烙印からの帰還者〜天上院家の末っ子は脳筋デッキしか勝たん〜 作:Eクラス
マスカレーナが何者かに襲われた。
異変に気付いた真樹那はすぐにアポロウーサとバロネスを向かわせた。
しかし、現場にたどり着いた時はもの抜けのから。
もうそこには誰もいなかった。
(確かに戦闘の跡があるな…)
(広場の方も、マスターのお友だちさん達以外はいませんね。彼らは無事のようです)
(そう。わかった…)
戦闘の跡。
床が一部ぶち抜かれた痕跡が残っているぐらいだ。
それから精霊のいた痕跡。残り香みたいなもの…
デスピアンの臭気ではない。
しかし、良い精霊とは言い難い負の面が強い。
ドロッとした気味の悪さというより清々しいほどにハッキリとした殺意の感情。
収穫はそれだけ。
それ以上のことは何もわからなかった。
(その…マスター。マスカレーナさんはご無事でしょうか?)
(なんとかね。当分の間は絶対安静だ)
死に際まで追い込まれていたことはわかっていた。
だから、あの時真樹那はポ◯モンよろしく「戻れマスカレーナ」をしてカードに引っ込め難を逃れた。
マスカレーナは啜り泣いていた。
役に立てなかった…と、謝る始末。
それが強く印象に残っていた。
(マスカレーナさんを襲撃した何者かは、やはり闇のデュエルと何か関係あるのでしょうか?)
(普通に考えたらそうだろ。もしくは白いカード関係か…ワタシ達じゃさっぱりわからん。馬鹿マスターなら何か知ってるんじゃないのか?)
(んー?さあねー。検討もつかないー)
真樹那の知っている物語にこんな筋書きはない。
十代たちが白い怪物に襲われることもない。
完全にイレギュラーが起きたと予想される。
考えたくもないことを考えさせられる。
傍に姉がいる手前、取り乱すこともできず冷静に対応するしかなかった。
(向こうもデュエルが無事終わったみたいです。彼らの勝利ですよ、マスター)
(そっか。なら、撤収しよう)
(寮に出るまではワタシ達が護衛に付いた方がいいんじゃないか?)
(十代は精霊が見えるはず。確か、隼人も精霊の声のみだけど聞こえるはず。護衛というより、辺りを警戒しつつ距離を取りながら撤収って感じにしよう)
(わかりました)
(わかった)
十代が勝つということはわかっていた。
本当の闇のデュエルにも勝つことも。
真樹那と明日香が待機している寮の外へ出てくる。
十代は翔をおぶっていた。
「翔くん、どうしたの…!?」
当然、明日香は心配する。
「へへっ。大丈夫だ。疲れて眠っているだけさ」
十代は明日香に心配かけまいと説明した。
「十代たちも平気かー?」
「俺たちは平気だぜ!なぁ?隼人?榊?」
「あ、あぁ、十代が頑張ってくれたおかげでみんな無事なんだな」
「えぇ、そうね。彼、とても頼りになったわ」
「そうか。それならいい」
端的に、だけど確認は必要だ。
明日香を安心させるため。
自分は内心穏やかでない。それを悟られないように、変に怪しまれないために。
「そっちの方こそ何かあったのかしら?アナタ、怖い顔してるけど」
めっちゃ顔に出てるらしい。
「そう?オマエの顔見たからじゃね?」
「あっそ…相変わらずの減らず口」
「おい〜、こんな所で喧嘩はやめろよー?」
「十代。これはオレとコイツの挨拶みたいなもんだから気にするな」
「そうね。この程度で喧嘩なんて言ってたら本当にした時どうなるのかしら?」
「さてね…大怪獣バトルでも勃発するんじゃね?」
いうて2人とも目は笑っていない。
いつ勃発するかもわからない。
本当にこの2人はどうしようもなく水と油なのだろう。
「そんなことよりも明日香さん。はい、これ」
「これは吹雪兄さんの写真…!?」
榊玲奈は真樹那を横目に明日香に兄の写真を渡した。
確かに天上院吹雪の写真だ。
『10JOIN』は兄がいつもシャレで書く癖がある。
アニメのストーリー通りに、しかし、十代の手からではなく榊玲奈の手から…
これはどういうことだろうと真樹那は考える。
別に些細なことかもしれない。
でも、真樹那は榊玲奈が絡んだというだけで過敏に反応してしまう。
