烙印からの帰還者〜天上院家の末っ子は脳筋デッキしか勝たん〜 作:Eクラス
極東の地、
教導国家ドラグマと呼ばれる国に起きた悲劇はまた奇跡に変わる。
とある奇跡を企てた者の野望もこれでおしまい。
巨悪な白い神は終わりを迎えようとしていた。
片翼は凶兆の証だと同胞から忌み嫌われた者による必殺の砲撃。
かつてドラグマの聖女であり呪われてもなお騎士としてもう一度奇跡を起こした者の赤雷の一閃。
少年と少女の絆が奇跡を起こした白き竜の黄金の炎。
巨悪な邪神はそれでもまだ存在し続ける。
「くそっ、シュライグにルルワリリスにアルビオンの必殺だっていうのにそれでも倒せないとかどんなクソゲー!?」
この最終決戦の舞台で共に戦っていた少年。
「…いいや、これでラストだ!!」
「あのバカっ!マキナ!もうボロボロなのにやめときなよ!あとはシュライグ達に任せて…って、ヒトの話を聞けよバカヤロウ!!」
少年は戦友の制止を無視して走り出す。
それが使命なのだと己を鼓舞して、今にも魔力切れを起こしたボロボロになった身体に鞭を打つ。
少年はEXデッキにストックしてあった青と白のカードを取り出した。
ダメ押しだ。
ガス欠の魔力を振り絞り2体の精霊を召喚した。
「ぐっ……いってぇ…そりゃそうだ…めっちゃくちゃ痛ぇ…でも関係ない…ここで終わらせる…っ!!」
無茶を通り越したそれは最早自殺行為。
無理やり召喚条件を無視した、リンク4とシンクロレベル10の精霊を特殊召喚したのだ。
ルールを無視した代償は大きい。
魔力回路が焼き切れる痛みに耐えながら少年は叫んだ。
「アクセスコード・トーカー!バロネス!頼む!力を貸してくれ…ッ!!」
普段のデュエルでも最近出番が減ってEXデッキに眠っていた2体。
主のわがままに付き合わされるわけだが大役として申し分ない。
2体はやれやれと言いつつも口元は笑みを浮かべ、目の前の巨悪に全身全霊全てをかけた必殺の一撃を放つ。
『オノレオノレオノレ…コノまま終わらせてタマルカ!!異邦ノ精霊使イ!!キサマさえ!!貴様さえイナケレバ…ッ!!』
「わー、ヤベ…なんでこっちに落下してきてんの……?」
トドメは刺した。
しかし、巨悪の邪神は1番憎むべき邪魔モノを、最後の悪足掻きに道連れにすることを決めたようだ。
少年をぺちゃんこにするつもりだ。
「あのバカ…!!ボサッとすんな!マキナ早く逃げろ!!」
「ふぁー、やべ…!?」
少年は限界を迎えていた。
条件反射みたいなものだ。咄嗟に逃げようと身体を翻してしまったせいでバランスを崩してコケてしまった。
その判断が命取りになる。
先ほど召喚した2体は必殺を放って役目を終えていない。
限定的な必殺技だけのための召喚だったのだ。
どちらにせよ彼らはもういないし死に体では召喚できない。
さらに不幸なことに…
「マキナッ!!下!!」
「は?下??」
上じゃなく下?
意味がわからないがとりあえず下を見る。
そこにはぽっかり穴が空いていた。
「は…………………??」
「ホールだ!?なんでこんな時に!?」
戦友の悲痛な叫びも虚しく少年はホールと呼ばれる黒い穴に吸い込まれていく。
この世界において時には恩恵を、時には厄災をもたらすホール。
今度は落下してきた巨悪の肉塊が吸い込まれていった。
「うわーーーー!?」
「マキナーーー!!」
もはや少年に声は届かず。
なら、追いかけるしかなかった。
「あのバカも何してるねん!?」
「キャプテン、ヤバいですぜ!キットがマキナを助けに!!」
「クソっ!ワイらも行くで!!弟分たちをこのまま見捨ててたまるかっつってんねん……ッ!!」
「ダメです!ホールが閉まって…」
「それでもなんとか間に合わせろや!!」
「そんな無茶苦茶な…っ!?」
共に戦った者たちが少年たちのあとを追うことはできなかった。
1人、落下し続ける少年。
「くそ…どうすればいいのさ」
いや、ほんと運がない。
迫り来る巨悪の肉塊を睨みつけて舌打ちをするしかなかった。
こんな最後はあんまりではないのか?
