ヤニカス魔法少女   作:ヤニカス魔法少女って良いよね

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青木アカネ #2

 

 

お母さんが死んじゃった。

 

どうして?昨日まであんなに元気だったのに。

 

……分かってる、分かってるんだよお父さん。1番悲しんでるのはお父さんだし今は話しかけちゃダメ、でも……私だってすごく悲しい。かなしくて、さびしくて、今にだって泣きたい。

 

 

「ああ……!!どうしてなんだよ!!俺が、車道側にいたのに……!!!!おかしいだろ!!なぁ……返事してくれよぉ…………」

 

 

お父さんはすごい人。お母さんを殺した車のことを、お母さんの仏壇の前で絶対に悪口を言わない。お父さんが泣いてるのをこうやって聞いてなかったら私が言ってたかもしれない。

 

お父さんが泣かないなら私も泣かない。お父さんと一緒に、お母さんの分まで強く生きたいって思ったから。

 

 

 

 

 

 

お父さんが女の人を連れてきた。

 

今日から私のお母さんになるらしい。どうして?私たちのお母さんは、お母さんしかいないじゃない。

 

……分かってる。お父さんは寂しかったんだ。私の前で弱音を吐かないから、別のところで泣いてた。それがこの女の人。そうしてたら……いつのまにかすきになっちゃってたんだよね。

 

でも大丈夫。私は、私だけは、ずっとお母さんだけを想ってるから。いつかお父さんがお母さんのことを忘れても、私だけはずっと……

 

 

 

 

 

お義母さんが、お母さんの仏壇を蔑ろにし始めた。どうして?お父さんと私の前で、絶対に大事にするって言ってたのに。

 

……痛い。初めて、人に頬を打たれた。私がお母さんの子供だからだって。よく分からない。

 

…………泣かない。いつだって本当に泣きたいのはお父さんだから。私が我慢してればお父さんは頑張れる。だから私がお義母さんをなんとかしなくちゃ。いつかお父さんは、お母さんを1番大事に思ってるって思い出してくれるから。

 

 

 

 

 

 

殺してやる。なんでこんな女が生きてて、お母さんが死ななくちゃいけなかったんだ。お前が死ねばよかったのに。

 

お母さんの写真だけは私が確保したけど、遺品は全部捨てられちゃった。どうせお父さんが出張から帰ってきたら前にバレちゃうのに。なんでこんなアホなことするんだろう。

 

 

 

 

 

魔法少女になった。よく分からなかったから魔法少女協会ってところに行ったら、指導役をつけてもらえることになった。

 

ライトニングセンチピード先輩はとっても優しくて、こんなに優しい人は初めてだと思った。常識でしょってことを聞いても優しく丁寧に教えてくれるし、そして強いらしい。この人に特訓してもらったら私は簡単にあの女を殺せるんだろうか。

 

 

 

 

 

先輩がインフルエンザにかかったらしい。魔法少女になったとはいっても変身してなかったら私たちは普通の人間だって気付かされた。

 

まだあの女に私が魔法少女ってバレてない。いつか私が強くなったら、ブルーフレアの名前に相応しい魔法少女になったら………‥なんてお母さんが悲しんじゃうかな。うん、ダメだよね。せっかく魔法少女になったんだから、私みたいなダメな心を持ってても……魔法少女らしくないと。それに悪いことはダメだってお母さんも言ってたし。

 

 

 

 

女神様に出会った気分だった。何にも分からない時に出会った魔法少女の女の子は、見た目からじゃ想像できないくらい大きな銃を持っていて、最も簡単にデーモンを倒してみせた。

 

その子はきっと女神様じゃないけれど、天使様って呼んでも間違いじゃないかもしれない。でもなんか口が悪いし、オレって言ってるし、タバコ吸ってる。大人にならないとタバコは吸っちゃいけないし、お母さんが、タバコを吸ってたお父さんにタバコを辞めさせたって言ってた。とんでもなく体に悪いらしいから思わず怒っちゃったけど、命の恩人にしていい態度じゃなかったかもしれない。やっぱり心が腐ってると、ふとした時にダメなところが出ちゃうのかな?

 

その子は私に色んなことを教えてくれた。私よりすっごい先輩らしくて魔法少女の資格をこれでもかと持っていた。なんか出来るようになった事を自慢したい子供みたいで可愛い。

 

名前を教えてくれた、夢幻ハズミちゃん。連絡先を交換しなかったし魔法少女の名前を教えてくれなかったからまた会えるか分からないけど、今度先輩にダメ元で聞いてみよっと。知ってるのかな?

