烙印からの帰還者〜天上院家の末っ子は脳筋デッキしか勝たん〜 作:Eクラス
12月17日。
ソラに突如として出現した謎のホール。
高密度なエネルギー源から飛び出してきたのは1人の少年と謎の物体Xであった。
少年は謎の物体Xを地上に落下させないように立ち向かった。
デュエルモンスターズのカードだろうか?
デュエルディスクも無しで実体化させた少年は死者蘇生を使い紅蓮魔獣ダ・イーザを特殊召喚させ、シンプルだが凄まじいパンチで謎の物体Xを撃破した。
数値化すると攻撃力26000というとんでもない数値を叩き出した。
ダ・イーザの効果を知る者ならアレがチートでない限りあの少年があの瞬間だけを戦っていたことじゃないことがわかる。
その後、力尽きた少年はケモ耳少女に救出されるも痴話喧嘩を始めデュエルアカデミアに墜落するオチが着いてくるのだが…
「磯野、もう一度初めから再生しろ!それから痴話喧嘩はカットでいい!」
「はっ!…おい、もう一度再生だ」
「…かしこまりました」
メインモニターを睨みつける男により、磯野という男からオペレーターの女性へと指示が下された。
無駄な伝言ゲームだなぁと思う磯野であるが、磯野が全て復唱しなくてもオペレーターの女性は痴話喧嘩のとこはカットして、リピート再生に切り替えた。
フーンと唸る上司がいる手前尋常じゃない緊張感が伝わってくる。
(なんとも忌々しい…昔の俺ならオカルトなんぞ一蹴していたわ。だが、これは闇のゲームに近い何かを感じるぞ遊戯…)
男はかつて行われた闇のゲームの体験者だ。
男はかつて神の持つ力を知っている。というか使っていた。
男はかつてファラオの亡霊に執着していた。
(もう終わったことだ…そして、アレも終わったことなのだろう…しかしなんだこの胸騒ぎは?)
男は振り返った。
後ろにはラボがありそこには1枚の白いカードが封印されていた。
『深淵の神獣ディス・パテル』
シンクロモンスター?見たことのないカードだ。
それにあまりに禍々しい闇のエネルギーが伝わってくるこのカードは墜落して浜辺で倒れていた少年の近くに落ちていた。
いち早く危険だと察知した男はこのカードを自身の所有する宇宙ステーションへ誰の手も届かぬよう厳重に封印することにした。
科学者たちが目の色を変えたくなるほどの未知のエネルギーを放っているらしい。研究したくなる気持ちは本人もわからなくもないがな。
アレが謎の物体Xだったとしたら悪戯に扱うわけにはいかなかった。
(ふん…やはりあの小僧に直接聞くしかあるまい)
あの事件から7日は経っているもまだ目覚めていないそうだ。
しかし、時期に目を覚ますだろう。
「社長、木馬様から緊急連絡が…」
「なんだ!」
「今先程のこと、例の少年が目覚めたそうです」
「そうか」
ほら、目覚めた。
なら、社長と呼ばれた男はマントを翻し少年の元へと向かうだけ。
「磯野!ついてこい!全速前進だ!」
「は、はいぃぃいっ!」
男と磯野は共に宇宙エレベーターに乗りその場を後にした。
3年前、林間学校の時に失踪した事件は記憶に新しい。
天上院家の末っ子に生まれてきたということでさぞ大切に甘やかされて育てられてきたのだろう。
親には迷子の懸賞金1億円を掛けられ日本全国が大騒ぎになった面白い経歴を持つ少年だ。
もちろん真樹那自身がそれを知る由もなく、知れば大爆笑している。
そんな親の心配などつゆ知らず当の本人はこことは異なる世界を大冒険してきたという。
なんでも神様に烙印というデッキテーマを賭けて試練を与えられたとか?