ちょっと神様に烙印のテーマ使わせろと言っただけだ。
それがどうしてこうなった?
3年前にホールに吸い込まれて異世界に招かれて試練を与えられた。
生きるか死ぬかの世界で烙印の物語が少年を巻き込み動き出した。
そして、奇跡と悲劇と喜劇を繰り返しながらフィナーレを迎えたというのに。
これじゃバッドエンドだ。
「あのヒゲ、いつか全部むしり取ってやる」
自分に試練を与えた性悪神様に悪態をつきつつ、絶体絶命のピンチをどう乗り切るかを考えるしかなかった。
(いや、オレ1人なら助かるんだけど…)
少年はすでにホールから吐き出された。入り口があれば出口もある。
ホールの向こう側の世界というやつだ。
夜空に放り出された少年は落下すると同時に地上を捉えていた。
夜に眩くネオンが彩る烙印とは異なる世界。
少年の記憶の片隅に残るわずかな情報。
あー、やべーという感想しか出なくなる。
「あっはっはっあの形…どう見ても日本じゃーん」
もはや怒りを通り越して笑うしかない。
これが最後の試練だとしたら性格が悪すぎる。本当にどうしようもない理不尽の矛先はまさかの少年の故郷。
やっと帰還できると思ったらお土産に災厄まで持ち帰ってくるとか人類史上最悪のレッテルを貼られそうだ。
(さてどうするかね…考えろ考えろ…)
1人だけなら乗り切れる。
あと一回死ぬ気で魔力を回して空飛ぶ精霊を召喚してあの巨悪の肉塊を避けるだけ。
特殊召喚するコストがまだある。
それだけなら手はあるのだ。
(でも、そうじゃないじゃん)
少年が回避できても落下するアレは回避できない。地上に衝突して未曾有の大災害となるからできるわけがない。
あそこには、元いた世界なら自分の家族も住んでいる。
では、どうするか…
「はぁ…賭けだ」
作戦なんてものはない。
デッキの枚数はこの最後の戦いで60枚中、51枚まで消費したらしい。
生死の狭間で残りのデッキに何が眠っているかなんてわからない。今から墓地や除外したカードを調べる猶予なんてものもない。
考えている暇はない。
だからこそギャンブル。
「出てこい
少年のデッキからカードを8枚除外して、正規で特殊召喚したのは機械仕掛けの金色龍。
半ばヤケクソにデッキは残り1枚となった。
しかも召喚した精霊は今にも消えかけている。
そう。少年の魔力が、命の灯火が残り僅かだってことを暗に示していた。
でも、だからどうした。
少年はデッキの奥底に眠っていた最後のカードに全てを賭けたのだ。
「オレの最後のターンでいいよな?ケリをつけようぜディス・パテル…いや、哀れな祇官サマよぉ。オマエの奇跡もこれで終わりだ」
『ヤレるモノならヤッテミロ、テンジョウインマキナァァァアッ!』
少年のラストターン。
最後のドローをした。
少年の狙うカードの確率は60枚の中の3枚。
ネックだったのは叢雲の効果で特殊召喚時にデッキの上から8枚裏面で除外にしないといけなくてデッキ事故が発生しやすいことである。
生前からMDでも何度もやらかしていて肝心な時に限って引きたいカードが全然引けないことなんてザラにある話。
しかしだ。
今この瞬間だけは彼に与えられた生涯最高の引きの強さを見せた。
幾度も試練を乗り越えた者への祝福なのだろう。
(これは神!これって最高のエンドロールじゃん!)