 

 

 

魔法少女協会の偉い人?が訪ねてきた。お義母さんはなんのことかわからなくて困惑してたけど、仕方なく私が対応した。私に対しての謝罪だったらしくて高そうなお菓子を貰った。巻き込まれた一般人で通そうと思ったけど、ソードマスター?さんはもう全部喋ったみたいで私が魔法少女だとバレた。

 

 

化け物を見る目で見られた。

 

 

 

また打たれた。もうこの家にいるのが嫌になってきた。私が生まれ育った場所、私がお母さんとお父さんと過ごしてきた場所のはずなのに、気がついたらお義母さんの物で溢れてきた。つい我慢できなくて文句を言ったら打たれる。

 

 

この女は何も分かってない。私が変身したらなすすべなく死んじゃうのに……でも出来ない。私は私とお母さんのやり方で、この女以外を救うんだから。

 

 

 

 

 

 

ハズミちゃんに出会った。家の前だから家出っていうか分からないけど、玄関の扉の前で蹲ってたらハズミちゃんが私に銃を向けてた。……ハズミちゃんに殺してもらえたら嬉しいかもなんて不謹慎な事を考えたけど、そんなつもりは無いらしくて強引にお家に連れて行かれた。

 

同じマンションどころかすぐ下の階だったのには驚いたけど、昔の私の家と同じような見た目でなんだか安心しちゃった。それどころかご飯とお風呂まで貰っちゃって、せめてもとやった洗い物じゃあ全然足りない。

 

私は一人っ子だけど、こんなお姉ちゃんがいたら毎日楽しいんだろうなって思った。25歳なのはまだ信じられないけどね。

 

でも、人を殺したいなんて考えてる私がこんなに良い人と一緒にいるのはきっと神様が許してくれないんだと思う。お母さんを助けてくれないから神様なんて信じちゃいないけど、次はきっと私の番なんだろう。

 

……ハズミさんにだけは、嫌われたくない。友達なんて1人もできた事ないしこれから先欲しくもないけど、こんなに素敵な出会いがあるなら今日まで生きててよかったって思えたよ。お母さん。

 

 

 

 

 

『バカ、オレはそんな大層な人間じゃねえよ』

 

 

 

 

 

「…………ダメだ。オレはもうこの子を手放せない。あまりにも()()()にそっくりだ」

 

 

翌日、〈観測弾・夢見〉の効果でブルーフレアの夢を共有したファンタズムバレットは一足先に目が覚めていた。

 

 

「お前さんは偉いよ。オレなんて……いや、不毛か。だが思春期の少女、それも魔法少女への暴行は頂けないな。さて今日もやることが……あん?」

 

 

布団から出て身支度と朝飯の支度をしようとしたファンタズムバレットだが、違和感に気づく。

 

 

「…………もうちょい寝るか」

 

 

左の袖がブルーフレアに掴まれている。毛布から覗くブルーフレアの寝顔はその仕草も相まって可愛く見える。無防備な寝顔を見るとファンタズムバレットも気が向いたのか、今日の予定を確認してからもう一度布団に入った。

 

 

「オレがいる時はしっかり甘えとけ。お前さんの母親代わりは到底務まらんけど、誰かといるだけでも違うからさ」

 

(そうだよなカナタ。お前が教えてくれたこと、今度はオレが)

 

 

ブルーフレアの頭を撫でながら安心させるように手を握り、一度欠伸をすると寝息を立て始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……これ、どういう状況?」

 

 

次はブルーフレアが目を覚ます番、瞼を開けると目の前に寝ているファンタズムバレットの顔があって少し大声を出しかけた。

 

 

(私は確か……あれ、あの後ソファで寝落ちちゃった?はず?なんで布団に……ハズミさんだよね)

 

 

ファンタズムバレットを起こさないようにゆっくりと起き上がると、まだ眠っている彼女の姿を見る。

 

 

「ふふっ、かわいいなぁ」

 

 

昨日あれほど頼りになる優しい魔法少女だと思ったが、無防備な姿はまた違って見えてくる。肉体年齢は10歳から15歳そこらとはファンタズムバレットが言っていたが、肉付きがいいわけでもなく身長も低い。自分よりも年下の子供に見えるので庇護欲が掻き立てられる。

 

 

「ちょ、ちょっとだけ……」

 

 

魔が刺す、というのはよくあるがここまで綺麗に魔が刺すこともそうそうないだろう。ファンタズムバレットの柔らかそうな頬についつい人差し指を伸ばしてしまったブルーフレア。そしてその指が()()()()

 

 

「へっ」

 

「絵面から犯罪臭がするから辞めとけ。この場合しょっ引かれるのオレだしな」

 

 

ハッとしたがもう遅い、いつのまにか起きていたファンタズムバレットがブルーフレアのことを呆れたような目で見ていた。

 

 

「おはようさんブルーフレア。自慢じゃないがオレはこんなちんちくりんのため色んな奴らから可愛がられてるんでね。もう気配で分かるようになってきた」

 

「おおおお、おはようございます……」

 

 

