TRANSFORMERS Blue_Archive 作:H2O(hojo)
ティーパーティー・テラス
「お待ちしておりました。ご無沙汰しております、先生。あれからお代わりはありませんか?合宿の方はいかがでしょう、何か困ったことなどありませんでしたか?」
“うん、おかげさまで何とか。ところで今日はどんな用事?”
第二次特別学力試験を翌日に控え、先生はナギサに呼び出され再びティーパーティーのテラスへと赴いていた。ミカやヒナから色々と話を聞いた今、先生のナギサへの心象は良くないようで、さっさと終わらせたいようである。
「ふふっ…この合宿は言うなれば元々、“生徒たちをよく観察できるように”という配慮でした。そういうことなのですが、いかがでしたでしょうか?何か判明したことなどありましたか?」
“・・・”
「もっと直接的に言いましょうか、“トリニティの裏切り者”はどなただと思いますか?」
“前と同じになるけど、私は私のやり方で対処するよ”
ナギサは先生に少しだけ期待して、“トリニティの裏切り者”が誰なのか判明したかを問う。それに対し先生は以前と同じく自分なりのやり方で対処すると言い返す。
「…そうでしたね。ただ第二次特別学力試験を目の前にして、あらためてそこを確認したかったのです。そこで、本日もこうしてお越しいただいたわけでして。…恐らくミカさんも接触してきましたよね?」
ギクッ…!!
「ミカさんと何をお話になったのか…よろしければ、教えていただけません?」
しかし、そこはナギサも想定内だったようである。今度は話題を変えてミカが何を話したのかを先生に聞き始めるのであった。
“私は、誰かを疑うことに時間を費やすつもりは無いよ”
「…?」
“あの子たちの頑張りが報われるように最善を尽くすだけ”
「・・・」
しかし、先生はまたもナギサのお願いを拒否する。先生は自分の味方ではなく完全に補習授業部の味方であると、ナギサは改めて実感した。
「一度改めて、説明してみましょうか?どうして彼女たちなのか。先生の方にも色々事情があると思いますが…順番にお話ししましょう」
それでも何とか先生に裏切り者を見つけて欲しいナギサは、何故彼女たちが補習授業部のメンバーに選ばれたのかを説明し始めた。
「まずコハルさんは、ハスミさんを制するための存在です。ハスミさんは誰よりもゲヘナを憎んでいます。いつ何をしでかすか分からない、時限爆弾のような存在です」
ナギサは最初にコハルの名前を挙げる。コハルはミカの言っていた通り、ハスミへの牽制を意図した配置らしい。
「そしてハナコさんは、本来誰よりも優秀な才能を持っていたにも関わらず、今はわざと試験で本気を出していません。何を企んでいるのか、全く理解できない状態です」
次にナギサがあげたのは、ハナコである。ハナコが何故わざと手を抜いているのか先生も知らされていないが、当然ナギサも怪しく思っているのである。
「アズサさんは、そもそも存在自体が色々と怪しいところばかりです。それに、他の生徒たちと何度も暴力事件を起こしている、制御不能な存在ですし」
そしてお次はアズサである。ミカの言葉を信じるのならば、彼女こそがナギサの探している“トリニティの裏切り者”である。ナギサはある意味彼女を追い詰めてはいるのである。
「ヒフミさん、は…」
“ナギサは、ヒフミのことを…”
「…はい。そう、ですね。ヒフミさんの想いは…かなり特別です」
そして最後にナギサはヒフミの名前をあげようとして言いよどむ。それを見て先生は、彼女の心情を慮って言葉をかける。そしてナギサはヒフミのことを特別だと言い切った。
「私はヒフミさんのことを、とても大切に思っています。私は、彼女のことを好いている…そのことは、間違いありません」
“じゃあ何故…”
「ですが…あの子の正体が実は、恐ろしい犯罪集団のリーダーである、という情報がありました」
“・・・”
どうやらナギサにとってヒフミは特別な存在であるらしい。先生は何故そんな彼女を補習授業部に入れたのかと聞くと、ナギサはヒフミのある疑いに関して先生に話す。先生はその疑いに何も言わなかった。
「こういったお話が、かえって一番怖いのです。信じていたからこそ、何かが見えなくなっている…盲目な状態になっているのでは、と。どれだけ注意を払って築いた塔も、小さな亀裂から簡単に崩れてしまうもの…。私はちゃんとヒフミさんのとこを理解できているのか、それともやはり私が知らない真実があるのか…私には分からないのです」
