な魔法少女達に瞬殺されてるしわざわざオレが出るまでも無いんだよなぁ。イリーガルも最近居ないし暇だねぇ」
ただただぼうっとタバコを吸っているわけではない、ファンタズムバレットという存在は一般市民には知られておらず、魔法少女の間でも知っている者は少なく都市伝説レベルでしか認知されていない。魔法少女界のなまはげくらいの認知度を自称している彼女だが、一応パトロールという名目で街を練り歩いているのである。
「本部行って射撃場借りるか。許可は……第五席くらいはいるだろどうせ」
魔法少女協会には第一席から第十三席までの管理職集団がいる。円卓と銘打ってあるからアーサー王伝説を参考にしているのだろうが13まで居たらそれは裏切り者では?と思うファンタズムバレットであった。
その中でも第五席と呼ばれる女性は基本的に本部にずっと居るため許可も取りやすいと考えた。
「さーて、トリガーハッピータァイムと行きますk『ズドォォォォン!!!!』…………えぇ?」
灰皿に吸い終わったタバコを擦り付け火を消した彼女は喫煙室を出て〈跳躍弾〉を使用しようとした瞬間に、外で爆発音が聞こえてきた。
「事故か事件か……はぁ、〈
ファンタズムバレットはどんな銃でも知識があれば作り出せる。バレットの要素とファンタズムの拡張性を複合させた3次覚醒者到達で習得した最も便利な魔法だ。
そして作り出したスナイパーライフルで撃ち出したのは離れた景色を見るための透視の魔法弾だ。魔法弾であるためデパートの窓ガラスを破ることなく貫通し一定の距離に到達した銃弾はその場で停止。ファンタズムバレットと視界を共有し始める。
「ふーむ……お、デーモン居るじゃん。でも男爵級か、雑魚だな。これくらいならそこら辺に魔法少女が……おお、居た居た」
デーモンには階級があり、わかりやすく上から公侯伯子男で爵位が付けられていて公爵級に関して実力がピンキリなのであまり当てにならない。
今回出現したのは1番階級の低い男爵級で1次覚醒者の魔法少女でも十分勝てる程度の実力しかない。むしろ男爵級を1人で倒せるようになってようやく魔法少女と認められる、という感じだ。
「見たことない魔法少女だな。新米か?…………あーコイツか。魔法少女ブルーフレア、登録日は……一昨日!?」
千里眼で状況を見ている時、ファンタズムバレットはそのうち魔法少女が来るだろうと予想し手柄を無理に奪うものでもないと考えていたが、実際に来たのは2日前に魔法少女になったばかりの新人。
魔法少女協会の全情報へアクセスできる権限を持つファンタズムバレットはタブレットでブルーフレアの情報を見ていた。なぜ新人が1人でデーモンと相対しているのかも分からないが、少し状況が危ういと判断したファンタズムバレットは少し悩み始める。
「担当魔法少女は……インフルエンザでダウン!?代わりの人員くらい寄越してやれよ……ついてないなこの子」
新しく魔法少女となった者には必ず指導教官の魔法少女がつく。しかしどうやらブルーフレアの指導教官はたまたま流行病で寝込んでいるらしい。さらに代わりの魔法少女も居ないという不幸っぷりを発揮している。協会に文句を言ってもお釣りが来るレベルのミスだがブルーフレアとやらは純粋無垢そうな少女でそんな事を言うなんて欠片も考えていないだろう。
「……非常事態だししゃあねえか。後でオレが怒られれば良いしな。来月は1カートンくらい節約か?」
ファンタズムバレットはため息をつくと〈跳躍弾〉で今いるデパートの屋上へとワープした。
「純粋が仇になる世界なんて、オレは嫌いなんだよねぇ」
◆
「えっとえっと、〈
魔法少女ブルーフレアは苦戦していた。魔力に目覚めてたった2日で、先輩の不在中にデーモンと遭遇するという二重の不幸に見舞われていた。
たった今使用した魔法も、つい昨日使えるようになったばかりの魔法でデーモンと戦うために使えるような魔法ではなかった。