何か裏があるのじゃないのかと疑いたくなる。
「アナタのお兄さんの手がかりはコレだけだったわ。ごめんなさいね」
「本当はもっと重要な何か手がかりになるものを見つけれたらよかったんだけどさー。写真以外、何にもなかったぜ」
「ううん…これだけで十分よ。みんなありがとう」
結末を知っている真樹那からすると微妙な顔をするしかなかった。
「ほら。真樹那もみんなにお礼をちゃんと言って」
「んー?あぁ、みんなありがとな」
今は何も言えない。
それまでは姉の側にいるつもりだ。
でも十代たちもいる。
大丈夫だ。
どんな形であれ姉が少しでも安心してくれたらそれでいい。
今はそれでいい。
そう思うことにして今日は納得したかった。
でも、我慢の限度ってものがある。
みんながそれぞれの寮に帰る別れ道…
「あー、もうムリ。榊、ちょっと話がある。姉さん先に帰っといてー」
「え。いや、ダメでしょ。あなた今から榊さんと喧嘩しますって顔に書いてあるわよ?」
「ちっ…何故バレた!?」
今日のところは諦めるしかなかった。
明朝。
真樹那は海馬コーポレーションの木馬先生、それから松田女史とミーティングを行うことにした。
キットは呑気に寝ている。
真樹那は昨日起きたことを説明した。
肝試しのこと。
闇のデュエルのこと。
マスカレーナが白い怪物に襲われたこと。
そして、榊玲奈に喧嘩売ろうとしたこと…
大人2人はため息を吐いた。
『真樹那ー。よく踏みとどまったなぁ。成長したよなー。短い付き合いだけどお前の成長を感じて俺様は嬉しいぞー馬鹿野郎』
『……』
「ほんと姉さんが止めてくれなかったら危なかったね」
明日香の存在は大きい。
『あの嬢ちゃん爆弾抱えてんだから喧嘩売るのもほどほどにしとけよー。松田もちゃんと見張っとけよ?』
『……かしこまりました。木馬さま』
無茶を言う。
監督不行届と言われましても問題児2人を喧嘩させないなんてことは無理難題だ。
ため息が出る。
『それより、その白い怪物っていうのは精霊だとして、やっぱり榊の嬢ちゃんが絡んでいる。お前はそう読んでいるんだよな?真樹那』
「そーね。黒の黒…ちょいグレーだけど榊以外に考えらんねー」
『それには根拠があるんですか?嫌いな相手だからって証拠もなく感情だけで決めつけるのはよくないですよ?』
「根拠?証拠?そんなものよりオレの直感だよ。オレの魂がそう言ってんだ」
『愚の骨頂だな。だけど、真樹那の精霊だけが襲われたのが気になる点だな。もし、闇のデュエルが関係していた場合に1番被害が及ぶのは当事者だろ。それを無視する理由がない』
「そーなんだよなー」
『じゃあ、榊の嬢ちゃんが黒だと仮定して、何故真樹那の精霊を襲わせたのか?』
「八つ当たり?腹いせ?」
『おいおいもうちょっとマシな答えを出せよー』
『ひどい回答ですね…そんな子供地味たことあの子が、自分の不利になるようなことします?』
榊玲奈は阿保ではない。
そこまで自分の感情をコントロールできない子供じゃあるまい。
いやいやあり得ないと首を振る大人2人であった。
『松田はどう思う?お前、真樹那にあのこと伝えてあったっけ?』
「あのこと?」
『私が…榊さんと裏で手を組んで天上院くんに復讐しようという話ですね』
「えー…」
『もちろん表向きの話しです。そうやって榊さんにコンタクトを取り、彼女を抑制し、同時に情報共有もできれば例のカードの手がかりも掴めるのではないかという作戦です。そのためにもこちらの情報もある程度渡してあります』
「おーダブルスパイってやつ?松田さんやるじゃん!」
『…あなたに褒められても嬉しくありません』
「はいはいツンデレ乙」
『ツ、ツンデレじゃありません…!!』
松田は真樹那にツンなのだ。
鬼の形相で睨まれる。
『で、どうなんだ?榊の嬢ちゃんは何か知っている感じなのか?』
『…申し訳ありませんが今のところは何も得られる情報はありません。精霊を使える話なんて知りませんでしたし』
「…」
『そうか。なら、今回の一件でその可能性が出てきたってことだけでもよしとしようぜ。真樹那は今まで以上に警戒を怠るなよー?夜道に背後から刺されたくなかったらなー』
