アプトノスの足跡、匂いを辿る。仲間に合流される前に決着をつける。俺は地理が分からない。先回りなどできるはずもない。だから疾走する。あいつよりも速く。追いつければそれでいい。
見つけた。カバンを地面に置く。相変わらず仲間を探しているようだが、周囲に同族の気配はない。俺は運がいい。あいつはこっちに気づいている。今も俺の方を見ている。不意打ちはできないか?いや違う。あいつは俺を見ているが見ていない。あいつは先ほどの倒れた俺の姿を見ている。一撃でやられた俺。自信満々の状態から即打ちのめされた愚か者。あいつは目で語っている。"また来たのか、めんどくさいから今度は殺す"と。あいつには俺が見えていない。心構えが見えていない。見えていないから...不意打ちは成立する。
俺は一直線にアプトノスに接近する。以前と同じように。違いは飛んでいるか飛んでいないかだ。対してアプトノスは足を軸にし、後ろを振り向くことでの尻尾薙ぎ。先ほどの俺を仕留めた一撃だ。一度綺麗に入ったのだ。当然味を占めてしまう。学習してしまう。こうすれば捕食者にも勝てると。だが、上めを狙った薙ぎ払いなどランポスにとってよけるのは簡単だ。優れた動体視力が、脚力が、体幹がそれを可能にする。
尻尾を姿勢を低くすることで回避し、少し遅れて尻尾に対して鉤爪を振るう。爪が肉に突き刺さる感触、飛び散る鮮血、体に残る傷跡、抉った肉片が付着したり、口の中に入ることでの僅かな不快感。それらすべてが俺の気分を高揚させる。
「キュオオオ!?」
痛いか?何が起きたかわからないか?わかるよ。未知は怖いからな。だが手は緩めない。怯む奴、怖じ気づく奴、相手を侮る奴、こいつらは遅かれ早かれ殺される。耳が痛い話だがな。そもそもこいつが油断しただけで、本来ランポスはアプトノスを殺せる能力がある。こいつは俺を殺さなかった。雑魚だと思ったから。こいつは俺から逃げなかった。今回も容易く勝てると思ったから。この勝負はこいつが尻尾を薙ぎ払った瞬間に俺の勝利が確定した。ならば後は消化試合だ。
まずは機動力を削ぐ。痛みで怯んだ隙に後ろ脚一本に向かって集中攻撃を加える。左右手足の鉤爪による引っかきにより皮膚は捲れ、肉は抉られ、傷跡はより深く、広くなる。
アプトノスもたまらず身をよじる。蹴り上げや方向転換、踏みつけなどで俺を引き離そうとするが、そんな攻撃頻度ではランポスを引き離せない。俺の方が速いからだ。速いから攻撃できる。速いから回避できる。フェイントも罠も戦闘順序の組み立てもない、そんな相手は速さでゴリ押せる。
爪で鱗を剥ぎ、皮膚を切り裂き、桜色の肉が紅緋に変わるほどに傷が深くなると鉤爪の通りが一気によくなる。体から引きちぎられる肉繊維の量は増え、苦悶の声は大きくなり、爪の間にこびりつく肉カスは増え、ついには白く、太い骨が見える。半分ほど足を抉ったということか、傷跡からは夥しいほど出血している。
だが、まだ足りない。俺はさらに攻撃を加える。鱗を、皮膚を、肉を、骨を、神経を削る。削り続ける。アプトノスは後ろ足のバランスを失い倒れる。しかし容赦はしない。執拗に攻撃を加え続ける。高揚感か?執念か?嗜虐心か?全てそうであり、全て間違っている。そしてついに後ろ足が一本引きちぎられる。俺はすぐに倒れたアプトノスの首に対して攻撃を仕掛ける。大抵の生物は首切り落とせば死ぬ。俺はそう信じている。
首も同様の作業だ、後ろ足よりかはよっぽどやりやすい。なぜなら倒れて抵抗があまりないからだ。首を攻撃する間、アプトノスは俺を見ていた。その目に浮かぶ感情が何かはわからない。そんなことよりよっぽど大切なことがある。こいつは俺を見た。ようやくお前の世界に俺の居場所をくれた。ならば今度は俺の番だ。
殺したアプトノスを喰らう。肉を、骨を、皮膚を、鱗を喰らう。ランポスの体が悲鳴をあげる。"無理だ!"俺が律する。"黙れ"
殺したアプトノスを喰らう。内臓を、眼球を、脳髄を、排泄物を喰らう。ランポスの体が悲鳴をあげる。"胃袋に入りきらない!"俺が律する。"入りきる"
殺したアプトノスを喰らう。地面ごと血を、足跡を、鳴き声を、匂いを、こいつの存在した証を一つ残らず平らげる。ランポスの体が悲鳴を上げる"不条理だ!"俺が律する。"だが可能だ"
殺したアプトノスを喰らう。こいつの全てを喰らう。
アプトノスを食べつくした。俺はお前の世界に跡を残した。お返しにお前を俺の世界に招待してやる。お前のすべては俺が喰らった。お前の世界は俺の世界であり、俺の世界はお前の世界だ。お前の跡など俺には不要だ。お前は残滓じゃない。お前は俺だ。生き続けようじゃないかこの世界を。お前が望んでも消し去りなどしない。俺が、俺こそがお前がここにいる証だ。