ブルーフレアに出来ることは目眩し程度の魔法でデーモンを引きつけるか、練習用に貰った魔法のステッキで直接殴りつけるかの2択だ。最も、そのどちらもデーモンに対して有効打を与えられるものではない。
「まだ逃げ遅れてる人が居るかもしれないから、頑張らなくちゃっ」
実際のところ、偶然すぐ横の百貨店にいたファンタズムバレットが使用していた人避けの〈結界弾〉の範囲が広いため思ったよりも巻き込まれた一般人は少なかった。不幸中の幸いだったがブルーフレアはそれを知らない。
『ギャァ!!!!』
「うわわっ!?」
男爵級とはいえデーモンはデーモン、防御姿勢も取らずモロに攻撃を喰らうとそこそこのダメージになる。しかもまだ魔力の使い方に慣れていない新米魔法少女なら尚更でありずっこけるように地面に倒れ込むことでなんとかデーモンのタックルを回避している。受け身も取れていないようだ。
「いたた……どうやって倒せば良いんだろう……あっ!!逃げ遅れてる人が、助けなきゃ!!」
視線の先には、デーモンに怯えて動けなくなっている小さな男の子が居た。どうやら怪我はしていないらしいが、もし物音を立ててデーモンに気づかれたら一環の終わりだ。
「ッ…………やるしかないよねっ!!そこの貴方!!こっちだよー!!」
『グッ?……ガァァァァ!!!!』
立ち上がったブルーフレアは、大きく腕を振りデーモンの注意を自分に向けさせた。狙い通りこちらへ向かって来るデーモンだが、彼女はどうやってデーモンを止めればいいのか全く分からなかったのだ。それでも彼女を突き動かしたのは、助けなければと言う一心だった。
「ステッキをしっかり構える……やりたい事、しっかりイメージする!!」
デーモンがまっすぐ向かって来る中、ブルーフレアはこの2日で教えてもらった数少ない魔法のコツを反芻していた。
「私がやられても、他の魔法少女が来てくれるからね!!」
その言葉は果たして自分に言い聞かせているのか、それとも怯えている男の子に言ったのか。
「良い気概だ。でもまだ青いな」
「へっ……?」
「〈
デーモンの攻撃がブルーフレアを掠める直前、聞こえてきた声とともに重厚な音が辺り一帯に響き渡った。ファンタズムバレットの射撃だ。正確無比なその一撃はデーモンの脳天を直撃し、瞬く間にその巨体を消滅させたのだ。
「よっと、状況終了。被害は……ねぇな」
「あ、あなた……は……?」
一瞬の出来事で何が起こったのか分からず呆然としているブルーフレアだが、目の前に物騒な銃を持った少女が降り立った。ファンタズムバレットだ。
「んー、魔法少女だよ。それよりほら、やる事あんだろルーキー?」
「はっ、そこの君、怪我はないー!?」
「思いやり◎、行動力◎、実力×、知識×ってところか。ありゃ化けるな」
魔法少女になるには、魔力に目覚めるという才能が必要。なれたとしても年端も行かぬ少女に命をかけた戦いを強いるのだから初陣でPTSDになる少女も少なくない。そんな中、これだけ不幸な条件が揃った中で一般人を第一に考えてその身を犠牲に出来る精神性を持つ少女がこの世に一体どれだけ居るのだろうか。
むしろ、それが出来てしまう方がおかしいと言えるだろう。そんな少女が今、ファンタズムバレットの目の前にいる。
戦えない癖に一丁前に体を張るバカはそれなりに居るが、自分の事は二の次に他者を慮る。
「あの子はまさしく、
ファンタズムバレットはそう呟くと、新しいタバコをふかし始めた。
「あー!!!!ダメですよ、子供がタバコなんか吸ったら!!」
「えっ、いや、これはだな」
「言い訳はダメです!!未成年の喫煙は犯罪ですよ!!」
「あの……え、あ、はい」
いつの間にか近づいていたのか、ブルーフレアがファンタズムバレットの口元から火をつけたばかりの煙草を抜き取って魔法で燃やしてしまった。
(オレの最後の携帯してるタバコがっ!?!?)
