ヤニカス魔法少女 作:ヤニカス魔法少女って良いよね
「だからさぁ!!絶対嫌われてるよなぁ!?」
「知らぬが?」
「少しは慰めろよぉ……!!」
「むぅ……毎度の事だが、吾輩に何を期待しているのだ」
「コイツに頼ったオレがバカだったよこんちくしょう!!」
とある裏路地にあるバーカウンターで、雰囲気に似つかわしくない服装に、容姿、そして声の大きさで話している2人の姿がある。ファンタズムバレットとマスターだ。
どうやらマスターとは知り合いらしく客と店主の話し方ではないようだ。
「そもそも、貴様はなぜ面倒ごとが起こるとウチに来る?」
「溜まり場としてちょうどいいんだよ」
「……で、あろうな。いや待て……ふむ。さては貴様ソードマスターにも折檻されたな?」
「ぎくっ」
「いい歳して擬音で喋るな」
「誰がいい歳だ!!……オレか」
ファンタズムバレットのテンションが無駄に高いが、酒を飲んでいても変身しているせいかおかげか酔いは回らない。つまり素のテンションだ。
「はぁ……人間的な価値観で言うと、拾った子犬に対する態度がわからない。親に元の場所に返してきなさいと言われたようなものであろう?しかも無駄に手を加えたせいで責任が発生したが貴様視点、ペットからいい印象を持たれていないと」
「まあ大体あってる」
「自業自得だな、最後までしっかりと面倒を見るといい。どのみちそれしか残されていないはずだ」
「クソ、人間らしい事言いやがるようになったなグリード」
「そうしたのは貴様らだろうに」
ファンタズムバレットが話しているバーのマスターの正体とは、デーモンだ。それも公爵級最上位である大罪の名を冠するデーモンの1人である。
固有の名前があるそうだが、こちらの世界に合わせるため名乗ってはいない。ただ強欲の名前の通りありとあらゆる知識を強欲に求め続けた結果、デーモン側の全てを見限りこの世界の地球で探究の日々を過ごしている。
「実際貴様らには感謝している。こうやって平穏に、吾輩が欲する無限に等しい知識を得ることが出来るのだからな。故郷の人間どもを滅ぼしたのは間違いだったと今日ほど思うことはない」
「またその話か……十分感謝の念が伝わってくるよ。お前さんのことはオレとソードマスターと第五席以外知らねぇから安心しろ」
「信頼、この地に来て得たものだ。吾輩は新たな知識を何よりも尊重するとも」
そういうとマスターは新たなグラスを差し出してくる。
「サービスだ。貴様の精神的な成長に祝してな」
「嫌味なヤツ。面白がってるくせに」
「日頃の感謝、と言えば貴様は断れん。そして貴様の話は面白い。最近はあの2人もメッキリ訪れなくなってしまったからな」
「アイツら最近忙しそうだからな。オレが殺した魔法少女の後処理が主なんだがな……今度ブルーフレアを連れてくるよ。仲直りしてからだけど……」
「ハッ!!貴様の言う大人のプライドからすると当分かかりそうだな。まあ、楽しみにしているとも。吾輩が同胞との戦い方を指南してやってもよいぞ?」
「お前さんの指がかするだけで変身が解ける練度だからやめてくれ」
軽口を言い合うような間柄だが、魔法少女とデーモンがこの様に会話を交わすとは誰が考えただろうか。
「で、ソードマスターにどうやって謝ればいいと思う?」
「心底どうでもいいから答えん」
「え、ひど。大人気なく泣くぞコラ」
◆
「ほら、きびきび働け」
「なんでオレがお前さんの手伝いなんか……」
翌日、ブルーフレアが使っていた布団を洗濯して干した後家に訪ねてきたのはグリードだ。新たな知識のために書店を巡っていたが携行するには買いすぎたらしい。ファンタズムバレットの家で休憩しにきたらしい。
2人の周りをふよふよと浮いている本達はファンタズムバレットが魔法弾の一種である〈
「歴史ねぇ、全くわかんねぇな」
「それは貴様が歴史を勉学として捉えているからであろう。人間の歴史とは成長と争いの歴史、魔力のない世界の歴史は独特かつ鉄臭くて興味深い」
「魔力がある世界の歴史って言われたら確かに気になるな」
「そもそもあちらの歴史がわかる書物等は残っておらぬだろうがな。おかげで吾輩が知る由もない。デーモンの歴史を語ろうにも積極的に同胞殺しに加担する気もない」
「核心をつくなんかがあるのかよ。じゃあいいわ」
初めから魔力があった並行世界の地球と、その世界からやってきたデーモン達の魔力に呼応する様にこちらの世界でも人間に魔力が芽生えた。故に同じ地球でもこの差が生まれたのだ。
