ヤニカス魔法少女 作:ヤニカス魔法少女って良いよね
「で、残りは報告書通りって感じですね」
「明らかにウチのミス、というわけか」
「引き継ぎの魔法少女も決まってなかったみたいなんでミスだと思いますよ。オレが偶々いなけりゃブルーフレアは死んでた可能性が高いです」
「徹底させるように再三注意しておくべきだな。ブルーフレアには謝罪と詫びの品も送っておくよ」
「あの子の性格的にお金は受け取りにくいと思いますよ。食べ物とかの方が喜ぶタイプです」
「わかった」
翌日、ファンタズムバレットは昨日のブルーフレアの件について報告書とは別にソードマスターに話をしていた。どうやら本当に協会側のミスだったらしく、トップであるソードマスター自ら謝罪に向かうようだ。
「ああ、それともう一つ。ブルーフレアの指導教官なのだが、ライトニングセンチピードなんだ」
「え"っ」
「君は確か面識もあっただろう?常時変身している君なら感染の心配も無いしお見舞いに行ってきてくれないか?」
「嫌です!!!!断固として拒否します!!!!」
ファンタズムバレットが吠えた。珍しく大声を出した彼女に、ソードマスターが驚いて視線を向けた。よく見るとファンタズムバレットの体が震えておりその震えを抑えるように両手で腕を押さえている。
「ど、どうした?そんなに嫌なのか?」
「アイツの家に行けってことでしょう!?無理無理無理!!だったら公爵級3体と同時戦闘する方がマシだッ!!!!」
「それほどか!?」
思い出しているのだろうか、さらに震えが大きくなりうずくまって頭を抱え始めてしまった。
「アイツの魔法少女名が全部物語ってんすよ……放し飼いのペットが数百単位でうじゃうじゃと!!!!」
「センチピード……ムカデというわけか。それにしても放し飼いとは本当か?」
「いいとこのお嬢様だから無駄に広い屋敷に1人で住んでるんです。まあ使用人が誰もあの家に行きたがらないんでそりゃそうなんですけどね。ええ、2度と行きたくないですわ。しかもあいつら戦闘モードになると爆速で動き回るんすよ!!ライトニングセンチピードだから!!!!頭おかしくなるわこんちくしょう……」
ついに頭を振り回し始めたファンタズムバレット。見た目が中学生ほどの少女なので癇癪を起こした子供のように見えるのはご愛嬌だ。
「よし、分かった。君の精神衛生上、先ほどの言葉は撤回しよう」
「本人は天使みたいな性格なんですけどねぇ……指導教官向きの性格ですよ。能力が向いてるかは置いといてね!?」
「本当ごめんて」
ファンタズムバレットは壊れた機械のような震え方から一転、絞り出すような声音で虚空を見つめながらソードマスターと話している。珍しい様子のファンタズムバレットにソードマスターも口調を崩して話し始めた。
「いやさぁ、ユウコが悪いわけじゃないんだけどさぁ」
「本名で呼ばないでよハズミ。最近の管理の杜撰さには私だって辟易してるんだから」
「その点でいやぁ、そろそろ……粛清フェイズじゃね?」
その一言で部屋の空気が強張った。対するソードマスターも口調こそ崩しているが少し疲れているようだった。
「ええ、頼もうかしら。魔力は衰えてると言ってもまだ五感強化くらいは出来るのに、年齢に対して悪口言ってくる奴がいるのよねぇ」
「完全に私怨じゃねぇかよ。リストはまた送っといてくれ。今回の報酬はタバコでいいや、今切らしてんだよ」
「ハズミがタバコを切らすなんて……明日にでも世界が滅ぶのかしら。というか、それで今日は錯乱してるのね」
ソードマスターが軽口に切り替えたことよって、部屋の空気も元に戻り友人との対話のような和やかさを取り戻した。そして話題は昨日のことに戻る。
「昨日、ブルーフレアに体に良くないって燃やされちまってよ。なまじ子供がそばに居たから強く言えんかった」
「自業自得ね。それにしても、正体を知らないとはいえハズミに説教するなんて……丁度いいストッパーになりそうだしチームアップさせてあげましょうか?」
「デーモン狩りはオレの仕事じゃねえよ。あの子は真っ当にやらせる方が向いてるさ」
少し口角を上げて喋るファンタズムバレットに、ソードマスターは珍しい物を見るかのように彼女に話した。
