TRANSFORMERS Blue_Archive   作:H2O(hojo)

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大胆な告白は女の子の特権
後2話でエデン条約編の1,2章が終わりですかね。
3,4章はそれぞれエデン条約の後に別のサブタイトルを付ける予定です。


告白

第二次特別学力試験を温泉開発部に滅茶苦茶にされた後、補習授業部は再び合宿所へと戻る。先生はナギサとミカに連絡を取ろうとしたがどちらも空振りに終わっている。

 

「何だかんだで戻ってくることになっちゃいましたね」

 

「もうお別れだと思って出たのに、すぐこうなるなんて。やっぱり人生は分からないものだ」

 

「感傷に浸ってる場合じゃないでしょ!?これからどうするの!?っていうか、本当にティーパーティーの偉い方たちが私たちを退学させようとしてるなら、どうしようもないじゃん!知恵を寄せ合ったところで、何したって無駄なんじゃないの!?」

 

補習授業部一同は夜になって、同じ部屋で集まっている。コハルはティーパーティーが出張ってきたとあって諦めムードだが、アズサとハナコはいつも通りである。

 

「一応、一週間後にある第三次特別学力試験が最後のチャンスではありますが…」

 

「ここまでありとあらゆる手で邪魔されてしまいますと、確かに厳しいかもしれませんね」

 

「難しい状況だな…」

 

ヒフミは第三次特別学力試験に望みをかけようとしているが、ハナコとホットロッドは厳しい状況であると分析する。

 

「そ、そもそもどうしてこんなことになってるのよ!?何で退学にならなきゃいけないわけ!?“トリニティの裏切り者”とか意味わかんない!どうして私たちが疑われなきゃいけないのさ!?もし本当に退学になったら…正義実現委員会には、もう…」

 

「コハルちゃん…」

 

「『泣かないで~♪』」

 

「・・・」

 

補習授業部の中で唯一裏切りの疑いが無いコハルは、何故自分が退学の危機に瀕しているのかわからないようである。そんなコハルを他のメンバーは気まずそうに見つめるしかなかった。

 

“…ごめん。私がナギサにああ言ったせいで…”

 

「いいえ。そのお話を聞いた限り、先生は私たちのために言ってくださったのでしょう?むしろ感謝するべきことです」

 

「俺は彼女の指示を拒むだけで精一杯だった…。俺がこんなことを言うのはよくないかも知れないけれど、彼女たちのためにナギサを裏切ってくれてありがとう」

 

先生は自分がナギサ相手に啖呵を切ったせいで、彼女を怒らせこんなことになってしまったと思い、みんなに謝罪する。だがハナコは先生の真意に気付いて、むしろ先生に感謝した。ホットロッドのほうもナギサに強く出れないなか啖呵を切ってくれたのが嬉しかったようだ。

 

「この一週間で、90点以上取れるようになんて…」

 

「そうですね…それに、これ以上ナギサさんが良からぬことをしないように見張らねばなりませんし…」

 

「ぐすっ…無理、絶対無理よ…ここまですっごい頑張ったのに、これ以上なんて…。頑張ったもん…でもこれ以上は、私にはもう無理…私、バカなのに…無理だって…うぅっ…」

 

「コハル…」 「コハルちゃん…」

 

合格するためには90点以上を取り、かつナギサの妨害を掻い潜らなければならない。コハルはこの絶望的な状況を目の前にして、遂に泣き出してしまった。

 

「と、とりあえず、今日はもう休みませんか?何か、何かしらきっと方法はあると思います…いいえ、あるはずです。頑張って見つけます。それに先生も手伝ってくれますし…」

 

「ヒフミちゃんも、きちんと休んだほうが良いですよ…?ここまでずっと無理されてましたし…」

 

「で、ですが今頑張らないと…」

 

「『寝ろ!!』」

 

コハルが絶望するなかヒフミだけは諦めきれず、まだ方法を探そうとしている。そんな頑張り過ぎのヒフミを見て、ハナコとビーは休むよう促すがヒフミは部長として頑張らねばと感じているようである。