「よし!!あれ、私今無意識で魔法使えたっ!?」
(こんの小娘、無意識でオレの最後の希望を……!!)
急な出来事で理解が追いついてなかったファンタズムバレットも段々と現状に気づき、ちょっとムカついた。しかし逃げ遅れた男の子が一緒にいるので確かにタバコを吸うのはあまり良くなかったかもしれないと自分を納得させることにしたのだ。
「お姉ちゃんありがとう!!かっこよかったよ!!」
「え!?で、でも倒したの私じゃないしほ、ほら。こっちのお姉ちゃんにも……」
「オレはいいよ。デーモン相手に、逃げず挫けず立ち向かったのはお前さんなんだからな。ほら、迎えも来たらしい」
チラッと横を見ると母親らしき人がこっちに向かってきている。要救助者なしで一件落着となった。
2人が親子を見送った後ファンタズムバレットはブルーフレアに問いかける。
「ブルーフレア、お前さん事後処理の知識は?」
「なんか名前知られてる!?えーと、あはは……」
「だろうな、2日のペーペーで出来たら指導教官がよっぽど優秀なんだろうよ。やったことねえけど指導教官免許持ってるから今日だけはオレが臨時で教えてやる。この後時間は?」
「大丈夫です!!」
「よろしい。お、メモ持ち歩いてるのか。やる気十分で何よりだ」
そしてファンタズムバレットによる指導が始まる。
「お前さんも知っての通りオレ達魔法少女はただデーモンを狩るだけじゃない。デーモンの被害に遭った現場の被害状況の確認、救助、復旧その全てをオレらが担うんだ」
「ふむふむ……質問いいですか」
「ああ」
「復旧ってどうやるんですか!!」
「まあそう思うよな。これを使う」
そう言って取り出したのは虹色に輝く卵のようなブローチだ。
「まあ今回は特に建物に被害もないので使わんが、これに魔力を込めるとブローチが弾けて周辺が元の状態に復元される。理論的な話をすると、戦闘で淀んだ魔力を元の形に修復する過程で物質も……って、うん。理解する必要ないからそんな顔すんな」
「はっ……!!すいません、お勉強の話は得意じゃなくて」
「気持ちはわかるよ」
ファンタズムバレットの説明に、魂が抜けかけていたブルーフレアだがどうやらファンタズムバレットにも覚えがあるらしい、苦笑していた。
「とまあこんな感じだ。ちなみに、これらを纏めた報告書を提出しなければならないんだが……今回はオレがやっとくよ。今日はお前さん、色んな不幸重なってたみたいだしな。
うん、お疲れさん。よく頑張ったな」
「は、はいぃ〜……」
「ははっ、今更怖くなったか?」
それから一通り事後処理のやり方を教えたファンタズムバレットはブルーフレアに労いの言葉をかけた。すると力が抜けたのかブルーフレアがその場にへたり込んだ。
「……魔法少女、続けるかい?」
「続けます!!私なんかでも、誰かを助けれるって分かったので!!」
「なるほど、まあほどほどに頑張りな。命あっての物種だからなー。今日は帰ってゆっくり休みな」
「はい!!助けてくれてありがとうございました!!」
それだけ言うとファンタズムバレットは足早にその場を去ろうとした。早く家に帰って新しいタバコを取りに行かねばならないという一心だった。
「あ、あの!!」
「ん?」
「名前、青木アカネです!!貴方の名前も教えてください!!」
「あー…………」
ブルーフレアの言葉に、ファンタズムバレットは頭をポリポリ書いて彼女から目を逸らす。
「まあ名前の方ならいいか?いいか……夢幻ハズミだ。恥ずかしいからあんまり言いふらすなよ〜」
尚、家に帰ったファンタズムバレットだがどうやら家にもタバコの在庫がなかったらしく、しばらくの間タバコを求めるゾンビが街を歩いていたらしい。