ヤンデレな モンストキャラに 愛されて 作:Jack11@ハーメルン
「……朝か」
あと5分寝ていたいという気持ちをカーテンで包んで、朝日を見る。空には憎らしいくらいにサンサンと太陽が輝いていた。
「……朝飯、作るか」
慣れた手つきで台所に立ち、パンをトースターに突っ込む。食卓にイチゴジャムを置いてやれば、飾り気のないテーブルに花が添えられたみたいだ。
寝ぼけの顔を洗うために洗面台にむかう。髪を梳かしていると、後ろで水色の髪が揺れるのが見えた。
「おはよ、にぃに」
「おう、おはようネオ」
……彼女はいかにも眠そうといった感じで瞼を擦りながら声をあげた。
ーー
ネオは昔から朝に弱い。小学校の頃はネオを起こす係に任命されていたことも、今では懐かしい思い出だ。そんなこともあって、朝方の家事は基本俺が担当している。
「ほらネオ、お弁当作っておいたぞ。大学までの道案内するから準備終わったら呼んでくれ」
「ありがとう……分かった」
そんなネオも今日から大学生だ。この近く…なんなら俺と同じ大学を受験したそうで、ネオも流れでここに住むことになったらしい。
そのおかげで両親の資金援助のもと少し広めのアパートに引っ越すことが出来たので文句はないのだが。
「…よし、準備終わったよ。いこ、にぃに」
トテトテトテ。そんなオノマトペが聞こえてきそうな走り方で玄関前までやってくる。
「…よし、忘れ物ないよな?」
「うん、にぃにこそ大丈夫?」
「俺はもう確認済んでるし、じゃいくか」
「うん、いってきます」
扉に背を向けて歩き出す。
アパート前に咲いた桜は綺麗だった。
ーーーーーー
…きっかけは、にぃいがお母さんと一緒に幼稚園へ迎えにきてくれたとき。おままごとで遊ぼうとしてた時だったから、私はだだをこねてにぃにを巻き込んだ。
にぃには『お父さん』役。私は『お母さん』役。にぃには戸惑いながらも私達と遊んでくれた。
『た…ただいま〜』
『…おかえり〇〇』
『うん、ネオも家事お疲れ様。待たせてごめんな』
『ううん…気にしてない、よ?みんなおなかすいてるから、きて』
『…そうか、待たせちゃってたか…っと。ほら、ケーキ買ってきたからみんなで食べよっか』
『…!分かった。お皿、用意するね』
そうして、私達の中で1日が経ってにぃにがお仕事にいくシーン。
『…それじゃ、いってくるよ。みんなもいい子にしてるんだぞ』
『…いつもみたいに「愛してる」って言ってほしい…な』
にぃにはその言葉を聞いて少し戸惑ってた。困ったように笑みを浮かべて、それで。
『…あ、愛してるぞ、ネオ』
ぎゅ〜〜って、抱きしめてくれた。
その時に感じた心の暖かさ。目の前におやつのゼリーが置かれたときみたいににぃにから目が離せなくなって。
心臓がキュンって動いたあの感じ。今まで感じたことのなかった感覚。やろうとしてた考えが全部にぃにで埋まっていった。
「ネオ?大丈夫?」
「…あ、うん、だいじょうぶだよ」
それを『恋』って言うのを私は小学校に入るまで知らなかった。
最初の頃は『好き』と言ったら『好き』って返してくれた。それだけでよかった。
距離が近すぎて周りの友達にも色々言われたけど、にぃにが守ってくれたから、嬉しかった。
もっともっとにぃにが好きになって、気付いたら目で追うようになっていた。
中学生になったら、恥ずかしいのか『好き』って言ってくれなくなったし、『にぃに』って呼ばせてくれなくなった。
さみしくて、かなしくて。
にぃには部活で忙しかったから、部屋の中は少しづつにぃにの香りが強くなっていって。私はよくにぃにの部屋で何もせずに匂いを嗅いでいた。
頭がぼーっとしていくあの感覚が心地よくて、ベッドに引き寄せられる高揚感と漂ってくるにぃにの強い香りに心が埋められていく。