 

「私も、一緒に考えますから。コハルちゃんの勉強も、ヒフミちゃんのことも手伝います。…とにかく今日は、一旦休むとしましょう」

 

「頑張り過ぎだ、ヒフミ。これ以上は試験どころじゃなくなる」

 

「そう、ですね…はい」

 

「では、今日は一旦この辺りで。お疲れ様でした」

 

ヒフミはハナコとホットロッドの説得でようやく折れた。第三次特別学力試験6日前の夜はこうして終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

そして第三次特別学力試験まであと一日。彼女たちは何とか希望を捨てずに勉強に励み、全員が90点以上を取れるような実力を身に着けた。あとはテストの範囲や場所が変わらぬことを祈りながら、一同は眠りについた。

 

ガサゴソ…

 

「・・・」

 

スタタタ…

 

「・・・」

 

夜中に起き上がったってどこかへ向かっていくのは、白洲アズサである。彼女はこれまで、何度もこうして夜中にどこかへ行っている。そして、それに気づいていながら、何も言わずにただ彼女が出ていくのをハナコは見ているのであった。

 

 

 

 

 

トリニティ某所

 

「アズサ、日程が変わった」

 

「…?」

 

「明日の午前中だ、約束の場所で命令を待て」

 

アズサが向かった先にはガスマスクに帽子を被り、アリウスの校章を付けた生徒らしき人物が待っていた。彼女はアズサに作戦の日程変更を伝える。

 

「ま、待ってサオリ、明日は…」

 

「何か問題が?」

 

「ま、まだ準備ができてない。計画よりも日程を早めるのは、リスクが大きすぎる」

 

「いや、明日決行だ。これは確定事項、しっかり準備をしておけ」

 

しかし、アズサは明日が第三次特別学力試験なのもあって、日程を早めるのに反対する。だがアズサの主張は呆気なく彼女に拒否されてしまった。

 

「明日になれば、全てが変わる。私たちのアリウスにも、このトリニティにも、不可逆の大きな変化が起きることになる。トリニティのティーパーティーのホスト、桐藤ナギサのヘイローを破壊する…そのためにお前はここにいるんだ」

 

「・・・」

 

「お前の実力は信頼している。上手くやれ、百合園セイアの時のように」

 

「…分かった。準備しておく」

 

アリウスの目的はナギサの暗殺にあるらしく、彼女はそれをアズサにやらせようというのである。そして、セイアと同じく上手くやるよう、発破をかけるのであった。

 

コツコツ…

 

「アズサ」

 

「…?」

 

「忘れてないだろうな、“vanitas vanitatum”」

 

「…全ては虚しいもの。どんな努力も、成功も、失敗も…全ては最終的に、無意味なだけ。…一度だって、忘れたことはない」

 

コツコツ…

 

彼女は最後にアズサがよく口に出す言葉を、口にする。それにアズサは一度だって忘れたことはないと噛み締めるのであった。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

そしてアズサが出ていくのを見ているだけだったハナコが、今回だけは彼女が誰かとあっている現場に密かについていっていたのである。

 

 

 

 

 

その後、アズサを除いた補習授業部一同は不安で眠れず先生の部屋へと集合する。そしてハナコの口から語られたのは、三次試験の会場は明日から正実が取り囲み、エデン条約の重要な書類を保管するという話である。そして学園全体にも戒厳令が敷かれるとのことで、テストを受けるには正実ひいてはトリニティを敵に回せ、というわけである。

 

「うっ、うぅ…」

 

「全く…どうやらナギサさんは本気で、私たちを退学にさせようとしているようですね…」

 

「どうして、そこまで…」

 

ガチャ

 

「…私のせいだ」

 

3人が現状に途方に暮れているなか、アズサがどこかから帰って来た。

 

「アズサちゃん!?ど、どこに行ってたんですか…?」

 

「そうだぜ、何をしてた?」

 

「・・・」

 

「『夜中に女の子が1人じゃ危ないぜ?』」

 