「うへー」
精霊を使いヒトに危害を及ぼすレベルなら見過ごせないが今は何もわからない。
『次。例のカードの件だがそっちの方はどうなんだ?進捗は?』
「いや、こっちの方は全然進展なし。どこにあるんかねーホント」
『…校内は探し尽くしました。学園周りも、寮の方も調べれる範囲ですが調査済み。灯台や変電施設も当たってみましたが同じく成果なし』
「灯台、変電所はまだオレ行ってないなー。オレも調べてみるけど一緒だろーね。ないものはないんだよマジでー」
『お前、向こうでトレジャーハンターやってる言ってなかった?頑張って探せよ』
「三流もいいとこよ?期待しちゃダメだ」
『じゃあもうお前トレジャーハンター名乗るなよな?期待してしまうから』
「はい。さーせん…」
異世界でトレジャーハンター生活をしていた割になかなか見つからないお宝探し。
真樹那も自信を無くしてしまう。
「真面目な話し、ないもんはどれだけ探してもないんだよ。アイツ、そうやってオレをイジメて楽しんでるんだきっと」
『しかも、期限付きで12月24日には榊の嬢ちゃんがお前を…』
「うわ…」
『…それが敵の狙いですか?』
『今のこの状況を楽しむつもりなら可能性としてはなくはないだろう』
「木馬せんせー!オレはどうしたらいいんですかー?」
『頑張れ!強く生きろよ!』
「うわ、もう頼れるのは松田さんだけだ!?」
『…私、あなたのこと嫌いですから助けませんけど?』
「あ、そっか…」
改めて松田女史も真樹那が大嫌いだということを再確認した。
『…まぁ、冗談は置いといて。これだけ探しても見つからない。例の掲示板はヒントすらない。この状況から考えますと、もう誰かの手に渡ったという線も可能性としてあるのでは?』
「それ本気で言ってる?」
『あー…なくはない話じゃね?』
「いや、普通の人間が触れていいもんじゃないし、それこそデスピアン・アレルギーのオレたちは見逃さないって。すぐバレるさ」
『じゃあどうしてないんだよ?』
「いや、だからまだ誰の手にもないんだって」
『…もし、それが榊さんの手に渡っていたら?』
「は?それこそありえないじゃん。その時点であいつの復讐は終わりだ。カード破り捨ててゲームセットってな」
それこそあり得ないと真樹那は思う。
ディス・パテルは父親の仇だ。宣言通りにカードを破り捨てようとするだろう。
その時点で異変が起きるはず。
破り捨ててどんなイレギュラーが起きるかもわからないし。
何事もないなんてことはない。
『でもよ。予兆はあったんじゃないのか?お前の精霊は誰にやられた?』
「…」
まだ確定したわけじゃない。
しかし可能性はある。
『…私が言うのもなんですが、そうならないことを願いましょう。まだやれることは多いはずです』
『だな。真樹那と松田は引き続き例のカードの捜索。それから榊玲奈へのケアと対策。わかったか?』
「へーい」
『承知しました』
とりま今朝のミーティングはここまで。
何も進展しないが優秀な大人2人の意見は真樹那にとって得られる情報が大きかった。
やっぱり榊玲奈には要注意しなくちゃならない。
やっぱり榊玲奈がマスカレーナを襲ったって話しになるならば…
『あー、それから。真樹那はもう少し待て。松田は先に上がっとけ』
『…はい』
松田女史が退席したのを見計らって木馬はこう告げる。
『もう一つ、お前に忠告しておこうと思ってな…真樹那。榊の嬢ちゃんは爆弾だが、松田もけっこう地雷だと俺は睨んでる。前にも言っただろ?女の執念ほど怖いものはないって。肝に銘じておけよ?いいな?』
「も、木馬せんせー!オレはどうすればいいんですかー!?」
『1つだけ名案がないこともないんだぜ。ちとハードモードだがやってみるか?』
「マジっすか!さっすがオレの兄貴分!頼れる木馬せんせーじゃん!ぜひご教授のほどよろしくお願いしまっ!」
『なに、相手が女なら手は一つしかねーって。爆弾と地雷を抱えたあの2人を惚れさせてお前の女にしてみせろ!!』
「えー…」
真樹那はめっちゃ微妙な顔をした…