ヤンデレな モンストキャラに 愛されて 作:Jack11@ハーメルン
夜。私は鼻歌交じりに星空の下を歩く。
片手に握られたスマホには、今日の私の活躍がすでにネットニュースとなって拡散されていた。
SNS。似たような人が、今日も似たような情報を、呟きを、光景を写す。
「…やっぱり、みんなは気づかないみたいね」
とは言っても、この世界が虚構…一年間をループするこの空間と監視役の魔術師で構成された私の為だけの世界で、もう評判という目に見えないものは信じることが出来ないと知ってしまったのだけれど。
ーーじゃあ、なんで鼻歌を、こんなにも愉しそうに歌っているのか。
それは、完全な想定外を、見つけたから。
そう思えば、この夏の夜空も冬空と同じくらい綺麗だと。この世界で正常なものであると思えたの。
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懐かしい光景を思い出す。
彼の物憂げな表情が、不思議だった。彼は校舎の窓から見える景色を見渡して、時々首を捻るのだ。
まるで。言いようもないデジャヴで侵された世界に、疑問符を浮かべているような表情で。
斯くいう私も、『星の魔女さま』と呼ばれたあの日からデジャヴを覚えていた。
どうしてこんなにも、街は変化しないのか。どうしてこんなにも、見たことある服が流行りだすのか。どうしてこんなにも、彼が気になるのか。どうして、どうして、どうして。
(…行動を起こすしかないわね)
放課後。何かと理由を付けて補講を済ませた私は、彼の元に向かった。図書室で本を読む彼は、なんとも嬉しそうだった。
知らない世界を覗く感覚。知らない街を、知らないままでただ歩くあの謎の高揚感。
読んだことのない本に手を取り、ただ読みふける。そんな彼は、私が声を掛けるまでその冒険譚に囚われていた。
「…なにか用?」
「…貴方、何か考えてるでしょ、言ってみなさい!」
「少なくとも優等生の君には関係が…「それならあるわ」…そう?」
彼の目は、今までない展開に、デジャヴを感じないその光景に驚いているようで。
「ずっと、デジャヴに囚われてるのよね?」
「…よく分かったな」
「ええ、だって」
ーーー私も、同じだもの。
それからは、この違和感を共有できる存在として仲を深めていった。デジャヴに負けないように思い出を作っていった。
その中で、彼の笑顔が。彼の言葉が。本に向けていたあの視線が。
私に向かってくれる。私だけに、その視線を投げてくれる。私だけに、本心からの笑顔を浮かべてくれる。
その秋、私はデジャヴを共有できる唯一の親友と、恋人になった。
ーーーーーー
その冬。その違和感を探る私は紆余曲折あってワイズマン機関の三賢者から真実を告げられた。
【ベツレヘムの星】を封じるために一年間をループさせ、今まで私を讃えていたネットの誰かさんはマッチポンプのようにヘロデを生み出していた。
その魔女の魔力が器と人格を得た存在が、私だった。
これまでの私の人生は、家族は、友人は、世界は…まして、恋人までも、虚構なのだ。
これから先、「クリスマス計画」を達成するまで。
(もしも、彼が…虚構だったら、私を監視する魔術師だったら…?)
そんな事、ないとは言い切れない。
頭が混乱していた。私には、予想以上に責任と力があると知った。
ーーでも今は、どうしても彼に会いたかった。自分の家に帰りたくはなかった。
『今日、友達の家に泊ります。ですので、帰るのは明日になります』
家族にそれだけを伝えて、私は彼の家に走った。
「よう、ケーキ買ってきたぞ」
「…ありがとう、じゃあ、切り分けるわね」
「にしても急に来たよな、まあ一人暮らしだけどさ…」
一人暮らしの男子高校生の部屋で、エアコンは高いからと着せてもらったコートを羽織り、この前デートで買った紅茶を飲みながら、取り留めのない話をしようと努力する。
でも、そんな事。
「…それで、そんなに思い詰めたような顔してさ、どうした?」
私よりも違和感に気づくのが早かった彼に隠すことはできなかった。出来る訳がなかった。
「…もしこの世界がループしてる、って言われたら?」
「ん〜…まあ、それがあのデジャヴの原因なのかな?ってなると思うよ。」
「…………そうよね、それで……」
ーー貴方は、魔術師なの?