夜中に勝手に外出して帰って来たアズサに、ヒフミはどこに行っていたのかと問いかける。ホットロッドとビーも彼女がどこかから帰ってくるのを目撃したようで、先生の部屋の窓から顔を覗かせていた。唯一彼女が何をしていたかを知っているハナコはじっと彼女を見つめていた。

 

「みんな、聞いて。話たいことがある」

 

「アズサちゃん…?」

 

「アズサ…?ど、どうしたの?具合でも悪いの?」

 

「・・・」 「・・・」 「『・・・』」 “・・・”

 

そして帰ってきて唐突に、アズサは話したいことがあると言い出す。それを聞いたヒフミとコハルは彼女を心配するが、他のある程度事情を知っているものたちは、遂にその時がきたのかと思うのであった。

 

「アズサちゃん、身体が震えて…?」

 

「…みんなにずっと、隠していたことがあった。でも、ここまで来たらもうこれ以上隠しておけない。…ティーパーティーのナギサが探している“トリニティの裏切り者”は、私だ」

 

「そうか…」 「はい…?」 「え?きゅ、急に何の話…?」 「・・・」

 

アズサは身体を震わせながら遂に、自分が“トリニティの裏切り者”であると告白する。彼女の告白の反応は、知っていた者と何も知らない者で二分された。

 

「私はもともとアリウス分校の出身。今は書類上の身分を偽って、トリニティに潜入している」

 

「あ、アリウス?潜入…?」

 

「「“『・・・』”」」

 

「えっと…何それ?アリウス…?どういうこと?」

 

アズサは自分がアリウス分校という場所の出身であると告げる。しかし、ヒフミとコハルはアリウスが何のことなのかを、よく理解していないようであった。

 

「アリウス分校…かつてトリニティの連合に反対した、分派の学園です。その反発のせいでトラブルとなり、その後はキヴォトスのどこかに身を潜めてひっそりと過ごしていると聞きましたが…」

 

「そう。私はここに来るまで、ずっとアリウスの自治区にいた。アリウスとしての任務を受けて、今はこうしてこの学園に潜入している…」

 

「な、何で…」

 

「ティーパーティーの桐藤ナギサ、彼女のヘイローを破壊するため…」

 

アリウスのことをよく知らない2人のためにハナコがアリウス分校について説明する。さらにアズサは自分がアリウスからナギサのヘイローを破壊するために潜入していると明かす。

 

「…っ!?」 「あぁ…そうか。そうなのか…」 「嘘でしょ!?そ、それってつまり…」

 

「アリウスはティーパーティーを消すためなら、何でもしようという覚悟でいる。アリウスはまずティーパーティーのメンバーであるミカを騙して、私をこの学園に入れた。詳細は知らないけど、きっとトリニティと和解したいとか、そういう嘘をついたんだろう」

 

「なるほど、ミカさんを…確かに彼女は政治には向いていないと言われていましたが…」

 

「俺は一体…今まで何をやっていたんだろうな…」

 

アズサの衝撃的な告白に、ヒフミは言葉を失い、ホットロッドは茫然自失である。そしてアリウスはミカを騙してアズサを学園に入れたという事実が発覚し、ホットロッドは自分の無力さに打ちひしがれるのであった。

 

「おそらくは全てが終わった後、その罪をミカさんに着せる…そういう流れを想定しているのでしょうか。アリウスがトリニティを憎んでいることは知っていましたが、なるほど…」

 

「ま、待って…急に何の話…?いや、嘘だとは思わないけど、別に今の私たちとは関係ないじゃん…?アリウスのことはよく分からないけど、それが私たちの補習授業部とどういう関係があるわけ…?アズサは何で急に、そんな話をしてるの…?」

 

「・・・」 「・・・」 「・・・」

 

「・・・」 「『・・・』」 “・・・”

 

ハナコはアリウスがミカを狙ったことを聞いて、アリウスの目的を理解したようである。一方のコハルはいきなりアズサの口から、突拍子もない事実が飛び出してきて、それが自分たちの現状と何か関係があるのかと、アズサに問い返した。それからしばらくの間、沈黙が続いた。