バッドエンドではなくハッピーエンドで終わらせれるならと少年はニヒルに笑う。
最後に引いた魔法カードを発動させた。
「オレの勝ちだ。死者蘇生」
その効果は墓地からモンスターカードを蘇らせる。
親の顔よりも何度も見てきたその魔法カードによってあの最終決戦の舞台で一度葬り去られた精霊が蘇る。
「甦れ紅蓮魔獣ダ・イーザっ!!」
少年の切り札。
攻撃力26000
防御力26000
このモンスターの攻撃力・守備力は除外したカードの枚数×400である。
少年がなんやかんやデッキとEXデッキから除外した枚数は65枚。
その圧倒的な脳筋パワーで頭上に落下する巨悪肉塊を迎え撃つ。
それは例えるなら隕石と隕石の衝突のようなもの。
凄まじいエネルギーのぶつかり合い。
そして、
『グガガガガ…コノ、ワタシガ…コノワタシガ…オノレオボエテイロ…テンジョウイン………ッ!?』
巨悪肉塊はムキムキ脳筋紅蓮魔獣のワンパンに耐え切れずドパーンと破裂し弾けた。
そして、それを見届けた少年もまた衝撃破に吹き飛ばされて、さらに急降下していった。
「あーあ、勝負に勝ったけど試合に負けたってやつ?まっ、オレの最後にしちゃ最高の幕引きか…」
ここで死んでしまったら負けも同然。
しかし、異世界を救った。
なんかついでに日本も守った。
それなら家族も守れたってことだ。
それだけで十分だと考えた。
これが自分の試練だったのだ。
たぶんこのまま地面に衝突してグチャリと肉塊になって誰か通行人の心にしっかりトラウマを植え付けるんだろうけども。
まぁそれはそれでよしと考えた。
あと、心残りは…いっぱいある。
戦友との約束も果たしていないとか。
ケモ耳ハーレムを作る夢とか。
烙印テーマでオレTUEEするとか。
姉と喧嘩をしてそれっきりで烙印の世界に行ってしまった。それで謝ることも安心させることもできないこととか。
(兄さんも行方不明になるんだっけ?でもそのうち帰ってくるんだろ?泣いている姉さんなんて見たくないし…だったらあとは兄さんに任せよ。もういいや、オレは…)
疲れた。
そう思い目を瞑った。
生きることを諦めた。
もう魔力は無いしカラダも動かせそうにもない。
最後に目にしたのはどこぞのスクランブル交差点。
ビル群はあの衝撃の余波でガラス窓は割れて地上にいた人々は大パニックを起こしている。
誰かが「人が降ってくるぞー!」と叫んで悲鳴をあげていた。
誰だよそのバカ?あ、オレじゃん!という感じで最後に爪痕を残してやろうという魂胆だ。
しかし、少年はトマトが落下した時のようにグチャってなることはなかった。
「マキナーーー!!」
「ーーーーーっ!?」
少年の後を追いかけてきた戦友の声。
発明バカの少女は黒鉄の竜のような乗り物から身を乗り出して間一髪、少年を空中キャッチした。
「キミ、ホントに無茶するなー」
「約束を破ろうとしたバカマキナが悪いっ!!」
「はいはいオレが悪かったよ」
「ムー…」
むーって、かわよかよ。
膨れっ面の戦友を見て笑う。
自分の命を救ってくれたのがこの戦友で本当によかったとお礼を言う。
「キット、助けてくれてありがとな」
「わかればよろしい♪」
鼻歌まじりに戦友は黒鉄の乗り物を大きく旋回した。
街はちょっとどころじゃない騒ぎだけども渦中にいた2人からしたら些細なもの。
あの決戦からお互い生き延びた喜びを今は噛み締めるとしよう。
「ふーん、これがマキナの故郷?不思議な街」
「まぁキミたちが生きるにはちと息苦しいと思うよ?」
「でも、なんだかキレイ…」
少年もよろよろと体を起こして外の景色を見る。
お世辞にもロマンチックな光景だけどもそんな気分にはなれそうにない。
街はちょうどクリスマスシーズンみたいだ。
それでこんなに寒いのかと思う。
「ホールは閉じちゃったね」
「でも、キミなんだか嬉しそうだね。帰れないじゃん?」
「でも、マキナがいる。約束もしたもん。ボクたち2人ならきっとなんとかなるって」
「それな。オレのケモ耳ハーレムの夢はまだまだこれからだし笑」
「……ほんまそれキモい」
このバカマキナ心配して損した!と戦友は少年に馬乗りになりいつものように取っ組み合いが始まった。
少年も満更じゃないが今すぐにでも意識が吹っ飛びそうなほどの激痛が身体全体に迸る。
本当にバカなのだ。
はたから見ればじゃれ合いにしか見えないのだがな。
そろそろオチを着けて締めるとしよう。
「あー、あのキットさん?一個聞いていいかい?」
「何さバカマキナ?」
「戯れるのはいいんだけどもちろんオートパイロットにしてあるよな?」
「…………あ」
「ポ、ポンコツケモ耳バンザーイ…」
異世界の乗り物・撃鉄竜リンドブルムは夜空へ高く旋回して、そして、高度をぐんぐん下げて墜落した。
それはいつの年かの12月17日。
天上院真樹那と鉄獣戦線キットはデュエルアカデミアの浜辺で発見されたらしい。
To Be Continued…
キットかわいい!キットかわいい!
この小説を読んだキミたちもキットかわいいと言いなさい!
※日付変更 真樹那が帰還した日→12月17日