言いたくない。その返答を聞きたくない。頑張って頭からその自分を消そうとして、頭を振る。
ポン、と。暖かい手のひらが頭を撫でてくれた。
「まあ、言えないことなのかもしれないけどさ。いつか、本当に助けが必要になった時には教えてよ。その時には、力になる」
「ふふっ…じゃあ、その時はよろしくね」
……そうだ、ループ先でも、きっと会える。また1から歩み直して、「クリスマス計画」を終わらせて、結界の外で共に生きればいい。
そう考えた私は、親に送ったメッセと既読の証を見せながら、彼に宿泊を強請った。
「…ねえ、マギア」
「どうしたの?」
クリスマス特番も終わり、あとは寝るだけという時間帯。彼は顔を赤らめながら、私を呼ぶ。
「…これ、クリスマスプレゼントと、誕生日プレゼント」
長箱に入れられた、オオアマナの花弁をあしらったネックレス。
「似合うと思って買ったんだけど、どうかな?」
嬉しいなんてものじゃない。
先ほどまで虚構でしかなかった世界が、一瞬だけ現実みを帯びるほどに、普通の女子高校生の感性を取り戻した。
「…ありがとう、嬉しいわ…あ、プレゼント持ってきてない…!」
「あはは…じゃあ、次の12/25は、楽しみにしてる」
恥ずかしそうに、それでいて優しい笑顔で、彼は笑った。
ーーーーーー
そして、新たな一年がやってくる。こうして過ごした一年を、追体験する。
4月9日、始業式の日。
私の彼は、そこにいなかった。
その横にいたのは、今までパッとしなかったクラスの女子。
彼は、私じゃなくて、その子に、笑顔、を、浮かべていた。
どうして、どうして
どうして、どうして、どうして
どうして、どうして、どうしてどうして、どうして、どうしてどうして、どうして、どうしてどうして、どうして、どうしてどうして、どうして、どうしてどうして、どうして、どうしてどうして、どうして、どうしてどうして、どうして、どうしてどうして、どうして、どうしてどうして、どうして、どうして?
この世界はループするんじゃなかったの?この世界は虚構だから、計画が終わるまで変わらないんじゃなかったの?その笑顔は、私のものじゃないの?
もう、ネットのいいねなんて何の価値もないの。バズろうが、どうだっていいの。
貴方が、「いいね」って言ってくれるだけで、「似合ってる」って言ってくれるだけで嬉しいの。
だから、こっちを向いてよ。お願いだから。
気づいた時には始業式は終わっていた。でも、とても帰る気にはならなかった。気持ちがざわめき過ぎて、彼には声も掛けられなかった。
そして、いつのまにか図書室にまで来ているのだから、笑ってしまう。
(…彼は、ここで本を読んでいたのよね)
気分を落ち着けたいのか、現実逃避をしたいのか、それとも彼を思い出したいのか。私は一冊の小説を棚から引っ張りだして読み始めた。
高校生の青春を書いたラブストーリー。
ふとした瞬間から恋に落ちる様はまるで私の生き写しみたいだ。
出てくるライバルに対策を取ろうと色々考えて、色んな場所でデートして、山場で選択を迫られて、最終的にはハッピーエンド。
読み始める前は、そんなストーリーなんだろうと勝手に想像していた。
そんな陳腐な予想は、1ページ目から堂々と外れていった。
彼を愛し過ぎておかしくなりそうな彼女と、そっけなく見えて写真を壁に貼るほどストーカー気質な彼が織りなす恋愛ギャグコメディ。
普段なら手にも取らないその小説から目が離せない。私と彼女が物語を読み進める度に少しずつ重なっていく。
そして、とある単語に目が付いた。
『ヤンデレ』
誰かを病的なほど愛し過ぎて、愛が重すぎて、おかしくなること。
この言葉が、ストンと胸の中へと落ちていく。
「ふふっ、あははっ!」
…そっか。
私は、彼に依存していたんだ。私と同じ境遇で、私と同じ疑問を抱えていた彼に。
そして、気づいちゃった。あの子は、一般人なんだって。
じゃあ、あとは簡単だよね?