 

「明日の朝、アリウス分校の生徒たちがナギサを狙ってトリニティに潜入する。…私は、ナギサを守らなきゃいけない」

 

「・・・」 「あ、明日…!?」 「!?」

 

「うん、私はそれをどうにか阻止しないと」

 

「『作戦を』『阻止する』」

 

アズサが明日アリウスがナギサを襲撃すると明かしたことで、沈黙は破られた。アズサはアリウスに命じられたナギサのヘイローを破壊するのではなく、ナギサを守ろうというのいうである。彼女に嫌な思いをさせられたビーであったが、命の危機とあっては関係ないようである。

 

「本館には戒厳令が出ている状態…最後の試験でのナギサさんの無茶もあって、正義実現委員会は本館にいないタイミング…。なるほど、要人警護には最適の日ですね。アリウスもだいぶ頭は回るようです」

 

「ま、待って!おかしくない!?よ、よく分かんないけどアズサはティーパーティーをやっつけに来たんでしょ?なのに守るってどういうこと?話が合わないじゃん!」

 

「そ、そうだ…アズサ、君はナギサを殺すためにトリニティに潜入したはずじゃないか…」

 

「それは…」

 

どうやらアリウスにはトリニティの情報も筒抜けのようで、明日の朝ナギサの周りは手薄であることも掴んでいるようである。しかし、コハルはアズサの言葉を聞いて、ナギサを殺しにきたはずなのに、何故彼女を助けるのかが分からないようである。そして、それはホットロッドも同じなようだ。

 

「アズサちゃん自身は、最初からその目的でトリニティに来た。そういうことですね?」

 

「・・・」

 

「最初からナギサさんを守るために、ナギサさんを襲撃する任務に参加した…いわば、二重スパイ。アリウス側には連絡係として、常に問題ないとずっと嘘の報告をしながら…本当は裏切るための準備をしていた」

 

口ごもるアズサに対し、ハナコはアズサの真意を推測で語り始める。アズサはアリウスに命じられたナギサ殺害の任務を遂行しているように見せつつ、アリウスを裏切って彼女を守ろうとしていたわけである。

 

「な、何故ナギサを守ろうとするんだ?お前たちはトリニティが憎いんじゃないのか?」

 

「誰かから命令されたのですか?」

 

「…これは誰かに命令されたわけじゃない。私自身の判断だ」

 

アズサの行動はホットロッドやハナコには意味が分からないようである。ハナコは誰かから命令されたのかとアズサに問うが、彼女は自分の判断であると述べた。

 

「桐藤ナギサがいなければ、エデン条約は取り消しになってしまう。あの平和条約が無くなればこの先、キヴォトスの混乱はさらに深まるだろう。その時また、アリウスのような学園が生まれないとは思えない…」

 

「だから平和のために、ということですか?とっても甘くて、夢のような話ですね。今回の条約の名前と同じくらい、虚しい響きです」

 

「そんなに言わなくったっていいだろう!!」

 

どうやらアズサは第二のアリウスを生まないために、エデン条約を成功させたいらしい。そんな夢物語を聞いて、ハナコはどうやら憤りを覚えているようで口調が荒くなるが、それをホットロッドが抑えるのであった。

 

「エデン条約が締結されたところで、それが長続きなんてしません。そんなことはみんな薄々感づいていることです」

 

「そ、それは…そうですが…」

 

「それにエデン条約はトランスフォーマーには関係ありません。彼らは我々がどうしようと、この星で何万年も続いた争いを続けるでしょう。そんな有様のどこが平和だというのですか?」

 

「ごめん…」 「『すみませんでした…』」

 

そしてハナコはいい機会だと思ったのかエデン条約についてみんなが薄々感じていることを口にする。さらにはトランスフォーマーがこの星にやって来て無益な争いを続けていることを指摘して、ホットロッドとビーを気まずくさせた。

 