凄く不思議だった。
すーーっと肺のなかにはいってきて、くんくんと鼻を鳴らすのが辞められなくなって、ぽけ〜っとしちゃう。
にぃにに依存してるんだと、ちょっとづつだけど私にも分かるようになった。
高校生になって、私は写真部に入った。バイトができるようになって、自分でお買い物をした。
パシャリ。
「…にぃに、気持ちよさそうに寝てる」
小型カメラの先を覗いて、ニッコリと笑う。
高性能だったから少し値段はしたけど、にぃにの色んな所を見て、保存できるだけでもお釣りになる。諦にぃにも諦めたのか、私が『にぃに』と呼んでも気にしなくなった。
でも、でも、でも。
にぃにを変な目で見る人が増えちゃった。にぃにの良さがバレちゃって、それで。にぃにが他の人に告白されて、他の女が近づいてきて。
私にはそれを止められなくて。にぃにの部屋に別の匂いが混ざり始めて、それで、それで。
……方法は、いっぱいあった。
スマホと話術と、それらしい証拠。
学校に持ち掛ければ、すぐに大きな問題になった。
……悪いことをしたとは思ってる。少し疑われちゃったし、家族にも迷惑をかけた。ごめんなさいと言っても許されることじゃないって。
でも、これはにぃにが悪い。
私のこと、待ってくれないんだもん。
ーーーー
「おつかれ、にぃに」
「お疲れネオ、大学どうだった?」
「凄い広かった…」
授業と新入生への説明会が終わり、俺達は校門で待ち合わせをしていた。新入生がいることもあって学食は混んでいるだろうし、今日は近場のゲーセンに寄りながらファミレスで食べようということになったのだ。
「にぃに、少しトイレ行ってくる」
「お、了解。俺はここで待ってるから行ってこい」
初めて来たところだから少し迷っちゃったけど、なんとか間に合った。
にぃにの所に戻ると、誰かに纏わりつかれてるのが見える。
『ね、そこのおに〜さん、1人で暇してる?』
『アタシ達もやることなくてさ〜、少し遊ばない?』
「あ〜、ちょつと人をを待ってるんで……」
走る。走る。
にぃにが、困ってる。
助けなきゃ。
無理やりにぃにとの間に割り込んで、腕を掴む。
「駄目。今は私がにぃにと遊んでるの」
強い口調で。強い視線で。私よりも身長が低い人を見下ろして。
にぃにに近づかないで。私とにぃにの邪魔をしないで。
『…そっかぁ。ごめんね〜』
『な〜んだ、彼女持ちかぁ…』
『ホント運ないよね〜』
あの子達も分かったみたいで、私達から離れていく。最後に残していった『彼女持ち』という言葉が聞けて、本当に嬉しかった。
「…ネオ?」
「…はっ、にぃに、大丈夫?」
「まぁ、俺は大丈夫だけど…ネオに心配かけたか?」
にぃにが私の目を見てる。心配そうに、負い目を感じてるように、目を細めてる。
「…ちょっとだけ」
私はにぃにに抱きつきながら、そう答えた。
ーーーーーーー
……今日はにぃにがお家にいない。サークルの先輩に誘われて合宿に行くらしい。
ついて行きたかったけど、にぃにダメって言われたから、行けない。
にぃにのお部屋を掃除する。
いいものが見つかるかなとおもったけど、見つからなくて。
本棚にあったアルバムをパラパラと捲る。
そこには、知らない女の子がいて。
「…誰、この子」
嫌な予感がする。
にぃにのパソコンを開く。要求されたパスワードも、いつも見ているものと変わらない。
メッセージアプリを立ち上げて、一番上にあった知らない人。
『今日の試合の帰り、一緒に買い物してかない?ほら、もうすぐ付き合ってから1年経つからさ』
『ああ、だな』
『んじゃ、試合終わったら連絡してよ、迎えにいく』
昨日、既読になったばっかりの会話。
「…え」
(にぃにに…こい、びと…?)