「へぇ……気に入ったのね。昔からニチアサ魔法少女だけ見る目が違ったしそういうことなの?」
「なれないものに憧れるのは昔からの性でね。オレには深夜帯魔法少女の方が向いてんだよ」
タバコの事を思い出したのかファンタズムバレットは口元が寂しそうにしているのがソードマスターには分かった。
「これあげる」
「んあ?……ココアシガレットか。はっ、気が効くねぇ。あんがとさん」
「ハズミがタバコを辞めたらこれで餌付けしようと思ってたから丁度いいわ」
「お前……なんて恐ろしい事を、さては天才か?」
「何年一緒にいると思ってんのよ」
「そりゃそうだ。でももうとっくのとうに餌付けされてるよ。それじゃ後よろー」
「ええ、ありがとう」
いつも通りに〈跳躍弾〉で姿を消したファンタズムバレットを見送ったソードマスターは頼まれた粛清リストのチェックを始めるのだった。
◆
数日後、ソードマスターから前払いで送られてきたタバコを堪能しながら鼻歌を歌っていた。
「ふっふ〜ん、ふんふふ〜ん」
ファンタズムバレットにとって12時間以上の禁煙というのは半年に一回あるかないかの次元に達していて、禁煙中の分を取り戻す勢いでタバコを吸っていた。
ダァンッッ!!!!
凄まじい音と共に撃ち出されたのは、所謂対艦ライフルと言われる超大型の銃だ。現実には存在しない架空の銃だがファンタズムバレットとしての魔法を十二分に生かした結果、架空の銃型兵器まで作り出すことに成功していた。
名前の通り艦艇を攻撃する事を目的とするライフルなのでその威力は察しの通り。さらにはファンタズムバレットの魔法弾によって極限まで強化されたその一撃は貫けないものはない凶悪な一撃となっていた。
その標的は先日ソードマスターと話し合った粛清リストの1人。引退間近のベテラン魔法少女だ。魔法少女協会の管理職に属してはいるものの加齢によって前線を退いたよくあるタイプの魔法少女だ。
いくら魔法少女が護衛しているといっても、そもそもの実力がファンタズムバレットよりも劣っていれば何の意味もない。着弾の瞬間に発生した爆発によって彼女の存在全てが爆炎に帰したのだ。魔力を使用した攻撃による被害はブローチで復旧ができるが、生命に対しては作用しない。駆けつけた別の魔法少女が来たとしても、ターゲットの処理は完了している。
「状況終了、ちと派手にやっちまったし今日は伯爵級にしとこうかね。〈
新たに装填した魔法弾の特性は虚像を生み出す、というものだ。射程範囲の短い魔法だが、銃弾として打ち出す事でその弱点を打ち消している。
「えー今夜ご紹介するのは伯爵級デーモンの虚像でございまーす。なんてな、まあ楽しんでくれや」
ターゲット御用達だったお抱えの護衛魔法少女達が出てきたので、デーモンの虚像を暴れさせる事であたかもデーモンが襲ってきた風を装う。
「社会の膿掃除した後のタバコうめぇ〜!!」
とんでもない発言をしながら〈跳躍弾〉で次のターゲットの元へと向かっていく。
「お次は〜……うげ、現役じゃん。現役って迎撃してくるから嫌いなんだよな」
「じゃあ死になさい」
「ッッッッッッッ!!!!」
次の狙撃ポイントにワープした瞬間、聞こえてきた声と共に大鎌の刃がファンタズムバレットの首元を切り裂いた。
「あっ……え?」
「あっはぁ……!!領域内に変な魔力反応があったけど、まさかこの程度だったなんてねぇ……!!」
魔法少女名デスサイズ。稀にいる、名前の相性がこれ以上ないほど良い魔法少女だ。彼女が付与する死の概念は避けることはできず、大鎌に触れられれば問答無用で対象を殺害できる規格外の魔法を持つ。
故に、魔法少女協会がその能力を危惧した結果、精神面に大きな疾患ありとして処分を検討されていた危険度の高い魔法少女だ。
現にファンタズムバレットはワープ直後の隙を狙われてその首を地面に落としたのだった。
「アナタ、最近噂になっている魔法少女殺しよね。一度会ってみたかったのよ、その内側にどれほどの死が巣食っているのか。アタシがこんなに早く対処できたのもアナタがたくさん殺してたからなの……もう聞こえてないかしら?」