「トリニティでも本当の姿を隠し、アリウスでも本音を隠していた。アズサちゃんの周辺には。アズサちゃんに騙された人たちしかいなかった、ずっと周りの全てをだましていた…そういうことで合ってますか?」

 

「ハナコちゃん…」

 

「いつか言った通りだ。私はみんなのことも、みんなの信頼も…みんなの心も、裏切ってしまうことになる、と」

 

「アズサ…」

 

ハナコはさらにアズサを問い詰める。そんな彼女の言葉を聞いて、アズサはただそれを受け入れ肯定した。

 

「だから、彼女が探している“トリニティの裏切り者”は私。私のせいで補習授業部は、こんな危機に陥っている。本当にごめん。私のことを恨んでほしい。今のこの状況は全て、私がもたらしたことだから…」

 

“それは違うよ”

 

「…先生?」

 

“元々の原因はきっと、「信じられなかったこと」の方”

 

そしてアズサは補習授業部のみんなは自分たちのせいで、こんな理不尽な目にあっているので自分を恨んでほしいと言い出す。しかし、先生はそれは違うと言った。先生はアズサが全て悪いのではなく、元々の原因があると答えた。

 

“ナギサがもっとヒフミを、ハナコを、アズサを、ハスミとコハルを信じていたら。ミカがもっとナギサのことを信じていたら。もっとお互いがお互いのことを深く信じられていたら、こんなことにはならなかった”

 

「・・・。そうですね、そうかもしれません。今のナギサさんのように、誰も信じられなくなってしまった人を変えることは難しいです。誰かを信じるということは、元々難しいですし」

 

「あぁ、そうだな…。その通りだよ」

 

「ですがアズサちゃんは、私たちにこうして本心を語ってくれました。黙り続けることもできたはずなのに、謝ってくれました」

 

ナギサが、ミカが、みんながお互いのことをもっと信じあえていればこんなことにはならなかったと、先生は悲しくそう言うのであった。そもそも、誰かを信じることは難しいことである。そのことはハナコもホットロッドも痛いほど理解している。にも関わらず、アズサは補習授業部のみんなの前で真実を明かし、謝罪したのだ。

 

「先ほどはごめんなさい…。アズサちゃんの真っすぐな顔を見ていると、何だか心が落ち着かなくて、意地悪をしてしまったんです」

 

「・・・」 「『お、おう…』」

 

「補習授業部はちょっと変わった意味で、ある種の舞台のように注目を浴びる存在として生まれました。本来ならアズサちゃんのような“スパイ”は、こんな注目されるところに長くいてはいけないはずです」

 

「そうだな、スパイにとって目立つことは自殺行為だぜ…」

 

ハナコは先ほどのとげとげしい言葉をアズサに放ったことを謝罪する。そして、彼女はアズサがスパイであるにも関わらず、何故かナギサから目を付けられ続ける選択をしたことを指摘した。

 

「誰にも気づかれないように消える…そういう手段やタイミングは、今までいくらでもあったはず。しかしアズサちゃんは、そうしませんでした」

 

「・・・」

 

「その理由を、私は知っています。補習授業部での時間があまりにも楽しかったから。そうではありませんか?」

 

「・・・!」

 

当然アズサほどの戦闘員ならば、トリニティから消えることなど造作もないことである。しかし、彼女はそれをしなかったのである。ハナコはその理由が補習授業部での時間が楽しかったからだと答えると、アズサは図星とばかりに驚いた。

 

「みんなで一緒に勉強したり、ご飯を食べたり、お洗濯をしたり、お掃除をしたり…何をしても楽しいことばかりだったから。だから、この楽しい時間を壊したくなかった…目標に向かってみんなで努力すること…そしてヒフミちゃんとコハルちゃんと先生とホットロッドやバンブルビーと、みんなで知らなかったことを学んでいくことが楽しかったから…違いますか、アズサちゃん?」

 

「・・・。それは…私は…いや、うん。…そうかもしれないな。何かを学ぶということ、みんなで何かをするというということ…。その楽しい時間を、私は手放せなかった…」

 