様々な種族との出会いがあり笑いあり友情や青春やら恋も涙もあって、時には何度も死にかけていてなんだかんだギリギリを生きてきたらしい。
この3年間でデュエルディスク無しでカードを介して精霊のチカラを借りて戦えるようになったそうな。
そして、ケモ耳が最高なんだとさ。
「おい小僧。貴様の性癖なぞ聞いとらんわ!」
「へ、へーい」
デュエルアカデミアに墜落した真樹那は現在、海馬コーポレーションに回収され極秘に処置され隔離されていた。
社長自ら少年への事情聴取するほどの事態。
天変地異の前触れかと社内はどこもかしこ異様な緊張感を漂わせていた。
「そして、貴様達は地球へ帰還する時にとんでもない厄ネタを連れてきてくれたということで間違いあるまいな?」
「あははー照れますな〜(………達?)」
「おーい兄様は褒めてないぞー」
付き添いをしていた海馬の弟、木馬は呆れていた。
「お前達がいろいろやらかしてくれたおかげでこっちは大忙しだったんだぞー」
木馬曰く、あの事件は完全隠蔽することは難しく海馬コーポレーションの極秘の実験が失敗した事故ということにするらしい。
ビル群の窓ガラスやら器物破損も会社が全て賠償。屋内屋外問わずその場にいて負傷した者への治療費の負担も全て会社が責任を持って出す方針となったらしい。
あと、ネットに出回っている動画の削除。噂では『1億の男が異世界から帰還した!?』という考察動画もここ数日で世に出回っていたそうな。
それを木馬が徹底的に削除した。
不幸中の幸いなのは死者は出なかったということ。
それを聞いて少し安堵する真樹那であった。
「でも、なんでアンタ達がそこまで…?父さん達と交友ありました?」
「貴様は阿呆なのか?それとも言わないとわからないただの無知なガキなのか?」
「……いや、社長が欲しいのは今回の情報でしょ?」
「ふん。こちとら今しがた貴様が馬鹿みたいにペラペラと喋ってくれたおかげで十分手に入ったわ」
そう言って海馬は懐から2枚のカードと1枚の写真を真樹那に渡した。
「喜べ小僧。貴様のいう神の試練を乗り越えた報酬とやらだ。受け取れ」
「は……?」
神様の試練?
その報酬がたった3枚??
真樹那の手にあるのはまさしく『烙印』に関わるカードだ。
『撃鉄竜リンドブルム』『鉄獣戦線キット』そして、どこかに厳重に封印されたらしき『深淵の神獣ディス・パテル』の写真。
墜落した現場に…真樹那が倒れていたすぐ近くに落ちていたらしい。
「なんだよそれ…」
あの死闘を生き抜いたにしては割に合わない報酬。
「なんでなんだよ…オレがどれだけ必死な思いで戦ってきたと思ってるんだ……ッ!?」
自分の物語にどれだけの犠牲が出た?
その報酬の対価に戦友の声もカードから伝わってこない。
あまりに非道。外道。理不尽さに流石に真樹那の心は折れた。
落ち度があるとすれば自分が『烙印』のちからを求めたから。
ただの人間が求めていいモノじゃなかったのだ。
だから、友を失った…
「オレのせいだ…烙印デッキを求めたから……ごめんなぁ、キット。本当にごめん……ッ!!」
大粒の涙が溢れる。
3年間我慢してきたものが、弱い心を見せない自尊心が崩れてしまいそうになる。
真樹那はみっともなく泣いた。
しかし、これを許さない者がいた。
「おい小僧!何を泣いている?そんなヒマが今の貴様にあると思うのか!」
真樹那は海馬に胸ぐらを掴まれた。病み上がりだろうが傷だらけの子供だろうが関係なかった。
「よもや貴様、もう烙印デッキはいりません。もう僕ちんには無理でしゅー。だからもう関係ありませ〜んなどと腰抜け根性丸出しのふざけたことを言わないだろうな?」
「あ?そう思っていたら何が悪いんだ?オレが烙印デッキを求めたらまた人が死ぬかもしれない。というか、犠牲はあった!もうすでにあっちの世界でいっぱい人が死んだんだよ!地獄みたいな戦争で!沢山だ!これ以上こんな目にあってたまるか!」
「それで貴様は厄ネタを持ち帰ってきたわけだが?」
「うぐっ…で、でもそれは……俺のせいじゃ……っ!!」
ないとも言い切れない。
もう一度話は戻る。
もう一度確認しよう。
真樹那が『烙印』デッキを望んで試練に挑みこちらの世界にも飛び火した。
「でも、もう終わっただろ!確かにオレはディス・パテルを倒した!あの戦争は終わったんだ!」
「本当にそう思うか?」
「は、はぁ?」