処理が追いつかなくて固まる。
写真。スマホの写真フォルダに『思い出』という項目が目についた。
これは旅行に行った時のなのだろうか。これは何処かでご飯を食べた時。にぃにのサークル写真のマネージャーの女の子は、アルバムにあった女の子の顔と一緒だった。
嫌。
嫌だ。
やめて。
見たくない。受け入れたくない。
なんで。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。
「にぃに、にぃには私のなのに…!」
「やだ!やだやだやだやだやだやだやだやだ!!」
「最初に、にぃにに『愛してる』って言われたのは私なのに…!」
…私は、どうすればいいんだろう。
……にぃに、にぃに。
……そうだ。
ーーーーー
「なぁネオ、俺は来週から泊まりにいってくるから留守番頼んだぞ」
「……うん。」
ーー
「今度出かけに行くけど、なんか欲しいものあるか?」
「…いらない。」
ーー
「…ネオ。今度一緒に出かけないか?もうすぐ誕生日だろ?」
「…うん。行く。」
最近ネオの元気がない。いつもはもう少しシャキッとしてるような喋り方をしているのだが、なんだか最近は少し覇気がないような気がする。
「ねぇ、にぃに。最近困ってることって……ある?」
こたつに入ってネオと向き合っていると、真剣そうな顔で俺を見てきた。
「困ってること?ん〜……洗剤が切れそう…とか」
「そうじゃなくて!」
ビクッ、と。背筋が寒くなるのを感じた。
ネオがこんな大声を出すとは思ってもいなかった。
「あの女の子、ほら、いっつも連絡取ってる子…あの子、誰?」
……そういえば、まだネオには言っていなかった。
心配をかけたのだろうか?
「俺の彼女だよ、伝えてなかったから心配かけたか?」
「……それで、その女に迷惑かけられてない?」
息を呑む。
…ネオは、淀んだ瞳で俺を見ていた。
「…ううん、迷惑なんてかけられてないぞ?」
だから、本当のことを言った。
なのに。
「…にぃに?あんな女、にぃにが庇う必要なんてないよ?」
「そう、にぃにには私がいるでしょ、なのに、なんであんな女を見るの」
「やめて、やめてやめてやめてやめてやめて!!」
「にぃに、あの女に虐められて困ってるんでしょ?にぃには無理やり付き合わされてるんだよね?そうだよね…そうっていってよ…」
……怖い。逃げなきゃいけないのに、足が動かない。
「……にぃには私が守るんだから、あの女はいらない」
「でも、にぃには気にしなくていいよ。もう、私はお話したから」
カチャリ。
鍵を閉められる音がした。
ガチャリ。
鎖に繋がれて、思考が止まる。
「にぃに…離れないためのオマジナイ…しよ?」
ーーーーーー
「…ふふっ」
何処かにある小さなお家に、小さな泣き声が響いた。
「…よ〜しよし」
にぃには何処かぎこちない笑顔を浮かべながら粉ミルクを梳溶かしていく。
「…ね、ネオ…お、おはよう」
ピクリ、ピクリ。
小さく震えてるにぃにが何処か可愛い。
でも…凄い、かわいそう。
また、困ってるのかな。
「にぃに、なにか困ってるの?」
「……い、いや、な、何でもない。じゃあ、俺はこれで」
そそくさと、にぃには何処かへ行ってしまった。
「……不思議」
お腹がいっぱいになったのか、すやすやと眠る愛の結晶を優しく撫でる。
「……可愛い」
にぃにに似た顔にキスをする。
もち肌のほっぺに、ふっくらと沈んだ。
……マタニティーブルーも終わって、なんとなく私のやったことも分かってきた。
でも、それでにぃにとずっと一緒にいられるならいいと思う私もいた。
……でも、にぃには私から離れられない。
心が。立場が。社会が。にぃにを否定してるから。
その代わり、私がにぃにを愛してあげなきゃ。
にぃにを、守ってあげなきゃ。