ハナコは自分たちがこれまで補習授業部でやってきたを一つづつあげていく。彼女はアズサにとってその一つ一つが新鮮で楽しかったから、ずっと補習授業部に居続けたのである。

 

「何だか知ったような口をきいてしまいましたが…分かるんです、その気持ち。何せ…はい。同じように思った人が、いたんです」

 

「…?」

 

「なぜか要領が良くて、何をしても周りからおだてられてしまうようなタイプで…」

 

アズサの本心が分かったところで、ハナコは唐突に昔話を始める。彼女はそれを他人のことのように話すが、少し考えればそれがハナコのことだと気づくことができた。

 

 

 

 

 

「浦和さんは、本当にすごいですね!こんな問題も簡単に解けてしまうなんて…!」

 

「浦和様、この計画にはあなたの協力が必要なんです。ふふっ…」

 

「浦和さん、私たちと共に行きませんか。あのティーパーティーを牽制するには、私たちが…」

 

「準備をしておいてください、浦和ハナコさん。来年のティーパーティーの席は、あなたでほぼ確定ですから」

 

“…はぁ。私は、そんな人ではないのに…。私は、私は…”

 

ハナコはその優秀さゆえ、期待され色々な派閥から勧誘を受けていたのである。その中にはシスターフッドやティーパーティーもいたのである。しかしハナコはそんな状況に嫌気が差していた。

 

“その人にとってトリニティ総合学園は、嘘と偽りで飾り立てられた、欺瞞に満ちた空間でした。誰にも本心を話すことができず、誰にも本当の姿を見せることができないまま…”

 

「・・・。…それは、寂しくないかい?」

 

ハナコは唯一その本心を、彼女の友達である百合園セイアに打ち明ける。セイアは彼女の本心を聞いて、寂しいと言うのであった。

 

「「「「・・・」」」」

 

「その人にとって、全てのことは無意味で…学校を、辞めようとしていたんです。何せそのままの生活を続けることは、監獄にいるのと同じでしたから」

 

「だからわざとテストで、低い点数を取っていたのか…」

 

「ですが…その人とアズサちゃんは違いました」

 

みんなはハナコの生い立ちをただ黙って聞いている。彼女はトリニティにいることが無意味に感じており、辞めたがっていたのである。しかし彼女はアズサを見て、何かに気付いたようである。

 

「話は一瞬変わりますが…アズサちゃんは実際に今回の事が終わったら、この学園での生活は終わってしまうんですよね?そもそも書類を偽装して入っていたわけですし、アリウスのことも最後には裏切るのだとしたら、最終的には帰る場所も無いということですよね?」

 

「あっ…」

 

「・・・」

 

「それを知っていたはずなのにアズサちゃんは…補習授業部で、いつも一生懸命でした」

 

ハナコはアズサにこの一連の任務が終わればトリニティにもアリウスにも居場所がなくなってしまうことを確認する。それを聞いたヒフミはその事実にハッとし、アズサは伏し目がちに目を逸らす。しかし、そんな状況であっても、アズサは補習授業部で一生懸命であった。

 

「その人は試験をわざと台無しにして、学園から逃げようとしていたのに…一方のアズサちゃんは、短い学園生活に全力でした。どうしてそこまでするのでしょう、そこに何の意味があるのでしょう…アズサちゃんがいつも口癖のように言っていた通り、全ては虚しいもののはずなのに」

 

「例のヴァニタスなんちゃらってやつか」

 

「vanitas vanitatum…」

 

ハナコは絶望的な状況にも関わらず全力だったアズサに自分とは違う何かを感じていたようである。アズサがよく口にする口癖のように、自分も全ては虚しいと感じているはずなのに…。

 

「ですが同時に…アズサちゃんはその後ろに、いつも言葉を付け加えました」

 

“…うん。たとえ全てが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない”

 

「そうして…ようやく、その人も気付いたんです。学園生活の、楽しさに」

 

「ハナコちゃん…」

 