「そういう意味では、こっちの人間とそっちのデーモンは似てるよ。資源を求めてあらゆるものを侵略するんだからな」
「ああ、吾輩も同じ考えだ。あちらのデーモン=こちらの人間ならば、あちらの人間と=で結ばれる何かがいてもおかしくはないと考えていたのだが……」
「うわ、ありそー。こっちは人間同士で争ってたし、気がつかないうちに自然から淘汰されたとか?」
「仮説としては十分あり得るな。貴様、頭は良くないが回転は早いのだな」
「うっせ。まあいいよ。そんなのが出てきたらどうせオレが狩るんだろうし」
本を読んでいるグリードに飲み物を出し、ファンタズムバレットは手元のタブレットをいじり始めた。
「吾輩もそれが扱えたらもっと効率よく知識を集められるのだがな」
「しっかり稼ぎな。後お前さんは余計なもの買いすぎだ」
ファンタズムバレットが見ているのは魔法少女協会にある訓練場のカメラだ。今日は復帰したライトニングセンチピードとブルーフレアが魔法少女としての訓練をする日だからだ。
ファンタズムバレットが行った手続きのおかげで、両親不在でも身元が保証されることになったブルーフレアだが魔法少女に関しては素人も素人、普段の学業も考慮すると時間が足りないため休日返上で勉学に励んでいる。本人のやる気があることが唯一の救いだ。
「ほう、それが貴様の子犬か、なかなかな雑魚だな」
「口には気をつけろ。殺すぞ?」
練習用のステッキを振り回している姿は見ていて可愛らしいが魔法が発動していない。先日は無意識で発動させていたところを見るにどうやら感覚派の様だ。
「ライトニングセンチピードは理論派だからなぁ。噛み合えばいいんだが」
「貴様、少しストーカーの気があるぞ?気をつけておけ」
「え、マジ?これで?」
「……自覚がないのなら心に留めておくといい」
マジかーと呟きながら頭を掻くファンタズムバレット。どうやら本当に自覚が無かったらしく気をつけようと心に決めたのだった。
「炎使いか。あちらで珍しくもなかったが……大した使い手は居なかったな。それに比べてこちらの人間……魔法少女は質がいい」
「科学知識がある分色んなことに応用が効くからな。それらを行使するのが発想力に長けた10代少女ってのも大きいんだよ。その分問題も多いんだけど。おっ、火出た」
言い終わると同時にブルーフレアのステッキから小さな火が出た。小さな火だが魔法を使うという大きな一歩だ。
「無くすのが惜しいならしっかり手綱は握っておくといい。貴様が居なければ吾輩は今にでも殺されてもおかしくないのだからな」
「へいへい、肝に銘じとくよ。オレが居なくなりゃお前さんの魔力は戻るのにいいのか?」
「何度も言わせるな。欲を満たすのに必要以上の力はかえってその障害となるのだ。下手に魔力が戻ってヤツらに感知されるのも面倒だ」
顔を顰めたグリードが嫌なことを考えないために再び本に視線を戻した。これ以上会話を続けるつもりもなさそうでファンタズムバレットもそれに気づいたのかグリードに視線を向けることもなく頬杖をつきながら呟いた。
「手綱、ねぇ」
タブレットの中のブルーフレアを見ながらファンタズムバレットが呟く。だが少し考えているうちに思考がどうしても邪な方に寄っていったため考えるのをやめた。
そしてタブレットを閉じたのだった。
◆
「はぁい、じゃあ今日はここまでね。私がまだ病み上がりで実践的なことは出来ないけどごめんねぇ」
「いえ!!ありがとうございました!!」
「ブルーフレアちゃんは筋がいいからこの調子で頑張っていこうねぇ。私は最初の魔法を使うのも一苦労だったから」
「そうなんですか?」
ファンタズムバレットが見ていた舞台、訓練場では訓練終わりのライトニングセンチピードとブルーフレアが談笑していた。二人とも変身を解除しパラソル付きのテーブルを囲んで椅子に座っている。
「ええ、私最初は雷の魔法しか使えなかったのだけれど雷って実際に見たことがないからイメージが難しいのよぉ。ブルーフレアちゃんみたいに炎だったら理科の実験とかで見るでしょ?私たち魔法少女の魔法はイメージが大事だからねぇ」
「なるほどです……」
ブルーフレアは内心、じゃあハズミちゃんはどうだったのか。と考えたが本人に聞かなければ分からないので考えても仕方ない。
それにブルーフレアからすれば劣悪な家庭環境を救ってくれた恩人。やり方は強引だったが、その強引さがなければ何も変わらなかったであろうと分かっているから感謝しているのだ。
