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木々が乱立し、草花は生い茂る。視界は悪く、自分が今どこにいるかもわからない。
俺は森で道に迷っていた。いや、人生に迷っているといった方が正しいかもしれない。
というのも俺の姿を見てほしい。体表は鮮やかな青に所々黒が混じっている。口は鳥の嘴のようであるが、鋭い牙が立ち並んでいる。
頭には赤いトサカがついており、手足には鋭い鈎爪がついている。おまけに尻尾もある。こんな人間がいるだろうか、いたら俺は眼科に行くわ!
そう!俺はいつの間にかモンスターハンターというゲームに出てくるモンスターの一種であるランポスになっていたのだ!
...わけわかんねぇ。夢か?夢なのか?あああああああああああああああああ!
「ギャアアアアアアアアア!」
うお!?
自分の鳴き声にビビったわ。完全にランポスの声だったわ今の。人間の発声できないか試すか。
(あ、い、う、え、お)
「ギャ、ギャ、ギャ、ギャ、ギャ」
ハイ無理!残念無念お疲れ様でしたー!チキショォォォォォ!
というかこんなことしてる場合じゃねぇ。安全な寝場所を探さないと。どっかに手ごろな洞窟とかないかな...
姿勢を低くして草木に紛れるように移動する。それと同時に周囲に何かいないか探る。こんなことしたことないからうまくいっているかはわからんが、しないよりはましだ。俺はまだ死にたくない。
俺が慎重に移動している理由についてはモンスターハンターの世界観が理由だ。この世界では人間の他にモンスターという化け物がそこら中にひしめいている。前述のとおりランポスもその一種である。大きさは人間の大人と同じくらいで、ドスランポスという大ランポスに率いられ群れを作り、狩りを行う凶暴な生き物だ。この情報からだと恐ろしい生物と思うかもしれないが、実のところ雑魚である。
一般人と比べるとそりゃあランポスの方が強いが、他のモンスターからすれば雑魚である。もちろんランポスよりも弱いモンスターもいる。しかし、それらは概ね草食動物などの大人しいモンスターである。肉食の凶暴なモンスターからしたら雑魚も雑魚、歩く生肉、にぎやかし役である。しかも俺は一匹である。つまるところ襲われたら死ぬ可能性が高い。なのでコソコソしている。
しばらく進んでいると聳え立つ崖を発見した。これに沿って探索を続ければ寝床となる洞窟も見つけることができるだろう。Huuu~!テンション上がってきたぜ!でも気を抜かずに周囲の警戒を怠らないようにしよう。
そしてついに俺は念願の洞窟を見つけることができた。入口は狭く俺が屈んで何とか入れる程度でありながら中は意外と広く、俺が10匹くらいは入ることができると思える。天井も俺の背丈の2倍程度はある。入口や壁は岩まじりの土であり、草や苔が生えている。
こんな上出来な洞窟に住んでいいんですか!?もちろんダメです!先客がいました。体に苔が生えた豚のようなモンスター、モスです。
こちらのことをじっと見つめています。かわいいですね。殺しましょう。
モスは大人しいモンスターです。攻撃しない限り特にこちらを気に留めません。ですので友好的に近づいていきましょう。徐に移動しますが、彼はこちらを見つめるだけです。
いえ、たまにフゴフゴと鼻を鳴らしていますね。元気そうです。これはいい肉がとれそうです。ではご飯にしましょう。それでは皆さんさようなら。提供はわたくし、ランポスがお送りしました。
そんな1人芝居を脳内でしながら俺は鈎爪を用意し...ちょっと待てよ、ここで殺したら血の匂いにつられて他のモンスターがやってこないか?
そうなったらここは安全な場所ではなくなってしまう。悔しいがここで殺すのはなしだな。あ、今モスに馬鹿にされた気がする。
お前いつかこんがり肉にしてやるからな!ぺっぺ! フゴフゴ言うな!うるせぇんだよバーカバーカ!
あーイラつく。どうでもいいや次のことを考えよう。とりあえず寝床と安全地帯はなんとかなった。あとは食料と水だな。他にはこの体になれたりとかこの周辺の探索、できれば地図を作りたいな。これらを分けると
・食料と水【生存に必要不可欠。外に出る必要がある、襲われる可能性、見つかるかはわからない、所要時間 不明】
・体になれる【できることとできないことを理解する必要がある、襲われた際の生存確率を上がるかもしれない、洞窟の中である程度の確認はできる、所要時間 自由】
・周辺の探索【食料と水、外敵の有無、資源などの発見、情報は大事、襲われる可能性、地図を作るなら刻めるものが必要、所要時間 自由】
こうなるな。このうち食料と水は周辺の探索の探索に含まれるから実質2個か。体になれるはここでできるからおそらく安全にできる。周辺の探索は危険が伴う。
現在はそこまで腹が減ったりのどが渇いていないので、まずは体になれることから始めよう。まずはこの洞窟にくるまでの探索で気づいたことだが、ランポスは目が横についているからか視界が人間の時よりも広い。正面を向いた状態で斜め後ろもギリギリ見える。嗅覚などの五感も鋭くなっている。遠くの音や物がよく感じられたり、大型モンスターの移動と思われる振動も微弱ながらわかった。
これはいいことだ。正直なところ、人間のころの感覚のままで生きていけるとは思わなかったからありがたい。また、骨格からして全然違うと思うが、意識しなくても割と動けることが分かった。動いてもバランスを崩すことはないし、手足の動作も特に問題はなさそうだ。しかし人間の体とは違うと思わされることもたくさんある。まずは鉤爪。これが本当に邪魔。手を握ろうとすると手のひらが傷ついた。長すぎるんだよこれ。特に中指の爪が滅茶苦茶長い。爪切ろう。次に尻尾だ。体の向きを変えるだけでも周りに気を使わないとぶつかってしまう。これがストレスがたまる。なんなんだよこれは。欠陥生物だろ。そして視界。目が横についているからか視界は広いが距離感がつかみにくい。こいつ本当に肉食動物なのか?前につけろよ前に。
次に体を動かしてみる。爪で引っかいたり壁から壁へ全力シャトルランを行い、基本的な運動機能を確かめる。ゲームではこいつの攻撃はとびかかりと噛みつきと鉤爪振り下ろしだったはずだ。俺も同じようにしてみる。
飛び掛かりと鉤爪による攻撃は問題なさそうだ。手や足を使うのは問題なさそうで、これらも日常の動きの延長線上だからだ。でも噛みつき、これが難しい。相手に向かって首を伸ばし、噛みつく。こんな動きしたことねえよ。ムズイ。しかも距離感をつかみにくいとかいうデバフ付きだぜ。はぁ...無理です。無理。どうにもなりません。これはよっぽどのことがなければ使わなさそうだな。
ちなみに俺が頑張って体の感覚を確認している間、モスはこっちを胡乱な目で見ていた。絶対こいつ俺のこと不審者か何かだと思っているだろ。