ヤニカス魔法少女   作:ヤニカス魔法少女って良いよね

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夢幻ハズミあるいはファンタズムバレット

 

 

 

「しまった……失念してた」

 

 

あまりにもはっちゃけすぎたファンタズムバレットは、自宅のベランダでタバコを吸おうとして気づいてしまった。上の階にはブルーフレアが住んでいるため煙が昇っていく可能性がある。つまり副流煙の影響がありいつも気にかけていたことが一つ増えてしまったようだ。

 

 

「喫煙者の肩身が狭くなってく……いや自分で縛ってるだけだけど」

 

 

先日グリードから宣告された嫉妬の活動開始について、ファンタズムバレットはあまり気にかけていない。

そもそも同じ地球とはいえ並行世界を渡ってくるのはそれなりのリソースを必要とするからだ。デーモンの階級が高くなればなるほど必要なリソースも上昇していく。つまりそう簡単に公爵級デーモンがこちら側に来ることはない。尚、最も効率的なリソースとは生き物の血肉であるという事を補足しておく。

 

すでに魔法少女協会上層部には伝えてあるが表立って対応がとられているわけでもない。対策のしようもないというのが本音だが、こちら側からあちら側に渡る方法が今の所存在しないというのが前提にある。故に魔法少女達は防戦一方の形を足らざる負えない、そして防衛のマニュアルが確立されていることで魔法少女の生存率が右肩上がりになっているという利点もあった。

 

しかし今のファンタズムバレットはそんな事を考えているはずもなく、ブルーフレアのことでいっぱいだった。

 

 

「やっぱりブルーフレアは素質あるよなぁ。この短期間でもう実践レベルの魔法まで使えるようになってっし、あとは実践経験ときっかけさえあればすぐに二次覚醒まで……」

 

 

先日グリードから注意されたものの、カメラでブルーフレアの訓練を覗き見る行為が抑制されたわけでもない。暇があれば無意識で映像を起動するくらいにはブルーフレアにお熱になっている。特に趣味のなかったファンタズムバレットが獲得した唯一の趣味と言ってもいい。

 

 

「……健気でいいねぇ。オレにもあんな時期が……あったなそういえば」

 

 

思い出すのは魔法少女になりたての頃、攻撃の用途で使えなかったファンタズムで必死に仲間達のサポートをしていた時代だ。二次覚醒を経てようやくバレットを手に入れたことにより遠距離からの後方支援ができるようになったもののファンタズムの射程外なのでバレットしか使用できず、ファンタズムの射程内で戦うには銃の技能が足りない。防衛軍改め、当時の自衛隊の銃を借り受けて魔力弾を撃つということしかできなかった。あの頃は全てが必死で他のことを考える暇などなかったからこそ現在こうして趣味もなく生きてきた。ファンタズムバレットの座右の銘の一つ、『魔法少女に殉ずる』というのも間違いではない。

 

 

「せっかく3人で集まったんだから行けばよかったな、墓参り」

 

 

ソードマスター、ノイジードール、ファンタズムバレット、そして今は亡きもう1人の同期。現在世界的に知られる『始まりの魔法少女』とはソードマスターの事だが、魔法少女協会の設立に伴いその視線を一身に受けることを決めたソードマスターの提案であった。実際にはこの4人で構成された魔法少女グループが本当の意味で『始まりの魔法少女』であり世間には隠された秘密の一つである。

 

次に集まれるのはいつだろうか、『嫉妬』が活動を開始すれば日本全体で忙しくなるのでソードマスターとノイジードールは仕事に圧殺されるだろう。相対的に悪事を働こうとする魔法少女も、デーモンがいればそんな事をしてられず真面目に魔法少女の責務を果たす。つまりファンタズムバレットの仕事が減るということだ。表立ってデーモン狩りをすることがないので本当に死にかけの魔法少女をこっそり支援するくらいの仕事しかない。戦闘マニュアルが確立されてきた現在ではそんな出番もほぼ無くなったので本当に仕事もない。

 

1番最初はたった4人。威力偵察用のデーモンを一体ずつ撃破しながら少しずつ強くなっていく日々、ニチアサ魔法少女のような合体技こそなかったもののそれぞれが出来ることを精一杯やってデーモンを倒した記憶はファンタズムバレットにしかと刻まれている。

 

 

「後進の育成はバッチリだしあとは管理職か。どうせ碌なことにならん」

 

 

現在の魔法少女協会は現役魔法少女と元魔法少女が管理職を担っている。サポートとして男性もいないことはないが先日(1話参照)の騒動でその数も少なくなってきている。しかし魔法少女は基本的に若い女性ばかりのため管理職などできるはずもなく人材問題に直面している。引退した魔法少女が正式に就職してくれるケースが近年増加傾向なので勢いに乗りたいというのが現在の上層部の方針だ。

 