“誤解だよ…ちゃんと事情があって、私もちゃんと説明…”
「どうやって?証明できるのですか?ヒフミさんの心を、本心を、本音を、どうやって証明するというのですか?そうではない、誤解だ、事情がある…その言葉に、どれだけの意味が?どれだけの真実性が?」
ナギサはヒフミのことが好きだからこそ、信じることができないようである。先生が誤解だと解いても、それを信じられる余裕は今の彼女には無いようだ。
「…心の中身など、証明できるものではありません。ヒフミさんの優しい心、礼儀正しいところ、優しいところ…それらを痛いほど知っていても、本音を知ることはできないのです。当然です…どう足掻いたって私たちは、所詮“他人”ですから」
“・・・”
「ですから、退学させるしかないのです。エデン条約…その成功のために」
そして最後にナギサはヒフミのことをどれだけ知っていようと、彼女は他人であると言い切った。つまるところ彼女は大好きな阿慈谷ヒフミよりも、エデン条約の成功を取ったのである。
“分かったかもしれない”
「…?」
“ナギサ。今の君はきっと、疑心暗鬼の闇の中だ”
「…はい?疑心暗鬼の、闇…?」
そんなナギサの様子を見て、先生は何かに気付いたようである。彼は今のナギサを疑心暗鬼の闇の中にいると評した。
“見たいものだけを見て、信じたいことだけを信じているんだと思う”
「・・・」
“君を、そこから出してみせる。そして絶対に、補習授業部のみんなを合格させる”
「…ふふっ、そうですか」
そして先生は、ナギサを疑心暗鬼の闇の中から出し、補習授業部を合格させると、彼女前で宣言した。それを聞いてナギサは何か含みのあるような笑みを浮かべるのであった。
「理解しました。まあつまり、お話がシンプルになったということですね。…承知しました。どうか頑張ってください、先生。私は、私なりに頑張りますので」
しかし、先生の言葉をナギサは正面から受け取らなかったようである。彼女は先生が自分に宣戦布告をしたと思ったようだ。
“最後に、もう一つだけ聞かせて欲しい”
「何でしょう?」
“何故彼を補習授業部に派遣したの?”
「ホットロッドですか?」
先生はティーパーティーのホストから退出する前に、補習授業部に派遣されたホットロッドのことを尋ねる。先生的には彼を彼女たちと一緒にしたことに、理由があるのか気になるようである。
「彼は以前、病気がちなセイアさんの護衛を担当していました…」
“でも、彼女は…”
「はい…。今は病気で休学中になります。セイアさんの体調は生来のもので、彼がどうこうできるものではないのですが…やはり彼なりに責任を感じているようでしたので…」
“それで新しく仕事を与えたと…”
ホットロッドは元々セイアの護衛である。しかし、セイアが学校に来なくなったことに彼なりに責任を感じていたらしく、それを見たナギサが気を効かせて彼を補習授業部へと付けたわけでる。
「・・・」
“・・・”
だが、百合園セイアは病気などではなく、既に死んでいることをナギサも先生も情報として知っている。なので当然、ナギサはホットロッドの強い責任感に期待して彼が裏切り者を探してくれると期待していたのである。
「彼にも“裏切り者”のことは話したのですが、“自分はそういうのは性に合わない”と断られてしまいました…」
“そう…”
「彼はトリニティの生徒ではなく、オートボットですから無理強いはできません。コグマンのように我々より以前からトリニティに仕えているわけではありませんので…」
“それはそうだね。私も彼らとは互いに協力する立場だ。たとえ自分たちの星だからと言って、彼らに命令する権利は私たちには無い”
一応最初はナギサの期待に応えようとしていたのだが、補習授業部のみんなと交流していくなかで、やりたくなくなっていたのである。だがナギサはそんなホットロッドを咎めることなく、そのままにしたのはあくまで彼らがオートボットという金属生命体だからである。ナギサも先生もキヴォトスの人間として彼らの扱いは弁えているのである。
先生はナギサとの話を切り上げ、補習授業部のみんなが勉強している合宿所へと戻った。
合宿所・夜
「明日はついに、第二次特別学力試験です!この一週間の合宿で、私たちはしっかり合格できるだけの実力を身にみにつけられたはずです!」