「なんでって顔だな…ふん、貴様のいう戦争とやらは終わったのだろう。この俺もヤツの最後を、動画だがくまなくチェックして見届けた。ヤツの中から飛び出す何者かなどというくだらない展開もなかった。それは断言しよう」
「………」
真樹那は大人しくなる。
これはただの理不尽じゃない。
駄々をこねる子供を黙らせる大人の暴力でもない。
海馬瀬戸という男が、あの伝説のデュエリストが、闇のゲームすら体験した者が、わざわざ熱くなるほどに何かを伝えようとしてくれているのだ。
「いかんな、この俺も少々熱くなりすぎたか」
「いて…………」
やれやれと言って真樹那をベッドに突き放した。
今の彼を扱うには少々乱暴くらいがちょうどいい。
「天上院真樹那。貴様にもう一度問おう。神の試練とやらは終わったのか?貴様の目的は果たせたのか?」
「くそ………………まだ、終わってない」
カードは3枚の報酬。それが答えだ。
真樹那の求めた俺TUEEEができる『烙印』デッキは完成していない。
だから、試練は終わっていない。
流石に人生ハードモード過ぎるだろ、と悪態をつく。
「くそ、嫌なことを思い出した。アイツもまだ生き残っている可能性もあるじゃん」
旅の途中で出会った真樹那と同じくらいの歳の少年少女。そして、彼らの旅路を邪魔する道化の存在がまだいた。
もうこれでゲームセットにしようと勝手に終わらせようと都合の悪いことは頭の隅に追いやってしまっていた。
頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
「アルバス、エクレシア…皆んなごめん、まだ終わりじゃなかった。勝手に終わらせようとして、ごめん」
真樹那はやるべきことがある。
だから、「社長、オレは……」と決意を新たにしようとした時だった。
「シャチョウーー!モクバーー!たいへーん!大変だよー!!」
「は?」
真樹那の出鼻は挫かれた。
それもよく知ったポンコツそうな友の声にだ。
「おっ!マキナもやっと起きたんだ!起きるのが遅いよ寝坊助マキナ!」
「な、なんか生きてるーーー!?」
それは今先ほど真樹那が勝手に決めつけてカードになって死んだと思われた戦友の姿がそこにあった。
ケモ耳バンザイ!生きてるって素晴らしい!!
「は?何言ってるの?ボクが簡単に死ぬわけないじゃんバカマキナ!」
「じゃあなんでオレが目覚めた時にすぐに駆けつけてくれなかったのさ!?」
「は?ナニその自意識過剰キモいんですど!ボクだって三日三晩付きっきりだったさ!でもとっても退屈で飽きてラボ借りて新兵器作ってただけじゃん!」
「ほんとキミってウルトラ発明バカじゃん!?」
「うるさい寝坊助泣き虫バカマキナ!」
「か、かわいくねーよこのケモ耳!!」
「な、なにをー!?」
などとじゃれあい出したものだから我慢の限界だった海馬は2人に拳骨をして仲裁に入った。
今度こそ理不尽な大人の暴力だ!という真樹那の主張はさておき。
「おい小娘、何があった?いいか?要点を簡潔に答えろ!」
「は、はいぃぃ!」
(キットのやつ。ちゃっかり躾けられてるじゃん…)
などと、言っている場合ではなかった。
「ほんとヤバいんだって!モニター!なんでもいいからモニターつけて!早く早く!」
壁にかかってあるテレビを指差した。
リモコンどこにあるの?というキットの焦りっぷりは尋常じゃないみたいだ。
海馬は磯野を使わずに自らスイッチをオンにした。
そして、そこに映っていたのは…
「は?」
「兄様、これは……」
「うぅぅぁ、瀬戸様……」
「……」
海馬コーポレーションが誇る宇宙ステーション。
数時間前に海馬と磯野がいたあの場所だ。
しかし、どうやら緊急事態のようだ。
けたたましくアラートが鳴り響く。
ステーション内はすでに火の海だった。
人が倒れていた。
海馬コーポレーションのスタッフだ。
そして、その上にどっかりと腰を下ろす少年の姿。
手には厳重に封印されていたはずのディス・パテルのカードが奪われていた。
何者なのか…
否、真樹那とキットは嫌というほどよく知っている。
その者は烙印の世界に混沌をもたらした道化である。
「やっぱりオマエなのね、アルベル…」
『おはよ、マキナ。さぁ、ゲームをしよう』
云うならば、神の試練とやらは続く。
To Be Continued…
ふーん、遊戯ぃ…
今回も何やらきな臭い闇のゲームの匂いがプンプンするぞぉ!
※日付変更 真樹那が帰還した日→12月17日
※日付変更 真樹那が目覚めた日→12月24日