図書館の窓に夕日が入り込む。
反射した私の瞳は、オオアマナの瞳は。
ちょっと、濁ってるように見えた。
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「おはよう、〇〇君」
ーーあれから、何年が経ったのだろう。16とか17の肉体に宿った精神は、20を越えているかもしれない。
「ぐっすり眠ってたね、そんな表情、初めて見たかも」
ーー彼は、貴女は誰?という顔を浮かべている。
だって、計画の為に学校に行ってない日の方が多かったもん、仕方ないよね?
「う〜ん…クリスマス計画、達成するのに少し時間が掛かっちゃったな、まぁ、これから埋め合わせればいっか!」
ーーこの世界の計画を達成しなきゃ、いくら監禁しても翌年には綺麗さっぱりなくなってしまう。
「ね、覚えてる?私達が付き合っていたこと」
「ほら、君に貰ったネックレス、まだ持ってるんだよ?」
ーー否定しようとして、そのネックレスを見て、彼は口を噤んだ。
「お、その表情…どこかで見覚えあり、って感じかな?…ふふっ、よかった、あのときの〇〇君で」
「ね、私も一緒。違和感だらけのこの世界で、唯一貴方はそれを知ってくれて、いっぱいお話して、いっぱいデートして…クリスマスも一緒に過ごした、恋人。」
ーーそんなわけない、と。彼は強く言うだろう。だって、見たから。
「じゃあ、思い出させてあげる…これから、私とずっと一緒に、ループしない空間で過ごすんだから。」
恋人が出来てからの3ヶ月。あのときの出来事を日記に纏めた、事実で構成された妄想日記。
それを読んで引っ掛かりを覚えた彼の口は、自然とこんなことをぼやいた。
「……マギ、ア」
「そう、私が〇〇君の恋人のマギア、思い出せそう?」
「あ、れ…あのときから、何年経った、んだ…?」
「もう、そんなの気にしなくていいんだよ?」
だって。これからは1年という制限を気にしないで過ごせるんだから。
私は〇〇君をぎゅっと抱きしめながら、機械に魔力を通した。
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「…おはよう、今日の気分は?」
ループしない世界で、私達は愛を育む。
今は養育費の貯金で忙しいけど、いつか子供を持てると思えばパートも苦にならなかった。
「そう、ならよかったな…さて、今日はどこ行こっか?」
「だって、お仕事休みになったんでしょ?上司かなにかの大怪我で」
最近会社の色んな人にちょっかいを掛けた上司が、誰かに刺されて入院したらしい。
「折角だし、ゆっくりカフェで朝食でも取りましょ。まだ時間はたっぷりあるもの」
ーーだって。忘年会だなんだ言って彼を誘惑したんだから。恋人として、〇〇君を守るのは私の仕事だもの。
「ふっふ〜ん♪そうだ、私…〇〇君にあげたいものがあるんだ♪」
部屋に飾られたアイビーの観葉植物がゆらゆら揺れる。
「はいこれ!あのとき、ちゃんと渡せなかったから」
ちょっとしたおまじないを籠めた、サンスベリアをワンポイントに象ったシンプルなブレスレット。
「うん、似合ってるよ…さて、私はお腹がすいちゃったぞ♪」
…もう、絶対に離さないから。
魔力の籠もった私の体を見て、玄関前に咲いたオオアマナが優しく私を見てくれていた。