「うん」 「はい♡」 「そうねっ!」
“うん、本当に頑張ったね”
「『Fight!!』」 「頑張れよ」
最後の確認を終え、ヒフミは明日の試験に向けて気合十分である。他のメンバーもヒフミに引っ張られ自信に満ちた表情である。
「あとはしっかり試験に合格し…堂々と補習授業部を卒業するだけです。今までの勉強が無駄ではなかったことを、きっちり証明しに行きましょう!そして最後は、みんなで笑ってお別れできるように…!」
「…そうか。合格したら、もうお別れか…」
「ちょっ、ちょっとアズサ!?どうしてそんな急にしんみりするわけ!?」
「なるほど♡合宿も含めて、何だかんだですごく楽しかったですもんね?」
補習授業部に入れられた彼女の目標はもちろん合格して、在学を目指すことである。しかし、合格してしまえば当然補習授業部は無くなるわけで、アズサはお別れという言葉を口にした。そしてどうやら、コハルもハナコも補習授業部の解散は少し寂しいようである。
「…ああ。いや、それでもやっぱり、出会いがあれば別れもある。全ては、虚しいものだ」
「…そこまで思う必要は無いと思いますよ。アズサちゃんも含めてみんな、試験が終わったらどこかに行ってしまうわけじゃないでしょう?」
「そうだぜ。みんなトリニティにいるんだからいつでも会えるだろう?」
「ほ、ほら!私はいつも正義実現委員会の教室にいるから!ひ、暇な時があったら来れば…?」
「…うん」
アズサは言葉では別れを受け入れているようだが、表情は寂しそうである。そんな彼女を見かねてか、ハナコとコハルとホットロッドの3人で何とか励ますと、アズサは嬉しそうに笑うのであった。
「えっと、気持ちとしては同じなのですが、とりあえず試験に合格することが先決と言いますか、何だか急に青春ドラマのエンディングになっているような…」
「『青春』『爆発!!』」
「と、とにかく。今日は早めに休んで、明日の試験に備えるとしましょう」
しんみりし始めた3人を見て、ヒフミは合格するのが先決だと改めて周知する。そして青春している補習授業部を見て、ビーは1人熱くなっていた。
「そういえば、明日の試験場って前と同じところ?」
「あ、そういえば告知をまだ見ていませんでした」
「おいおい、しっかりしてくれよ?ぶ・ちょ・うさん?」
「あはは…すみません…。えっと、トリニティの掲示板っと…。……???」
気を取り直してコハルは明日の試験会場のことを部長のヒフミに尋ねる。しかし、ヒフミも確認していなかったようで、そのことを揶揄い混じりにホットロッドに弄られた。ヒフミはすぐに、トリニティの掲示板を確認するが、神妙な顔をして首を傾げた。
「…え。ええっ!?」
「ヒフミちゃん?どうかしましたか?」
「え、嘘っ!?嘘ですよね!?」
「『どうした急に』」
そしてヒフミは試験会場の場所を見て、声をあげて驚く。それを見たハナコとビーは当然、試験会場がどこなのかがさらに気になっている。
「ええっと…“補習授業部の『第二次特別学力試験』に関する変更事項のお知らせ”…?“試験範囲を、既存の範囲から約三倍に拡大”…?」
「はぁっ!?何それ!?」
「“また、合格ラインを60点から90点に引き上げとする”…?」
「わ、私でもまだ、90点なんて超えたことないのに…」
ハナコはヒフミが見ている掲示板を検索し、みんなのために読み上げる。そこには試験範囲の拡大や合格ラインの引き上げなどといった衝撃的なことが書かれていた。
「ど、どういうことよこれ…」
「昨日、急にアップされたみたいです…試験直前になって、こんな…」
“これは…”
「ナギサ…。ここまでやるのか…!!」
どうやらこの掲示は昨日アップされたようである。その掲示板の内容を聞いて先生とホットロッドはすぐにナギサのせいであると気が付いた。
「露骨なやり方ですねぇ…どうしても私たちを退学にしたい、と」
「…退学?」
「えっ、退学!?ちょっとどういうこと!?」
「『どういう事だ?』」
そしてハナコもナギサの思惑に気付いたところで、彼女はうっかり退学という言葉を口にしてしまう。それを聞いた、その事を知らないコハルとアズサとビーは寝耳に水といった様子であった。
「そのお話もそろそろお伝えしようと思っていましたが…その前に、他にも変更された部分がありますね」
「あ、試験会場と時間も変更されてます…試験会場は“”ゲヘナ自治区第15エリア77番街、廃墟の1階“…。ゲヘナ?」