気まずい、ブルーフレアのそんな心情に気づいているのか無視しているのか分からないが、ファンタズムバレットがグッと背伸びをして言葉を続けた。

 

 

「次はバレないようにやれよ」

 

「え、あ、はい……え?」

 

 

そう言ってブルーフレアの頭を撫でてから洗面所の方に行く彼女の姿を見送りながら呆けている。やって良いの?という思考が頭をよぎった。

 

 

「……お母さんみたい」

 

 

帰りたくないという気持ちが芽生えてきたがグッと抑えて自分も身支度を整え始めた。ファンタズムバレットについていき洗顔や歯磨きを済ませると2人揃ってリビングに戻り一息ついた。

 

 

「これからお前さんの家に行って親御さんと話す。いや、少し脅迫する。質問は?」

 

「質問しかないです!!」

 

 

ファンタズムバレットからの耳を疑うような問いに思わず大声が出てしまった。どうしてそのようなことをするのだろうと尋ねると、

 

 

「こっちの調査でな、お前さんが母親から虐待を受けている可能性があると分かったんだ。本来は児童相談所に通報すべき案件なんだが、魔法少女絡みとなると話は別。魔法少女直々に問題の解決にあたることが許可されている。超法規的措置ってやつだ」

 

「難しい言葉が多いですけどなんとなくわかりました。つまりハズミさんがお義母さんに説教?しにいくってことですよね?」

 

「まあ大体あってるな」

 

 

いつのまにか取り出したココアシガレットを咥えながら喋っているファンタズムバレットに、内心可愛いと思いつつ自分なりの回答を出したブルーフレアは、理解はしているが納得できないと言った表情でさらに言葉を続けた。

 

 

「だったら……やめてください」

 

「へぇ?」

 

 

予想外の一言に面食らいながらも、ファンタズムバレットは相槌を打った。

 

そして、少し面白くなさそうに咥えているココアシガレットを噛み砕く。

 

 

「私の何をどうやって調べたのか分からないですけど、お父さんにはあの人が必要だから……やめて欲しいです」

 

「お前さんの父親の話はしていない。お前さんと母親の話をしているんだ。()()()とはいえ、家庭内暴力は見過ごせないな」

 

「ッ、そこまで……何が目的ですか」

 

 

いくら恩人といえど、ここまで露骨に態度が違えば少し警戒心が湧いてくる。しかもここは彼女の家なのだから、今のブルーフレアにはどうあがいても逃げられない。

 

 

「……」

 

 

ブルーフレアの問いに一度目を逸らしたファンタズムバレットは言いにくそうに頭を掻きながらゆっくりと答えはじめた。

 

 

「助けたいと思ったから。魔法少女が誰かのために動く理由なんざそれで十分だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでおわかり頂けたでしょうか?」

 

「いきなり何を言ってるの!?」

 

 

ところ変わって青木宅。ブルーフレアを自宅に置いてきたファンタズムバレットは魔法少女としての営業スマイルでブルーフレアの義母と対面している。

 

ブルーフレアの話では、彼女の前でだけ露骨に本性を表すとのことだったがファンタズムバレットに対しても嫌悪感を露わにしている。

 

 

「ですから今申し上げた通り、金輪際魔法少女ブルーフレアへの不当な暴力をやめて頂きたい。これ以上続くようであれば我々魔法少女協会は()()に一切の武力行使を辞さない構えであります」

 

「ひっ、わ、分かったわよ」

 

「ちなみに、大抵の場合魔法少女の力に恐怖し本心でお話しいただけるケースが少ないので、魔法による契約を交わして頂きます」

 

「契約?……あなた、そんな胡散臭いものを信じろとでも!!魔法少女なんて化け物がそれらしい言葉で欺こうとしてるだけだわ!!」

 

 

ファンタズムバレットの全く崩れない営業スマイルと言葉の暴力に完全に萎縮しまっていた義母だが、意外にも反論をしてきた。

 

 

「ええ、まあそう思うのも仕方ありません。ワタシ自身身に余るチカラを持っていると考えております。しかし娘に暴力を振るうのは別問題だ、違いませんか?」

 

「あんなの娘なんかじゃない!!」

 

「実の娘じゃない、の間違いでは?旦那さんの連れ子とはいえ戸籍上貴方の娘です」

 

「そんなの関係ないでしょ。大体あの人と結婚したのだって、お金持ちだったからよ?娘がいようと私にはどうでも良いの」

 

「そうですか、では魔法少女協会に許されている超法規的措置を行使します……」

 

「はあ?」

 

「地獄に堕ちろ人間未満の畜生がっ、〈幻想弾・夢幻(ファンタズムバレット)〉」

 

 

隠し持っていたハンドガンで義母の額を撃ち抜く。込められた魔法は、任意の夢を見せるというもの。その内容は、きっと知らないほうがいい。たった一つだけ分かることは、もうまともな生活には戻れない。

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