絶望しかない世界と死   作:アルカンテナ

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本編
1話


「今ここに、ヴィスワ自由学園は内戦の終結を宣言します。」

生中継の音声が広報委員会の部室に響き、私は画面にのめり込む。

ようやく3年に及ぶ長く辛い、悲しみと怒りの混じる争いの終結を喜ぼうとした時だった。

 

キョアアアアア!

 

咆哮?絶叫?どちらとも言えない正体不明の爆音の声が響いた2秒後、カメラの三脚が倒されカメラの視界は天井しか映されなくなり、

天井に何か赤いものが飛び散りこべりついた瞬間、中継は切断された。

壮観な調印式会場の景色を映していた液晶は今ではただ異常事態が起きた事を伝える生徒会の警告画面に変化していた。

私の頭の中を嫌な想像ばかりが支配する。

「ルカ委員長!!」

調印式会場の事など気にも留めず本を読んでいた先輩を呼ぶ。

「…これはまずい…今すぐ向かおう。」

呼ばれた彼女は状況を即座に理解したようで、

動揺が手つきに現れながらも、彼女は行動を始めて自分もそれに続き、

銃と装備を手にしようと机に足を向けた時、

救難信号の高く、落ち着かない音が部室に響き渡る。

セノ生徒副会長に付けられた装置からの救難信号だ。

彼女は重度の心臓病を患っている為、ペースメーカーを

装着しており、ペースメーカーが正常に機能しなくなった時、または

心拍数に異常が発生した時、救難信号が発せられるよう設計されている。

彼女に死が近づいて来ている。それだけは確実だった。

気づけば私は先輩を置いて部室を飛び出し、調印式会場に走っていた。

15分ほど走っただろうか、あまり道中の事は覚えていない。

調印式会場の裏門に到着し、息も整えずに銃の安全装置を外し、

扉が爆破されたかのように湾曲した裏口に頭だけを出し、中を確認する。

建物の中は悲惨そのもので、既に手遅れとしか言えない状況だった。

自由を象徴する白い垂れ幕は赤黒く染まり、至るところに…

意識を失った同級生…先輩達が通路に倒れていた。

一見外傷が無いように見えた一人の生徒会の制服を着た子を

外に担ぎ出そうとした時だった。異常なまでに軽く、違和感を覚えた私はその子の身体をもう一度確認する。

私は身体から血の気が引いていく感覚がし、その子を落としてしまった。

何故異常なまでに軽かったのか、何故あの位置で瓦礫の下敷きにされていなかったのか

私が然程気にしていなかった疑問が急速に解明されていった。

彼女には既に下半身がなかったからだ。彼女の下半身があったであろう場所は微かな量彼女の中身を残して空気となっていた。

今までにない死への恐怖に正気を保てなくなりそうになりながらも私は通路に倒れた生徒を一人ずつ調べることにした。

嗅ぎ慣れていない臭いが鼻を突き刺し、生徒であったであろう赤と、黄の塊が視界を乱す。

「ゔっ…お"ぇぇっ…」

私はとうとう、目の前の惨状とこの惨状を起こした者がまだ居るのでは、

という恐怖に正気を保てず、

部室で食べていた軽食を全て戻してしまった。

「アヤ!!単独行動はやめろとあれ…ほど」

「ツッ…!!これは…」

ルカ先輩はこの惨状を見て、唖然し、恐怖していた。

私はもう何も吐くものも無いまま、吐き続けていた時だった。

「うわああああ!!」

ミツキ先輩の悲鳴のような絶叫のような声が建物全体に響き渡る。

先輩の悲鳴?が聞こえた方の廊下の角から私は顔を出した。

私はまだ先輩がどんな状況に置かれているのか、理解できなかった

理解しなかった方が良かったのかも知れない。

「やめろっ…!!やめろ!!」

先輩の恐怖が混じった声色の拒絶が廊下全体に響き渡る。

黒い壁ばかりのこの建物には似つかない白い何かに先輩が掴まれていた。

白い何かは巨大な人型の化け物のようだった。

奴は口元に先輩を掴んだ腕をゆっくりと運んでゆく。

急速に化け物が何をしようとしているのか、私は急速に…

それも全てを…理解した…

奴は…先輩を食い殺そうとしているのだ。

私は目の前の光景に足がすくみ、一歩も動くことができなかった。

やめろ!!先輩を離せぇぇぇ!!