「『Wow』」
「げ、ゲヘナで試験を受けるんですか!?」
退学という言葉を聞いて驚いている3人をよそに、ハナコとヒフミは掲示板を読み進めていく。問題の試験会場であるが、掲示板に書かれていた場所はゲヘナ学園である。ヒフミはその情報を見て、あり得ないとばかりに大声で叫んだ。
「な、何でよ!?どうしてトリニティの試験をゲヘナで受けるわけ!?」
「こっちに俺たちがいるからって随分無茶苦茶なことをやってきたな!?」
「もし行かなければ未受験扱いで不合格、ですよね…」
ヒフミの叫びを聞いて、コハルも驚きが隠せない様子である。ここまでのナギサの仕打ちに、流石のホットロッドですらもドン引きであった。
「そ、それもそうだけど、さっきから退学ってどういうこと!?初耳なんだけど!」
「・・・」 「『Why?』」
“一から説明するね”
一度は流された退学の件をコハルは再び話題に出す。知らない彼女たちからすれば、当然流せる話題などではなく、アズサも心配そうな顔をしていた。そんな彼女たちのために、先生は一から事情を説明し始めた。
「試験に3回落ちたら、退学…!?」 「…なるほど」
「か、隠しててごめんなさい…まさか、こんなことになるなんて…」
「ナギサのヤツ…ここまで本気で俺たちを潰しに来るだなんて…」
先生から事情を聞いたコハルは驚きと絶望で涙目になり、アズサは悟ったような顔をする。ヒフミはこれまで、このことを隠していたことに罪悪感を感じ2人に謝った。
「ど、どうすれば良いの…!?退学になんてなったら、正義実現委員会に復帰できない…!」
「…状況は理解した、兎に角出発しよう」
「えっ、えぇっ!?」
「試験時間が“深夜の3時”って書いてある。今から出発しないと間に合わない」
コハルは退学の恐怖と絶望が迫り、うろたえている。しかし、アズサは試験時間が迫っていることを掲示板を見て気づき、みんなに早く出発するよう促した。
「あ、確かに…」
「驚くにせよ、怒るにせよ、絶望するにせよ…それは、試験を受けてからでも遅くない。障害物の多さに文句を言ったところで、状況が変わるわけじゃない。大切なのは、最後まで足掻くこと」
「あうぅ…」 「う、うぅっ…」
「そうですね。アズサちゃんの言う通りです。今はとにかく動くしかありません」
アズサはこんな理不尽な状況でも、冷静に状況を判断し試験を受けようと足掻こうとしている。それを見たコハルとアズサは彼女のその強い精神に驚いていた。
“ビー!!ホットロッド!!”
「『任せろ!!』」
「全力でゲヘナまで突っ走ってやるよ」
一同は急いで試験の準備をしてビーとホットロッドにそれぞれ乗り込み、ゲヘナ学園へと向かっていった。
ゲヘナ・スラム街
ズダダダダダダ!!!
「ヒャッハー!!」
「痛い思いをしたく無けりゃ金を出しなぁ!!」
「ここはウチらが占領した!!今日からこの場所はウチらのもんだぜぇ!!」
ここは試験会場へ最短で向かうために通るゲヘナのスラム街である。ここでは連日連夜物騒なスケバンたちが抗争を繰り広げる場所である。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!
「ん?何だ?」
「おい、車2台がこっちに突っ込んでくるぞ!!」
「なんだとぉ!!」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!
だがそんな危険なスラム街を突っ切る、黄色い車とオレンジの車が2台…
「よ、避けろ!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!轢かれるぅー!!」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!
「ごめんよ!!急いでんだ!!」
「『Sorry』」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥン…
「な、なんだったんだ…」
2台の車はたむろしているスケバン集団を散り散りにさせながら、猛スピードでスラム街を突っ切っていく。ホットロッドとビーは突っ切る一瞬に、気休めではあるが彼女たちに謝りながら試験会場へと急ぐのであった。
先生・ナギサ「”オートボットを粗末に扱う気はないけれど、仮にそんなことをしたら、オプティマスが怖いし...”」