アズサは全ては虚しいものだと理解しつつも、だからといってそこで諦めず最善を尽くそうとしていたのである。アズサのその姿を見てハナコはようやく学園生活を楽しめるようになったのである。

 

「アズサちゃんの言っていた通りです。虚しいことだとしても、最後まで抵抗をやめてはいけませんね」

 

「ハナコ…」

 

「アズサちゃん、もっと学びたいんでしょう?もっと知りたいんでしょう?それを諦めてしまうんですか?」

 

「うっ…」

 

アズサのその生き方にハナコは救われたようで、彼女はそのことを感謝しているようだ。そしてハナコは再びアズサと目を合わせ、ここで諦めるのかと、彼女に問うた。

 

「何も諦める必要はありません」

 

スッ…

 

「桐藤ナギサさん…彼女を、アリウスの襲撃から守りましょう。そして私たちは私たちで無事試験を受け、合格するのです」

 

「『やる気』『元気』」

 

そしてハナコはアズサに近づいて、諦めることはないと彼女に言い聞かせる。さらに、ナギサを助け、みんなで試験に合格しようと高らかに宣言するのであった。

 

「後からどんな文句も言えないように、かけておいた罠はそのままに…。それでも試験会場に辿り着き、みんなで90点以上を取って、堂々と合格するんです。それが今の私たちにとって救いとなる、唯一の答えではありませんか?」

 

「…でも、そんなことは物理的に不可能なはず…。試験は9時から。アリウスの作戦開始時刻もまた、同じ時間に予定されてる」

 

「ほ、他の方たちに助けを求めるとか…?」

 

「・・・。それもそうですが…私たちがしっかりと試験に合格するためには、それだけでは足りません。まずは私たちの方から動きましょう。これまで様々な嘘や策略の中で弄ばれてきましたが…今度は私たちの方から仕掛ける番です」

 

ハナコはそれが唯一の方法だと主張するが、アズサにそれは不可能だと言われる。ヒフミは誰かに助けを求めることを提案したが、ハナコはそれだけでは足りないので、自分から動こうとみんなに促した。

 

「なんせ今ここには正義実現委員会のメンバーと、ゲリラ戦の達人と、ティーパーティーの偏愛を受ける自称平凡な人と、トリニティのほぼ全てに精通した人がいます」

 

「…?」 「へ、偏愛…!?」 「…?」

 

「さらには、勇敢なオートボットの戦士が2人…」

 

「『照れるぜ』」 「ゆ、勇敢かどうかは分からんが…」

 

そしてハナコはここにいるメンバーを一人ずつあげていく。どうやらヒフミはナギサから偏愛を受けていることには気づいていないらしい。

 

「そして、ちょっとしたマスターキーのような“シャーレ”の先生までいるんですよ?」

 

“ま、まぁ…”

 

「この組み合わせであれば、きっと…トリニティくらい、半日で転覆させられますよ♡」

 

「…はい!?」 「えっ、どういうこと!?何をする気!?」 「・・・」

 

最後にハナコは先生のことをあげて、自分たちなら半日でトリニティを転覆できると言い出した。その転覆という言葉を聞いて一同は当然困惑した。

 

「作戦内容は一旦、私にお任せください。“私にいい考えがある”というやつです」

 

「会ったこともないのに何で知ってるんだよ…怖いよ」

 

“私とビーがオプティマスのモノマネではしゃいでたの見てたの?”

 

「『本人には』『言わないで』」

 

作戦はハナコが考えるようで、彼女はオプティマスの言葉を引用してみせる。それを聞いた先生とオートボットの2人は何故それを知っているのかと血の気が引いた。

 

「さあ、今こそ力を合わせる時です。行きましょう!」

 

“えっと…と、とりあえず頑張ろう!”

 

「「「「「お、おぉーー!!」」」」」

 

ハナコの掛け声と共に、補習授業部は作戦を開始した。




アリウススクワッドにも彼女たちに協力するトランスフォーマーはいます。センチネルじゃかわいそうだし...。
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