「残念ながら聞こえてるよ」
「なんっ……」
刹那デスサイズの背後から聞こえてきた声に振り返った瞬間、頭が吹き飛んだ。
「ふん、お返しだこの野郎。ターゲットの事前調査をしない殺し屋がいてたまるかよ。ショットガン仕様の〈
二度手間だよこんちくしょう……とぼやいたファンタズムバレットだが残された肉体も同じようにショットガンで穴だらけにして処理をした。
「こっちの情報は知られてないのにお前さんの情報は筒抜け。そもそものアドバンテージが違うんだから戦いにすらなっちゃいねぇ。そして何より、オレは魔法少女の生命維持装置である変身解除を貫通出来んだよ。悪かったな」
ファンタズムバレットが1次覚醒者だった頃、使えたのはファンタズムの要素のみ。故に、最初から今まで付き合ってきた力を使いこなせないわけがない。自分の虚像を〈跳躍弾〉でワープさせることで偽物を切らせたのだ。
「ふぃー、怖かった。ひっさびさに結構魔力使ったなー」
もちろん余裕のある仕事だったが、ファンタズムバレットは普段から遠距離からの狙撃をメインに動いている。近接格闘も出来るがしないだけで、確実に仕事を遂行する動きしかしていない。そんな中今回は相手の得意な距離にまで踏み込んだのは、先ほどデスサイズが言った死を感じ取らせるためだ。流石に虚像に自分と同等の死の気配を植え付けることができなかったので自分自身が近距離にいることで誤認させたのだった。
「なんだよ死を感じるって。厨二病もいい加減にしろよぉ。そういうのは魔法少女なんだから魔力探知で十分にしてくれ……コレだけは割に合わない仕事だな」
即日に動ける仕事は今回の2件だけであったので、残りは入念に準備をしていくことにした。期限も決められていないので悠々と粛清を進めようと決め今日は帰ることにしたのだった。
「首刈り取るくせに、出血が無かったことに違和感くらい覚えろ……いや、オレが慣れすぎただけか」
コンビニで適当な弁当と申し訳程度のビタミン補給に野菜ジュースを買って帰宅途中なファンタズムバレットは、コンビニから家に帰るまでに丁度一本のタバコを吸い終わるので歩いて帰っていた。
「…………お、魔力反応?場所は……ウチ?」
ファンタズムバレットの手にサプレッサー付きのサブマシンガンが顕現する。下手に魔法を使うと魔力反応でこちらを気取られる可能性があるので、気配を消し自宅であるマンションの入り口についた。
(ユウコが来る時は必ず連絡を入れる。他にオレの住所を知ってる魔法少女はライトニングセンチピードだけ……だがアイツはいま寝込んでるはず。今日殺した奴らの仲間か?いや奴らの交友関係には
魔力反応は上から、つまり上層階からだ。オートロック式のマンションだが魔法少女戦において現代科学産のセキュリティなど無いに等しい、よってファンタズムバレットの警戒度は変わらない。エントランスロビーやエレベーターはもちろん禁煙なので入り口でタバコを消し、エレベーターだけ上に行かせた。
範囲が自分だけの魔法なら他者に魔力反応を探知されることはないので、上に行かせたエレベーターを囮に全身に魔力を纏わせ驚異的な身体能力で階段を駆け上がる。
(最低8階以上、それ以下は全てクリア……あ?オレん家の一階下だな。それにしてもこの魔力どっかで……?)
狙撃をメインウェポンにしているファンタズムバレットは、その集中力を以て細かな魔力探知を得意としている。記憶力は良い方ではないが、長年の経験によって個人の魔力をなんとなく特定できる、所謂感覚派な人間だ。
ついに魔法少女らしき人物がいる階層に着き忍び足で反応に近づいていく。
(魔力量はそんなに多くねぇ、なんか座り込んでる?みたいだがまだ油断は出来ねぇ。そもそもここでガチバトル始めたら一般人を巻き込んで危険だし何よりオレの家が危ない!!)
コンビニで買った袋がガサガサと音を立てるので足元に置き、単身突撃を開始する。
「
「……ハズミ、ちゃん?」
ファンタズムバレットが銃を突きつけた先には、扉の前で体操座りになり懐に頭を埋めていたブルーフレアこと、変身していない青木アカネの姿があった。
(え、もう名前呼び?)