魔法少女は特別な力を持つことから、精神が成長しきれていない少女には過ぎた力であり性格が歪む大きな原因にもなっている。故に管理職は向いていないことが多くそういう点で協会は世間から不信感を持たれている部分がある。実際は協会がなければいつ魔法少女が暴走してもおかしくないため表立って何か言われることは少なくSNSがそう言ったことの主戦場だ。誹謗中傷で自殺した魔法少女の加害者を割り出すのはいくらファンタズムバレットとはいえ困難を極めるのでSNSは基本見ないし見たくもない。見たら余計に気にしてしまうからだ。

 

 

「チームアップ強化月間なんてどこまで効果あるんだか」

 

 

今月はチームアップ強化月間と言って、魔法少女協会からチームアップを推奨することを通達されている。チームアップをしている魔法少女はそのままに、まだソロで動いていたり新人だったりする魔法少女のチームアップによって生存率を上げるというのが目的だ。ここ数年、魔法少女の増加率が上がっているというデータを元に初めて行われている。

 

 

「ライトニングセンチピードがついてるから大丈夫だとは思ってるが、まともなとことくっついて欲しいな」

 

 

大体3人から5人チームで活動することが多いので、お互いのカバーもしやすい。一度チームを決めても、解散や脱退の正当な理由があればすぐ通るので心配も少ない。もちろんチーム内トラブルはあって当然のものだしましてや年若い少女たちの集まりだ。何も起こらないわけもなく、協会がその実態を把握するのは難しい。

 

ライトニングセンチピードの戦法にドン引きせずについて行ける魔法少女がどれくらいいるのか、という点ではブルーフレアは万年ソロの可能性もある。ファンタズムバレットはその考えに至り心の中でエールを送った。

 

 

「願わくば、オレがそのチームを壊さなければいいな」

 

 

女3人よればなんとやら、きっとそれが良いものになるかどうかはブルーフレア次第だが少しでも面倒を見た身としては平穏を願わずにはいられない。魔法少女となった時点で平穏とはかけ離れた生活であるということを除けば、だが。

 

 

 

prrrrrrrr

 

 

「もしもし……あー、どうもっす。依頼っすか?ほぉう……なるほど。じゃあ報酬はいつものとこで。達成証明は?…………ありゃ、異世界モノでも読んだんです?でっすよねぇ〜、じゃあ情報だけ送っといてください。はい……はい……では〜」

 

 

「さてと……仕事の時間だな」

 

 

3本目の途中まで吸っていたタバコを灰皿に押し付け、依頼人から送られてきた魔法少女の情報を熟読する。氷と紙に関する魔法少女で、潜伏場所はロシアらしい。魔法少女の力でとある地方が氷漬けになったらしい。魔力の制御が甘かったのか故意的なものかはわからないが経済的にも人的にも被害が大きすぎるとのことで、わざわざ日本のファンタズムバレットに依頼をしてきたのだった。

 

 

「ロシアっつってもなぁ……目標が登録座標の近くに……あるわ。ラッキー!!雑魚だしとっとと終わらせよっと!!〈跳躍弾(ジャンプ)

 

 

このように諸外国から魔法少女殺しの依頼を受けるファンタズムバレットは、各国にワープの座標があり依頼ついでにこっそり観光をしていたりもする。もちろん不法入国なので見つからないようにはしているが、万が一見つかっても依頼人である()()()()()がいくらでも揉み消すので関係はない。

 

依頼達成は2時間もかからなかったらしい。手筈通りに魔法少女を処理しただけだが、今回はなぜか依頼人側から追加報酬があったようだ。

 

 

「M1891……モシンナガン。こんな骨董品がまだ残ってたとはなぁ。うへへ……いいもん貰っちまったぜ」

 

 

自宅のリビングで舐めるように銃を観察しているその姿は大凡他人に見せていいものではない。もちろん実弾は込めていないし、弾自体ファンタズムバレットにとって不必要なものであるが、現代日本において実銃の所持はまずいどころではない。ファンタズムバレットは心ゆくまで実銃の触り心地を楽しむと、厳重に鍵をかけた部屋の扉を開けた。

 

そこに広がるのは世界各国の様々な実銃がラックにかかっていた。拳銃に始まり、ロケットランチャーの筒まで幅広く揃えられている。

 

 

「モシンナガンでっかいからなぁ。一旦ここかな」

 

 

後で整理することを決め仮で置き場所を決めた後、しっかりと鍵をかけ魔法でもロックをかけて行った。

 

 

「こんなもんか。ふぅ……あ、土産の一つでも買ってくればよかった」

 

 

外国は日本に比べて殺害のハードルが低いのが楽でいい。魔力を奪う方が、必要な手順が多く面倒なのだ。

 

今日の営業は終了。実は魔力暴走した魔法少女だったので後味が悪い仕事だったが、ファンタズムバレットはそんな程度のことはもう慣れ切ってしまっている。耳に残る少女の命乞いだけは無意識に反芻してしまっているがいつものこと。

 

タバコを吸いながら世界の事で気を回す、依頼があれば処理をする、またタバコを吸って思考に耽る。

 

ファンタズムバレットのよくある日常だ。

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