そう叫ぼうとしても舌と口が強張って、小声すら出す事は叶わなかった。

私は目の前で先輩が死にゆく様を見届ける事しか出来なかった。

先輩の骨がゆっくりと…着実に砕けてゆく音がする。

私は目と耳を塞いだ、これ以上目の前の光景を見ていられなかった。

「ああああああ!!…」

先輩の甲高い断末魔が脳裏に焼き付く。

せめて…一人で行動せず、遅れて来たらこう思うこともなかっただろうか

そう考えると、先輩の死は自分勝手な行動への報いのようにも思えた。

私はやり場のない怒りと悲しみから奴を睨む

結局はコイツのせいで…先輩は…

「グルルルル…?」

まさか…こいつ…音で気付いて…

床が揺れるほどの振動と足音が近づいてくる…

廊下の角の先から…赤く汚れた白い体をした化け物が

私の目の前に顔を出した。歯が頭の半分を占めた奴の笑みのような顔は私に向かって次はお前だ、と言っているようにも見えた。

奴の左手に握られた頭の無い先輩は私の未来の姿の様に見えた。

私はようやく身体が動かせる様になった。

ルカ先輩の事など気にも留められず、私は全力で走った。

私は奴の次の獲物だ。もし捕まったら通路に倒れていた生徒達と同じ末路を辿ることになるだろう。

私は通路に倒れていた生徒の身体に躓き、派手に転んでしまった。

この距離だ捕まる。私は死ぬのか?こんな所で。まだ生きたい…

でも、もう逃げられない私が死を覚悟した時だった。

セミオートライフルの静かで重い銃声が響く。

ルカ先輩の愛銃の音だ、私は助かったらしい。

「アヤ…!!その裏口から早く逃げろ!!」

「もう撤収するんだ!早く!」

その言葉が私の最後の記憶だその後は…うまく思い出せない。

私はルカ先輩を危険な目に遭わせ、挙句生存者を助けることは愚か

遺品を持ち帰る事すら出来なかった。

私は何もできず、自分勝手に行動してしまった。

そして先輩を危険な目に遭わせ、犠牲を増やしかけた。

犠牲を悔やんでも仕方ない、そう分かってはいるが、忘れることができない。

頑丈な私達ですらいつ死んでもおかしくない

今までになかった恐怖が心の余裕を削ってゆく。

私は多分、生きているであろうメイカ先輩に電話を掛ける。

「メイカ先輩…」

「…アヤ。私は平ッ…はぁ。平気だ。」

どう聴いても様子がおかしい。

かなりの傷を負っている様に感じられた。

「ただ………はぁ…」

「セノが…セノがぁ!!」

メイカ先輩の声が強くなる。

「すまない…私が一番落ち着くべきかもしれないが、

落ち着いて聴いてくれ…セノは亡くなった…」

「お前も見たか…?あの化け物に…

セノは胸を貫かれて…ははは…」

何故、笑えるのか。私には理解できない。

人が死んでいる。だと言うのに笑っている先輩に私は憤った。

「何笑ってんですか!!先輩!!」

私は先輩に怒りを露わにする。

「誰も守れず、助けられず?頭を斬られた恐怖に負けて

1人逃げた自分…もう笑うしかないんだよ…。」

「私だってこんな自分が嫌だよ!

大切な人を目の前でまた失って!また守れず!!……

みんな、私が殺したんだ。…」

彼女も目の前で親友のセノ先輩を失い、彼女自身も重傷を負い…

逃げた事は仕方なかったのかも知れない。

でも…メイカ先輩が逃げなかったら、あの化け物と戦っていれば、

そう考えてしまう。

「メイカ先輩…またかけ直します。」

「分かった。」

私は続いて唯一の親友のユキに電話を掛ける。

「アヤ?良かった…生きてた…」

「状況は分かる?今私は会場に居た人達の

生死状況を分かる範囲で…まとめ上げた所。」

ユキの声色は悲しげながら冷静だった。

「今状況はどんな感じ…?」

私はメモを用意し、ペンをノックしながら言う。

「まず、御崎ミレ生徒会長は行方不明。

死亡の可能性が高いけどね…」

「次に如月セノ副会長は死亡。」

「とりあえず…今、生きてる人は?」

もう帰ってこない人の話なんか辛いだけだ。

私は生存者に希望を持とうとした。

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