つまり、ファンタズムバレットは勝手に一人で勘違いしているだけなのだが、今の彼女には知る由もない。
「あの、私はどうやったら二つ目の魔法を使える様になるんでしょうか」
「……その話、誰から聞いたのかしらぁ?」
「えっと……ライトニングセンチピードさんの代わりに教えてくれた魔法少女です。なんか後輩の不始末?とか言ってましたけど。ああいや、実際に聞いたわけじゃなくて、こう二つの魔法を組み合わせた魔法を使ってたからそうなのかなーって」
ブルーフレアの情報に心当たりがあるのか、ライトニングセンチピードの眉間に皺がよっていく。同時にあの人なら仕方ないと若干諦めの表情になっていく。
「後輩…?その魔法少女、柄が悪そうな喋り方でタバコを吸ってる不良みたいな小さい子?」
「お知り合いですか?はい、デーモンとの戦闘で助けてくれただけじゃなくて家出した時に泊めてもらっちゃって、その後も色々と助けてくれたんです。お礼したいんですけどタイミングが合わないみたいでー」
「ふぅん、あの人はちょっと変わってるのよねぇ。気にしないで大丈夫よぉ。先輩に限って、おせっかいの後放置ってことはないからぁ」
言葉にしていないがお互いファンタズムバレットだと認識出来たので話し始めた。日頃から情報統制をしっかり行っていたファンタズムバレットの努力の賜物である。
「うーん、でもここのところ避けられてるんじゃないかってくらい会わないんですよ。連絡先も交換してないですし。せっかくお家近いのに……」
「あらぁ、私から先輩に聞いてみるわぁ。それで教えてあげる。よくよく考えたら、妹弟子が出来たのねぇ」
「それじゃあライトニングセンチピードさんもハ……あの人に?」
「そうよぉ。昔お世話になったの、だから我が家にご招待してるのだけれどなかなか来てくれなくてねぇ」
まさかファンタズムバレットにトラウマを植え付けたとは思っていないライトニングセンチピードは頬に手を当ててブルーフレアに本音を打ち明けているが、ファンタズムバレットはすでにこの様子まで見ていないのでトラウマを刺激されることはなかった。グリードにストーカー云々言われて気にしたためである。
「タバコの匂いとか気にしてるんですよ。尋常じゃない量吸ってるのにすっごく気遣いができる人ですし」
「まだそんなに吸ってるのねぇあの人。魔法少女は不健康にならないから羨ましいわぁ、早めに気づいていれば変身してウイルスを消せたんだけどねぇ」
「あはは……熱が出ちゃうと頭まわんないですよねー」
「そうなのよぉ。おかげでペットの子達にも心配かけちゃってぇ」
「ペット?ペットが居るんですか?」
「そうよぉ。この子達なんだけどねぇ、可愛いの」
「へぇ〜…………え゛」
ライトニングセンチピードが見せたスマホの画面には、ケースなどではなく部屋中を縦横無尽に動き回っている大量のムカデが動画で映されていた。
「あ、あの……ペットって……?」
「あらぁ、私ったらまた……ごめんねぇ。私の魔法少女名ライトニングセンチピード、センチピードって日本語でムカデの事なの〜。いわゆる使役型の魔法ねぇ、自分じゃなくて他の生き物を仲間として使役することで戦うのよぉ。でもほら、苦手な子多いじゃない?」
「そうなんですねー……あはは〜」
あまりの衝撃にブルーフレアは何もいうことができず、目を逸らしながら生返事をするしかなかった。
(ハズミさんが家に行かない理由、絶対これだー!!)
全てを察したブルーフレアは、ファンタズムバレットに同情しながらも話題を逸らすことに精一杯だった。
「……もしもし」
『あらぁ、お久しぶりです〜先輩?』
「ああ、久しぶりだなライトニングセンチピード。お前さんから電話なんて珍しい」
『ブルーフレアちゃんのこと、教えてくれてもよかったんじゃないですか〜?』
「別にわざわざ言うほどのことでもねぇだろ」
『ふぅん、でもブルーフレアちゃん、寂しがってましたよぉ〜。最近会えない〜って』
「あー……忙しくてな」
『分かってますよぉ先輩。まったく、意気地なしなんだからぁ』
「なっ……言うようになったなお前さん、まあ忙しいのはほんとだ。色んなところ駆けずり回ってるからな。お前さんも病み上がりなんだから無理すんなよ?」
『うふふ〜……やっぱり先輩は優しいですねぇ。伝えることは伝えたので失礼しますね〜。せめて連絡先くらい交換してあげたらどうですかぁ?それではぁ〜』
「あ、ちょっ、言い逃げかよ……まあいいか。連絡先ねぇ……ポストに入れときゃいいか」